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続・abyss調査2(分岐ポイント)


「……今さらやけど、鬼塚の教室が分かったとしても、

覗くのは危ないかもしれんなー」


「なんぼなんでも、二年が三年の教室の前におったら、

嫌でも目立つ思うし」


「ああ、その辺は一応、

見つかった時の言い訳も考えてるから」


「ほーん。用意のよろしいことで」


……まあ、実際のところは、

知り合いに見つかった時の言い訳なんだけれど。


一昨日の仮面の男が鬼塚かもしれないし、

僕は見つかったらそもそもダメだ。


「――お。わざわざ行かんでよくなったで」


と、龍一の緩んでいた顔が引き締まり、

その大きな体を柱の陰に隠した。


その行動と言動で、

鬼塚が見える場所にいるのだと分かった。


「……どの人?」


「頭飛び出てんの見えんか?

モーゼみたいに人の海を割っとるヤツがおるやろ?」


人の海を割って……?


「……ああ、あれか」


「それや」


龍一の苦笑いを横目に、

廊下の向こうへ目をやる。


移動教室があったのか、

人の波が行き交う廊下。


その中ほどにあるトイレの周辺で、

明らかに人の挙動がおかしい箇所があった。


直進をせずに迂回する者、立ち止まる者、

引き返す者――


その中心を、目付きの鋭い大柄な男が、

不機嫌そうに歩いていた。


「あれが……」


――鬼塚、か。


なるほど、人垣が自然に割れていくところを見ると、

みんなに恐れられてるのがよく分かる。


「聞いてた通り、

龍一と同じくらいの身長だね」


「ガタイもええやろ?

あんなん普通やったら殴り合おうとも思わんよ」


全くもってその通り。


この距離かつ服の上からでも分かる引き締まった体は、

確かに普通の学生の域を遙かに超えている。


加えて、隙の少ない歩行/振り撒く威圧感/

警戒というより既に先制攻撃しているような鋭い視線。


まさに『触るな危険』という標語の体現――

言葉の通じない動物ですら理解できそう。


“判定”は……獣のうなり声。

仮面の男のそれと同じ。


あの夜に遭遇したABYSSと

同一と見て間違いないだろう。


黒塚さんと合わせて、

これで見つけたABYSSは二人か。


「……オッケー、帰ろうか」


「あれ、もう帰っちゃうんですか?」


……はい?

ちょっと待て、何だこの高い声は?


というか、僕の後ろにいたのは

龍一のはずじゃ――



「聖先輩……!?」


「はい。おはようございます」


「お、おはようございます……」


いつの間に後ろにいたんだっ?


いきなり過ぎて、

心臓が止まるかと思った……。


「……っていうか、あれ?

先輩一人ですか?」


「はい。別に真ヶ瀬くんとかはいませんから、

安心して下さい」


……ということは、

あの問題児(りゅういち)は元副会長に気付いて逃げたんだな。


まあ、付き合ってもらったんだから、

恨み言は言うまい。


「でも、何でこんなところで

かくれんぼなんてしてたんですか?」


「ああ、実は二年のトイレが混んでたんで、

こっそり三年生のを使わせてもらおうかなって思って」


「あ、なるほどー。

それで様子見だったんですか」


「まあ、確かに三年生に混じっていくのは

勇気が要りますもんね」


「ですね――それであの、

聖先輩にちょっと聞いてもいいですか?」


「はい、なんでしょうか?」


「廊下を見てたら、あからさまに避けられてる

大きい人がいたんですけれど、あの人って……?」


「あぁ……多分、鬼塚くんですね」


よし、さすがは鬼塚。

これで通じるなら話が早い。


「その鬼塚先輩って、

やっぱり怖い人なんですか?」


「んー……本人の自覚はともかくとして、

少なくとも周囲の人にはそう思われてますね」


「本当は一匹狼なのに、悪い人と繋がっているとか、

噂ばっかり一人歩きしちゃって困ってます」


「あ、私、彼と同じクラスなんですよ」


「あーなるほど。

ってことは、聖先輩も苦労してるんじゃないですか?」


「まあ、そこそこですかね」


「でも、彼にも素直な面はありますし、

そんなに大変なわけでもないですよ」


「……さすが、聖先輩ですね。

真ヶ瀬先輩を支えてきたのは伊達じゃないと」


「そういえば、その真ヶ瀬くんの提案が、

今日から実施されることになるみたいですよ」


「お、そうなんですか?」


「はい。最近、学園に不審者が出入りしている件で、

生徒会で見回りをするみたいです」


ああ……昨日、僕が提案したことが、

もう実施されるのか。


さすが真ヶ瀬先輩、行動が早い。


「後でメールが行くと思いますけど、四時半集合なので、

晶くんも忘れずに来てくださいねー」


「はい、分かりました」


……そろそろ時間か。


あんまり先輩を引き止めるのも悪いし、

とりあえずはこれでお終いにしよう。


「すいません先輩、

お時間取らせてしまって」


「いえいえ、気にしないで下さい。

それより、おトイレのほうは大丈夫ですか?」


「あ、そういえば忘れてました」


「でも、これだけ時間が経ってたら、

二年のほうのトイレも空いてそうですね……」


「ふふ、お漏らししないように、

急いでトイレに行くといいですよ」


「さすがにそれはないですよ。

でも、次の授業に遅刻しないように急ぐことにします」


「はい。でも、今日は昨日に増して体調悪そうですし、

あんまり無理しないで下さいね」


「! ……はい」


琴子だけじゃなくて、

聖先輩にも気付かれたか。


これ、本当に体調悪くなったのかな……?


