カイン編 2節
短いけど眠いしきりも良いのでここまでであげます。編集で追記するかもしれません。
「で、君達はなんであんなところに居たんだ?」
僕は今一人で、助けてくれた若い男と話していた。ここは警備隊の詰所らしき場所の一室だ。他の三人は別の部屋にいる。
「よくわからないんです」
「家はどこ?」
「ミラ村です」
「王都の人間じゃないのか。誘拐?」
「だと思います」
「詳しく話せる?」
「はい」
僕は昨日起こったことを覚えている限り詳細に話した。
「そうか、大変なことがあったんだね。ミラ村だと急いでも往復で半日ってところだな。確認が取れるのは明日か。そのシオンって子も見つかるといいんだが」
翌日には確認が取れたらしい。村の家は全て焼き払われた後だったそうだ。遺体も生存者も確認できなかったみたいだ。そしてシオンは村の近くの道を一人で歩いていところを保護されたらしい。そう神父から聞いた。僕達はその日から孤児院に入れられた。
あれからおよそ9年の月日が流れた。来月で16歳になるある日の事、私は孤児院の神父に呼び出された。
「君は来月で16だったね。君も立派になった。季節もいいし、そろそろだ。わかるね?」
「はい」
「それでここを出た後のことなんじゃが、君を欲しがっている所がある。正直な話あまり勧めたくはない」
「どういう所なんですか?」
「日の当たる仕事ではない。彼等にももう会えないかもしれん。儂は辞めたほうがいいと思う」
「ならどうして勧めるんですか?」
「ここを援助して貰っている方の希望でな」
「シメオン神父が辞めた方がいいと言われるなら他のところに行きます」
「あの日の全てを知りたくはないか?」
そう言ってシメオン神父は小さな袋を机に置いた。
「………拝見しても?」
シメオン神父は黙って頷いた。袋を手に取ると何か小さくて丸い物が入っている。何か嫌な予感がした。取り出して見ると透明な丸いガラス玉のような物が入っていた。
「………これは」
「使えるか?」
「はい……」
「あの日の全てを知りたくはないか?、そう言って渡してくれと言われたんじゃ」
「………」
「儂は世の中には知らない方がいいこともあると思う。知らないまま幸せに生きることだってできるはずじゃ」
私の人生の使い道が決まった。
「ねえカイン、ここから出たらどうするつもりなの?」
「神父さんが仕事を紹介してくれたんだ。隣町の警備の仕事だよ」
「そうなのね」
「本当に行っちまうんだな」
「しょうがないだろ?いつまでも世話になっているわけにもいかないし」
「カインなら大丈夫よ、あんたとは違ってしっかりしてるし」
「うるせぇ、ドチビのくせに生意気言うな」
「あんたこそ無駄に大きくなって、邪魔なのよね」
9年でみんな大きくなった。小さかったダスティンも大きくなったし、アベルなんて180cm近い大男になった。まだ伸びていると言うから末恐ろしい。さっきドチビ呼ばわりされたシオンだって少し小さいくらいである。アベルが大きすぎるのだ。グレアは身内びいきかもしれないが随分綺麗になったと思う。最近ふとした拍子にドキッとすることがある。顔には出せないが。
「ね、ねえカイン、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
彼女はリィエル。二つ下の笑顔が似合う照れ屋の女の子だ。緊張しているのか頬が紅潮している。
「ヒューヒュー!」
「リィエル頑張れー!」
「あの、あのね!わかってたと思うけど、ず、ずっと好きでした!カインさんは優しくて、憧れで、その、け、結婚して下さい!」
ん?
「いや、その、違くて、あの、その、」
過呼吸になり掛けてる。
「一旦落ち着こう?深呼吸。すって、はいて、すって、はいて、すって、はいて大丈夫?落ち着いた?」
「は、はい。大丈夫です。あの、私もあと二年したらここから出るので、そしたら、お付き合いしていただけないでしょうか?それまで待っていただけないでしょうか?」
「私も、ずっと気になっていました。二年で生活を整えるので、その時まだ私のことが好きだったらお付き合いしていただけないでしょうか?」
「はい!」
わっと歓声が上がる。
「おめでとうカイン!リィエル!」
「やったねリィエル!」
「カインさんリィエル派だったのか」
その日の夕食はお祝いムードだった。
夕食後、誰もいない廊下でふとダスティンに呼び止められる。
「本当はどこに行くんだ?」
「相変わらず鋭いね、ダスティン」
「何故俺たちに隠す」
「………」
「だんまりか。兄さん、つまらないことはやめた方がいい」
「なあダスティン、頼むよ」
「やめてくれ、聞きたくない」
「カインは明日死ぬ、隣町に移動する途中で馬車が襲われるんだ。その時の犠牲者の一人がカインだ」
「ちょっと待ってくれ、予想してたのと違う」
「いいや待たない。その後は第二王子のもとで働くことになっている。もちろん、そういう仕事だ。」
ダスティンは両手を上げ降参のポーズを取る。
「わかった、降参だ。はぁ、あんな約束して良かったのか?」
「最後くらい夢を見てもいいだろう?」
「苦労するのは俺達なんだけど」
「みんなのこと頼んだよ、ダスティン」
「できる限り努力はするさ」
ダスティンは察しの良い生意気なガキに育った。誰に似たんだろうか?話したのはせめてもの意趣返しだ。きっと苦労することだろう。そういう性格だ。次の日、みんなに見送られて出発した。
「たまには顔出しなさいよね」
「機会があったら顔を出すよ」
いざ出発しようとするとグレアが笑顔でスタスタと近づいてきて私の襟元をグッと掴み引き寄せ耳元で
囁いた。
「私、認めないから」
それだけ言うとグレアは満足そうに引き返し笑顔で手を振っている。困った子だ。
お世話になった孤児院を後にし、乗合馬車の方へ向かう。私がなるものは決まっている。予定されていた4人乗りの乗合馬車に乗ると既に中には先客が二人いた。二人とも私と同じくらいの年齢に見える。一人は燃えるような赤い目をした青年で、炎系であることは間違いないだろう。もう一人はあまり特徴のない青年だった。強いて言うなら、人より少し細い。しばらく待っているともう一人入ってきた。それは女性でフードを目深っていた。そのせいで目は見えなかったが、神が作ったのかと思われるような完璧な造形であることは疑いようもない。目が吸い寄せられる。私は異常を感じ一度目を閉じる。そして、もう一度目を開ける。なるほど、彼女は光波系らしい。フードで直接は見えないが目から不可視光が出ているようだ。それが原因だろう。多少魔力を使うことになるが仕方がない。私はその不可視光をシャットアウトして正面に向き直る。
「あまりジロジロ見ないでくれるかしら?私も気をつけるから」
腰を下ろしてそう言うと彼女は目を閉じたらしい、光が消えた。他の二人はハッとしたように正面に向き直る。私も目を元に戻した。風鈴の音のような綺麗な声だった。
4人とも沢田のを確認して御者が馬に鞭を入れる。王都を出てしばらく進むと馬の走る音が聞こえてきた。馬車が止まった。後ろから人が入ってくる。腰から下げた剣を鞘ごと外すと躊躇なく特徴のない男の頭を殴った。
「ちょっと!」
赤い目の男が声かをあげるがそのまま殴られた。そして一秒のまもなく私も殴られ意識を失った。
フラグのないシーンはカットで。それなりに幸せな孤児院生活のシーンとかこの物語には必要ないよね。無駄に長々とするのもあれなのでひたすら巻きでいきます。