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メモリーライン  作者: paset
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カイン編 プロローグ

この先唐突な鬱展開があるぞ



「我々は由緒正しきエーカー家の末裔なのである。であるから、立ち居振る舞いはそれなりにちゃんとしなければならん。わかるかな?」

「アベルが行こうって言い出したんです」

「みんなだって行くって言っただろ!」

「うわあぁああん」

「だまらっしゃい!子供だけで森に入るなと何度言ったらわかる!ダスティンもいつまでも泣いてないでいい加減泣き止め!男の子だろう!カイン!年長者であるお前がしっかりせんといかんのだ!まったく」

「ごめんなさい」

「だいたいお前達はいつもいつも………」


今僕達5人は村長のじっちゃんの家で絶賛説教中だ。こうなったらじっちゃんの話は長い。事の発端はグレアが森の方に見たことない人がいたと言い出した事である。




「カイン、変な人がいたんだけど」

「どんな人だったの?」

「すぐに森の中に入っていったからよく見えなかったわ。でもこの村の人じゃないわ」

「怪しい奴に違いない!探しに行こうぜ!アベル探検隊の出動だ!」


一つ下のアベルは最近冒険ごっこにハマっている。きっと一人でも行ってしまうだろう。近場を適当に回ってアベルが満足したら帰ろう。迷って帰れなくなったら大変だ。ちなみにアベル探検隊というのは最近アベルが発足した探検隊だ。村の子供達はみんな隊員らしい。


「よし、じゃあみんなで行こう。準備したらまたここに集合ね」



頷いてみんなはそれぞれの家へ向かっていった。僕も家に行に向かった。とは言っても近くを回るだけだしそんなに大仰な荷物は必要ない。迷っても最悪煙さえ起こせれば大人達が助けに来てくれる。近くには危険な動物もいないし平和なものだ。僕は枝を斬り払う鉈と擦り傷用の軟膏と火打石を持ち出した。出かけぎわに台所で夕飯の支度を始めている母に声をかける。


「母さん、ちょっと」

母は手を止めてこっちに駆け寄ってきてしゃがんで僕に目線を合わせる。

「どうしたの?」

「アベルが森に行こうって言ってて、それで………」

「あ〜、なるほど。ちょっとまってて」

そういうと母は机から透明な丸いガラス玉のような物を取り出して僕に渡した。

「何か困ってどうしようもなくなったらこれを使いなさい。母さんの全力が込められてるから。使い方はわかる?」

「大丈夫。魔道具でしょ?」

「ちょっと違うんだけどね、まあ使い方は一緒よ。使ったらすごい事になるから本当にどうしようもなくなったら使いなさい。」

「使ったらどうなるの?」

「ドカーン?」

「はいはい凄い凄い。本当に困ったら使うよ。」

「あと、帰ったらじっちゃんのお説教だから覚悟しときなさい」

「うえぇ、どうしても?」

「じっちゃんの唯一の楽しみなんだから付き合ってあげなさい」

「はーい。じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」


爆烈魔法なんて一世紀以上前の伝承にしか記録が残っていない魔法だ。現代に使える人はいない。そんな魔法が込められてるわけがないのだ。



さっきまでいた場所に着くと既にみんな揃っていた。一番最年少のダスティンはどこで見つけてきたのかひのきの棒を装備している。次いで背は一番小さいシオンは、特に何も持っていないようだ。グレアは家にある救急箱をそのまま持ってきたようだ。そしてアベルは………鍋を頭から被り蓋を盾のように左手に持ち右手にはダスティンと同じようにひのきの棒を装備している。気分はさしずめ冒険者と言ったところか。


「よし、みんな揃ったな!アベル探検隊出動だ!、おー!」

「おー!」

「おー」

「お、おー!」

「…………」


い、息が合わないなぁ、シオンに至っては返事すらしてないし。そんなこんなで始まった森探検だったが、予想通り特に何も起こることはなく平和なものであった。5人で歩いていたがふとシオンが立ち止まって遠くを見つめている。


