エルフの戦士
剣閃を磨いた。
若手、といっても齢は100を超えたのだが、世継ぎが生まれづらい我らが種『エルフ』。
その中で、一番若い俺はただただ訓練に励んだ。
年齢という絶対不変の事象に抗うために。
年を重ねることで強くなっていく者たちに後れを取らないように。
誰よりも強くなるために。
魔道を追い求めた。
人生歴による知識、経験に負けないようにがむしゃらに学んだ。
教わることの多くが、経験による勘が強いところもあり何度だって失敗した。
自分の家の地形を変えてしまったことだって数えきれない。
そのたびに両親に怒られ、笑われ、『いつかできるようになる』と慰められた。
ただ、いつかではなく今にでもなりたかった。
人間なら、いつかという言葉が100年以内に現実になるのかもしれない。
ただ何百年と生きるエルフのいつかとは、いったいどれほど待てばいいのだろうか。
その間に、目まぐるしく加速していく人間社会の文化に淘汰されないと、誰が言えるのだろうか。
だから俺は誓ったのだ、大魔導士となりエルフの中で一番になろうと。
魔法はもともとの素質にかなり依存する節がある。
絶対的な限界というものが、何となくだが剣とは違ってわかってしまうのだ。
でも結局はそんなことは言い訳に過ぎない。
限界を決めてしまうのはいつだって最終的には自分自身なのだから。
だから、常に俺は限界を超える勢いで魔法を打ち続けた。
体中の魔力を酷使して行った訓練は、確かに俺を日々ほんのわずかだが高めてくれていたと思う。
どれだけ周りに無理だといわれ、笑いものにされ、子供扱いされてきたって積み重ねた日々は間違いなく誰よりも過酷なものだったはずだ。
誰よりも早く剣を握り、誰よりも遅く魔法を放ち続ける。
そんな日々。
だからこそ、それは実を結んだのだ。
甲高い金属のぶつかり合う音。
幾千もの火花を散らした剣の応酬はそんなひときわ大きな音と共に決着をつけた。
剣という重いもの同士のぶつかり合いのなか、一本の剣が宙を舞ったのだ。
「ま、まいった!」
「うし!」
確かな手ごたえと、目線の先に事実はあった。
ただ、その声を聴くまで俺は信じられなかった。
相手の手元には剣がなく、俺の手元にだけ剣が残っている。
それが、自分に勝利を証明していることがまるで夢のようだった。
「強くなったなジーン」
「おう! ガディンさん次は全勝してやっからな!」
「生意気を言うな」
少し調子づいていった言葉に、笑いと共に頭に拳骨を落とされたが、全く嫌悪感はない。
むしろこういった反応が、より自分の勝利を明確化してくれるので、ただただ嬉しくなった。
勇猛果敢、その言葉をまるで体で表したような強靭な体躯を持った目の前の男性。
『ガディン・フォン・クロード』
それが彼の名前だ。
エルフの見た目は、皆が美形に育つ。
それが森の民である自分たちへの、森からの寵愛なのか自然からの加護なのか、精霊のいたずらなのかは知らないが、そんな常識のようなものが存在する。
実際、自分たちが美形なのかは周りがみんな同じレベルなのでわからないが、人々や獣人などのア人種がエルフをそう形容しているという話を何度も聞かされてきたのできっとそうなのであろう。
別に一切の自慢話などではなく、誘拐などに気を付ける理由をそうやって大人は教えてくれるのだ。
つまり何が言いたいかというと、エルフが美形に成長していくということだ。
この目の前の男を除いて。
齢はすでに400を超えたこの男だが、その姿は村の若手と遜色ない。
実際20歳から肉体面の老化がかなりスローモーションのように成長していくために、これが若いのかと聞かれても明確な答えは出ないのだが、他にもあるのだ。
それこそが、このガディンさんの風貌である。
顔つきはまるでこの前見た、人間の兵士のように角張、男らしさを滲みだしている。
そして体つきも、細くてしっかりとした体とは違って、太くてがっちりとした体つきに変貌を遂げているのだ。
常に鍛錬、常に戦闘の生活の末にこのような体つきになったと聞くが、何度見てもすごい。
疑うわけではないが、話が本当ならエルフの習性に近いものを、日々の鍛錬や戦闘が凌駕したのだから。
そんなガディンさんだからこそ、俺は彼に憧れた。
彼のもとに行けば、年齢や既存の概念にとらわれることなく成長し、夢に大きく近づける気がして。
そんな相手から、戦績だけをみれば何百敗、何千敗と最悪とも呼べるし、決まり手だって、不意打ちに不意打ちを重ねたかなり汚いものかもしれないが、一本を取ることができたのだ。
この一本は、今までの敗北を上回るほどに価値がある。
俺にとってかけがえのない経験だ。
誰もが無理だと笑った夢が、また一歩近づいたのだから。
だからこそ、俺はガディンさんから大任を預かった。
『村長たちの護衛を頼むぞ』
人間に追われた俺たちが次に向かう魔森地。
その奥地へと足を踏み入れていく中で、未踏のその地はあまりにも危険すぎる。
いつ奇襲をされるか、どんな生物がいるのかわからないから。
殿として後方に下がったガディンさんには、人間の対処という任務もあり、人数が多い村長の護衛は実際は一番安全なのかもしれないが、名指しでしっかりと村長の護衛を任命された俺にとって、それは関係ない。
ただ一つ、この期待に応えたかった。
だから俺は全力で立ちはだかる敵を退けた。
殺すのではなく、退かせる。
殺せばより活発になったり、これからずっと憎しみを持たれて森で暮らすのは難しい。
この森の魔獣は賢いのか、こちらの姿を見れば引いたりとかなり進みやすかった。
あまり交戦の無い森。
もしかしたら魔森地は、存外掘り出し物だったのかもしえない。
「グオォォォ!!!!!」
目の前で雄たけびを上げる。この一体を除いては。
「くそが!!」
「グア!」
魔獣グリズリーロード、目の前に立ちはだかるこいつの名前だ。
おかしな点はいくつもあった。
やけに整備された森であったり、出てくる魔獣の数が少なかったりと。
ただ、ただこいつだけはおかしい。
「ちょっと!? 魔法が効かない?」
「防御を一発で割るなんて!?」
「あいつただのグリズリーロードじゃないわよ!」
本来グリズリーロード一体ぐらいであれば、この人数なら負けるいわれはない。
たとえ勝ちきれなくても、撤退をさせることは容易だ。
ただ、こいつは本当におかしい。
魔法を見るや否や、それに最も合った対処をしてくる。
俺達エルフがもっとも得意とする魔法。
支援魔法を周りが唱えれば木を投げつけそれを抑え、誰かが剣を握れば地面を思いっきり叩き足取りをおぼつかなくさせる。
そしてその隙をついて意識を刈り取っていく。
「ジーン! 逃げなさい!」
「村長!?」
「はやく!!」
ずっと輪の中心にいた村長が一歩踏み出し、魔獣に近づく。
——だめだ、逃げろ!
村長なら勝てるかもしれない。ただ俺にはガディンさんから預かった任務がある。
頭の中では勝てないとわかっているが、剣を握る手は決してそれを話さない。
「くそぉーーーー!!!!」
「ジーン!!」
もはややけくそだ。
特攻にも近い形で剣を掲げ突っ込んだとき、
『グリド!!!!!』
そんな声が聞こえた。
お久しぶりです。
ここ数週は、第一章の加筆ばかりでなかなか更新できていなかったのでリハビリがてら。
よろしければブクマや、評価などいただけるとありがたいです。
随時第2章も加筆していきますので、よろしければお願いします。




