一族めぐり~雷斗編~
「……みぃよぉどぉのぉお……!」
美代から説明を受けた雷斗は地面に両膝と両手をつき、深々と項垂れていた。
題して『突撃! あなたのご実家へ ~キチンと行ってきますは言って来た?~』企画。
雷斗とは突然合流して一緒に行動を始め、スノーに関しては美代が連れてきてしまった同然に、これまで旅を進めてきた。
それではきっと、一族の人たちはもちろんご両親が心配するだろう。と、美代とバーナーが考えた企画だ。
しかし、二つの一族をみんな一緒に訪問するのでは時間がかかりすぎる。
かといって、魔族が襲ってこないとも限らない。
そうしてダークも一緒に頭をくっつけた結果、このメンバーで別れることになったのだ。
美代たちは問答無用で雷斗と初めて会った場所の付近、龍と戦った場所に移動して来たのである。
「どうしたのさ、雷斗」
「……ブルー、初めて会った日。覚えているか」
「うん。雨宿りが出来る場所を探してる時になぁ、急に雷が落ちてきて、小屋を燃やして、ビックリして動ききらんでおったら雷斗が立ってて。ふふ、雷は落ちるしおらんかった人が出てくるしで、隠れてしもうたんよね。それにすごく怖い顔もしてたし」
クスクス、と口元を押さえて笑うブルーに、雷斗は渋い表情で空をにらみ上げていた。爆風で吹き飛ばされた木々は生々しく辺りに倒れており、露出する地面のせいで膝をついた雷斗の服が土まみれになっている。
「あの日。親父とは、ケンカしたんだ」
「……ケンカ?」
「そう、私はケンカ別れをしてきた。あぁ、顔を見たくもあるもんか! 石頭の分からず屋の頑固者が! 昔の事をいつまでも引きずりおって!」
「雷斗はお父さんのことが嫌いなの?」
「好かん! 私が私の使命を果たすために地上へ降りると言った時、あれは私を行かせないようにと軟禁しかけたんだぞ!」
「仲直りもしたくないくらい、嫌い?」
「くどい、大嫌いだ」
「死に目にあえなくてもいいくらいに嫌い?」
グッと、雷斗の言葉が詰まった。目を細めて柔らかく微笑んでいるように見えるのに、ひどく冷たい瞳をしている美代に、雷斗は視線を逸らしてしまう。
「……もう一度聞くね。仲直りしなくても、後悔しない?」
「……その訊ね方はずるいぞ、美代殿」
美代の背中の向こう側で腹を抱えるように地面へ膝をついているダークを視界に入れながら、ため息を漏らした。張り詰めて呼吸もし難くなっていた空気が柔らかくなるのを感じ、顔を上げる。
そこには、いたずらに成功してしまった子供の様に、どこか申し訳なさそうに笑う彼女がいた。
「それがいい。ちゃんと会えるうちに、ちゃんと話をして、送り出してもらった方がいいと思う。だって、せっかく、いるんだから」
「わかった。みなを、雷雲族に招待しよう」
小さく笑う美代に、ブラックがダークを引っ張り起こした。雷斗のためにわざと言ったことだとは分かっているようだけれど、罪悪感に塗れた表情を浮かべている。
謝罪と一緒に抱きつけば今度はブラックが面白くなさそうな顔をして、雷斗の傍でそれを見ていたブルーが口元を押さえて我慢するように笑っていた。
「もー! 雷斗、連れて行って! たぶん気圧とか酸素の薄さとかは問題ないと思うよ、とりあえずこのまま行ってみて、もしダメそうなら魔力とかで体を包み込めばいいさ」
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結論から言うと、体を包み込む必要はなかった。
美代曰く、水中で呼吸ができるようになるルフトの実の効果が続いているならば、多少酸素が薄いくらいならば問題ないだろうということ。ブルーも陸地で呼吸が出来ない一族なのに普通に呼吸が出来ているので、心配ないだろうと。
その予想が当たったらしい。あえていうならば高度に寄る気温の問題だけれど、肌寒いな、という程度だ。
「なぁブルー、いつか一族に戻って族長を継いだ時、木の枝を分けてもらえないだろうか。改良してこっちでも育てたい」
