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行方の知れない二人2

……家を出てから一時間ほどが経った。


ラピスとABYSS候補、

両方が引っかかるようにと繁華街を歩く。


が、未だにどちらとも遭遇する気配がない。


最初に出会った路地裏はもちろん、

目に付く街の死角も全て空振りだ。


くそっ……見つかりさえすれば、

どうとでもできるのに。



電話――温子さんからか。


「晶くん? 何か進展はあった?」


「いや、全然。温子さんは?」


「……私も収穫ゼロだ。

さすがにこのままじゃまずい」


「いったん合流して、

作戦を立て直したほうがよくないかな?」


「いや、現状で有力な手段を思いついてないなら、

合流する意味は薄いんじゃないかな」


「でも、一時間も探して見つかっていないなら、

やり方がまずいのを考えるべきだと思うよ」


「学園で黒塚さんの連絡先を調べるとか、

候補者の家を監視するとか、色々できるはず」


「でも、さっきも言ったよね。

僕らの行動を気取られるのはまずいって」


「それはリスクを怖れるという話だよね?」


「現状、私たちはリスクの少ない行動をしている。

でも、それで成果が上がっていないんだ」


「なら、どこまでリスクを取るかというのを見直して、

釣り合いの取れるところで戦うべきじゃないかな」


「僕は、今のこの行動が、

釣り合いの取れるギリギリのラインだと思う」


「晶くん……」


「手を止めている間にも時間は経過するし、

このまま二人同時に稼働したほうが効率もいいよ」


「……そうだね、分かった。

それじゃあ、探しながら何か考えてみる」


「何か思いついたら、また連絡するから」


「うん、お願い」


「……晶くん、無理しないでね」


「私も人のことはあまり言えないけれど、

深呼吸してみると、何か見えるものもあると思うから」


電話が切れる。


最後の温子さんの忠告は、

『頭に血が上ってる、少し落ち着け』ってことか……?


まあ多分、

それは事実なんだろう。


でも、今は

僕のやり方でやらせて欲しい。


でなきゃ、ABYSSを見つけた時に、

何もできなくなる。


情報を搾り取ることができなくなる。


それと……もう一つ。

ラピスを探し当てることができた場合だ。


敵対してこないことを信じたいけれど、

もしも戦闘になれば、温子さんを庇いきる自信はない。


これ以上、目の前の問題を積み増さないためにも、

個別に行動するのは必須だろう。


後はもう、ただ探すだけだ。


「……そういえば、

学園に来てた不審者の写メも撮ってたな」


あれもABYSSの候補かもしれないなら、

あいつらもついでに探してみるか。


制服まで込みの顔写真があれば、

聞き込みも十分に効果が見込める可能性がある。


少しでも知ってそうな素振りを見せたら、

後は嘘をつけないように聞いてやろう。




走って。


走って。


走って――



それでも、

結局は見つけられなかった。


手の中から水のようにただ零れていく時間に、

焦りばっかりが募る。


元々は都市伝説だ。


そう簡単に見つかるわけがない。

それは分かっている。


けれども、さすがにこれだけ見つからないと、

自分が何か悪い夢でも見ているように思えてきた。


本当は、

何もなかったんじゃないだろうか。


家に帰れば、

琴子が出迎えてくれるんじゃないだろうか。


でも――


電話してみても、

返ってくるのは琴子じゃない人のアナウンス(こえ)


琴子はいない。それが現実だ。


誰も居ない公園。

虫の音しか聞こえない世界。


冷たい風が、

汗を掻いた襟元を吹き抜けていく。


いつの間にか、

夜はこんなに冷えるようになっていたのか。


それを意識した途端に、

急に、周りがだだっ広く感じられた。


どこへ行けばいいのか分からなくなる。

途方に暮れる。不安になってくる。


これから、

どうすればいいんだろうか。


このまま、

闇雲に探し続けていいんだろうか。


温子さんの言っていた通り、

相談してやり方を変えるべきなのか?


「私も人のことはあまり言えないけれど、

深呼吸してみると、何か見えるものもあると思うから」


ふいに、さっきの温子さんの言葉が

思い出された。


「深呼吸か……」


目を瞑る。


それから、大きく息を吸って――吐いた。


肺の中で熱く凝っていた空気が、

冷たい夜気と入れ替わるのが分かった。


目を開ける。


木々の隙間から、

街の明かりが見えた。


虫の声の合間に、

喧噪の欠片が聞こえた。


世界が、少しだけ縮まって見えた。


「……どうにかしよう」


どうにかしよう。どうにか。


ただ、愚直に探して歩くのは、

これだけ続ければ効果がないことは明らかだった。


……温子さんに連絡を取るか?


