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【10話】やる気はあります


「テオ様、これからどうなされます?」


「どうするべきか、考えていた」


「こうなっては、私も〈正義の国〉には戻れません。

 それに私の役目は、テオ様をお守りすることです。

 どこへ行くにしても、お供いたしますよ」


 王子という安全な身分を失った貧弱な男一人が、この広大な大陸に立ってなにができるのか、という思いがある。


 歴史書の続きを書く?


 それもいいが、まずなにより〈正義の国〉を混乱に陥れた者たちをこのままにはしておけない。


 父を殺したランルードはもちろん。


 国土を踏みにじった漆黒の騎士たちにも思い知らせてやりたい。


 テオは、自分の中に激しい感情が渦巻いていることに気づく。


 やはり、腐ってもテオは〈正義の国〉の第四王子である。


 剛剣王アルベルトの血が、このまま引き下がってはならない、と告げている。


「進むしか無い。たったひとりでも。

 いつか〈正義の国〉を取り戻すまで、進み続ける」


「よくぞ申されました」


「無謀だと笑うかな?」


 チルダは、まっすぐに目を見ていた。


「無謀だとは思いません。

 テオ様の慧眼があれば、いつか叶うでしょう」


 チルダは近衛軍にいたため、テオと直接の面識はない。


 第四王子が、騎士たちの手合わせを見て、どちらが勝つか当てている。


 そんな噂は以前から聞いていた。


 その眼力は正確で、持って生まれた鋭い洞察力の賜物と、騎士たちは褒め合っていた。


 昨日までは半信半疑だったが、漆黒の騎士たちとの戦いで身を持ってテオの特殊な能力を体験した。


 チルダは、それを慧眼と表現したのだ。


「まずは、力を付けることです」


 あの漆黒の騎士たちとランルードから国を取り戻すには、たった二人では無理だ。


 軍勢が必要になる。


 ランルードが掌握した軍隊を超える規模の戦力を手に入れて、真っ向から戦いを挑んで勝つ。


 それが、テオの進むべき道である。


「猛者たちを集めましょう。

 テオ王子のためならば、命を落としても構わない、と平然と言ってのけるような剛の者たちを」


「そのためには、まず私の名前を〈売る〉必要があるな」


「売り込まなくても、そのうち向こうから買いたいと言ってくるでしょう。

 その足がかりならば、もうあります」


 チルダに案内されてやってきた場所は、近くにある村の広場だった。


〈農業の国〉の役人が設置した立て札が、そこにはある。


 立て札は、野盗のように各地を荒らし回る〈闇の国〉の賊と戦うための志願兵を募っている。


「名を売るには、軍に入り功績を立てることが、一番手っ取り早いです」


「私に軍務が務まるかな?」


「私が、テオ様の代わりに2倍働けばいいのです」


「それはありがたい。

 期待しているが、私はただ守られているだけか?」


「テオ様は、私を指揮してください。

 昨夜、漆黒の騎士と戦ったときのように」


 テオの言う通り戦えば、チルダ一人でも、複数の敵相手に互角以上に戦えた。


 反対に、テオの言うことを無視してロズワルドに挑んでしまい、危機に陥った。


 その経験は、彼女の血となり、骨になっている。


 二人は、村の役場にやってきた。


 立て札を見た志願兵だと役人に伝えると、テオのような貧弱そうな若者がなにしにきたという顔をされた。


 当然の反応だと思った。


 苦い顔をしている役人にチルダが言う。


「私は戦いの経験がある。〈正義の国〉の軍にいた」


「お前は強そうだな。猛者は歓迎するぞ。

 けれども、そこのひょろひょろのガキはいらん。

 軍にお前の居場所はない」


 チルダは、仕えている主人をバカにされて怒りを覚えた。


「このお方は、戦場に必要な人だ。

 お前こそ、戦場の何を知っている?」


「どう必要だと言うのだ?」


「軍隊には指揮官が必要だろ?」


「指揮官だと? 笑わせるな。剣も握れないような細い腕をしたガキに誰が従う?」


 役人は、あくまでもテオを認めない。


 そんな彼の態度にチルダの堪忍袋の緒が切れた。


 役人の襟首を掴んで、片腕で持ち上げる。


「私の主人に向かってなんて口の聞き方だ。このお方はな」


 感情のあまり、テオの正体を口走りそうになったので慌てて止めた。


「チルダ。よそう」


 締め上げられて役人は悲鳴をあげている。


 元近衛騎士にまで上り詰めたチルダの腕力は、その辺の男など相手にならない。


「命拾いしたな」


 チルダは、不満そうに役人をゴミのように投げ捨てた。


めっきり寒くなってきましたね

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