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第一話 おぼろげさんのファンです

 私の学校では毎週一時間の技術の授業のうち、隔週で情報を学ぶ。この時間はパソコンルームに移動して、専門の館林(たてばやし)洋輔(ようすけ)先生が教えてくれるのだ。この先生は学校のシステムにも関係しているらしく、一線級のシステムエンジニアさんだということだった。


 もちろん私には何が一線級なのかなんて分かるわけがない。ただ、この先生だけは私のことをちゃんとした本当の名前で呼んでくれる。そして館林先生はスラリとした長身の上に、ジョニーズタレントばりのイケメンだった。


「じゃ、今日は膨大(ぼうだい)なデータから条件に合った文字列を取り出すマクロを作りましょうか」


 今日の課題はこれだ。前回の授業でマクロを使って何が出来るのかということを教わった。今回はそれを実践してみようということだった。


「データは皆さんのデスクトップにあるマクロ用テキストというファイルです。これはこの学校のシステムから持ってきたログファイルで、皆さんが見ても問題のないものです。もちろん校長先生にバレても僕が怒られることはありません」

「先生!」

「はい、何でしょう?」


 いきなり手を挙げたのはクラスのムードメイカーの大森君だった。大森君は何かと情報の授業ではおちゃらけるところがある。最初のうちは館林先生も戸惑っていたようだが、今はもう慣れたみたい。


「成績の改ざんのやり方を教えて下さい」


 クラスから吹き出す声と、そうだそうだと(あお)る声が入り混じる。


「分かりました。ではこのクラスの皆にだけ特別にお教えしましょう」

「マジ? マジマジ? 先生、ウソだったらマクロ作んなくてもいい?」

「いいですよ。でも本当だったらちゃんとマクロ作って下さいね」

「いいぜ! なあ、みんな!」


 クラスが()き立っちゃったけど館林先生、大丈夫かな。


「皆さんにお教えするのは合法的に改ざんする方法です。それでもいいですか?」

「分かったから先生、早く教えろよ」

「あはは、簡単なことです。全教科の教科書を丸暗記して下さい」


 にこやかに言い放った先生に対し、クラス全体が溜息(ためいき)をつきながらシラけムードになる。ほら、言わんこっちゃない。


「何だよそれ、改ざんじゃねえじゃん。先生、改ざんって意味分かってる?」


 大森君の言葉にクラスがさらに沸く。先生ごめん、私も同じこと思っちゃった。


「もちろん。改ざんとは本来主に悪用を目的として文書などを書き換えることですが、皆さんに犯罪行為をさせるわけにはいきません。ですから最初に僕は合法的にとお断りし、皆さんはそれでもいいと納得しましたね?」


 うん、確かに先生はそう言ってた。


「だからどうだって言うんだよ?」

「これは未来の皆さんの成績を改ざんする方法です。でも改ざんの事実は誰にも分からない。つまり合法的というのはそういうことです」


 何という強引なこじつけだろう。でも中学生の私たちにこの屁理屈(へりくつ)(くつがえ)すだけの理論は浮かんでこなかった。


「さ、では皆さん、マクロの作成をお願いしますね」


 こうしてまんまと館林先生は授業を進めるのだった。




『初めまして、みかん猫と言います。おぼろげさんのファンです。いつも作品、楽しませていただいてます!』


 その日の夜、私は初めておぼろげさんに個人メッセージを送った。情報の授業で館林先生が放った屁理屈が、前に読んだおぼろげさんの作品の中の言い回しと似ていたのを思い出したからだ。すると五分もしないうちにおぼろげさんから返信がきた。これには少しびっくりしちゃったよ。


『初めまして、作品を読んでくれているんですね。嬉しいです。ありがとうございます』

『毎日更新、お疲れさまです! 体壊さないようにして下さいね』


 私は嬉しくなって、すぐにまたメッセージを返した。するとやはり五分も経たないうちにおぼろげさんから返信がくる。


『ありがとうございます。読んで下さる方がいると思うと元気になりますから大丈夫ですよ』


 私もおぼろげさんの元気の源になれてるのかな、と思うとさらに嬉しさが倍増した。それから数回、他愛ないメッセージをやり取りして私はスマホを机の上に置いた。あ、屁理屈のこと言うの忘れちゃった。

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