俺は異世界からやってきたスライムと同居生活しています
いつも通り、大学の授業を終え、帰宅した。
「ただいまー!」
「おかえりなさい!」
家に帰宅すると、スライム状の『そいつ』が出迎えてくれた。
「拓海、今日は早いな。」
「まぁ、午前しか授業がなかったからな。」
俺の名前は鹿野拓海。四月から都内の私立大学に通う一人暮らしをしている大学一年の学生である。
黒髪で、視力が悪く、メガネを着用している。ちなみに俺は理系なのだが、いかにも理系っぽいっとよく周りから言われる。
三ヶ月前、俺の部屋で、俺は『ドラシー』と名乗るこのスライム状の生き物、と出会った。
本人曰く異世界からやってきたらしい。
ある勇者との激しい戦闘の末、異世界への扉が開き、この世界へと逃げ込んだらしい。
異世界にいたころの記憶が勇者と戦ったことしか覚えていないらしい。
異世界に居たころはスライム状の生き物ではなく、人間体であったらしいのだが。
自分がどんな立場だったのか、誰に仕えていたのか、記憶にないそうである。
「それで......元の世界に戻る方法は分かったのか?」
「いや......でも、このままずっとここにいてもいいんじゃね?」
「ふざけんな! さすがにここに居続けられてもこっちが困るんだ!」
「私、酸素と水さえされば生きていけるし、居続けても対して困らないだろ。」
そう、こいつはどんな理屈か謎なのだが、コップ一杯の水を朝と夜にぶっかけてやれば普通に生きていけるのである。
こいつと部屋で出会った時、第一声が、「水をくれ......」であった。
「引っ越しの時とか困るんだよ......何か記憶は思い出せなかったのか?」
「何も。だが、今日、すごいことができるようになったぞ。」
「な、なんだ?」
「スライムの姿から、形を変形できるようになったんだ!」
「なんだそれ。やってみろよ。」
「いいだろう......行くぞ! メタモルフォーゼ!」
そういい、ドラシーは変形し、姿を変えた。
なんとドラシーは、バーチャルユーチューバーのキズナアイちゃんの姿に変形した。
「お、お前、俺の憧れのキズナアイちゃんだったのか......!」
「ちょっと、拓海さん。違いますよ。変形しただけですよ。」
「分かってるよ! くそ、夢を壊すな......」
「理不尽だなぁ。」
俺は、最近パソコンでキズナアイちゃんの動画を視聴している。ドラシーも興味があるとかなんとかで一緒に視聴している。
そのときの記憶を元に変形したのだろう。
「それにしても、見事な再現率だな。抱きついてみてもいい?」
「ええ? それはちょっと、恥ずかしいな......」
ドラシーはキズナアイちゃんの姿で恥じらいでいる。
おお、可愛い。メッチャ可愛いじゃないか。元がとてもスライム状の生物とは思えない。
許可も取らずに、俺はキズナアイちゃん、もといドラシーに抱きついた。
「いや、ちょっ......! 拓海......」
抱きついた感想としてはぐにゃっとした感触で、あまりいい感触ではなかった。キズナアイちゃんは、すぐさま変形し、すぐにいつものドラシーの姿へと戻っていった。
「ああ、戻っちゃった......」
「もう! 拓海! 急に抱きついてくるなんてひどいじゃん! 今日できるようになったばっかなんだから力を入れて触られるとすぐに戻っちゃうんだよ。」
「悪い悪い。キズナアイちゃん以外に変形できるものはないのか?」
「あるよ。」
あっさり、他のものに変形できるとドラシーは答えた。すごいな、こいつ。
「何に変形できるんだ?」
「まぁ、見てなって。」
そういうと、再び変形を始めた。
先ほどとは打って変わって背は低く、二頭身を思わせる身長、デフォルメされた顔立ち。
こ、これは.......!
「私のことどれくらい好きか教えて?」
「い、いっぱいちゅき......!」
ポプテピピックのポプ子だ!
そういえば、最近、ニコニコ動画で再生回数が300万を突破したとかで気になって視聴したんだったな。
すごい! たくさん視聴しているキズナアイちゃんはともかく一回だけ視聴しただけのポプテピピックのポプ子に変形するなんて!
こいつ、只者じゃないな!
「えいえい!」
ドラシーが俺の胸元にチョップしてきた。
「怒った?」
「うん。」
「ちょっと〜拓海、空気読みなよ〜。」
そうかそうか、なら俺も空気を読むか。
「お前......自分が何をしたか分かっとんのか? 分かっとんのか〜?」
人差し指でラッシュをした。少し、指がドラシーに触れると、スライムの姿へと戻った。
「お前! 耐久力なさすぎだろ! ヌケニンか?」
「な、慣れてないんだからしょうがないじゃない!」
「まぁ、それにしてもすごい能力だな。俺の姿にもなることができるのか? うん、できるよ!」
すぐさま、ドラシーは俺の姿に変形した。
今の俺の姿と服装まで一緒であった。すごい、これはすごい。俺が二人だ。
俺がお前で〜お前が俺で〜マイティ、マイティ、ブラザーズ、ダブルxのようだ。
ちょっと違うか。
「すげぇ! ドラシー! 耐久力さえ上がれば、二人で作業できるぞ! どっちかが学校に行って、もう一人はバイトに行くみたいなことできるな!」
「えー、それはちょっとめんどいな。」
やれやれ、めんどくさがりだな。こいつは。
すると、ピンポーンという音が扉の方から聞こえてきた。
恐らくは、Amazonで注文したマンガ本の注文だろう。
「試しに私が行ってくる!」
ドラシーがそう言った。
「いいけど、スライムに戻らないように注意しろよ。」
宅配便の人にファンタジーのような生き物を持っているなんてばれたら厄介である。
1分後、何やら青ざめた顔で戻ってきた。
もともと青色のスライムなのだが。
「良かった。スライムには戻らなかったか。それにしても、どうした、顔色悪いぞ。」
「さっきの宅配便の人......忘れもしない......あいつ、あの時の勇者だ!」
「なん......だと......」
何やらものすごい展開が巻き起こりそうな気がする。




