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うで比べ 3

 トコワカ大陸随一の巨大国家クロスロード、それを守護する騎士団といえば、誰しもが思い浮かべるのは、中央テンプル騎士団であろう。国中の騎士達の中から、剣力人品ともに優れた人材を選りすぐり、僅か三百人のみに白服を与えた最精兵なのである。


 とはいえ、実際に国体を護持する為、最前線で活躍しているのは、四大騎士団と呼ばれる主力騎士達であり、それぞれがクロスロードの東西南北に配置されている。彼らは国境線から田舎の農村、戦から近隣住民の揉め事解消まで、大に小にと国に尽くしているのだ。


「これで全員か? こうして、何か行事でもなければ揃わんからなぁ、いや、みな壮健そうで何よりだ」


 その中でも特に剣技に秀でた者は、各騎士団から特別な役職を与えられ、騎士団の顔として、国民からはテンプル騎士と並び称されている。


「ビュレッフェ、若造が仕切るな、あと『ダイヤモンド竜』がまだだ、部屋内の人数も把握できんとは情けない、出入りの多い『六帝』には難しい注文かも知れぬが、ダラーンではあるまいに、少しは成長したところを見せられぬのか」


 円形の広い会議室には、十七人の男女が集められていた。今は揃って居らぬ様子であるが、四大騎士団の筆頭格として選ばれた強騎士達は、クロスロードの神話になぞらえて『十八人衆』と呼ばれているのだ。


「なんだと貴様! 俺を引き合いに……」


「この、アーサー ボンパラゴンに、意見できるほど腕を上げたのか? それは面白いな、久し振りに可愛がってやろうか、ダラーン バラーン伯爵どのよ」


「ぐぅっ、き、今日は……予定が、ある……」


 とはいえ、仲間意識や団結が強いとは言い難いであろうか。今も言い争う二人は、同じ『(さん)スター』と呼ばれる北町の騎士代表であるのだ、しかし、どうやら力関係には歴然とした上下があるらしく、金髪泣きぼくろの若い騎士は、年かさの偉丈夫に対して、あきらかに腰が引けてしまっている様子である。


「なんだ! ケンカか! 楽しそうだな! わしも混ぜろ! 」


 どんっ、と会議室の木扉を、蹴破らんばかりの勢いで入室してきたのは、まだ歳若そうな女性であった。状況からみるに、彼女が遅れていた最後の一人『ダイヤモンド竜』と呼ばれる騎士なのであろう。


「ばっ!? おまっ! 何してんの! 」


 突然の闖入者に対して、金色の仮面を装着した男が慌てて立ち上がる、顔の半分を隠す仮面のせいで、表情こそ読み取り難いのであるが、その挙動と声色からは、彼が心底慌てている事が、ありありと伺えるのだ。


「なんだ、ケンカじゃないのか? 茶はないのか? わし、暑いからひやいのがいいぞ、おいダラーン、(まじな)いで出せ」


 しかし、金仮面の男が慌てている理由は、決して彼女の無礼にも程がある態度に対して、ではないのだ。新入りの一人を除き、ここにいる全員が、彼女のそうした言動には慣れていたし、十二分に知っていたのだから。


「話はなんじゃ、長いなら菓子も欲しいぞ、おいダラーン、肩揉め」


 どっか、と細い身体を椅子に沈めた女性は、親指だけを振ってダラーン伯爵に指図する。なんとも横柄な態度であるが、女性騎士としては少し小柄な体躯であろうか、雪のように真っ白な髪の毛を、所謂(いわゆる)おかっぱに切り揃え、アーモンド型の大きな目を、くりくりと良く動かしている、外見的には二十歳を過ぎたくらいなのだが、この分では、言動のせいで随分と若く見られてしまうのであろう。


 黒い騎士服に身を包むこの女性騎士は、東町を守護する青ドラゴン騎士団の筆頭騎士『四機竜』の一人である。十八人衆の中でも、特に知名度の高い者達であるのだが、それには確かな理由があり、彼ら四機竜は、クロスロードでも他に類を見ない、仮面で正体を隠した秘密騎士であるのだ。


 そうあるはず、なのであるが。


「いいから! 早く顔隠せ! お前、仮面はどうした!? 」


「あぁ? 何言っとる? ちゃんとつけとるぞ」


「付けてねーから言ってんだよ! この阿保がっ! 」


 金仮面の男が、自らの上着を、ばさり、と彼女の顔に投げつける。ラキガ二 ハヤステの抜けた『六帝』に、新たな騎士を迎え入れた事による初顔合わせの会であったのだが、これではどうやら、慌ただしくお開きになりそうだ。



「はぁ……全くよう……お前はよう、言い表せねぇ、馬鹿とか阿保とかの言葉じゃ、半分も伝え切れないわ」


「こまい男じゃのう、そんな心配せんでも、普段のわしを見ておれば、マスカンヴィットの娘じゃと、とうにばれておろうに」


「そこには気付いてたのかよ! 意外と客観視の出来る娘だったね! ならもう少しだけ、演技とかして欲しかったと、お兄さんは思うよ、あと迂闊に家名出さないようにね! 」


 かつかつ、と王宮の廻廊を並んで歩くのは、金仮面の男と、金剛石を散りばめた豪奢な仮面を装着した女である。しかし、溜め息と共に肩を下げる男と、ぶらぶらと両手を振り回す女は、なんとも対照的であろうか。


「はぁ、こっちも入れ替えてくんないかなぁ……というか、なんで選ばれたんかなぁ……なぁおい、誰か良いひとでも居ないのかよ、早めに寿退団とかしてくんないかなぁ」


「ん、わしにか? そうじゃのう……結婚するなら、やはり強い奴な! あと面白くて優しくて、殴っても骨を折っても怒らなくて、お父様みたいな奴がええ」


「まさか、伯爵の骨は折ってないだろうな? ……あぁ、仕方ない、センセが当てになるか分からんし、こっちでも探してみるか……おい、お前ちょっと付き合えよ、今ならテンプル騎士どもが稽古してるはずだからさ」


 なんとも落ち着きなく、壁の絵画を揺らし始めた女の頭をはたき、金仮面の男は引き摺るようにして、ダイヤモンド竜こと、ジッタンビット マスカンヴィットを連行するのだ。


 自らの身の保全の為に。





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