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約束の笛






……いや。

やっぱり、僕といるほうが危険だよな。


「ごめん。ちょっと用事を思い出したんだけれど、

この辺りでも大丈夫かな?」


「あ、はい。もう大丈夫です」


「ここは私が食い止めますから、

お兄さんは安心して任務を完遂して下さい」


「背中を任せるには十年早いから、

ちゃんと帰るよーに」


数分も歩かないうちに大きな通りに出るし、

変に道草食わなければ、まず滅多なことはないはずだ。


「それじゃ、今日は本当にありがとうございました!

また会う日まで、おさらばです!」


「はーい、気を付けてねー」



「……はぁ」


何か、どっと疲れたな……。


狙撃手の潜んでた場所を洗ったら、

早く帰ってご飯を食べて、ゆっくりしよう。





夕食後――


部屋に戻ってベッドに横たわると、

すぐに眠くなってきた。


朝の時点では大したことなかったけれど、

今になって疲れが表に出て来たんだろうか。


ただ、ABYSS側から狙撃まであった現状、

そう簡単に休みましょうとはいかない。


得られた情報を整理すると――


今のところ、

一番怪しいのは黒塚さんだ。


言動/態度/一年生を突き落としたという噂

/別れ際の死の宣告。


その直後に狙撃があったことを考えても、

黒塚さんはABYSSでほぼ確定だろう。


「後は、鬼塚耕平か……」


龍一から聞いた素行と、真ヶ瀬先輩のリストから、

相当凶暴な人間であることは確実。


しかも、体格的に龍一と同等ってことは、

あの仮面の男とほぼ同じ。要調査だ。


もし仮に違っていたとしても、体格で絞っていけば、

いつかは辿り着けるだろう。


これで二人。残るは三人。


「……尾行してきた三人組は保留だな」


あのお粗末すぎる尾行と、合計五人という噂からすると、

ABYSSである可能性は相当低いだろう。


存在だけは頭の片隅に留めておいて、

また尾行されたら再検討すればいい。


周りを巻き込まない立ち回りの必要性は、

さっきの狙撃で感じたし、まだまだ考えることは多い。


「……もう少し頑張るかぁ」


いい加減、体がだるいけれど、

せめて明日の計画くらいは立ててから寝よう。


取り返しの付かない事態になってからの後悔だけは、

絶対にしたくないから――







その日、約束もなしにやってきた彼女は――



「どう、晶ちゃん。似合う?」


――いつもより、少しだけ大人だった。


「制服着てきたんだ」


「へへー。

待ちきれなくて、フライングしちゃった」


スカートの裾を翻して、

那美ちゃんがくるりと回ってみせる。


「結構いい感じでしょ?」


「……何だか、違う人みたいだね。

お姉さんって感じ」


「ふっふっふ。そう言ってもらえると、

頑張って着てきたかいがあるかなっ」


「……コスプレしてるみたいな感じで、

ここまで歩いて来るの、結構恥ずかしかったんだけどね」


「そうなんだ。

来月からは普通に着て歩くのに」


「そうだけど、制服って何か特別なんだよ。

晶ちゃんだってそうでしょ?」


「僕は別に普通かなぁ」


「もー。晶ちゃんって、そういうとこ変に大人びてるよね。

冷めてるっていうか落ち着いてるっていうか」


「……そうかな?」


最近はその辺も

改善されてると思うんだけれど。


こっちの世界に来た頃と比べて、

だいぶ友達もできたし、普通の遊びも覚えたし。


「逆に、那美ちゃんのほうが

子供っぽ過ぎるんじゃない?」


「うわぁ……晶ちゃんに言われると、

すっごいショックだぁ……」


いや、そんな頭抱えなくても。


「どうして僕に言われるのが嫌なの?」


「だって、晶ちゃん可愛い系だし。

私より身長小さいし」


「可愛い……」


かっこいい男になるには、

一体どうすればいいんだろう……。


「あ、でも身長だったら、

今は那美ちゃんとほとんど変わらないはずだよ」


「えー! そんなことないない!