「ええよー! そうしたら雷斗、いつでも会えるね!」
「ちょっと雷斗さん、現実逃避をしないでこっちに戻ってきてもらえません?」
環境の問題はクリアした。
けれど、早々から敵意が籠った目で囲まれるのは想定外だった。
「地上の者が何用だ!」
「どうやってここまで来ることが出来るんだ! 今度は何をしに!」
「みんな待ってくれ。私が連れてきたんだ、友人達だよ」
背に隠していたブルーの頭を優しく撫で、そこらを駆け巡っていた雷をひと纏めにして消し去ったのは雷斗だった。彼が前に出ると雷雲族の人々は揃って目を剥き、一斉に近寄ってくる。
「雷斗!」
「雷斗……!」
「よかった、無事だったのか!」
美代たちの事なんて眼中からなくなってしまったように、雷斗に群がるようにして抱きしめていた。困惑する彼をヒョイと肩の上に避難させたブラックは目付きも鋭く、辺りを見回している。
「なにかあったみたいだね?」
「あったもなにも! 族荒らしを名乗る者たちが雷雲族の子を人質にしていると! 助けたければ我々に従えとそう言って、炸雷様を連れて行ったんだ!」
「地上に行ったのは雷斗、お前さんだけだったから。てっきり、本当だと……!」
「お、親父が? 人族なぞに? なんで!」
「むぅ、ついに遭遇か」
これまで名前は聞いていた『族荒らし』に、美代は腕を組んだ。ブラックの肩から身軽に飛び降りた雷斗は脇目もふらず雲の上をかけて行き、少し遅れて美代たちも動こうとする。
バチリ、と走った雷に目を吊り上げ、手の甲で払った。
「何をするのさ」
「お前たちはここにいてもらう。地上の者が我々の領地を歩いて回るのは不愉快だ」
「そ。ブラック、魔 弾 盾を。影 縫 」
過去を思い出した後からか、魔術を使うことにも略式詠唱をすることにも抵抗がなくなっていた。
なにを隠そう妖精族。魔力の器は魔族と対等である、おまけに最後の純血だから死ぬこともない。使い放題だ。
プツリと髪の毛を抜いて光 球を込め、自身の足元に置くとその場に縫い付けられた雷雲族の間をすり抜けて雷斗の後を追いかけた。
「美代殿、イツノ間ニ、ソンナ真似ガ出来ルヨウニ……」
「ブラックのマネをしてみただけだよ。魔力の量では負けるけど、人間には負けないよ」
「マッタク……」
渋い顔をするダークに微笑みかけ、佇む雷斗の背を見つめた。彼は稲妻の形をした頭飾りを握り締め、それを左耳に引っ掛けるよう乗せる。
「あのクソ親父、族長の証まで置いて行って。そもそも雷雲族がどうやって地上で行動するんだ、空気の重さでロクに動けず、濃さで肺がやられるだろうに」
爪を立てんばかりに左の肩口を握り締め、口角を歪ませるように笑った。首筋には汗が浮かんでいるけれど、瞳には爛々とした光を携えている。
「あぁ、てめぇが半人前だとコケにしてうつけ者だと散々罵倒した小僧から救われればいい。私の事を認める前に殺させるかよ、半人前や他の一族から救われて悔しがれ!」
吼えた雷斗に、美代は笑った。目を閉じていたブラックは短く息を吐き出して、困ったように眉を寄せる。
「ここから北西に、イヤなものを感じた。だけど詳しくは判らない」
「北西……」
自宅の床に這いつくばって、もふりと雲を掻き分けた。穴が開いたことに驚いたらしい美代とブルーが、慌てたように飛べる二人へと抱き着いてく。
視界の端にその様子が映ったのだろう、雷斗がすまなさそうに手を上げて体を起こした。
「ブラック、私の記憶を覗けるな」
「う、うん」
「これを刻まれた時の記憶、その中にある雑木林か森の中。親父殿は、そこにいる」
小さく唾を飲みこんで、雷斗の額に自身の額を当てた。
「……大丈夫? 雷斗。ここで待っててもいいんだよ、すごく……震えてる」
「問題ない。さぁ、連れて行ってくれ」
困惑するブラックの視線に、美代は小さく頷いて。
瞬間移動術が唱えられる直前に、魔道具として置いてきた髪の毛に魔力を込めてから雷斗の手を握った。
