入社式
「でっけー会社。。。」
今まで住んでた町と比べる事も出来ない大都会の真ん中で、周りの高層ビルと肩を並べる巨大なビル。
通称ゲーマービル。
名前の通りの会社で、下層階はゲームセンターやボーリング場といった娯楽施設を運営し、中層ではレストラン。その上に運営会社の事務所があり、そこでは新しいゲームが開発されている。
最近のゲーム会社はゲーム開発だけではなく、ゲームに使えそうな技術の開発まで担っている。
そのゲーマービルを見上げているのは、観光に来た訳じゃない。
見上げすぎて、痛くなった首を擦りながら一般の入り口とは別の横にある扉へ向かう。
石で造られた様な扉の前に立つと自動で扉が開く。
自動ドアかい。。。
心の中でツッコミを入れてから、扉の中へ進む。
ロビーは、想像より狭いくらいだが、部屋の中が異世界のようだ。
壁は石造りで、蔦が絡まり、不思議な文字や絵が描かれている。
見たことの無いような輝きを放っている丸いオブジェに隅には宝箱らしき物まである。
キョロキョロと辺りを見回してしまい、呆気にとられた。
しばらく呆然としていると後ろからドンドンと人が奥へと入っていく。
奥の扉にカードをかざすと扉は開き、更に奥へ行けるようだ。
それに倣い、自分もカードを着けると扉にかざしてみる。
《ピッ》
小さく電子音が聞こえた後に石造りに見える扉が開く。
ゴゴゴゴッと音がしそうな重厚感があるのにスッとスライドするのには、違和感がある。
「。。。。。」
扉の奥は、更に異質。どこかのダンジョン風なロビーの奥には、イメージ通りの冒険者ギルド風な内装になっていた。
足を踏み出すとギシギシと鳴る木の床。無骨でボロいけど頑丈そうなテーブルに椅子。壁には掲示板の様な物があって、賞金首と書かれた似顔絵の貼り紙や文字の依頼書と書かれた紙が乱雑に所狭しと貼り付けられていた。その中の1枚の賞金首はテレビで観た事ある、この会社の社長ソックリだった。
まるで、テーマパークに来たようで、驚きすぎて先へ進まない。でも時間が迫っている事を思い出して、カウンターに並ぶ綺麗なお姉さんに話し掛けてみた。
「あの~、ここって、ゲーマーのオフィスで間違いないですよね?」
間違ってはないとは思うが、まずはそこから聞いてみる。
『冒険者ギルド、ゲーマーにようこそ。冒険者カードを拝見してもよろしいですか?』
首にぶら下げたカードを言っているらしい。社員証なんだけどな。とかは言わないで、お姉さんにカードを渡す。
カウンターに置いてあったオブジェみたいな丸いキラキラにカードをかざすと石版みたいな外観の物を触っている。
多分、タッチパネルのPCディスプレイだろう。
『お待たせいたしました。新人の冒険者さまですね。間もなく新人の冒険者さまへ国王からのお言葉があります。右手奥の扉へ進み、転送装置にて42層へお向かい下さい。そちらでも受付が居りますので指示に従って下さい。
あなた様の冒険が素晴らしいものでありますように。』
そう言って、綺麗なお辞儀をしたお姉さんにお礼を言ってから、また奥の扉へ進む。
転送装置って。。。やっぱりエレベーターだった。7機ほどあるみたいで、サビの装飾だと思いたい朽ちかけた鉄製の扉の中へ進む。
幾何学模様やら、不思議な文字に囲まれた空間に小さなボタンがある。ボタンは、割りと普通。
42層って言ってたな。と思い出して42と書かれたボタンを押す。
途中に数度止まって、42階に着いたらしい。
幾何学模様の空間から出たら、そこは石壁。綺麗で旗や絵画を飾っている。
少し薄暗い廊下を進むと魔法使い風の恰好をしたお姉さんがいた。いちいち驚くのは、もう止める。この会社は余力が有り余ってるんだろう。こんな事に金を掛けられるんだから。
『新人の冒険者さまですね。王のお言葉が間もなくあります。この先の大広間へ向かってください。』
ニコニコと笑顔で役になりきり、杖で先を指し示している。
ノリノリだし。
言われるままに先に進むと観音開きの巨大な扉がある。華美でありながら、重厚な扉の前には、鎧の騎士が2人いる。長い槍を持って辺りを警戒するようにキョロキョロとしていた。
騎士には、特に触れることなく先に進む。
扉の先に進むと後ろで
《ギィィィィ》
と木が軋む音がして、大きな扉が閉められた。
『ようこそ、我が国へ。私が国王である。長々と話すのもいいが、諸君らの好奇心に溢れた目を見ていると、私の話は不要と思える。我が国で学び、造り、そして遊び、その成果を還元してくれれば、幸いだ。
さぁ、扉は開かれた。君たちの冒険に幸が多からん事を。』
壇上の巨大で豪華な装飾のされた椅子の前で、大きな王冠、金の錫杖、赤いマントのオッサンが述べた。あの人が国王こと社長だな。ゲーム会社だけあって、遊び心に溢れた会社。。。としておこう。若干の不安感は拭えないが。。。