晶ちゃんのほうが絶対に低いもん!」


「でも僕、制服作る時に身長測ったけれど、

145センチだったよ?」


「え、嘘っ!?」


「那美ちゃんは?」


「え? えーと……ひゃく……」


「……50センチ」


あー……これは絶対に150行ってないな。

僕の見立てだと148くらいか?


このペースで行けば、

来年辺りには追いつけそうだな。


「よしっ」


絶対にいつか、

可愛いじゃなくてかっこいいって言わせてやる。


「……何がいいんですかー?」


「何でもないでーす」


「も~~生意気っ!

そんなじゃ、先輩に目を付けられちゃうよ?」


「中学校は小学校と違って、

先輩後輩の関係も強くなるんだから」


「あと、不良になる子が出てきたり、

みんなの関係がこれまでと変わってくるんだって」


「えー。友達はずっと友達じゃないの?」


「私もそうだと思うんだけど、

近所のお姉さんが言ってたんだよね」


「力の関係ができたり、

価値観が合わなくなるんだよ~って」


……あー、そういえば本にも、

思春期にそういう変化が起きるって書いてあったか。


「でもね、気をつけてもどうにもならないこともあるの。

悪いことしてないのに因縁つけてきたりね」


「……それ、どうしようもなくない?」


「そうだけど、困った時に私を呼んでくれれば、

いつでもどこでも私が助けに行くから!」


「そのためのアイテムも用意したの!」


『はい、これ!』と那美ちゃんが

自信満々に差し出してきたのは――


「……笛?」


しかもこれ、笛は笛でもホイッスルとかじゃなくて、

音楽の授業で使ったソプラノリコーダー。


「それだったら大きい音が鳴るし、

遠くまで聞こえるでしょ?」


「それはそうだけれど……」


「なにその顔? 嫌なの?」


「嫌っていうか……

危なくなった時にこれを吹いてる暇があるのかなって」


「そ、それはっ……」


「もっとホイッスルにするとか、小型のブザーにするとか、

選択肢が色々あったんじゃないかっていう……」


「べ、別に音が鳴れば何でもいいでしょ!」


「他のが思いつかなかったわけじゃなくて、

私はリコーダーが好きなの! 分かった?」


いいから黙って受け取れと、

やけくそ気味にリコーダーを押しつけられる。


「晶ちゃんが困った時は、

それを吹けばいいから」


「んー……でも、

多分あんまり困らないと思うよ?」


「えー、どうして?」


「僕も那美ちゃんと同じくらいの身長になったし、

因縁つけられても自分で何とかできると思う」


もちろん、元々自分で何とかできるけれど――


「那美ちゃんを危ない目に遭わせたくないし」


「何言ってるの。

私が強いの、晶ちゃんだって知ってるでしょ?」


「それはそうだけれど……」


成長期まっただ中の年齢だと、

年が一つ違うだけで体格に大きく差が出る。


那美ちゃんは確かに他の子よりケンカ慣れしてるけれど、

だからといって年上の男に勝てるとは思えないわけで。


「僕は那美ちゃんが怪我するほうが怖いよ。

だから、守ってもらわなくても……」


「いいの!

晶ちゃんは私が守らなきゃダメなの!」


「それとも晶ちゃんは、

私に守られるのは嫌?」


「それは……」


「……うん。嫌じゃないよ」


「じゃあ、決まりだねっ!」


本当に言いたかった言葉は飲み込んで、

素直に頷いておく。


「うん、素直な子は可愛いぞ!

ご褒美に、なでなでしてあげるねっ!」


「いや、いいよ……。

もう撫でられて喜ぶような年じゃないし」


「いいから撫でられるのっ!」


「全くもう……強引だなぁ、那美ちゃんは」




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