「それじゃあ、また放課後に」


「あ、はい。それじゃ――」


笑顔の先輩に見送られながら、

三階を後にする。


……聖先輩と会ってしまったのは予想外だけれど、

普段の鬼塚の話も聞くことができた。


『少なくとも人前では一匹狼』という話を聞く限り、

校内で他のABYSSとの接触もないんだろうか。


横の連携が薄いのであれば、

僕の正体がまだ共有されていない可能性もある。


爽以外に接触しているという情報のない、

黒塚さんも同様だ。


どちらかを早い段階で叩ければ、もしかすると、

こちらだけが情報を手に入れられるかもしれない。






黒塚さんと、もう一度接触する。


それが、昼まで考えた末に出てきた答えだった。


現状でABYSSだと思われるのは、

鬼塚と黒塚さんの二人。


その二人で言ったら、荒事も込みで、

黒塚さんのほうがずっとやりやすそうだ。


ABYSSの存在の公表と、相手の命を交渉材料に、

何とかお互いの不可侵まで約束を取り付けたい。


もちろん、実際に殺すことはできないから、

叩き伏せて殺す振りをするところまでだけれど――


「ンだとテメェ?」


……なんだ? 言い争う声?


声の出所――図書館とは逆方向の

廊下の端に目を向ける。


「もう一回言ってみろやオイ。あ?」


そこで、二人の男子生徒による

(いさか)い――というより一方的な恫喝が行われていた。


けれど、遠巻きに眺める生徒たちは顔を背けるのみで、

止めようとも助けを呼ぼうともしない。


溜め息が出てくる。


でも、さすがにこれは見過ごせないし、

僕が動くしかないか。


やれる人がやる。当然の話だ。

見てるだけの周りを責めることはできない。


それでも、誰かやってくれればなぁと思いつつ、

揉め事の現場へ足を向ける。


――その足が、すぐに止まった。


思わず目を擦る。

仲裁すべき相手を二度見する。


「まさか……」


大柄な体に見合った広い肩/服が弾けそうなほど太い腕

/逆三角形型の胴体/丸太のような足。


そして何より、つい先ほど見て来たばかりの、

見覚えのある横顔。


間違いない。


トラブルを起こしているのは、

よりにもよって――鬼塚か。


……どうする?


助けに入るか、見捨てるか。


幾ら鬼塚が相手だとは言っても、

十中八九、実力で止めることはできる。


ABYSSの秘匿性を考えれば、向こうも人目を憚って、

事を荒立てようとはしないかもしれない。


ただ――バレる。


あの夜、僕は顔を見られている。


対峙すれば間違いなく、

あの日の異物はコイツだと気付かれるだろう。


どうするべきか――


「……って、既に結論は決まってるな」


変に偽善者ぶるのは止めよう。

普通に考えれば、悩むような問題じゃない。


見捨てよう。


ABYSSを放置すれば多くの人が死ぬ、

なんてことを言うつもりはない。


僕の安全のために、彼を見捨てる。


幾ら相手が鬼塚とはいえ、

多少殴られはしても死ぬことはないはずだ。


他人に手を差し伸べるのは、

できる人がやればいい。


でも、今の僕にはできない。

それだけの話だ。


「……ごめんね」


回れ右して、図書室へと歩き出す。


運がよければ、

誰かが止めに入ってくれるはずだ。


「や、止めて下さい!」


ほらね……。


「って、ちょっと待て!」


この聞き覚えのありすぎる声は、まさか――


「その人、怯えてるじゃないですか!

止めて下さい!」


見た瞬間、目眩がした。


勘弁してくれ……。

なんで琴子がここで出てくるんだよ……?


「……あ? 何だテメェ?」


「せ、生徒会の笹山です。

ケンカは止めて下さい」


「何でテメェに

ンなこと言われなきゃいけねぇんだ、オラ」


「それは……だから、生徒会の仕事で……」


「あぁ!?」


鬼塚が絡んでいた男を投げ捨てるように離し、

琴子に相対(あいたい)する。


「もう一回言ってみろ、オイ」


頭一つ以上違う高さから見下ろしながら、

琴子が引いた一歩を詰める――手の届く距離へ。


……これも、見捨てるか?


確かに、その選択がABYSSと戦う上で

最良なのは間違いない。


けれど、見捨てるのか?


僕が、琴子を?


殺されたりはしないだろけれど、妹が殴られるのを、

兄貴が黙って見過ごすっていうのか?



*ここから分岐があり「見過ごす」ことにすると以下のURLから「琴子篇」第一章 喧嘩の仲裁1に飛ぶことが出来ます。(初めて読んでいる場合は、そのまま次場面に進むことをお勧め致します)

http://ncode.syosetu.com/n9687dy/153/


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