第8の夜景画
第8の夜景画ここに始まる
その頃、私は1匹の老いた猟犬を連れて夜の森をさまよい歩いていた。どこからか、細波のような音が聞こえ
やがて、樹幹を行く微風が凪ぎ、見上げると木の間から血色の月が覗いていた。
まるで妖しい巨大な瞳のように。
私はかなり以前から猟犬の姿を見失っていた。
歩むにつれて、いよいよ森は暗く辺りの空気は灯心の周りのようにほの暖かく沈黙しているのだった。
遠く犬のほえるのが聞こえた。
それは消え行く木霊のようにかすかだった。
私は自分の意識が温まり、また冷えてゆくのを感じた。
私は肩の銃を下ろし立ち止まった。足元の細い草はいつしかビロードのような厚い芝地に変わっているらしかった。暗くてよく分からないかったが、そこは小さな空き地でもあるらしかった。
私は上を見上げた。月もいつしか、雲に覆われたらしく空は暗黒だった。
私は再び歩み始めた。私はまた森の奥深く入ろうとしていた。
ガサガサと下草のざわめく音が私の耳に聞こえた。私は血が凍るように怯え銃を構えた。
しかし、暗黒の中に銀の目が二つきらりと光った。それは私の猟犬だった。
私はほっと安堵して呼び寄せた。犬は鼻を鳴らして私の手のひらをぺろぺろと舐めた。
私は腰の袋から干し肉を出して犬に与えた。
そのとき私の頭上でバタバタと何かの羽音がした。ふくろうか、夜鷹か。
私は半ば無意識に銃を向けてそれを撃った。
鳥は高い木から、どさりと芝生の上に落ちてきた。
銃声はどこまでも、暗い森を陰々と響いて消えなかった。
私は何者かが、薄笑う声を聞いてぞっとした。
しかし、それは風が木の葉を吹き抜けた音であった。
犬ははや、落ちた獲物を咥えて、私のそばに帰ってきていた。
そしてどさりと、その鳥を私の足元に投げ出した。
私は何を思っていたのだろう。
急に激しい頭痛に襲われて銃をほおり出しその場に蹲った。めまいがして吐き気がこみ上げてきた。
やがて少し収まると、私は激しい渇きを覚えた。私は抑えがたい渇きに今、打ち落とした鳥を
ナイフで引き裂き忘我のうちに、その血をすすっていた。
血は舌の上を小気味よく回り、私の渇きを癒した。
私は更に腿の肉を切り取って食べたのだった。
私はしかし、再び襲った頭痛のため、今度は意識を失ってそこ倒れてしまった。
朦朧とした意識の中で大きな牙が私を引き裂こうと迫ってきていた。
どれほど建ったことだろうか。私は再びそのくらい森の中でわれに帰っていた。
まるで酔ったように私は何も考えられなかった。
そのとき風が吹いてきた。風のかすかな響きのなかに、私は誰かが私に語りかけているのを感じた。
はじめは、そっと諭すように、しかし、やがてそれははっきりした声になり、私は聴いたのだった。
それは私に言っていた。
「お、、、、おまえは、、、なに、、、をたべた、、、のだ、、、。
もう、、、一度、、、よく、、、みて、、、、みろ、、、、。」
突然、真っ赤な月が雲間から現れ木々の間から月光が差し込んだ。
そして私は見たのであった。
食い散らかされて、手足のもぎ取られた嬰児の屍骸を。
第8の夜景画ここに終わる。