隠し事
ゆっくりと、背後の地面が奈落へと崩れていく。
もし、崩れ落ちるその地面の上に立っていたならば、私は奈落へと墜落するだろう。
だから私は、墜落したくない私は、前に進まなければならない。
走り出すことは許されない。
私の体が走ることに耐えきれず、すぐに地面へ倒れ伏し、いずれ奈落へと墜落する。
だから私はゆっくりと前に進まなければならない。
転んではならない。
怪我をすれば前に進むことが難しくなり、立ち上がるまでの時間は崩落する地面との距離を縮める。
だから私はゆっくりと前に進まなければならない。
迫り来る墜落の未来を恐怖してはならない。
足がすくんで動けなくなれば、じきに立ちすくんだ足下の地面と共に奈落へと墜落する。
だから私はゆっくりと前に進まなければならない。
周囲の人間に、私の状況を悟られてはならない。
悟られたとき、その人々によって「良きことのため」と、私は体を地面に拘束される。
そして私は、進むことが、逃げることが出来なくなった私は、やがて来る地面の崩落と共に奈落へと墜落する。
だから私はゆっくりと前に進まなければならない。
平気な顔を振りまいて、のろのろと前に逃げなければならない。
だが、いつか必ず墜落する日は来る。
けれども、歩を進めることさえ出来れば、崩落から距離をとることができる。
ならば私は、未だ墜落を恐れる私は、歩を進めなければならない。
墜落を受け入れられるときまで、歩を進めよと、私が私に縋り付く。