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偽ABYSSとの戦い1


「……なんだ、あれ?」


鬼塚と別れてから十五分。


ようやく学園までやってきたところで、

窓が枠ごと吹き飛んだような教室の惨状が目に入った。


あの位置は……化学室か?


普通なら、薬品の保管ミスや

空き巣の類いを考えるところだけれど――


「温子さんの仕業だな……」


ABYSSが関わっているのだとすれば、

そう考えるのが一番しっくりきた。


恐らく、ABYSSの儀式に巻き込まれて、

勝つために色々と大暴れしているんだろう。


そして、臭いが残っているということは、

まだ大して時間は経過していない。


……鬼塚に感謝しないとだな。

あの人の話を信じて本当に良かった。


このぶんなら、

まだ何とかなるかもしれない。


「……おっと」


校門の陰に、見張り発見。


いつかの夜の鬼塚と同じ衣装を着ている二人組――

これでABYSSが関わっているのは確定だろう。


ただ、全ての出入り口に見張りが配置されてると考えると、

敷地内に入るには一工夫必要かもしれない。


……とりあえず、

裏手のほうに回ってみるか。



「あ。晶も来たんだ」


どの出入り口からも離れた辺りに来たところで、

ばったりと爽に出くわした。


「……何してるの、こんなところで?

爽は繁華街のほう担当だったでしょ」


「そっちはもう調べ尽くしたから、

違う場所調べようと思ったの」


「そんで学園のほう来てみたら、

変な奴らが見張ってて学園(なか)に入れなくてさー」


「化学室がボンバってたり、変な見張りいたりで、

何かちょー怪しくない?」


「実は連中はABYSSで、温ちゃんは学園の中で

殺人ゲームをやらされてるーみたいな!」


「……ははは」


自分の顔が引きつっていることを自覚しながら、

適当に笑ってお茶を濁す。


……爽はきっといつものノリで話してるんだろうけれど、

十中八九、大正解だから反応に困る。


もし本当のことを言えば、喜んで突撃しそうだし、

できれば教えたくないんだよな。


どうしたもんか……。


「で、晶は何でここにいんの?」


「え? あー……ええと、僕も爽と同じ。

調べられるところ調べちゃって」


「んじゃ、話は早いね!」


はい?

話は早い?


「って、どこ行くのさ爽!」


「決まってんじゃん。

怪しい見張りの連中のとこ」


「あたしが囮になって引きつけるから、

晶はその隙に学園の中を見てきてよ」


「いやいやいや、それ無理でしょ!」


「大丈夫大丈夫、よゆーよゆー」


「あっ、ちょっと――!」





「ねーねーあんたたちー」


「……あ?」


「その格好なにー? コスプレ?

すっげー凝ってんじゃん」


「あたし今、暇なんだよねー。

もしよかったらさー、ご飯とかおごってくれない?」


「……どうする?」


「浚えばいいんじゃね。

三人いれば順番待ちもみじけーだろ」


「んじゃま――」


仮面の片割れが、

無造作に爽へと手を伸ばす。


「うわっ!?」


その手が届く前に、爽の体を後ろから引き寄せて、

男二人との距離を離した。


「ちょっ……何で出てくるのさっ?」


「何でって、

捕まる寸前だったからでしょ!」


引きつけることには成功するかもしれないけれど、

それじゃあ本末転倒だ。


だったら、多少時間はかかっても、

安全で確実なほうを選んだほうがいい。


「とりあえず、そ……じゃなかった、

君はもう帰って」


「はぁ? 何であんたに

そんなこと言われなきゃいけないわけ?」


「危ないからに決まってるだろ。

心配なのは分かるけれど、僕に任せてよ」


「だったら、あんたのほうが帰んなってば。

あたしより運動音痴なんだからさ」


ああそうか、

僕が爽より運動ダメだと思われてるのか。


爽に色々と説明してしまえれば、

一番簡単なんだけれど……。


「おい、もしかしてコイツ……」


「笹山晶か!」


こいつら……僕のことを知ってる!?


ってるってことは、

こいつらはあの夜のことを知ってるのか。


なら、お互いに戦いを避ける選択肢はない。


そう思っていた矢先に、

仮面が二人とも僕のほうへ突っ込んできた。


「うわっとと!」


爽の体を背後に突き飛ばして離し、

男たちを迎え撃つ。


ひとまず初撃のテレフォンパンチを回避――

続くもう一人の飛び蹴りは体をずらして避ける。


そのまま殴りつけてきた仮面の右側方に回り込み、

隙だらけの胴体へ腰の入った右フックを叩き込む。


さらに――


「……あれ?」


と思ったところで、

予想以上の手応えに思わず手が止まってしまった。


脇腹を押さえたまま、

膝からくずおれる男。


さっきのめり込むような手応えからすると、

肋骨が何本かイってるのかもしれない。


……とは思ったものの、本当に?

演技とかじゃなくて?


ちょっとこれじゃあ、

あんまりに脆すぎやしないか?


