部下が人違いで殺した霊に転生の話を持ち出したら面倒な事になりました
異世界転生モノの裏側ってどんな感じかな?って思ったから書いてみました。
「幼少期、親の言いつけをきちんと守り」
「少年期、何をやるにも長続きすることなく、中途半端に物事を辞め」
「思春期、アニメや漫画に勤しみ、勉学に励む事のなく。青年期には自ら全てを閉ざし、親の脛を齧り、夢だけを見続け、自ら動く事のない」
「主体性がなく、全てにおいて受動的で中途半端」
ここは胎蔵界、外金剛部院南方、明々白々天、是々非々地、閻魔庁、第五殿閻魔王。
三途の川を渡りすぐに着く、転生先を決める法廷。
ここでは我々閻魔が1日に数千人もの亡者を裁き、六つの道を示しています。
「そう、貴方は少し怠慢がすぎる」
そしてそれは今日も……。
人口爆発に伴い死者が増え続け。最低、七七日(49日)をも使い、七回も審判する十王審判制など時間の無駄でしかないと。
地蔵が閻魔として裁判をし、難しいモノのみを十王が裁く閻魔審判制が出来て早200年。
科学発達の為に捨てられた村で道祖神として置かれ、信仰を失った私が、閻魔と言う素晴らしい職に骨を埋める事が出来たことはとても有り難たく恐れ多いことだと思います。
……ええ、出来たことは。
「埴生 双葉様、このたびは我々の不手際により貴方の人生を絶ってしまったこと、また不快な思いをさせた事、謹んでお詫び申します。誠に申し訳ございませんでした!!!」
一体、なぜ、この様な事態に陥ってしまったのでしょうか。
それに関しては現在調査中ですのではっきりとした答えは出せません。
ただ、衣領樹で測った罪の重さと、鬼録に書かれた悪業の重さが明らかに違ったため、人違いである事は確かです。
どこで入れ替わったか。誰の仕業か、それとも元々そう言う力を持っていたか。
何故、このような事が起きたかはわかりませんが。
彼女が巻き込まれ、我々の部下が殺してしまった、ということは事実でしょう
「つきましては、せめてものお詫びとして、来世を貴方の希望に沿ったものにする事をお約束いたしましょう」
本来であれば、審判を死者に委ねるのは規則から多少の逸脱として見なされる行為です。
ですが、人生を我々の過失によって理不尽に終わらせてしまった彼女には、それ相応の報いというものが必要でしょう。
後ほど、十王に直談判をし今回に限っては例外とさせてもらうしかありません。
「では、ご希望の方をお聴きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「………………」
………喋りませんね。
まぁ、彼女は家族や友人と幸せな暮らしを過ごしていたでしょうし。
急にこの様な事を言われても承知できず、混乱している事だと思います。そして我々の理不尽に憤っている事でしょう。
「……って…じゃん…」
ほら、今もふるふると震えながら俯いて
「神様の手違いで死んでそのお詫びに転生するって!!それ神様転生ってやつじゃッ!!」
……うん??
どうしてでしょう???とてもすんなり受け入れられましたね???
もう少し理解と整理に時間が掛かると思っていたのですが……。
というか神様転生って何でしょう??私は神というより仏に近い者ですよ?
まぁ、我々の手違いで此方に来てしまい、その詫びとして望む所へ転生させるという意味ではあってるのですが…???
「…その神様転生なるものは知りませんが、その認識で構いません」
「やっ、やったぁ!!!異世界転生とか、俺TEEEEEとか私興味あったんですよ!!」
あ、あれー??????
なんで彼女はこんなに喜んでいるんでしょうか??
未練とかないのでしょうか??
もっとこう、
『ああ、親孝行もっとしてあげれたらなぁ』とか
『友達にさよなら言えてない』とか
『彼に好きって伝えられてない』とか
こう、ほら、色々ね?あると思ってました。
なんで、そんなすんなりと……?
………ん??