「シオン、何か見つけた?」

「なんでもない。気のせいだったみたい」

「そう?なにか見つけたら言ってね」

「うん」


その後も特に何事もなくただ時間だけが過ぎて行った。辺りが暗くなってきたので頃合いを見計らって声をかける。


「そろそろ暗くなってきたし帰ろうか」

「えー、まだ何も見つかってないじゃん。もう少しだけ!」

「そろそろ暗くなってきたしなぁ」

「ほら!ダスティンももう少しって言ってるし!」

そう言ってアベルはダスティンにももう少しって言わせようとするがいまダスティンは…

「う……ひぐぅ……」

あ、これはダメなやつ。

「うわあああん!がえりだいよぉおおお!」

「あー、ダスティン泣かしたー!大丈夫ダスティン?早く帰ろうね〜」

「な、泣かしてないし!勝手に泣いただけだし!」

「がえりだいよぉおおお!」

「わかった、わかったから泣くなって」

「アベル、帰ろう?いいね?」

「………わかった」


アベルは不服そうだが泣き出してしまったダスティンを抱えて続けるほど強情ではない。



村へ帰るとじっちゃんが腕を組んで待ち構えていた。


「こら!あれほど子供だけで森に入るなと言っていただろう!これから説教だ!付いて来い!」


そうして泣きじゃくるダスティンもそのまま連れてじっちゃんの家で正座させられて今に至る。じっちゃんは没落したエーカー家の話を始めた。もうすぐ説教は終わるだろう。痺れてきた足をさすりつつじっちゃんの最後の締めを聞いていると、突然あたりに叫び声が響いた。


「火事だー!」


「む?火事じゃと?お前達はここでじっとしておれ。」


そう言ってじっちゃんは僕達を置いて出て行った。


「今日のじっちゃんも絶好調だったね」

「毎回毎回同じ話ばかりで飽きちまうよ」

「わかる」

「火事だってさ」

「様子見に行こうぜ!」

「じっとしてろって言われただろ。あの説教もう一回聞きたいのか?」

「今日はもう勘弁」


その時は突然訪れた。

見慣れない男達がドアを蹴破り入ってきたのだ。その数は5人。全員仮面をつけて帯剣している。


「動くな!痛い思いをしたくなかったらな」


僕は他の子達を庇いつつ前に出る。


「抵抗しません。大人しく従います」

「おいカイン!」

「黙ってろ!頼むから大人しくしてくれ」


アベルは今にも殴りかかりそうだが、そんなことをしても怪我をするだけだ。最悪殺されかねない。手は恐怖で震えているが、僕は年長者なんだからしっかりしなきゃと自分に言い聞かせ堪える。


「理解が早くて助かる。一人ずつ両手を上げてこっちに来てくれ、ゆっくりと」


僕は言われた通り両手を上げて仮面の男達にゆっくりと近づく。仮面の男達のうちの一人が僕の体のあちこちをポンポンし出した。そして、ポケットを叩いた。ばれただろうか、ばれただろうな。心臓がどくどくと脈打ち、冷や汗が背筋を伝う。だがその男は特に何も言わず縄を取り出し僕の両手を後ろに縛り、口に猿轡を噛ませた。ばれなかったのだろうか?いや、触ってわからないような大きさではない。


「大丈夫です。問題ありません」

「よし、次だ。もう一人来い」


そうして5人とも縛られた。仮面の男達はお互いを見て頷いた後、剣を抜いて僕達に突き付けこう言った。


「大人しくしていれば君たちを傷付けることはない。だが、抵抗すればどうなるかわかるな?」


男達は僕達に剣を突き付けたまま連れ出した。その時僕に剣を突き付けていた男がこっそりと僕のポケットの中のアレを手に握らせてきた。はっと男の顔を見るがその仮面の奥の表情は見えず何も分からなかった。村長の家の外に出ると外にはもう一人仮面の男がいた。そして声を張り上げた。


「聞けぇ!子供達の命が惜しければ大人しくそこにならべ!全員だ!」


外へ出てわかったが、火災は村長の家の向かいの六軒隣で起きていたらしい。村人達は全員で消火にあたっていたらしく、誰一人の例外なくそこにいた。そして叫び声を合図とするかのように村の周りの森からも仮面の男達が続々と現れ出し火災現場を取り囲んだ。仮面の男達は合わせて二十人以上いた。


「おい!なんなんだお前達は!」


村人の一人がそう叫んで仮面の男の一人に掴みかかった。いや、掴みかかろうとした。他の仮面の男の影になっていてよく見えなかったが、倒れて動かない男と血の滴る剣が何が起こったかを物語っていた。