「えっ? えっ?」


そんな僕の困惑が伝わったかのように、

爽が僕と仮面たちの顔を見比べてくる。


そして、飛び蹴りをしてきた彼もまた、

信じられないという感じで僕を見つめてくる。


三者三様に驚き固まるという謎の状況。


が、飛び蹴りの彼は友達思いなのか、

いち早く我に返って、息を荒げる仲間へと駆け寄った。


「お、おい……大丈夫か?」


「ふーっ、ふーっ……!

やべぇ、立てねぇ……」


「っ、てめぇ! 何しやがった!?」


「え? あ、いや、何をって言われても……」


隙だらけだったところに、

右フックを入れただけなんだけれど。


でも、鬼塚なら殴った僕の手が痛くなるくらいだし、

まさかさっきの一撃で終わりだなんてことは……。


「クソが、舐めやがってこの野郎!」


「うわっ」


いきなり殴りかかってきたところを、

体を屈めて避ける。


「ちょっ……晶! 逃げろ!」


爽の叫びと同時に飛んできた男の拳を、

間合いを離して避ける。


続く攻撃も回避/回避――


っていうかこれ、

隙だらけだけれどやっちゃっていいのか?


罠とかじゃなくて?


「……」


目を閉じ、じっと感覚を澄まして、

“音”を聞く。


がちゃりがちゃりという、雑多な音。


それが、遠く響く電車の音に

容易く掻き消されそうになったところで――目を開けた。


「晶!」


加勢に入ってこようと動き出していた爽を、

掌で制止する。


「大丈夫だよ」


「……は?」


だって、こんな音しかしないやつなら、

負けるはずがないから――


「そこで見てて」


「……」


「何ゴチャゴチャ言ってんだオラァ!」


仮面ががなる。


硬く握りしめた拳に、可能な限りの体重を乗せて、

一直線に突っ込んでくる。


けれど、さっきからバカの一つ覚えみたいなその行動は、

もう目を瞑ってても当たる気がしない。


ダッキング――紙一重で躱し前へ

/がら空きのボディにレバーブロー。


男が呻く/顎が下がってくる

/そこに斜め下から掌底を叩き込む。


笑う男の膝――けれど意識は狩りきれなかったのか、

まだ腕を上げてくる。


そこに、後ろ回し蹴りを放った。


「っ……!」


男の体が吹っ飛び、

受け身も取らずに地面に落ちる。


それから、ごろりごろりと、

黒衣を破りながらアスファルトの上を転がって――


ようやく止まった頃には、

もうピクリとも動かなくなっていた。


ふぅ――足を下ろして息をつく。


やり過ぎないように加減をしたつもりだけれど、

ちゃんと生きててくれているだろうか。


と、そこでようやく、

大口を開けたまま固まっている爽に気付いた。


「おーい、大丈夫?」


声をかけるも、返事はない。


爽の顔の前で手を振ってやっても、

眼球の反応がない。


……いや、ホントに大丈夫か?


というか、何かずっと、

僕の顔を見られているような……。


とか思っていたら、

爽に頬をぎゅっと引っ張られた。


「な……なに? 痛いんだけれど」


「……やっぱり晶だ」


それはまあ、

生まれてこのかた晶やってますから。


というか痛いから離してね、と、

頬にかかった爽の指を引っぺがす。


途端、爽ががばっと身を乗り出してきて、

思い切り僕の肩を掴んできた。


そのまま押し倒されるんじゃないかと思う勢いで、

爽の鬼気迫った顔が鼻先に寄ってくる。


「あ、あの……爽さん?」


ちょっと近すぎるというか、

何かもう怖いんですが……。


「説明してよ」


説明……?


「だから説明してよ! さっきのは何なの?

どーして晶があのコスプレマンを吹っ飛ばしてんのっ?」


「っていうか、晶は運動音痴だったっしょ?

何であんなメチャメチャ動き速いの?」


「体育の成績だってずっとよくなかったし、

足だってあたしより遅いし、ダメダメだったよね?」


「あーっと、それは……」


「っていうか、何で晶がケンカなんかできんの?

ずっと猫被ってたの? いつから武闘派だったの!?」


「あーもー、わけ分かんない!

ちゃんと説明してよ、ねぇ!」


『納得の行く説明をもらうまで離さねーぞ』

と言わんばかりに気迫のこもった爽の視線。


それに、僕の目を真っ向から鷲掴みにされて――


これは、下手な嘘ではごまかせないなと悟った。


「……本当は運動、得意なんだ。

格闘技とかも、実はやってたことがあるんだよね」


暗殺者として育てられた部分だけ伏せて、

可能な限り事実に沿った言葉を選ぶ。


すると爽は、口元に手を当てて難しい顔を作り、

むーと小さく唸った。


「……じゃあさ、何で隠してたの?」


「それは……前にトラブルになりかけたから、かな。

隠してたほうがいいかなって」


「はぁ? 何それ超もったいない!」


もったいない?


「だって、あんなに凄いんだよ?