というか。
「異世界に転生したいのですか?」
なんで?わざわざ異世界に???
四悪趣は論外として、このぐらいの歳の人間が禁欲思考の天界や、一切の欲を拒絶する浄土への転生を望むとは思えないのですが。
やはり末法ですから、無意識的に救いを求めるのでしょうかね。
「そりゃもちろん!!魔法を使ってモンスター退治したり、スキルで人助けしたり!!そう言うテンプレ的なことやりたかったんですよ!!」
すごい
物凄く欲望に忠実です。救済とか無縁そうですね彼女。
あと、テンプレってなんのテンプレートなんでしょうかね。
まぁ、どうでも良いですが。
さて、モンスターが存在し討伐可能で、魔法・能力が使える世界、ですね。
それなら……。
人間界、修羅界、畜生界、餓鬼界。
の四界でしょうか。
まぁ、餓鬼界と畜生界は少し違う気がしますけど。
条件を満たしてはいるので一応入れておきましょう。
彼女は異界を望んでいるので人間界は外しまして、修羅界、畜生界、餓鬼界の三界のうちのどれかになりますね。
なので、実質修羅界への転生になるでしょう。そちらで調整しておきましょう──
「あ、転生ってことは赤ちゃんからのスタートですよね??
ってことは、貴族スタートとか、人外スタートも選べる感じでしょうか??」
──……か?
「閻魔様?」
「あ、はい、地位や種族はこちらで変更可能です」
ええ、“可能”です。
ええ。
…面倒なことになりましたね。
種族に関してはどうとでもなります。あれらはただの器ですからね。
問題は地位です。
為王臣女の利益を付ける事は元地蔵ですから可能ですが。あくまでそれは地位が存在する場合にのみその効果を発揮します。
地位とは社会もしくはその集団においての立場のことですから。望む地位に付かせるためには望む地位がある社会、もしくは集団がその世界の基盤となっているということが前提としてある必要があるのです。
つまり、貴族制が生活基盤として存在する世界に転生させる必要があるということですが…
餓鬼界
元々は、飢えと渇きに苦しみ、我欲に振り回されるスラムみたいな世界。
だが、食欲を抑え研究に明け暮れるようになった集団が技術革新を起こし、今では全ての餓鬼が仮想上でなんでも得られるようになっている。
あくまで民主制。だがありとあらゆる分野でその技術集団による独占が行われているため実質的な独裁制。
畜生界
元々は、畜生が蠢き、弱きが淘汰され、強きが支配する。究極の弱肉強食の世界。
だったが、ある知恵のある獣が別種族同士で組織を構成するようになり、今ではすべての動物が何処かの組し永遠に戦い続けるようになっている。
民主制。というか能力制。常に自らの力を誇示し、相手を蹴落とさないと生きていけない。
修羅界
元々は、終始戦い、争いを繰り返す為、怒りと苦しみに満ちた焼け野原みたいな世界。
今は、強すぎる力を持った者どうしが手を組み、ルールに則った決闘法が確立させたことでまだ平和な世界になっている。
皆が皆、戦いを求める性格ゆえに政治そのものをやってない。
……ない、ですね。該当するもの。
「じゃあ地位の低い貴族の、ある程度自由に動けるような地位でお願いします」
あれ?どうしましょう、これ??
私が転生させる権限がある世界は基本的に、六道だけです。
成仏を強く望む者は極楽浄土へ向かわせますが……、まぁ、煩悩だらけの普通の人間にとっては地獄でしかないですし。
地獄はどちらかというと罪人たちが服役する場ですから、自由に動ける地位なんてものないですし……。
天界にはモンスターなんていないですし……。
修羅界、畜生界、餓鬼界は無理で。人間界はそもそも除外。
私が独断で転生させられる管轄下の世界に希望が該当するものはない。
なら、我々の管轄外の世界、ですか。
世界は三千大千もありますから、その中に該当する世界もあるでしょう。
できれば、他の神に影響を及ぼしたくはないのですが……。
仕方ないですね。今回の件はこちらの過失です。
なんの損失もなしにことを進められるはずもありませんか。
「司禄、我々の管轄外で貴族制が存在する世界を至急リストアップしなさい」
「!?…管轄外ですか??」
「ええ」
原因追求、対策会議、始末書、十王様方からの説教、彼女の転生先の神への依頼。
それに、転生先が決まるまでの彼女のあれこれを手配する必要もありますね。
はぁ、後のことを考えると頭がいたいです。
とりあえず彼女は私の部屋で待機してもらいましょう。
私以外が入る事はありませんしね。
「うーん、転生特典どうしよ……」
…………え??????
