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高槻との交友1

「お疲れ様、晶くん」


待ち合わせ場所に着いたのは時間ギリギリにも関わらず、

待っていたのは温子さんだけだった。


「高槻先輩、まだ来てないんだ。

もうすぐ時間だけれど……」


「あー、あんまり期待しないほうがいいよ。

高槻先輩は、時間に凄まじくルーズだから」


「ああ……確かにそれっぽいね」


「まあ、せっかくだから、

今日の目的をまとめておこうか」


周囲を軽く窺い、さて問題ありませんね、

となったところで、温子さんが人差し指を立てた。


「まず、必ずやるべきことが一つ。

偽物の切り裂きジャックの情報を集めることだ」


「ここできちんと情報を持ち帰ることで、

黒塚さんに私たちの有用性を示すことができる」


「逆にもし、ここで情報を入手できなければ、

黒塚さんは私たちを見限ってしまうかもしれない」


……黒塚さんの信用を得るためにも、

今回の情報収集は大事だってことか。


「だから、何としてでも、

高槻先輩から切り裂きジャックの情報を引き出そう」


「オッケー」


話をそこに持って行くだけなら

難しいことはない。


というか、せっかく昨日話に出たんだし、

直球で聞いてしまうのも手ではあるか。


目的としては凄くシンプルだし、

恐らく達成はできるだろう。


ただ……。


「……いいの、温子さん?

久し振りに先輩と遊ぶのに、僕の目的優先で」


「ああ、別に気にしなくていいよ。

元々、気が合ってたわけじゃないから」


「二度と会うこともないと思っていたし、

最悪、仲違いしてしまっても構わないよ」


「いや、さすがにそこまでは……」


「晶くんは優しいなぁ。

あんな人にも気を遣えるなんて」


「付き合ってた私が言うのもなんだけれど、

あの人は嘘つき村の住人だよ? 存在自体が嘘だよ?」


「凄い言いようだね……」


「いやいや、『この人物はフィクションです』って

注意書きが必要なレベルだから」


「非実在青少年だった!」


青少年って

カテゴライズじゃないかもしれないけれど!