さっきの晶見たら、誰だって普通すげーってなるし!」


「でも、トラブルになりかけたから……」


「そんなの、あたしが歌ってる時だってあるよ。

変なやつがうるせー黙れって言ってきたり」


「でもそれって、絡んでくるやつが悪いんであって、

あたしが悪いわけじゃないでしょ?」


……まあ確かに。

時間と場所さえ弁えていれば。


「だからさ、晶も隠してないで、

みんなに言っちゃえばいいのに」


「っていうか、むしろあたしが広めてやりたいね。

晶って実は超つえーんだぜーみたいな歌作って!」


「いや、さすがにそれは勘弁して……」


爽に歌われたら、やれ熊殺しだ戦車キラーだと、

収拾がつかないレベルで盛られる可能性があるし。


「とにかく、別にひけらかすつもりもないから、

僕は今のままでいいよ」


「えー! つまんねー!」


「面白い必要がないからいいの」


それをすることで、

みんなの僕を見る目が変わっても嫌だし。


運動音痴って評価のままでも困ることはない以上、

現状維持したまま平穏に過ごせるほうがいい。


「それより、今は温子さんでしょ?

何が起きてるか分からないんだし」


「んー……そだね。

この件は、温ちゃんを見つけるまで保留で」


……何か面倒なことを言ってるけれど、

聞こえなかったことにしておこう。


「それじゃあ、爽はもう帰ってて」


「はぁ? 何言ってんの。

あたしも行くに決まってるじゃん」


「いやいや、さっきの見たでしょ?

危ない人たちがいるんだよ?」


「この先、もっと人数が増えたり、

もっと強い人が出てくるかもしれないんだ」


「そういう状況になったら、

僕は爽のことを守りきれないかもしれない」


「何かしたいって爽の気持ちは分かるけれど、

安全のために、僕を信じて待っててよ」


「だーかーら、

晶を信じる信じないの問題じゃないの」


「あたしが行きたいから行くんだってば。

そもそも、温ちゃんはあたしの身内だしさ」


……どうすれば爽は

諦めてくれるんだろう?


何とか言って追い返したいとは思うものの、

それで爽が素直に帰るビジョンが浮かんでこない。


というか、ここで無理に納得させて別れたとしても、

爽が独自に動き始めるのは目に見えてる。


だって、仮に身内(ことこ)がいなくなったら、

僕もきっと爽と同じことをするから。


ただ……もし前みたいに、鬼塚とアーチェリーの仮面に

同時に遭遇するようなことがあったら……。


「いたぞ! 逃がすな!」


「うわっ!?」


やばい、新手がもう来た!


こうなったら、早く爽を返して……って、

見つかってからじゃもう遅いか。


「……分かった。一緒に行こう」


「おうよ、そうこなくっちゃ」


「その代わり、絶対に僕の傍から離れないで。

あと、無理だと思ったら引き返して」


「オッケー……って、晶! 後ろ!」


「分かってる!」


足音を含む気配に従って、

背中に飛んできた男の蹴りを受け止める。


そのまま足を掴んで、軸足を払う――

転んだところで股間を蹴りつける。


仮面の下から、声にならない声。

よし次だ。


って、うげっ。


「うっわ、晶!

なんか一杯きた! きた!」


新たに現れた仮面は六つ。

恐らく、他の構内への入り口を固めていた連中だろう。


一つの入り口に二人ずつ配置されていたとして、

予想される敵勢は……余裕で二桁だな。


これ……大丈夫か?


「まあやるしかないんだけれ……どっ!」


一番近くにまで接近してきたABYSSを、

前蹴りで突き放す。


そいつが怯んだ隙に、

今度は左側のABYSSへと裏拳。


「晶、こっち!」


「了解!」


爽へと接近する男に向かって走り、

横から飛び蹴りを見舞う。


さすがにバレバレで回避されるも、

そのまま背後に爽を庇って男と対峙。


即座に飛んでくる細かなジャブ

/ワンツー/左フックのコンビネーション。


こいつ、ボクシング囓ってるなと思いつつ、

上体を捻って回避/回避/回避――


連携が途切れたところで、

肩口から相手にタックル――思い切り吹っ飛ばす。


そうこうしている間に囲まれて、

四面楚歌の状況に。


やっぱりどこかを背負わないと厳しいか。


「爽――」


「晶、こっち行くよ!」


走って、という前に、

爽に手を引かれて驚く――向かう先は包囲の一角。


同じことを考えていたということに感心しつつ、

爽を追い越して最前線へ/待ち受ける仮面と相対。


ファーストコンタクトは同時――

奇しくも同じ右腕/痛手にならない箇所に命中。


ただ、続く動きは僕のほうがずっと早い。


仮面が反応する前に、

腕を取り捻り上げ速攻で投げ飛ばす。


これで、八方塞がりを七方塞がりに。

ほぼ同時に、爽が僕の横を走り抜ける。


包囲網を突破された男たち――

罵声/怒声/放送禁止用語の雨あられ。


よくもまあ、

そんなに語彙があるなあと逆に感心する。


嫌でも浮かんでくる苦笑いを自覚しながら、

爽の手を握って走る。


その爽はというと――絶賛大爆笑中。


この状況を楽しめるのかと呆れるものの、

怖くて身が竦むよりはずっといいか。


でも、もう既に息が切れ始めてるんだから、

ほどほどにしておいて欲しい。



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