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メモリーライン  作者: paset
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カイン編 3節

遅くなりました。


「よし!ゴミクズども!本試験をもって基礎教練修了とする!」

「「「はい!」」」

「人間になれるかどうかは貴様ら次第だ!各員目の前の紙を読め!魔法の使用を許可する!ワンとツーは2時間後に出ろ!以上だ!」

「「「はい!」」」

目の前の机に置いてある紙を手に取り開く。そこにはだだ一行だけ。「フォーと協力し第二王子と接触せよ」とだけ書かれていた。右にいるフォーを見る。フォーは困ったように紙を手に持ちヒラヒラさせていた。彼女は常に目隠しをしているのだ。


「教官!フォーの紙は私が代わりに確認してもいいでしょうか?」

「構わん、読んでやれ」

「はい!」


フォーから紙を受け取り中身を確認する。そこには「スリーと協力し第二王子と接触せよ」と書かれていた。


「フォー、私と協力して第二王子と接触する。それが最終試験の内容だ。」

「そう?簡単な内容ね」

「そう簡単なものかな?私達は第二王子の居場所さえ知らない」

「簡単なものよ。貴方はただ私についてくるだけでいいわ。ほら、簡単でしょ?」

「なんにせよ早く出た方が良さそうだ。どうやら彼らは仲間ではないらしい」


さっきからワンとツーが殺気立った目でこちらを見ている。目的を達成できるのは彼らか私達、そのどちらかだけということだろう。


「そう、なら早く行きましょう」

「そうそう、言い忘れていたが。出る前にこれをもっていけ。お前達のこの一年の間の給金だ。」


中には銀貨がずっしりと入っていた。当面の間資金面で困ることはないだろう。


「スリー、私の分も受け取ってもらえる?」

「これくらい自分で持ったらどうだ?」

「そう?なら行きましょう」

「持っていかないのか?」

「自分で持つくらいならいらないわ、そんな物」


そして彼女はさっさと連れていけと言わんばかりにこっちに手を伸ばす。私はため息をついて彼女の分までお金を受け取りその手を取った。


「さて、これからどうしましょうか?」

「何か考えがあるんじゃないのか?」

「やることが多すぎて何から手をつけるか迷ってるだけよ」

「先ずは住居だろう。今回は彼らの追跡もある。セーフハウスもいくつか確保しといた方がいい」

「うわぁ、何その教科書みたいなセリフ。そんなことよりまずすべき事があるでしょう?」

「拠点の確保より大事な事があるのか?」

「食事よ、食事!一年ぶりよ?貴方だって食べたいもの一つや二つあるでしょう?」


こいつはこの1年間一体何を学んでいたんだろうか?


「ふざけてる時間なんてないと思うが。とりあえずここから早く離れた方が良いことは間違いない」

「何を言ってるの?そんなことする必要はないわ。うん、決めたわ。まずは服を買いに行きましょう。」

「そんなことしてたら彼らに追いつかれるぞ」

「だから服を買うんでしょう?目隠しは外すけど目はちゃんとつぶってるから安心して」


確かに、変装してやり過ごすのも良いかもしれない。だがこの女に任せて大丈夫なのだろうか?私の心には言い知れぬ不安が広がっているが、最悪彼女は見捨てて自分だけで行動すれば良い。そう思いこのまま従うことにし、服屋へ向かう。


「いい?私達はこれから初デートに向かう初々しいカップルよ。せっかくの初デート記念にそれなりの服を買いに来た町娘とその彼氏ってところね」

「わかった」

「笑顔よ笑顔、忘れないでね。私達は今幸せの絶頂期なんだから。後はひたすら下り坂だと言うことを知らない無邪気なカップルなんだから、いいわね?」

「ああ、わかった」


彼女は目隠しを外すと満面の笑みでこちらを見上げる。この世にこれほど可愛い子が他にいるだろうか?いや居ない。例の鏡も世界で一番美しいのは彼女だと答えるだろう。そしてはそれは目をつぶっている事を不自然に思わせない完璧な笑顔だった。私も精一杯爽やかな笑顔でそれに答える。


「さあ行きましょう、ダリル」

「行こうか、エリス」


その店は既製品の服を取り扱う店では上等な方の店だった。そういう情報は一通り頭に入っている。店の中には中年の男性と若い女性がいた。


「いらっしゃいませ。本日はどういったご用向きで」


中年の男性が話しかけてくる。


「私達これからデートなんですけど、その、あまりいい服を持ってなくて。ここは既製品でもいい物を扱っていると聞いてそれで来たんです」

「そうでしたか。ご予算はいかほどでしょうか?」

「予算はあまり気にせず彼女に似合う服をお願いします」

「それでしたら仕立てた方がいいと思いますよ」

「それはまた後日ということで、今回は今日のデートで着る服をお願いしたいんです」

「わかりました。リズルア、そちらの紳士の服を見繕ってあげなさい」


リズルアと呼ばれた女性がいくつか服を選んで更衣室まで案内してくれる。私はその中でもあまり派手ではないものを選んだ。フォーもあまり時間はない事が分かっているのかすぐにでて来た。暖色系の比較的大人しい色で綺麗にまとめている。代金は少し高かったが言い値をそのまま払った。彼女の前でいいとこ見せたい彼氏風を装って。そのまま着替えて店を出る。