いやでも、

作戦を練り直すのは今さらか。


そもそも、劇的に状況を改善するアイディアがあれば、

僕に連絡を寄越してくるはずだ。


今のやり方より効率のいいやり方を求めるのは、

多分、難しいだろう。


となると、残る手段はもう一つ。


「手を増やすか……」


手元の携帯に目を落とす。


こういう時に頼れそうなのは、

一人しか思い浮かばなかった。


「はいはい。どないしたん?」


電話の向こうから、

龍一のいつもの緩い声が聞こえてくる。


後ろの音を聞く限り、

場所は自宅か。


「龍一、ちょっと

手伝って欲しいことがあるんだ」


「は? 今からか?」


「うん。いきなりで悪いんだけれど、

鬼塚先輩を探してるんだ」


「鬼塚先輩がどこにいるかって、

龍一は知ってないかな?」


「……そら、何でまた?」


「ちょっと、事情があって。

とりあえず急ぎなんだ」


「いやいや、

そんな説明もできんくらい急いどるわけないやろ」


「別に全部言わんでもええから、

鬼塚に会って何をしたいかくらい言えや」


「……言えない」


「は? 何で言われへんのや?」


――龍一を巻き込むことに

なるかもしれないから。


もちろん、言えるわけがない。


「龍一には、凄く悪いと思ってる。

でも、どうしてもわけは聞かないで欲しいんだ」


「いやいやいや……そんなん無理やろ。

鬼塚やで? 下手すりゃ死ぬぞお前?」


「分かってる」


「分かってるて、お前……」


「お願い」


電話先で、龍一が沈黙する。


……自分でも、

無茶なことを頼んでる自覚はある。


それでも、僕はひたすら、

龍一が首を縦に振ってくれるのを待つしかない。


しばらくして――


はぁ、と長い長い溜め息が聞こえてきた。


「……よー分からんけど、

鬼塚を探さんとあかんのやな?」


『うん』と答えると、もう一度溜め息。


「分かった。んじゃ俺も探したる」


「ホントにっ?」


「ああ。鬼塚の場所は分からんけど、

とにかく探せばええんやろ?」


「それとも、場所分からんのやったら、

探す必要はないとかか?」


「いや、探してもらえると凄く助かる。

ありがとう」


「その代わり、

後で絶対説明せーよ?」


ほな――という言葉を最後に、

龍一との通話が終わった。


よかった……のか? これで。


勢いで電話をしてしまったけれど、

今さらになって後悔の念が湧いてくる。


事情を知らせなかったとはいえ、

これで間接的に龍一も巻き込んでしまった。


背に腹は代えられないとしても、

僕の事情でそれは許されるんだろうか。


……最悪、鬼塚から

情報が漏れないようにしてしまうしかないか。


そんな希望的観測で、

自分の罪悪感を丸め込もうとしていた時、



突然、手元の電話が鳴り出した。


しかも、電話をかけてきた相手は――


「笹山琴子……!?」


無事だったのか?


それとも、琴子を浚ったやつが、

琴子の携帯からかけてきているのか?


一瞬の躊躇/思案――


けれど、覚悟を決めて、

通話ボタンを押下した。


「笹山か?」


聞こえてきたのは、

琴子の声よりもずっと低い、男のそれだった。


「おい、答えろ。笹山か?」


「……そうだ。お前は誰だ?」


「テメェの妹を浚った人間だよ。

ABYSSって言えば足りない脳みそでも分かるか?」


「……お前か!」


「フン、理解が早いな。グッドだ」


「――で、今一人か?

家にはいねぇみてぇだが、一体どこにいる?」


家にはいねぇみてぇだが……?


家を監視されてるのか?


「おい、勘違いしてるんじゃあないぞ?」


「テメェの頭は、俺の声を聞くためだけの装置だ。

詰まったクソで余計なこと考えてんじゃねぇよ」


「……分かったよ。

今は公園にいる」


「そうだそうだ、お利口さんにしてろ。

得意だろ、そういうの?」


「――で、だ。テメェの妹と温子の妹は俺が預かってる。

あと、ついでに拾ったテメェのクラスメイトもな」


「このままブッ殺しちまってもいいんだが、

それじゃあ面白くないだろう?」


「……ゲームか?」


「おいおいおいおい、何勝手にくっちゃべってんだ?

代わりにテメェの妹を黙らせてやろうか?」


琴子に手を出したら――

と言いたい気持ちをぐっと堪える。


悔しいけれど、

今はこいつに従うしかない。


「ふん……だがまあ、察しのいいやつは嫌いじゃない。

その通りだ。お前をゲームに招待してやる」


「テメェも噂で聞いたことあんだろ?

人質を賭けたABYSSのゲームだ」


「このゲームに万が一テメェが勝てれば、

人質は全員解放してやるよ」


「つーわけで、二十三時に温子を連れて学園へ来い。

一秒でも遅れたら、どうなるか分かるな?」


「喋ることを許可してやる。

分かったら返事をしろ」


「……やるよ」


「あ?」


「後悔させてやるよ」


「……グッド!」



それきり、電話は切れた。


受話器を耳から離し、

汗で濡れた画面を擦りながら深呼吸をする。


けれど、さっきとは違って、

ちっとも熱が抜けていく気がしなかった。


こんな感覚、

いつ以来だろうか。


薄い膜に包まれたような乏しい現実感の中で、、

温子さんに電話をかける。


「どうした晶くん?

何か見つけたのかい?」


「ABYSSの人間から電話があったよ」


「ABYSSから……!?」


温子さんの息を呑む音が聞こえてくる。


でも、温子さんなら、

すぐに現実を受け入れてくれる。


それだけの冷静さがある。


「……相手は何て?」


「僕と温子さんの二人で学園に来いって。

時間は二十三時」


だから、問題は――


僕が、冷静でいられるかどうかだった。


「僕らとゲームをしたいんだってさ」


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