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高槻との交友2

「さて、と。

んじゃま、のんびりお話しでもしよーぜ」


「そうですね。

そのうち温子さんも戻ってくるでしょうし」


「ああ、そりゃ無理無理。

あいつ、ああなったら一時間は出てこねーから」


「一時間……ですか?」


「向かいの席に集まってたやつら見なかったか?

あれ、みんな乱入の順番待ちだよ」


「昔、温子にボコられてたリベンジ勢もいたし、

きっと乱入が止まんねーよ」


……ってことは、高槻先輩からの情報収集は、

僕一人でやらなきゃダメってことか。


「で、切り裂きジャックについて

聞きたいんだっけ?」


「ですね。“今の”切り裂きジャックについて、

先輩の知ってることを教えて欲しいなぁと」


「んだよ、マジで質問ってそれ?

つまんねーなー」


「僕も楽しいお話ができればと思うんですけれど、

実際に襲われたら、そういうわけにもいかなくて……」


「襲われた? え、マジで?」


マジです――と、昨日の経緯について、

ある程度は簡略化しつつ、一通り話した。


ぼかしたのは、金髪の少女に関して。


“Sealed Fate”には関わらないほうがいいだろう、

という判断だった。


「……なるほどねぇ。

いやー、あの後に遭うとかタイミング良すぎだろ」


「ですよね。あんまりタイミングが良すぎたんで、

先輩とジャックの繋がりを一瞬、疑いましたよ」


「んだよおーい。

アタシは何も関係ねーぞ?」


「いやー、それくらい

凄いタイミングだったってことですよ」


手加減なしでいいからということで、

早速鎌をかけてみたけれど――


表情/声音に変化なし。

特に変わった仕草もなし。


これは白っぽい、か……?


「ま、晶の疑う気持ちも分かるけどね」


「アタシがジャックの犯罪を知ってるのは、

裏で繋がってるからだ~って発想は自然だし」


「でもさ、晶がどこから帰るのかも分からないのに、

ジャックをけしかけるってのはさすがに無理だろ」


「ですね。それに気付いたからこその、

『一瞬思っちゃいました』です」


「上手いこと言って茶化してるけど、確認だろ?

アタシが本当にジャックと繋がってないかどうかの」


「いやー、

そんなつもりはないですよ」


笑ってごまかすものの、図星をつく突っ込みに、

若干の心拍数の上昇を自覚する。


さすが温子さんの先輩というべきか、

この人、結構鋭いな……。


化かし合いはそんなに得意じゃないし、

単刀直入に行ったほうがいいかもしれない。


「……それで質問ですけれど、

切り裂きジャックってABYSSなんですか?」


「は? 何だそれ?」


「いや、全身真っ黒だったのと、顔を隠していたんで。

ABYSSの特徴と合致するじゃないですか」


「そりゃそうだけど、ABYSSって学園に出んだろ?

街中に出るなんて話は聞いたことねーぞ」


「つーか、アタシに

そんなこと聞いてどうすんだよ?」


「それは、アレです。

来月に学園の文化祭があるじゃないですか」


「あー、もうすぐそんな時期か」


懐かしいねぇ、と確かめるように頷く先輩。


「それで、妹のクラスの出し物が、

都市伝説についての記事の発表らしいんですね」


「あー……有紀のやつからも、

そんな感じのことを聞いてたっけ」


「ああ、有紀ちゃんとうちの妹、

実は同じクラスなんです」


「へー、そりゃまた

変な繋がりがあったんだね」


「んで……ABYSSだっけ?

そっちはアタシ、あんまり知らねーんだよな」


「そもそも、切り裂きジャックと違って、

実在してるかどうかも分かんねーし」


まあ、それが普通の感想だよな。


ABYSSの隠蔽は完璧に行われているから、

みんな噂でしか知らないだろうし。


「まあ、もしABYSSについて調べたいなら、

優一ってクソガキに当たってみな」


「優一って……もしかして、

真ヶ瀬優一ですか?」


「お、知ってんの? つーかアレか!

晶って生徒会の人間だったんだっけな」


ですです、と頷きを返す。


「んじゃ分かるだろ、アイツの周りを巻き込む残虐性。

ぜってーABYSSだぜ、間違いねー」


『アイツはクズだ! 間違いない!』と、

何度も何度も頷く先輩。


気持ちは分かるけれど、

先輩がABYSSはちょっとないなぁ……。


聞いてる感じ、個人的な恨みっぽいし、

これは高槻先輩の適当な冗談だと判断するべきか。


まあ一応、

後で温子さんに報告しておこう。


「あ、そういやABYSSで一つ思い出した。

本物のジャックって、ABYSSに殺されたらしいぜ」


「本当ですか?」


「いやー、どうなんだろうな?

