七章 クラス対抗リレー(2)
――ゴールテープを先に切ったのは、雪村君だった。
最後の直線で、信じられない加速を見せて桜井君を振り切り、ゴールに文字通り飛び込んだ。
力を全て出し切ったのか、起き上がれずに倒れこんだまま右腕で大きなガッツポーズを作った雪村君は、すぐさま興奮した先輩たちに囲まれ胴上げをされていた。
「おめでとう」
また、声が聞こえた。今度はテントではなく上の方から聞こえた気がして、私は空を見上げた。太陽がまぶしくて、私は思わず目をつむる。
きっと、つぐみさんもこのレースを見ていたのだろう……。
私も彼に祝福の言葉をかけるために駆け寄っていった。
胴上げから下ろされた雪村君は、私の姿を見つけると息を整えながら近づいてきて、笑顔でブイサインを作った。
「おめでとう」
「当然だ。笠は…………なのか」
その顔は、今度こそ中学生のときに見た、あの笑顔だった。つぐみさんに向けられていた、あの笑顔を今、彼は私に向けてくれている。
それが嬉しくて、こそばゆくて、私も笑顔を浮かべて彼の胸に飛び込んだのだった。
予定通り、勝てた。これで多分、計画通りに事が運ぶと思う。
最後、なのかが修一に抱きついたのは想定外で、彼女は意外と大胆な人なんだ、と不覚にもちょっと驚いてしまった。
「ごめんね……」
余韻の冷めないリレーの後、あたしは修一にそう言った。今しかないタイミングで言えたと思う。
「そこは、おめでとう、だろ?」
一瞬きょとんとした修一は、にやっと笑ってあたしの頭を軽く叩いた。
懐かしい映像を見ているようだった。彼のぬくもりを感じて、あたしは泣きそうになるのを堪えて、笑顔を浮かべた。
もう一度、彼とこんな風に笑える日が来たのだ。
「おめでと、修一」
「ありがとう、葵」
あたしたちは、新しい一歩を踏み出す。
過去を抱いたまま、あたしたちは未来へ進む。
あたしたちは生きているのだ。
つぐみのためにも、あたしたちは前へ進む。
修一は、忘れていた笑顔を思い出したかのように、たくさん笑った。
その横に、恥ずかしそうに笑うなのかがいる。
あたしは今、ようやく修一の「親友」に戻れた。