「とにかくそういう人だから、

気付いた時点で嘘を指摘しないとダメだ」


「でないと、あの人に遊ばれて終わって、

手元には嘘情報しか残りませんでしたってことになる」


「……突っ込みまくるしか対策ないのね」


温子さんの先輩だからと思っていたけれど、

そういうことなら遠慮なんてしていられないか。


「ごめん、脱線したね。

話を戻すと、ジャックの情報収集がメインですと」


「ただ、もしも上手くやれるなら、

ABYSSの情報収集もできればと思ってる」


「高槻先輩から?」


「うん。実際のところ、

高槻先輩は怪しいからね」


「例えば、切り裂きジャックが

隠蔽したはずの情報について知っていたり」


あー……切り裂きジャックの偽物が、

うちの男子生徒を二人殺してる、って話か。


「もしジャックの隠蔽が事実なら、

その情報を知るのは、本人か関係者だ」


「もしかするとABYSSか、

近いところに行き着くかもしれない」


「近いところっていうか……

高槻先輩がABYSSだったりして」


「そこは、黒塚さんの話を信じるなら、

無視していい部分じゃないかな」


「黒塚さんも言ってたけれど、各学園のABYSSは、

その学園に籍のある生徒限定みたいだしね」


卒業生だから、

ABYSSの線はないってことか。


「でも、在学中にABYSSに所属していて、

卒業後も繋がっていたりする場合は?」


「もしそうだったとしても、

ほとんど問題はないと思うよ」


「晶くんに対する動きがないところを見るに、

学園(うち)のABYSSはまだ外部に情報を漏らしていない」


「なら、秘密主義のABYSSに所属していた人間が、

ただの後輩の友達に何かを仕掛けることはないから」


「なるほどなぁ」


僕がお尋ね者だと知られていなければ、

先輩がABYSSだろうと普通に会話はできる、と。



「……お。高槻先輩からだね」


あ、やっと来たのか。


「えーと……三十分くらい遅れるって」


自分から誘っておいて、

三十分……。


温子さんの言う通り、

時間にルーズな人なんだろうなぁ。





「いやー、悪いね! おっぱいが分身しちまって、

どれが本物か分からなくなってさぁ」


「もう少しごまかすつもりで

言い訳して下さい」


「何だよ、つまんねーやつだなー。

もっと突っ込むなり何なりしろっつーの」


「まあ、いいや。

晶を連れてきたから許してやろう」


「どうも、こんばんは」


「はいこんばんは。

いやー、わざわざ来てもらって悪いね!」


「いえ、僕も高槻先輩には

聞きたいことがあったんで」


「何だよ、アタシの

生理周期でも知りたいのか?」


「晶くんは

そんな変態じゃありません」


「それは温子が晶を知らないだけだろ。

男なら家にエロ本二百くらいあるのが普通だからな?」


「えっ!?」


「いやちょっと先輩!

何言ってるんですかっ!?」


普通じゃないですからそれ!


っていうか二百って、

本棚一杯になるぞ!?


「べ……別に私は、晶くんが何本持っていようと、

それで晶くんを嫌いになったりしませんから」


「例え変態だとしても、

少なくとも、淡白であるよりはっ」


「温子さんも何言っちゃってるの!?」


あれだけ先輩は嘘つきって

言ってたのに!


「で、でも晶くん、

二百本はさすがに予想の範囲を超えていて……」


本当に衝撃だったらしく、

珍しくおろおろする温子さん。


ついでに、

それを大爆笑しながら眺める高槻先輩。


普段なら僕も一緒になって笑うところだけれど、

今は温子さんがこういう状態だとひじょーに困る。


「あのね……そんなに持ってないから安心して。

健全な男子として嗜む程度だから」


「そ、そうなのか? よかった」


「よくないよ……」


何が悲しくて、持ってるエロ本の数を、

クラスメイトの女の子に打ち明けなきゃいけないんだ。


「……とりあえず、先輩に聞きたいのは、

個人情報じゃなくて切り裂きジャックのことです」


「うえーっ、そんなんかよ?

クソつまんねーな」


「まあでも、可愛い後輩の頼みごとだからな。

ここは(こころよ)く聞いてやろう。百万円で」


「後輩関係なしに

快くなれそうな額ですね……」


「なぁに、冗談だよ。

つっても、タダで教えるっつーのも面白くねー」


「つーわけで、どうだ?

アタシに格ゲーで勝ったらっていうのは」


「いやでも、僕、

実は格ゲーは全然やったことないんですよ」


「なぁに、格ゲーの鬼が横にいるだろ」


「格ゲーの鬼……?」


横を見る。


「……」


目を逸らされた。


「ちなみに温子(そいつ)

この辺で最強だったんだぜ?」


「……そんな大袈裟な言い方しないで下さい。

ちょっと負けなかっただけじゃないですか」


「おいおい、どの口が言ってんだ?

通算勝率で九割超えの化け物がよー」


「九割!?」


「あーいや……地方のゲーセンだからね?

都心に行けば、もっと下がると思うよ」


いや、それでも九割って

もの凄いと思うけれど……。


「まー、何だかんだ言っても、

所詮は過去の記録だからなー」


「今も現役のアタシと引退勢の温子なんだから、

そう簡単に勝てると思ってもらっちゃ困る」


「っつーか、あの温子をボコれるっつーだけで、

笑いが止まんねーよなぁ」


げへへへ、という

悪役百パーセントの笑い声。


「先輩、本当にいい性格してますね……」


「ま、ブランクもあるしハンデくらいくれてやるよ。

一ラウンドでも取れたらお前の勝ちでいい」


「お心遣い感謝します」


慇懃に頭を下げる温子さん。


それを高槻先輩は鼻息も荒く見やった後に、

『ついて来な』と僕らの前を歩き出した。


「……温子さん、大丈夫なの?

先輩、だいぶ強そうだけれど」


「まあ、実際に強いと思うよ。

先輩だって、当時の勝率は八割近かったし」


……つまり、

この辺りでトップクラスってことか。


「しかも、ゲーセンに通い続けてたって話だし、

もしかすると今は県内最強なのかもね」


「厳しい戦いになりそうだね……」


どうなるんだろう、これ。





「はああああぁぁああああっっ!?」


――こうなった。


「ありえねー! バカじゃねーのお前!?

