第9の夜景画・第10の夜景画
第9の夜景画ここに始まる。
それは夜だった。いつ果てるとも知れぬ夜だった。
一人の小人がよちよちと、その、陰惨なにおいのする森の中に消えていくと、夜は一つの獲物を射止めた猟人のように、うちふるえるのだった。
そして森は密かに、血をながして 小さく笑うのだった。
そんな夜に私は生きていた。そして「夜は私を生かす血液なのだ」とつぶやくのだった。
ロウソクの暗い炎が揺らめき、私をいくつもの、狂想へとかりたてた。そうして、
わたしのなかには痺れと恐怖が混在しているのだった。
「いけない、その毒をのんでは」
しかし、私はすでに、なみなみと注がれたその毒を幻想の暗い岸辺に投げ入れてしまっていたのだった。
第9の夜景画ここに終わる。
第10の夜景画ここに始まる。
暗い低い地平線に、私は確か横たわっていた。目を上げて陽が何時間か前に沈んでいったほうを見やると草地はざわざわと、無風なのに、怯えて騒いだ。
「静に。」私のではない声がしかりつけるとようやく、草は麻酔的な安らぎに浸されていったらしかった。
そのひれ伏した草地を越えて丘の向こうに私の幻想の翼は傷つき血を吹いてあえいでいた。
暗い霊の火たちが草地を黒い空気でかき乱しいくつ者不気味な影を立たせた、
笑うでもなく歩むでもなくそれらは草地の中に余りの静けさで立ち尽くしていたのだった。
私は鳥の羽ばたく音を聴いた。
眠りは駆逐され、私は起き上がってその鳥を待った。
小黒い空を見上げ、私は真上でその羽音の止むのを感じた。
それから私の目の前にどさりと何かが落ちた。
かすかな光の中に私は見たのだった。
息絶えた嬰児の屍骸を。
そしてまた夜がひたひたと迫ってきていた。
第10の夜景画ここに終わる。