黒歴史さんに全く相手にしてもらえないので、とりあえず黒歴史図書館に住み込み生活を始めました
初恋は実らない。
本当にその通りだった。
私の初恋の相手には既に人知れずにお付き合いをされている方がいました。
告白をしようと頑張って手紙を書いたのに、それも無駄になってしまった。
本当に呆気なく、私の初恋は終わりを告げた。
それから暫くしてから私は、私は、私は……
──厨二病に目覚めた!
「フハハハハ、愚かなリア充どもよ!風丘 千景様の魔眼によって滅ぼされることを光栄に思うがいい!!」
爽やか青春?学園ラブ?なにそれ。美味しいの?
そんなものよりも私は今、アニメ、漫画、ラノベ、ゲーム、同人と二次元ライフを満喫をしている。
そして、先程の台詞はその二次元ライフの賜物です。
二次元最高!
初恋という私の人生の汚点を二次元達は心優しく屠ってくれた。
そんな二次元ライフを満喫をしてると、時よりある人のことを思い出す。
初恋に敗れ、虚無だった私に一冊の本をくれた人、でも実際にはそんな本はなくて、その人は存在していない。
初恋に敗れた痛みから逃れるために、自分の中でそんな幻の人と本を生み出してしまっていたのかもしれない。
「あの人のくれた本ってなんだったんだろう……?」
考えてもあの人の顔はおろか、本のタイトルすら思い出せない。
思い出せないままに暫く考えては我に返り、部屋の時計を目にして時計の指す時間に声にならない悲鳴を上げて、慌ててベットの中へと潜り込む。
明日は夏の聖地に行く日ではないか!
日本、いや世界の同人フレンズが一堂に会する日
遅刻など信徒として絶対に死亡フラグだ。
目覚まし時計を出発前二時間にセットして、就寝につく。
明日は、沢山の憧れの作家さんの同人誌を手に入れなくては……。
──深い、深い、眠りに落ちていく。
真っ暗闇の中に沈んでいく感覚、自分の周りには沢山の水泡があり、それが上に向かって昇っていく。
この感じ、前にも体験をしたことがある。
そう思っていると、底に着いたのか落下をする感覚がなくなった。
スーッと息を吸い込み、瞳を開くと、辺りは真っ暗闇、だけど、怖いという恐怖心は湧いてこなかった。
どちらかと言うと、懐かしい、と言う感情の方が湧いてきた。
横たえていた身体を起こして立ち上がり、真っ暗闇の中を歩き出した。
行けども行けども、終わりが見えず、だだっ広く広がる暗闇の中を歩き続けた。
(この感じは前にも……)
そう思いながら歩き続けていると一筋の光が見えた。
それを見つけるや、脚が自然と駆け足になる。
駆け足で光の差すその場所まで辿り着くと、矢張り見覚えのある革張りのアンティークチェアがそこにはあった。
手を伸ばし指先でその椅子の背もたれに触れる。
すると“パチン”と小さな音が頭の中で弾け、自分の身体の中に走馬灯のように此処で起きた出来事が止めどなく流れ込んできた。
私が失恋して虚無感に打ちひしがれているときに此処で出会ったんだあの人に。
私は椅子の周りをキョロキョロと見回した。
すると……
──コツン、コツン
あの時と同じ様に、靴の音を響かせながら姿を現した。
真っ黒で腰まで伸びてるさらさらの綺麗な髪をサファイアのような石のついた髪留めで束ね、スラッと細いながらも隙の無い身のこなし、一度見たら惹き付けられて眼が離せなくなる金碧珠の瞳
なんで忘れてたの私は、此処に居た、私の理想の集合体が。
私がハマる二次元嫁は必ず黒髪に金碧珠の瞳のキャラばかり。
全部繋がった、私はこの人に……
「なんで生者が二回も此処に来てるの」
私は自分の理想の嫁に再会できて、燃え上がる萌を懐いていたら、お相手様は口調的に不機嫌なご様子だった。
アレ?私ここに来ては駄目だったの?
私が懐いてる疑問を察して下さったのか、椅子に座り溜息交じりで答えてくれた。
この図書館は生きている人間は一度きりしか来れない場所で、死後なら転生するまでは自分の黒歴史を読み返すことのできる場所だという。
転生するまで延々と自分が綴った黒歴史で身悶えして読み続けられるという、ある種の拷問のような経験ができる場所である。
そして、私の理想の嫁様は、この人の黒歴史ばかりしか置いていない図書館こと、黒歴史図書館の管理者で、ある意味神様である。
この黒歴史図書館を作ったのは「暇だから、人間の面白い所を見たい」と言う理由からだった。
かの私も此処で本を貰い、黒歴史を現在進行形で綴っている状況である。
そう、私が失恋して虚無感に打ちひしがれているときに差しのべられた、手も本も、全ては黒歴史図書館に所蔵される本を増やすためだったのだ。
お陰様で私は今、厨二病兼オタクを発症してますよ。
説明をして下さった方、名前を名乗って下さらないので「黒歴史さん」と呼びましょう。
黒歴史さんは面倒臭そうに私に「帰ろ」と言うのである。
聖地に参戦するためには帰りたいのはやまやまだが、今帰ったら私の理想の嫁である黒歴史さんとは死ぬまでもう会えないと言う、今回は運良く二度目の対面が出来たけど、次があるかと言えば、無いにひとしい。
だから……
「私、帰りません!厨二病にされた責任を貴方にとってもらいます!!」
我ながら名案な居座り作戦である。
流石の黒歴史さんでも【責任をとれ】と言われたらどうしようもないでしょう。
が、黒歴史さんの表情はほぼ無表情だ。
そして黒歴史さんが口を開いた。
「御門違いも甚だしい、大体此処に来た時点で君は才はあったのだから本を手にできたんだよ、黒歴史の本はね才が無い者の前には姿を見せない、何より君が私の元に辿り着くことはなかった、以上だ、帰りたまえ」
黒歴史さんは淡々と話し終えれば、指を鳴らして本棚から本を取り出して本を読み始めてしまった。
私の乏しい語彙力では黒歴史さんを論破できない。
だからと言って帰れと言われて帰れるか!
本を読み耽る黒歴史さんに指を指し
「責任をとってもらうまで、ここに住むから!今日からよろしくお願いします」
黒歴史さんは私が宣言をする姿を見るや鼻で笑い黙々と本を読み耽っていきました。
私の理想嫁こと、黒歴史さん。
私は二度も黒歴史さんに会えたから運命だと思っています。
絶対に私の嫁(物理)にするんだから!
こうして私は黒歴史さんの図書館に住み込むことにしました。
マイノリティー