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第四話 館林先生なら休みだぞ

 翌日私が教室に入ると、それまでざわついていたクラスが静まり返った。構わず席に着くと、皆は私の方をちらちら見ながら小声で話を始める。聞こえてないとでも思っているのだろうか。こっちは小学生の頃からいじめに遭っているプロだ。アンタらが何を噂しているのかくらいお見通しなのである。


「なんだアザクラ、今日は来たのか。休んでいてもよかったんだぞ」


 小仏先生は教室に来るなり私の姿を見て嘲笑(あざけわら)う。こんな教師が学年主任なんて、この学校には未来なんてないと思う。もちろんそんなことは私にとってはどうでもいいことだ。でもこんな時、両親がいたら少しは味方してくれたりするのだろうか。


 私には親がいない、というわけではない。母は私がまだ小学校に上がる前に病で他界したが父は健在だ。ただ仕事の関係で五月から海外に行っており、帰国するのは来年の春頃だと言っていた。父に付いて行かなかったのは高校受験を控えた年であることと、何より私は海外に不安しかなかったからである。英語も苦手だったしね。だから家に帰ってもいつも一人。もっとも学校でも一人と変わらないのだから寂しいなんて思ったことはない。それに早退してもズル休みしてもお(とが)めはないから楽だ。


 そして何事もなく一日が終わる。部活に入っていない私はこの後は下校するだけ。そう思って教科書やらノートやらを鞄に詰め込みながらふと窓の外に目をやった私は、思わぬ人影に目頭が熱くなるのを(こら)えられなかった。グレーのスーツに身を包んだ、懐かしいと感じずにはいられない館林先生が学校に入るところだったのである。私は居ても立っても居られなくなり、館林先生を求めて走り出していた。


 先生に会いたい。先生の声が聞きたい。一人ぼっちのこの学校で唯一の私の理解者。それは私の独りよがりだって分かってる。でも、とにかく先生と会って話がしたかったのだ。


「館林先生!」


 職員室にたどり着いた私は勢いよく扉を開けて叫んでいた。私の声に室内にいた先生たちがびっくりした顔を向けてきたが、見渡してもそこには館林先生の姿はなかった。


「館林先生なら休みだぞ」


 他学年担当の先生が教えてくれる。でも、私はさっき確かに館林先生が学校に来たのをこの目で見たのだ。あれは絶対に見間違いなんかではない。そんなことを思って室内をくまなく見回していると急にスピーカーから雑音が入り、その後聞き覚えのある声が校内に響き渡っていた。


『学年主任の小仏先生、至急校長室までおいで下さい。繰り返します。学年主任の小仏先生――』


 声の主は校長先生だった。まさか館林先生が校長室にいて、それで小仏先生が呼ばれたということだろうか。だとしたら先日の根も葉もない尋問を館林先生も受けるということになる。こうしてはいられない。私は後先のことを考えずに校長室へと向かって走り出した。

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