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「――おい、聞いたかよ! あの国、戦争に負けて滅んだとよ!」
「挙句に、国王と教皇は、よりにもよって宝石の一角に引き取られたって?」
「あーあ、こっちの資料も技術も、あっちの実験結果も何もかもが無駄になったって話だ。上が荒れるぜ」
「あんな弱小国に負けるなんて思わねぇだろ。まぁいい、実験の結果は、少しはこっちに残ったんだ」
「魔力の解析、反転からの転用か。よくやったんじゃねぇの? おかげで雷雲族を一人解体すれば海に潜れる」
短剣を腰に下げ、品のない笑い声を上げながら見回りをしていた二人の男が、静かに茂みの中へと消えていった。力任せに捩じられた頭部を見せないよう美代と雷斗がブルーを隠し、表情なく二人を見下すダークとブラックに目を向ける。
「ナルホドナァ……。妙ダトハ、思ッテイタンダ。タダノ国ガ、ドウシテ負ノ遺産ノ知識ヲ、アソコマデ得ルコトガ出来タノカ」
「こいつらが噛んでいたのか。ダーク、どうする?」
「ドウスルモ何モ。先ノ目的ハ炸雷殿ノ救出ダ、ソノ後ノ事ハ知ラン」
弧を描いた左目に、ブラックも冷たく笑った。族荒らしを前にして雷斗は大丈夫だろうかと盗み見てみるけれど、眼光も鋭く向こう側に見える建物を睨みつけている。
「雷斗、大丈夫?」
「……古傷は疼いている。が、今は魔族を相手に戦っているんだよなぁ……。そう考えると怖くない」
「あぁ、うん、そうだねぇ」
ブルーを懐に抱きしめて薄く開いた唇を吊り上げていく雷斗は、額に汗を浮かべていた。
「協力してほしい、こんなにも弱くて、碌々戦えなくて。それでもこうして自身の仇を討つ機会を得ることが出来た。それをどうか、果たさせてほしい。親父はついででいい」
冗談めかして話しが出来るだけの余裕はあるらしい。左肩をきつく押さえ、立ち上がった。
「正面突破だ」
鉄の骨組みがむき出しになったベッドに転がされ、薄く小さく、極力空気を吸い込まないような呼吸をしていた男は、耳をつんざく破壊音に思わず肩を跳ねた。
捕らえられてから幾日経ったのかもわからない、ただ連れてこられて、あの子が無事なのだと、人質にされているというのは嘘だったのだと安堵して。
大気の重さに縛られて、拘束されていなくても自由に動けない体に無理やり魔力を流され、一族の力を使うよう強要されて拒めば容赦のない暴力を振るわれた。
自身が死ぬようなことがあれば、今度は一族の者たちに危害が加えられる。今度こそ本当に、家出してしまったバカ息子が再び捕らえられてしまうかもしれない。
そんな思いから、是が非でも生にしがみつき続けた男が。
鉄柵の向こう側に見えた姿に、瞳を揺らした。
「随分と寝心地がよさそうなベッドで休んでいるじゃないか、族長殿」
「……ら、い……?」
「ひどい! 雷斗、これ、封雷石ってやつよね? どうする? どうすればいい?」
「落ち着いてブルー、少し、離れててね」
突如巻き起こった強風と同時にバラバラに切り刻まれた鉄の檻が、耳障りな音をたてながら崩れていった。少女の後ろには少年が隠れるように立っていて、雷斗が忌々しそうに檻の残骸を蹴りながら入って来る。
「とりあえず外に。美代殿、頼めるか」
「わかった」
「ダークとブラックはどうするん?」
「いやなんかもう、放って置いてもいいんじゃないかな。聞こえるでしょう? 鳴りやまない爆撃音」
「保護者がいるからどうにかなるだろう。というか、私たちでアレを止められると思うか? 正面扉を突き破って早々に、美代殿を傷付けられたあの男を」
「……むり」
プルプルと小動物のように震える美代に苦笑しながら、雷斗は炸雷に肩を貸した。途端に目つきが鋭くなった親父殿に表情を歪める。
けれどそれが、自身に向けられたものではないと気付き、息を飲んで牢の外を振り返った。
「族荒らし……!」
「好き勝手、やってくれんじゃねぇか、クソガキ共が……!」