噂で聞いただけの話だからなぁ」


また噂か……。


色んな噂があるけれど、

全部本当なのか、それとも嘘が混じってるのか。


「ま、アタシが知ってるネタはこんなところだな。

あんまり参考になんなかったら悪いね」


「ああいえ、そんなことないです。

ありがとうございました」


「あ、もしABYSSとかジャックの正体が分かったら、

アタシにも教えてくれよ。中の人に興味あるし」


いいですよ――と、

お互いに携帯の番号を交換する。


……まあ、ABYSSに関しては、

完全に関係を断つために口外はしないことになるはずだ。


その正体が分かったところで、

ここに電話することはなさそうかな。


二人きりで遊びたい人でもないし、

電話帳の隅でひっそり眠ってお終いだろう。


「さて、んじゃ今度はアタシから質問だな」


「質問……僕にですか?」


「晶ってさ、

温子のことどう思ってんの?」


……はい?


「いやー、この間は茶化しちゃったけどさー、

やっぱそれなりに気になるじゃん?」


「『僕たち本当は付き合ってるんです、

温子さんに口止めされてるけど!』みたいなことは?」


「いやー、ないですよ。

口止めとか嘘とか全然なしに」


「んー……本当にぃ?」


先輩が、

じーっと僕の目を覗き込んでくる。


もちろん、どこにも嘘なんてないから、

見えるものなんて何もないはずだ。


「何だよ、マジで付き合ってねーのか。

つまんねーなー」


「一緒にいるのが当たり前って感じなのに、

付き合ってないとかお姉さんびっくりだよ」


「あー……クラス委員で一緒にいる時間が多いから、

そう見えるんじゃないですかね?」


「かぁー!

分かってねーなー晶は!」


……分かってない?


「お前な、あの温子だぞ?

その辺の男があいつの傍にいられるわけねーだろ」


「アタシの知ってるあいつは、

興味ないヤツを同じ人間だと思ってねーからな」


「加減を知らねーでズバズバ徹底的にボコるんだ。

格ゲーだけに限った話じゃなくな」


「そんな温子が、当たり前のよーに晶を隣に置いて、

晶も当然みたいな顔して温子の傍にいられるんだぜ?」


「昨日、初めてお前らのセットを見た時、

アタシは衝撃的過ぎて生理始まるかと思ったね!」


一体どういう驚き方なんだ……!?


「つーわけで聞きたい。

晶は温子のこと、どー思ってんだよ?」


どう思ってるのか、か……。


温子さんは、副委員長だ。


いつも僕を助けてくれてるし、

ちょっと怖いところもあるけれど、凄く頼りになる。


みんなをまとめる能力のある人だし、頭もいい。

運動だってそれなりにできる。


そして、多分、

うちのクラスでは誰よりも優しい。


だからこそ、僕は温子さんのことを、

誰よりも頼りになる人なんだと思っていた。


じゃあ、

それが恋愛の対象としてなら?


夜になって妄想するような性的な対象じゃなくて、

本当に大切にしたい人としてなら?


友人の枠を超えた

付き合いをしていく人としてなら?


「……よく分からないですかね」


「んだよ、自分の気持ちなのに、

好きか嫌いかも分かんねーのか?」


「いや、好きですよ。

間違いなく好きです」


「ただ、温子さんと今以外の関係になることが、

上手く想像できないっていうか……」


「……まあ、現状でも十分に、

付き合ってるっぽい感じだしねぇ」


「あと、先輩は温子さんを特別だって言ってましたが、

僕には全然そんな気はしてません」


「もしかすると、先輩の言う温子さんは、

昔の温子さんなのかもしれないですね」


「……なるほどね」


「まーいいんじゃねーの?