「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」

「さて、今日はどこに行こうか?」

「通りに新しいお店が出来たらしいの。そこに行きたいわ」

「どんなお店なんだい?」

「クラシック調のカフェよ。パフェが美味しいらしいわ」

「じゃあそこに行こうか」

「ええ」


私はしばらく彼女のその閉じた目を見つめていた、怨念を込めて。彼女はそのまま綺麗な笑顔をこちらに向けていたため、私達はただ見つめ合っているカップルにしか見えなかった事だろう。私は彼女の手を引いて通りに向かって歩き出した。




例のカフェに着いて席に案内されると、フォーは照れたように笑いながらジャンボパフェと果実水を指差す。私も照れたように笑いながら頷いてフロアの女性を呼び止める。


「ジャンボパフェと果実水を一つづつお願いします」

「かしこまりました」


フロアの女性は温かい目で微笑むと戻っていった。

私達は照れたように俯いて注文した品を待つ。

しばらくするとジャンボパフェと果実水が来た。スプーンは二つ。果実水に刺さったストローは途中で二つに分かれハート型に交差しているあれだ。私達は一挙手一投足に気を使い初々しいカップルを演じつつ表情仕草はそのままに口調だけ変えて今後のことを話し合う。


「ここまでする必要あるのか?」

「違和感って連鎖するのよ。それがやがて疑念に繋がるわ。たった一つの違和感も抱かれない事が成功の秘訣よ。あなたこの1年間で一体何を学んできたのよ?」


その言葉そっくりそのまま返したい。


「で、この後はどうするつもりなんだ?」

「屋敷を手に入れるわ」

「は?」

「貴族街の北の方にミーツィナー男爵の別邸があるわ。そこを拠点にしましょう」

「何をいってるんだ?そんなの無理に決まってるだろ」

「それが無理じゃないのよ。ミーツィナー男爵にはフリナという遠縁の親戚がいるわ。その会ったこともないフリナっていう孫くらいの歳の親戚がこんなに可愛くてしかもちょっとした手違いで行くあてがなくなってしまっていたら、男爵はどうするかしら?」

「そのフリナ本人が出てきたらどうするんだ?」

「彼女は今ずっと西の方のノヴァンにいるわ。1ヶ月は持つはずよ。それだけあれば十分だわ」








あれから数日がたった。私は今ミーツィナー男爵の本邸にいる、フリナの下男として。フォー曰く「ちょっとかけ過ぎたわ」らしい。フォーは基本的に部屋から出ない。出るのは日に数回、食事の時くらいだ。それ以外は部屋に引きこもって命令してくる。やれ仕立て屋を呼べだ宝石商を呼んでこいだとかどこどこのスイーツを買って来いだとか。支払いは全て男爵の名義である。男爵は何も言わずフォーの好き勝手にさせている。


リンリン


また呼び鈴が鳴った。


「お嬢様、お呼びでしょうか?」


そこにはすっかり貴族のお嬢様なフォーが居た。その胸には大きなアメジストを使用したネックレスが飾られている。普通はそちらに目がいってしまうだろう。しかし、そんな物彼女の美しさの前にはただの脇役に過ぎなかった。相変わらず目を閉じていることだけが残念だった。私がそのネックレスを見てため息をつく。


「別にねだった訳じゃないわ、どうせ脇役にしかならないからアクセサリーなんて最低限でいいもの。でも男爵がくれるっていうから、せっかく買ってくれたのに受け取らないのも失礼でしょう?そっちはどう?何か進展はあった?」

「だめだ、何も出てこない」


ここ数日私はフリナの下男として貴族御用達の店に出入りし情報を集めていたが第二王子の所在に関する情報は一切出てこなかった。


「そう、今日ここにレコガット公爵がお見えになるわ。その時彼と二人きりになる時間を作ってちょうだい。十分でいいわ」

「わかった」

「じゃあもう行きなさい。前行ったカフェ覚えてる?あそこの四軒隣の店の焼き菓子を買ってきなさい。今日は寄り道せずまっすぐ帰ってきなさい。昼のうちにお見えになるわ」


そういうとぱっぱっと追い払うように手を振った。





その日の十五時くらいの事、公爵のものと思われる馬車が到着した。私は庭の雑草を抜きながらその様子を観察する。公爵は馬車を降り屋敷の中へ入って行った。その約十分後、公爵と男爵は今頃応接室で対談しているだろう。そろそろ頃合いか。


「賊だ!そっちへ逃げたぞ!追え!」


私はあらん限りの声でそう叫んだ。あたりが一気に騒がしくなる。


「どこだ!探せ!」


私はさっと黒い外套を羽織り駆け出す。二階の窓からメイドがこっちを見た。物置小屋の陰に隠れ外套を脱ぎ捨てそれに火を付け叫ぶ。


「こっちだ!燃えてる!」


人が続々と集まってきた。火はすぐに消火され、賊の捜索が続く。日暮れまで捜索は続いたが賊は見つからなかった。






その日の夜また呼び鈴が鳴った。


「明日の正午第二王子の邸宅でとある人物と会談があるそうよ。相手が誰であるかまでは知らなかった。後は任せたわよ」

「お前は来ないのか?」

「私そういうのは出来ない仕様なの。その辺の五歳児にだって負ける自信があるわ」

「そうか」


悲嘆に染まる人々を尻目に灰色の空を眺める。黒に近いその空は何を落とすのだろうか?私の罪が許される事はもう無い。

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