尾行(分岐ポイント)
「あー、いえ。大丈夫ですよ」
「じゃあ、今日はこれで解散だね」
「もし何か話すことがあれば、
この後に聖ちゃんが来るから三人でやっておいてねー」
じゃあねーと手を振って、
真ヶ瀬先輩が生徒会室から飛び出ていった。
「……ふぅ」
これで温子さんの件はOKか。
先輩も帰っちゃったし、
後は考えを整理しながらゆっくりと――
「……ん?」
ゆっくりしようと思っていたところで、
隣に来た琴子に袖を引かれた。
「どうしたの、琴子?」
「真ヶ瀬先輩のABYSSには、
別に深く付き合う必要なんてないからね?」
「あー、うん。
それは僕もそのつもりだけれど」
「あと、明日、真ヶ瀬先輩が家に来ても、
登校するのは二人でだからね?」
「……はい」
えーっと……これはなんだ。
琴子と真ヶ瀬先輩の間に、
何か深い闇を感じるんだけれど……。
――その後、聖先輩と合流。
特に何を決めるでもなく雑談とコーヒーを堪能して、
この日の活動はお開きとなった。
とはいえ、最後の話題が半端になったこともあり、
帰り道を舞台に雑談は延長戦へ。
「琴子ちゃんって、そんなに真ヶ瀬くんのことを
苦手に思ってたんですねー」
「正直、僕も聞いててびっくりしました……」
まさか出会った当初から苦手に思っていたとは。
でも、思い返してみると、
会話や応対の端々にそういう要素はあった気もする。
「っていうか、どうして琴子はそんなに
真ヶ瀬先輩が苦手なの?」
「どうしてって言われても……生理的に?」
「これはまた凄い理由が来たなぁ」
改善できそうな気がまるでしない。
「だって、苦手なものは苦手なんだもん……」
「まあ、そういうこともありますから、
仕方ないでしょう」
「真ヶ瀬くんも私も、あとちょっとで引退ですし、
苦手な人とは無理に仲良くすることはないですよ」
「もちろん、一緒に活動している人ですから、
失礼のないようにだけしないとダメですけどね」
「……はい。頑張ります」
「うん。僕も手伝うから、一緒に頑張ろう」
しょんぼり項垂れる琴子の頭を撫でてやる。
――その最中に、違和感に気付いた。
これは……。
「あー……ちょっと電話が来たんで、
先に行っててもらっていいですか?」
「あ、はい。分かりました」
すみません、と携帯を取り出しつつ、
歩く速さを落とし、琴子たちの後ろにつく。
それから、携帯を耳に当て――
誰かが視線を送ってきている背後へと、
そっと意識を向けた。
「ついに来たか……」
僕の正体が割れているのだとすれば、
そろそろ動き出しても不思議じゃない。
下校途中に行方不明――
筋書きとしては無難なところだろう。
ただ、日も完全に落ちてはいないし、こちらは三人。
まだ襲って来ないはずだ。
今ならまだ、対処が間に合う。
視線が垂らすへばりつくような違和感から、
方角を確認。
さらに神経をそばだてて、
毳から繭へ辿るように監視している人間を探す。
「……見っけ」
後方六十メートルほどの場所、
曲がり角の影に、視線の出所を見つけた。
……複数人か、これ?
ともかく、
琴子たちを無事に帰すのが最優先か。
「――すみません、遅れました」
「誰からだったの? 友達?」
「うん。呼び出し食らっちゃった。
ちょっと今から行ってくるよ」
「えっ、今から?」
「そんなに時間はかかんないよ。
大した用事じゃないと思うから」
「それで……ちょっと申し訳ないんですけれど、
先輩に琴子を送ってもらっても大丈夫でしょうか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「よかった。ありがとうございます」
「ご飯はどうするの?」
「帰ってから食べるよ。
そんなに遅くならないと思うから」
「分かった。
じゃあ、美味しいご飯作っておくね」
「私も、ちゃんと琴子ちゃんを
送り届けておきます」
「お願いします。
それじゃあ、また明日」
それぞれで手を振って、
二人とは違う道へ。
怖いのは、尾行側も僕たちと同様に
二手に分かれることだけれど――
……よし。
全部、僕のほうについてきてるな。
向こうに行くようなら手を打たなきゃだったけれど、
僕だけが目的ならこっちに集中できる。
時間をかけるのも惜しいし、
さっさと撒いてしまおう。
それから経つこと五分ほど。
宵闇に紛れて、
首尾良く逆尾行の態勢に入ったものの――
「何だこれ……?」
あんまりの相手の酷さに、
ちょっとびっくりした。
僕を尾行していたのは、男の三人組。
体格的には中肉中背といった感じで、
学生服で憚ることなく喫煙/唾吐き/器物破損中。
機能性を度外視した孔雀みたいな服装とアクセサリーは、
じゃらじゃら音が鳴って明らかに尾行向きじゃない。
ついでに“判定”は“可能”――
実際に対峙したら三対一でも楽勝そう。
「これ……本当にABYSSか?」
確かに、昨日やりあった仮面の男も、
基礎能力はあっても技術はまだまだだった。
それでも、きちんと威圧感はあったし、
僕を殺そうとする意思には本物を感じた。
それと比べて、
この三人組はあまりに酷い。
今、見失った僕を探そうとして、
きょろきょろ探し回ってるみたいだけれど――
気配の消し方も、身のこなしも、注意の向け方も、
どれも見ているこっちが恥ずかしくなってくる。
ミートソーススパゲティを食べた後のお皿を、
さっと一拭きしただけで棚に仕舞うくらいの杜撰さ。
ABYSSに個人差があるにしても、あの仮面の男と、
アーチェリーの仮面以外がこれとは……。
「……あれ?」
あの夜のABYSS二人に、黒塚さん、
そして目の前にいる三人で合計は六人。
黒塚さんが実はABYSSじゃないとか、
アーチェリーの仮面なら、ぴったり五人だけれど……。
そうじゃなければ、数が合わない。
ということは、やっぱりこの三人は
ABYSSじゃないのか?
でも、ABYSSじゃなかったとしたら、
僕を尾行する理由なんてないよな?
「……ABYSSが隙を作るために雇ったとか?」
そうなると、
怖いのは二重尾行だけれど――
……うん。今のところ大丈夫。
とりあえず、このまま観察を続けよう。
相手が何だろうと、
追っていけばきっと分かるはずだ。
「……ん?」
男たちの後をつけている最中に、
通りがかった公園から怒声が聞こえてきた。
なんだ? トラブルか?
目を向けるとそこには、うちの学園の女の子と、
それを囲んで恫喝する男三人の姿。
「うわぁ……」
『何もこんな時じゃなくても』と、
頭を抱えたくなる。
……どうする?
あの女の子を助けるか、
それともこのまま観察を続けるか。
幸いなことに、前方を進む観察対象は、
公園の騒ぎを眺めるだけで歩みを止める気配はない。
僕に気付いた様子もないし、
このまま追い続けることは可能だろう。
ただ――公園のアレを、
放置していていいのかどうか。
ABYSSの手掛かりは、
決定打がない状況だ。
それだけに、この機会を逃せば、
場合によっては大きく後悔することになるかもしれない。
なら、僕が取るべき選択は――
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*ここから分岐があり「尾行を優先する」ことにすると以下のURLから「爽篇」第一章 ABYSSとの接触1に飛ぶことが出来ます。(初めて読んでいる場合は、そのまま次場面に進むことをお勧め致します)
http://ncode.syosetu.com/n9687dy/129/