「転生、特典??」
な、なんですか、転生特典って??
転生に特典って要りますか??
転生って死んだ者すべてが平等に与えられるものですから、特別何か付けたりとかしないですよ?
というか付ける方が問題になりますし。
「あ、え??…えっと、転生特典、ない感じですか???」
「あ、いえ、聞いたことのないものでしたので…」
「よければご教示していただけませんか?」
あ!?し、しまった!!!
非がこちらにあるので強く言えずに!
転生特典なるものがどんなものかはわかりませんが。我々閻魔は、亡者を平等に裁かなければなりません。そこに、例外があってはならない。
正直いって、希望通りに転生させる事も、管轄外の世界に転生させることも、グレーゾーンに片足入れる行為になりますが、阿弥陀様の判例があります。
まだなんとかなるレベルです。
でも、流石にここに、また特別に何かを付けるとなると流石にアウトです。
まだ一応保てていた公平性が保てなくなる。
そうなると最悪、彼女が私と共に地獄に落とさせる可能性も……ッッ!!!!
い、いえ。もしかしたら問題になるようなものでない可能性もあります。
宿智命通、為王臣女、天龍護念、端正相好、神鬼助持、この程度のことであれば私で対応可能です。
地蔵として利益を与えたまで、と言い張れます。
お願いですからその範疇を超えないでくださいッ!!!!
お願いします!!!!!!!
「ああ、転生特典っていうのは、転生の際にもらえる桁外れに強力な能力のことですね」
「…………なるほど」
致命傷です。ダメみたいですね。
利益というのは、あくまで善業の結果。彼女のしてきたことの報いですから、それ以上の力を与える事は出来ません。
つまり、桁外れな能力には出来ないのです。
「とりあえず、アイテムボックスでしょ。それに魔力量の引き上げ。あ、魔力操作とか付けといたほうが楽かな。あとはー……。何かあったかなぁ…???」
あ、利益とか関係なく無理ですね、これ。
アイテムボックスはわかりませんが、魔力量の引き上げは魂そのものを弄る必要があるので、最悪、気が触れますし。普通に法に触れます。
魔力操作に関しては……、扱う力が魔力ではなく法力になりますし、修行も必要ですが、集聖上因だけでいけますね。
「あの、アイテムボックスとは??」
「え??えっと……、なんでも物を無尽蔵に収納することができるスキル??ですかね??」
なんですか、なんでも無尽蔵に物を収納できる技術って。そんな技術がであってたまりますか。
まぁ、言わんとしている事はわからなくもないですけど。
恐らく異界移動能力の事でしょう。神隠しなどによく使われる能力ですね。
これは、自然霊や仙人が得意とするもので、異界を作り、そこに人或いは物を入れるという能力です。
桃源郷、崑崙山や蓬莱山などが、それで作られた異界の代表例ですね。
で、問題は、どのようにして、彼女がこれを使えるようにするか……。
仙人からすれば初歩的な術でしょうが。それは不老不死にも至った者達だからこそ、初歩的な術と言えるのであって、方術も禅も苦行もしたことがない素人が一朝一夕で出来るようなものではありませんからね。
そう簡単に使えるものでは……。
いや、待てください。
逆に言えば、仙道を極めれば初歩的に使えるものということですよね。
法は真理であり存在ですが、道も真理であり根源的実在です。
誰が説いたかで多少の差異はありますが、本質的に見れば同一のものでしょう。
もっとも、私は悟りを開いたわけではない為、それが本当に同一であると確証があるわけではありませんから、書きはじめに『恐らく』と付きますが。
もし、これらが同一のものであるのなら、法を極める、つまり、悟りを開くことと。道を極める、つまり、仙道を極めることが同一、もしくは類似するものとなります。
ならば、集聖上因、速超聖地、菩提不退、の利益をつけ修行をすれば、すぐにアイテムボックスとやらも使えるようになるではないでしょうか。
あくまで仮説ですが、多くの仏様が仏界をお持ちなので恐らくできると思います。
そうです!!転生先が決まるまでの期間、極楽浄土で待機してもらいましょう!!
