第1の夜景画
第1の夜景画ここに始まる
朽ちた倒木を超えて、夜の中を一人歩いてゆく少女があった。
白いドレスは長く引きずり、頭には花冠が無造作にあり、夜風にたなびいていた。
うっそうと繁り、星さえ見えない森の中に、光るものは蛇の眼と樹間に潜むふくろうの見据える瞳だけであった。
地に盛り出た、根に躓いて、どさりと少女は倒れる。
その青い眼はキラキラ涙に濡れ,拭って見上げた闇を夜鷹が、ギーッと、かんだかい声を残して飛び移る。
少女ははっとして首をすくめる。おびえきった少女は息を弾ませ走り出す。
木の間を抜けて、急に草地が開けると、そこには、崩れかかった城館が黒い旗をゆらめかせてそそり立っているのであった。
妖しげな地霊のすすり泣きが篭ったように、響き、そのとき、樹海の黒い水面から真っ赤な月が
ゆっくりと、のぼり少女の影を長く草の上に漂わせた。
月明かりに照らされた草地には、馬車道がうねうねと彼方の城まで続く。
どこからか、かすかなとぎれがちな細い女の声が、少女の髪毛をなぶる風になって、
低く打ち響き
少女はあの城へ行かなければならない。
緩やかな夜の冷気をいまだ含んだ微風がそれとわからぬほど、漂い流れていた。
血を滴らせたような月は、城の肩の辺りを徘徊し、黒雲はちぎれてつきの面を不気味に
掠めた。
垂れ込めた、夜空には見下ろす霊気の大きな瞳があり、少女はそれを確かに感じるのだった。
第1の夜景画ここに終わる。