のんびりやればいいさ、恋愛なんてオタクと一緒だ」


「恋がしたいと思ってできるわけじゃないし、

オタクになりたいと思ってなれるわけじゃない」


「勝手に好きになった時に、

初めてそうなるっつー話だからな」


「だから、アレだ。

嫌いになったら速攻で別れちまえ」


「……そこは、『好きになったら付き合え』

ってアドバイスするところじゃないんですか?」


「いや、だってさー、

リア充とかムカつくじゃん?」


うーん、これはひどい。


「ま、温子との仲も進展があったら教えてくれよ。

そんときゃ思いっきり冷やかしてやるからさ」


「まあ、気が向いたらということで」


気のない答えを返すと、

先輩はニヤリと笑って僕の肩を叩いてきた。


微妙に痛かった。


「よっしゃ、

んじゃ温子のところに戻るか」


「どうせアイツ、まだ負けてねーだろうから、

さっさと捨てゲーさせて帰ろうぜ」


「え、さっき捨てゲーはダメだって

言ってませんでしたっけ?」


「あ? いいんだよ、そんなの気分気分。

勝ち逃げってチョー気持ちーんだぜ?」


……やっぱりこの人、

ムチャクチャだな。


やられるほうは気分悪いだろーな、なんて思いながら、

先輩の後について再びゲーセンの中へ。


予想通り、温子さんはまだプレイしていて、

体力ゲージの上には十五人抜きという表示があった。





その後、何だかんだでもう一度先輩と温子さんが対戦し、

やっぱり温子さんが圧勝。


歪な笑顔を浮かべた先輩が、

温子さんを無理やりゲーセンの外に連れ出して――


気がつけば、

辺りはすっかり暗くなっていた。


「さーてどうする?

飯でも食ってくか?」


「いえ、僕は帰ります。

妹が心配してると思うんで」


「じゃあ、

私もそうしようと思います」


「お前らホントクソ真面目なのな……。

まーいーけどよ」


「そんじゃ、また今度だな。

いつになっかは分かんねーけどさ」


「そん時までに、

なーんか進展あるといいな」


「進展?」


「こっちの話」


わざとらしく僕に目線をくれた上で、

嫌らしげにニヤリと笑う先輩。


「ふーん……なるほど」


一体、何がなるほどなんでしょうか……。


「ふへへへへ、まあ頑張れ若者!

つうわけで、今日は解散!」


お疲れさまでした――と、

喧騒の中、三人で頭を下げあう。


それから先輩は軽く手を振って、

僕たちの前から去っていった。


「……さて、と。どうだった?

切り裂きジャックについて話してもらえた?」


「うん。新しい情報はほとんどないけれど、

最低限、必要なところは聞けた感じ」


「ああ、まあそんなもんだろうね」


「逆に完璧な情報を引き出せていたら、

それはそれで嘘だと思うし」


あー、確かにそうかも。


当事者じゃない限り、

ハッキリとした情報なんて入ってこないだろうし。


でもって、当事者がそんな情報を

他人に漏らすはずがない。


「それで、高槻先輩はなんて?」


「現切り裂きジャックは、

ABYSSじゃないだろうって」


「後は、ABYSSについては、

真ヶ瀬先輩じゃないかって言ってたくらいだよ」


「ただ、真ヶ瀬先輩に関しては、

高槻先輩の個人的な悪感情から来る嘘情報っぽいかな」


「なるほど……

ちょっと期待外れな感じだね」


「んー、ごめん。

もうちょっと頑張ればよかったかも」


「ああいや、晶くんを責めたわけじゃないよ。

ただ、物事が動くような情報じゃないなっていう愚痴」


「高槻先輩は情報源になると思ってたから、

ちょっと当てが外れたね」


「あ、あともう一つ。先代の切り裂きジャックは、

ABYSSに殺されたって噂らしいよ」


「……ABYSSに殺された?」


温子さんが口元に手を当てる

/考え込むように俯く。


……何か、気になるところでも

あったんだろうか?


「実はね、私も調べたことがあるんだよ。

切り裂きジャックを殺した犯人について」


「一応、お世話になったことのある人だからね。

供養の意味で、真相を明らかにしようと思ったんだ」


「けれど、その時に調べた限りだと、

ABYSSについての情報なんて全くなかったんだ」


「完璧に隠蔽されていたのかもしれないけれど……

どうして、今頃そんな噂が出て来たんだろう?」


「というか、そんな噂、

本当にあるのかな?」


「……もしかすると、

先輩が嘘をついてたのかも」


「可能性としてはあるね。

部分的か全部かは分からないけれど」


でも、そんなところで、

先輩が嘘をつく必要なんてあるんだろうか?


単なる愉快犯?


温子さんの先輩評を聞く限りでは、

その可能性もないとは言えないけれど……。


「まあ、先代のジャックについては、

今は重要じゃないから置いておこうか」


「目的のジャックの情報は得られたわけだし、

明日、黒塚さんに報告して、今後のことを決めよう」


「分かった、明日のお昼だね」


「うん。それじゃあ、

今日はそういうことで」


「あ、送っていこうか?」


「非常にありがたくも嬉しい提案だけれど、

今日は遠慮しておくよ」


「晶くんも早く帰らないと、

妹さんが心配するだろうしね」


「ああ、それもそうだね」


それじゃあとお互いで手を振って、

背を向ける。


さて――琴子が心配して電話を寄越す前に、

急いで帰るとしますか。




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