肩で呼吸をし、握り締めた短剣を美代とブルーの喉元に突き付けながら、フードを目深にかぶった男が唸り声を上げた。思わず指先を痙攣させれば切っ先に力がこめられ、彼女の首筋に赤い線が出来上がる。
「……諦めろ。お前たちでは、怒り狂うあの男には勝てんぞ」
「あそこで暴れてる化け物とてめぇらは仲間なんだろ? それならてめぇらを抑えりゃあ、あいつを殺れる」
ボソリと男の口が動いた。もはや聞き慣れた詠唱に、炸雷を庇うよう抱きかかえる。
左腕をかすめる様に放たれた火 球は服を焼き、肌を舐めていった。
「雷斗!」
「あぁあ? 左肩に、刺青?」
炭と化した服が床に舞い落ち、雷斗は顔から血の気を失って、ゆっくりと左肩に手を伸ばした。炸雷が咄嗟に前に出ようとしたのを無言のままに止め、大きく息を吐き出すと立ち上がる。
「あぁ、左肩の入れ墨。貴様らならば当然、意味が判るよなぁ?」
「……はっ! こいつぁ笑える! てめぇまさか雷雲族か、よくもまぁ文字の形を変えてこんな立派なもんにしたよ! だがなに、まだ反対の肩がある、今度こそ綺麗に刻み込んでやろう!」
「雷斗! 雷斗逃げて! 族長様と一緒に逃げてっ……」
「黙れ、ガキ!」
ブルーの額の辺りを、短剣の柄で容赦なく打ちつけた。ひくりと喉を鳴らした彼は美代がしっかりと抱きしめて、赤くなったそこに魔力を流す。
「ほぉら、オトモダチを助けたけりゃあ指先のバチバチを収めて大人しく捕まりな。お前みたいに地上で普通にいられる雷雲族はレア物だ、やさぁしく扱ってやるよ」
「あぁ、大人しく捕まってやろう? お前が無事でいられたらな」
「は……」
男が呆けた一瞬の隙に腕をすり抜けて、美代は雷斗の方へと飛んだ。全身の毛が逆立つのを感じてブルーを庇うよう懐に抱え込み、魔力で体を包み込んでしまう。
轟音と共に雷斗の足元から走った雷が彼の視線に合わせて天井に飛び、男めがけて一直線に落ちた。魚のように口をパクパクとさせ、肉が焦げる嫌な臭いを辺りに漂わせながら倒れ込んだ男は、このままではその心臓を動かすことはないだろう。
「やり過ぎた……。美代殿、治療を頼んでも?」
「……いいの?」
「あぁ。こんな連中でも、殺したくはない。……甘いだろうか?」
「ううん。私は、好きだよ」
『慈悲深き者 哀れし者 汝が力もて 願わくばこの者の傷 癒す助力に なりたまへ』
「治療術」
温かい魔力が族荒らしの男を包み込んでいくのがわかった。穏やかな笑みを浮かべながらそれを眺める美代に冷たいものを感じ、雷斗は思わず頬を引きつらせる。
治療に自身の体力を使う治療術を使ったということは、笑みの下では腸が煮えくり返っていたということだろう。目尻に涙を浮かべ、額を赤くしたブルーを胸元に抱きしめたまま立ち上がり、口角を痙攣させる雷斗の事を見上げる。
「大丈夫、時間はかかるし治療が終わったあとは動けないだろうけど。死なせは、しないよ」
「……感謝する」
妖精族だと自覚してからの彼女はどこか、吹っ切れたような行動をするときがある。
それに妙な怖さを覚えながらも、彼女が唱える瞬間移動術で外へと向かうのだった。
地面に足を着けるなり力一杯抱きしめられた美代は、隙間からなんとかブルーを逃がしてブラックの背中に腕を回した。逃がされたブルーは打たれた額が痛むのだろう、べそべそと涙を流しながらダークに抱きついていく。
そして雷斗は、炸雷をそこにあった倒木の上に座らせると、焼けて揺れる服の袖を引き裂いた。
「……今更何をしに戻ってきた、愚か者が」
「なに、たまたま里帰りをする機会があって、行ってみれば族長が族荒らしに捕えられたと聞いて。己の過去と決別をするために、それからあっさりと騙された親父を笑うために来てやっただけだ」
歯を見せて笑い、炸雷の服を遠慮なく脱がせていった。傷まみれの体に目をわずかに細めて、ブラックと美代を振り返る。
「治癒術」
視線が合うと同時に、美代の詠唱が終わっていた。空 魔 箱の中に入れていたのだろう干された鶏肉まで準備をしてくれて、雷でそれに火を通すと小さく裂いて炸雷に渡す。
