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第11の夜景画

第11の夜景画ここに始まる。


ある晩、一人の影がとぼとぼと道をたどっていった。

血色の月が崩れかけた寺の、屋根から覗き、陰惨な花々が見えない空間に咲いているような宵であった。

「ああ、なんという夜だ」影はつぶやいた。すると、その声がいくつ者輪になってよどんだ

空気の中を伝い妖花の群生する暗黒の湿原まで響いていき

花びらをはらはらと散らせたのであった。


月が木々の間から差し込み、影はまた、森閑とした、森の中の小道を歩んでいた。

ふくろうの声さえ聞こえず、幾千もの葉のざわめく低い音が重く響いた。

「なんという陰惨な夜なのだ」影はまたつぶやいた。

長く影が木々の間を幽霊のように引いていた。


未知が尽き、森の暗さが永遠に続くところまで来ると、そこに一つの縊死体が枝から

ぶらさがって縄目に添って緩やかにまわっていた。


黒い古びたマントをはおり,髪はぼうぼうのその死体はかっと、血走った目を見張り,鼻からどす黒い血を垂らしていた。

月の光がその蠟のような顔を照らした。


影は訪ねた。

「どこへいけばいいのか」


そのとき死体は目をぐるりと動かした。

「行くがよい。どこまでも。」

地のそこのうなりごえのように、それは答えた。


そしてまた黙り込んで,哲人のように、微風に揺らめいているのだった。

影は今度は人の通ったこともない落ち葉の上をあてどなく、歩んでいった。

突然、樹上でけたたましく鳥が鳴いて飛び立ち一瞬沈黙は破られ音の陰鬱な我が広がって消えた。

「なんて陰鬱な夜なんだ」

影が呟くと、その声が重く陰に篭り低く朽ちた葉の上に広がっていくのだった。

森が途切れると草原に出る。

果てしもなく広がる草の波。月が虚空に懸かりその下に

ざわめくような草の波が切なく、荒涼とした心をかきむしるのだった。


胸まで草に浸かりながらゆるく行くと、影は消え去り朧な形象がうかびあがる。

干し一つ視えない空に、その垂れ込めた空に月がぼんやりかかっている。

風が吹き草がざわめき、やがてその形象は彼方の波間へ遠ざかって消えていくのであった。



第11の夜景画ここに終わる。



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