表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

五章 夢(3)

 嫌な予感はしていた。 

 


 あれから修一の様子は明らかにおかしかった。日に日にやつれていくようだったし、あたしとの言い争いが何かを狂わせたのは確かだった。

 だから今日、授業が始まっても修一が教室に現れなかったとき、異様に胸がざわついた。

 誰かがあたしに知らせていた。このままだと取り返しのつかないことになる、と。


「助けてあげて」と。

 

 それであたしは今、こうして走っている。屋上へ向かって階段を駆け上る。なのかに言ったように、あたしの力ではどうしようもないかもしれない。


 でも、“あたし”が“つぐみ”に頼まれた。


 だから、あたしは走る。

 

 

 

 修一まであたしの前から消えてしまわないように……。






 屋上のさびた扉を勢いよく開けると、風が吹き込んできて、あたしは思わず目を閉じた。どこかで空き缶が転がる音がした。からんからんと、高い音が響き、あたしはゆっくりと目を開ける。

 

 鉄柵を乗り越えて、ぼーっと突っ立っている修一がそこにいた。


「しゅ、修一!」

 あたしの声なんて聞こえていないかのように、微動だにしない修一に駆け寄る。

「何する気!?」

 修一が生気のない顔で振り返った。目は真っ赤に晴れ上がり、その下には隈ができている。

「……疲れた」

「な、言ってんの!?」

「お前と言い争った日から毎日、あの夢を見るんだ」

 修一の瞳から涙が零れた。もう枯れきるくらいに泣いたのだろう。それでも、こうして涙は出る。


 彼は限界なのかもしれない。


「最近は少しずつ見る回数も減ってきていたのに……また見るようになった。つぐみは俺を許していない。忘れさせてくれない……」

「そんなことない!」

 修一の目はうつろだった。あたしを見ているようで、見ていない。その視線の先には何も映っていない。

「つぐみは、修一を恨んでなんかいなし! 修一に生きて欲しいと思ってる! 修一に、未来を生きて欲しいと思ってるよ!」

「何でそう言い切れる!? お前はつぐみじゃないだろ!」

 鉄柵を力の限りに掴んだ修一の手が血でにじんだ。痛みすら感じないのかもしれない。




「あたしは、つぐみの“親友”だもん! それくらい分かるわ!!」




「くだらないことを言うな……」

「くだらなくなんかない!」

 あたしの瞳からも涙が溢れ出した。修一はあたしの泣き顔を見るのは初めてだろうか、それとも何度も見たことがあっただろうか……。

 突然泣き出したあたしを見て、少しだけ現実に帰ってきたような修一の顔を見て、あたしは何故かそんなことを考えた。

「修一は生きているのよ。あなたは、つぐみの分も生きなくちゃいけないでしょ?」

「俺は……」

 修一はあたしの顔から視線をそらし、鉄柵を離した。それからふらふらとおぼつかない足取りで、再び屋上の端に立った。


「修一っ!」

 

 あの足取りでは、飛び降りる気がなくても落ちてしまうかもしれない。



「前に道がないことを知っているのと、道がない場所に突き出されるのとは違う。足をつこうとして、そこに道がないことを知ったとき、彼女はどう思っただろうか」



 修一は独り言のようにそう言うと、あたしに向き直った。そして、かすかに微笑んだ。



 

 その微笑みに、あたしの足は凍る。




 異様なまでに安らかな微笑みは、あたしに“それ”を悟らせた。 



 

 やはり、彼を止めることは、あたしにはできない。




 あたしには無理だった。






 ごめん。つぐみっ――。






「ごめんな……」


「しゅ――」




「だ、だめーっ!!」




 後方から涙の混じった“彼女”の大声が聞こえたのは、そのときだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