重役の親族ではない。
『こりゃ、すげぇ。』
ターナーのオッサンが片言になった。
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店の裏側に回るとカカシが立っていた。漢字だと案山子のヤツね。コイツに向けて、魔法をぶっ放せとの事らしい。
使い方とか、全く分からないと言うと
『イメージだ。想像だ。雰囲気だ。考えようとするな、感じろ!』
と、何かの師匠的な人が言いそうな事をターナーのオッサンが言ってる。何て抽象的でファンタジーな答えなんだろう。ゲームの中でファンタジーな世界観を思い出させてくれる。仕事中だし、仕事として動いてるけど、これはファンタジーゲームなんだな。
「無理だと思うけど、やってみます。」
とは言ったけど、どうやるんだ?オッサンは黙りで、アドバイスすら飛んでこない。
した事ないんだから、無理だろう。。。
とは、何故か思わない。
「焔の矢!」
指先から火で出来た矢が飛び出すのをイメージする。ゲーム世代を舐めるなよ。ゲームの中でなら、何度も魔法を発現してるんだよ。
『。。。。。。』
オッサンが無言で見てる。どうリアクションしたらいいか分からん。
もう一回してみるか。感覚を体と頭に擦り込まなきゃな。
「焔の矢!」
おぉっ、また出たし。矢と言うには弱々しくて、縫い針に近い物があるけど。
『。。。。お前、本当に始めたばかりか?』
オッサンのフリーズが、やっと解けた様だな。サーバーダウンしなきゃいいけど。
「そうですよ。今日が入社日ですから。」
疑り深いオッサンだな。面倒くさくなってきた。答えはするけど、オッサンに興味はない。早く冒険してみたい。
俺の答えに不思議そうな顔をしていたオッサンだが、すぐに
『あぁ、もう、そんな日か。忘れてたわ。』
と言って豪快に『ガハハハハッ』と笑っている。オッサン。。。早く話を進めろよ。
『悪い悪い。武器が必要なんだな。魔法が使えるなら、もってこいのヤツがある。ソイツをくれてやる。着いてこい。』
心の声が聞こえたかのように話を進め始めるオッサン。いや、ターナーさん。心の声が聞こえるんだ。滅多な事は考えれない。
『ちょっと待ってろ。。。。よしっ、コイツだ。』
ターナーさんに着いて店に入ると、店の奥をゴソゴソして渡してきたのは、槍だった。
ただ、これを単純に槍とは呼べない。大きく長いが銃剣と言うヤツだろう。何かで見た事がある。
「これ。。。。」
恐る恐る手にとってみる。大きくて重いが、振り回せない程ではなさそうだ。
『銃剣みたいだけど、槍だな。言うなれば銃槍か。少々重いが、お前さんは使えそうだな。ソイツを使え。』
オッサン、嬉しそうに語る。
2つの筒がくっついた様な銃身。そうかと言ってライフルのみたいな形状かと言うと、それとも違う。2つの筒に挟まれる様に長い刃がついている。持ち手の部分。。。これも柄と言うのだろうか。剣よりも長く両手で持っても余る長さがある。
銃槍と言う割にトリガーがない。どうやって発砲するのだろうか?
『早く使いたいだろ?そんな顔をしてやがる。また裏に回るぞ。』
実戦で使いたいんだけどな。とか思いながらもターナーさんに着いていく。
『槍術なんてもんは、ワシも分からん。だが、武器の使い方くらいは覚えていけ。その銃槍は引き金がない。玉も必要ない。そこまで言えば分かるだろ?』
やっぱりドワーフだ。一人称のワシが似合うし『ガハハハハッ』って笑う姿を見て確信した。ターナーのオッサンはドワーフだ。
『。。。。。。』
おぉっと、ターナーさんは心が読めるんだった。迂闊な事は考えるな。無だ。無人になるんだ。
『魔力の込め方が分からんか?それとも何か武器に不具合があったか?』
急にせっかちになりやがった。ターナーさん。アンタの期待に応えてやるよ。
さっき魔法を放った時の要領と同じ様にして、銃身に何かが集まるイメージをしてから、銃槍を水平に構える。「バーン。」心の中で発砲音を再現して、心のトリガーを引いた。
今の言い回し、格好いい。心のトリガーを引いた!
《ドンッ》
想像よりもデカイ、重い音を響かせて、焔の玉が飛び出した。
オッサンも俺も言葉が出ない。何だありゃ?まさしくファンタジーな光景だった。2つの銃創から飛び出した2つの火の玉が螺旋を描く様に飛んでいった。少し斜め上の空に向けて撃ったので被害はゼロだと思うけど、見た目通りの威力なら、破壊力バツグンで、まさにチート。
『お前さん、何者だ?もしかして、偉いさんのドラ息子?』
ターナーさんよぉ、もし、そうだとして本人をドラ息子呼ばわりするのは、どうかと思うよ。
「ただの新入社員です。」