「ディアベル!」


そう叫び一人の女性が駆け寄ろうとする。


「動くな!この男のようになりたくなかったら大人しくしろ!」


仮面の男は血の滴る剣を突き付け言い放った。


「まあまあ、落ち着いてくだされ。我々は抵抗しません。望みは食糧かな?うちの村は貧しいもので、金目の物はあまりありません」

「そうだ、この村の食糧を全部渡せ。大人しく指示に従ってくれれば命までは取らない」

「全部持っていかれては飢え死にしてしまいます」

「ならどれくらいなら渡せるんだ?」

「米一俵残していただければなんとかします」

「じゃあそれを除いた全てだ。あっちの方に荷車があったな、男達はそれに全部積み込め。女子供は人質だ。少しでも怪しい動きをしたら一人ずつ殺す」

「っーーーーっ!」


シオンが何かを叫んでいるが猿轡のせいでうまく話せない。


「暴れるな!」


仮面の男が後ろから腕を使い締め上げるがシオンは抵抗をやめない。


「シオン!いつものようにするんだ!いつもは大人しく良い子じゃないか!」


シオンの父がそう叫ぶとシオンは抵抗をやめ大人しくなった。


そして村の男達は総出で荷車に食糧を積み始めた。僕はずっと考えていた。どうすればみんなが安全になるか、アレをいつ使えば良いのか、ずっと考えていた。


僕達5人は今仮面の男がすぐ後ろに立っていて剣を持った右手を前に回し首に剣を当てられている。その状況で横一列に並んでいる。僕から見て右から僕、グレア、アベル、ダスティン、シオンだ。右前辺りに女達が固められ、その周りに仮面の男達が10人程いる。男達は作業をしていて、他の仮面の男達はその作業を見張っている。今アレを使っても状況は良くならないだろう。最悪食糧は持っていかれても良い。なんとかなるだろう。そう考えていた。




「積み終えたな。ではお前達を一人ずつ縛る。追ってこられたら面倒だからな」


リーダー格らしき仮面の男がそう言った次の瞬間、仮面の男達に囲まれていた女達の中の一人が奇声を上げ囲んでいた仮面の男を悠々と跳び越え猛然とリーダー格らしき仮面の男に飛びかかった。皆の注意がそこに向いた瞬間作業を終えた男達の中の一人が音を立てずひっそりと、だがものすごい速さでシオンに迫る。今か?いや、今使ってどうなる?二人の邪魔をするだけなんじゃないか?考えているうちに時は流れる。リーダー格の男に跳びかかった女は一の太刀で右腕を切り落とされ二の太刀で首をはねられた。男の方はシオンを自分に向かって突き飛ばされるがそれを跳び越え仮面の男に右手を伸ばすも後ろに下がって躱され次を踏み込む前にどうを横薙ぎに斬られ倒れた。その間に突き飛ばされたシオンは前方に向かって駆け出した。


「追え!絶対に逃がすな!」


二人の仮面の男がシオンを追って走り出す。


「悪いな、あんた達のことは知ってたんだ」


リーダー格の男がふと呟いたのが妙に気になった。


「やれ!」


リーダー格の男がこう言った後、村の女がまた一人殺された。その後リーダー格の男はシオンに剣を突き付けていた男に向き直った。


「恨んでくれて構わない」

「一番高い酒を奢らせてやるよ、隊長」

「ああ、存分に」


直後リーダー格の男はシオンに剣を突き付けていた男の首をはねた。誰も何も言わなかった。だが僕は底知れぬ違和感を抱き始めていた。


「では一人ずつこっちに来い、ゆっくりだ」


今度は誰も抵抗せず一人また一人と縛られ、やがて女も含めて全員が縛られた。この仮面の男達は一体何者なんだ?食糧を残してくれとお願いしたら残してくれると言う。そんな盗賊聞いたこともない。それにあの隊長という言葉。だが、僕にはこの違和感の正体がわからなかった。


「これも命令だからな、やれ!」


リーダー格の男の掛け声を合図に仮面の男達は次々と縛られた村人達を殺していく。


「どうしてこんなことを!」

「黙れ!」


僕は何も出来なかった。アレ一つでどうにかなる程甘い状況では無かったのだ。僕は殺されていく村の人達を見ながらアレに魔力を流し込み足元に落とした。


それは数度明滅を繰り返し、次の瞬間辺りは真っ白に包まれ轟音が響き渡った。薄れゆく意識の中、僕は的外れなことを考えていた。こんなの7歳児に持たせるものじゃないよ、母さん………。

カインのプロローグですね。やっと投稿できました。読んでくれる人いるかな?でもこんな鬱展開じゃ誰も読んでくれないかな?

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