法力で満たされ、阿弥陀様直々の説法を聞ける極楽浄土なら、現世やここで修行するより簡単に悟りを開けます。
それに、これなら転生先が決まるまで泊まる場所を探す手間が省けますしね。
そうしましょう。
残る問題は、転生先と魔力量をどうするかですね。
転生先に関してはその世界を管轄されている神との交渉もあるので後にするとして、魔力量です。
いかにして、魂を合法的に弄るか……。
「よし!!それじゃあエネルギー吸収能力で!!向かってきた攻撃を吸収して魔力に変換してそれを打ち返したり、それで回復したり!!あの能力、主人公側であんまり描かれませんけど最強能力の一角だと思うんですよね!!」
………………え???
ま、まだあるんですか???
もう十分では……?
というか、彼女は一体どんな世界に行くつもりなんでしょうか??そんな力が必要な世界なんて数えるほどしかありませんよ??
まぁ、いいでしょう。やってやろうじゃないですか。
ええ!
…ええ!!!!!!
で、エネルギー吸収能力でしたか。
攻撃を吸収し魔力に変換させる能力…。
まず、吸収の方法ですね。
食べて吸収するもの。濃度差により吸収するもの。なにかに反射させ、その一部を吸収するもの。何かの隙間に染み込ませ、それを変換し吸収するもの。
などですかね。ほかにも方法はあるでしょうが、今思いついたものはこの程度です。
が、食べるものは魔力量と同様に魂をいじる必要がありますし。濃度差による吸収は土地を介す必要があります。
反射吸収、変換吸収に関してはそもそも方法がわかりません。
次に、変換方法ですね。
もうこれは意味がわかりません。私が聞きたいぐらいです。
一番身近な例としては祓えになりますが、あれは穢れのみを落とすしているだけに過ぎず、変換しているわけでなく洗浄に近いものです。
他の魔力を落とすと言う作業ですので、今回の『相手の攻撃を吸収して』それを変換するというものにこの理論を使用することは不可能。
ならば、キリスト教が行う聖別は…、いえ、ダメですね。あれはパンや水に神力を与えることで、それらを肉血に変える呪法です。そもそも変換ではない。
「わかりました」
ようやくわかりました。これ、一人で考えるものじゃないです。
あとで同僚に掛け合ってみましょう。三人寄れば文殊の知恵と言いますからね。
いや、文殊菩薩に直接聞いてみたほうがいいでしょうか。あの方なんでも知ってますから。
さて、と。
「転生特典は以上でよろしいですか??」
さあ、これで終わりといってください。
さぁ、いいなさい。お願いですから。ね???
ね???
「大丈夫です」
よ、よかった。これ以上難題が増えたらどうしようかと思いました。
「では、転生先を探しますのでその間極楽でお過ごしください。閻魔卒!案内を!!」
とりあえず、能力の事は後回しにして転生先から決めましょう。
さて、貴族制のある世界は……。
──その後、彼女は魔界に悪魔として転生することとなり、より面倒な事態になるのだが、
それはまた別の話である。
多分、本当に神様転生があったらこんな感じだとおもいます!!!
最後まで読んでくださいありがとうございます。
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