「他一族に、施しを受けるつもりは」
「ほざけ、貴様を助けたのは貴様が意味もなく嫌う他一族の者たちで、地上の者だ。ただ私の友だからと、たったそれだけのことで族荒らしに挑み、貴様を助ける手助けをしてくれたんだぞ」
なおも何かを言い募ろうとする炸雷の口に食料をねじ込み、鼻で笑った。
「それとも、そのくだらないちっぽけな誇りなんぞに縛られて、この事実から目を背け続けるのか。雷雲族の長よ」
耳に引っ掛けていた飾りを炸雷にむけて放り投げ、左肩に手を置いた。先ほどかすめた術のせいでやはり火傷をしていたらしい、痛みが走ったそこに思わず体が跳ねる。
だけど、何故だろう。気分は悪くなかった。
「雷斗、大丈夫?」
「あぁ。なんだ、私はたったあれだけの者たちに怯えていたのか」
清々しい笑みをみせた雷斗に、美代も微笑んだ。息を吐き出す小さな音に顔を向ければ、倒木から地面に座りなおした炸雷が頭を下げている。
「族長様」
「……我が息子を、ありがとうございます」
「親父……?」
「これは過去に、族荒らしに捕えられた。左肩に刻まれたもの、それが愚息を苦しめ続けていた。年月が経っても、悪夢にうなされるほどに」
「だから、雷斗がこれ以上傷つかないように、地上に行かせまいとした?」
静かな問いかけに、炸雷は小さく頷いた。ケンカを思い出してしまったのか体の周りに静電気のような雷が走った雷斗に、ブルーがダークの背中へ隠れてしまう。
美代がそっと背中を押すと、彼は険しい顔をした。
「雷斗。……もう、わかってるでしょ?」
「……あぁ」
炸雷の前に膝をつき、覗き込むように頭を下げた雷斗に、族長が目を丸くしていた。
あとは親子水入らず。と、ブラックやブルーの手を引いて、ダークも一緒に離れていく。
「親父。見てくれただろう、私は大丈夫だ」
「半人前が。一丁前な口を利きおって」
「まだ言うか。何を言われようと私は彼らに着いて行く」
「お前は次期族長なのだぞ。一族を捨てるというのか」
「必ず帰る。役目を終えたら帰ってきて一族を率いる。だから待っていてほしい、何年かかるかはわからないけれど、必ず族長としての教えを学ぶから。
私の言葉でさえ信じられないほどに、他者を嫌うのか」
炸雷が、口元を引き締めた。雷斗は雲をその場に集めて父親を乗せ、握った拳を持ち上げる。
「みなに、よろしく頼む。碌々挨拶もしないまま出てきてしまったからな、我が友の事を悪く思ったままかもしれん」
「……必ず戻れ。いいな、必ずだ。……雷雲族としての誇りを胸に進め、片時も忘れるなよ。恥を晒すようならばどこに居ようとも雷を落してくれる」
「あぁ、肝に銘じておこう」
雷斗の拳に自身の手を緩く当て、炸雷は上空へと向かって行った。それを見送っていれば何かが光に反射したのが見えて、落ちてくるそれを咄嗟に避ける。
拾い上げたそれは族長の証である、稲妻の形をした頭飾りだった。
「……雷斗」
「親父……。どうやら、やることをやり終えたら返しに来いということらしい」
左耳に引っ掛けて、振り返った。火傷の治療をしてやれば頭を下げて礼を言い、ダークとブラックに目を向ける。
「一応、あいつら、殺さないようには頑張ったよ。なんか……上? の奴らっていうのはいなかったみたいだけど」
「近イウチニ、エメラルド殿ニ連絡ヲ入レタイナ。魔方陣ハ、ココニ刻ンデオケバイイダロウ」
建物の近くにサラリと陣を描き、イヤな笑みを浮かべると扉に魔力を流し始めた。何をしようとしているのか解ったらしいブラックも隣に並び、ブルーが雷斗の腕にしがみついて行く。
「それじゃあ、合流地点に向かおう。ブラック、お願い」
「ん。瞬間移動術」
横目で見た雷斗の表情は凛々しく、刺青が晒されているのに堂々と胸を張る姿は勇ましくて。
炸雷から預かりうけた族長の証を輝かせながら、バーナー達と合流するべく集合場所へと向かうのだった。