何でF式全部ガードしてんだよ頭おかしい!」


「先輩の狙いがバレバレなんですよ。

キャラスペックに頼って、思考停止しすぎです」


「どうしても崩したいなら、せめてもうちょっと

私の注意を散らす動きを増やして下さい」


「く……っそ、この野郎が!

もう一回だチクショウ!」


「どうぞ、ご自由に」


涼しげに答える温子さん。


対して、先輩は筐体越しに心底悔しそうな顔を見せた後、

再び席に着いたらしかった。


そして、画面には

『Here Comes a New Charenger』の表示。


「今の感じだと、何度やっても同じなのにね。

対策なしで連コとか意味不明だよ」


「いや、僕には

何もかもが意味不明なんですが……」


何とか理解できたのは、

温子さんのキャラが先輩の猛攻を全部捌いたこと。


それでもって、一瞬の隙を見逃さずに、

あっという間に逆転したことくらいだ。


先輩が言うには『頭がおかしい』らしいけれど、

どれだけ難しいことをやってるんだろうか?


「あぁ……ごめんね、晶くん。

よく分からなくてつまんないよね」


「でも、これも先輩との付き合いの一環だから、

もう少しだけ我慢しててくれ」


全部終わったら解説するから――と、

付き合いの割りには喜々として画面へ向かう温子さん。


……心底楽しいんだろうな、きっと。

画面を見つめる目がもう、キラキラ過ぎてやばい。


教室でこんな温子さんは見たことないだけに、

きっとみんなが知ったら驚くだろうな。


と、そんなことを思っている間に、

筐体の向こうから再び聞こえて来る絶叫。


かと思いきや、ドカドカと音を立てて、

こちらへ回り込んでくる――その表情は引きつった笑顔。


「ふざけんなクソが!

何でゲーセン通ってねーのに強くなってんだよ!?」


「何でって……家でネット対戦してるからに

決まってるじゃないですか」


「ネット対戦だぁ?」


「家庭用ゲーム機でも、

ネット越しに対人戦ができるんです」


「もしやってないなら、先輩もやるといいですよ。

地元じゃ戦えない猛者とも戦えますから」


「……なるほどな。

次までガッツリやっとく」


ぴくぴくと眉を震わせつつも、

辛うじて笑顔を保ったまま携帯を取り出す先輩。


そうして、温子さんに色々と話を聞きながら、

ゲームの家庭用機と必要な情報をメモっていく。


ついでに、さっきの対戦に関して温子さんが所感を語り、

それもまた先輩が素早い指捌きでメモ。


もちろん、温子さんはその間も画面に向かい続け、

CPU戦を淡々と消化中。


……多分これが、

ゲーマーって種類の人間なんだろうなぁ。


住む世界が違うって龍一や爽に聞いてたけれど、

その意味がよーく分かった。


「……よしオッケー、だいぶ参考になった。

今度やる時は覚えてろよこの野郎」


「その前に約束を守ってもらいますよ、先輩」


「分かってるっつーの。

――っと、乱入だぞ温子」


言われて画面を見ると、

再び『Here Comes a New Charenger』の表示があった。


高槻先輩がこっちに回ってきているってことは、

全然知らない人が今度の対戦相手ってことか。


「行きましょう」


けれど、温子さんはその画面を一瞥しただけで、

席を立った。


「何だよお前、捨てゲーする気か?

対戦相手に失礼だろーが」


「でも、別に対戦するために

来たわけじゃないですからね」


「話なんてどうせ、晶が聞けば問題ないんだろ?

お前はそのままゲームやってろよ」


しぶしぶといった感じで、

『分かりました』と着席する温子さん。


「それじゃあ晶くん。

悪いけれど、高槻先輩を任せても大丈夫かな?」


「うん。温子さんはそのまま

遊んでていいよ」


「それじゃあ、お願いするね。

私も終わったらすぐ合流するから」


「んじゃま、外行くか。

ここじゃ話しづらいだろ?」


「あ、そうですね」


高槻先輩に連れられて、

ゲーセンを後にする。


その際、最後にもう一度

温子さんへと目をやると――


温子さんは楽しそうに微笑みながら、

スティックをくるくると回していた。



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