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冒険記  作者: 夢野 幸
記憶編
65/138

~閑話~ ケンカするほど、なんとやら?


「いやぁ、死神よぉ。実にありがてぇ事をしてくれたもんだなぁ?」

「オイラは若干引いてるけどな」


 明日の朝には出発すると伝えたせいか、ブルーはヘリュウの後をひな鳥のように追いかけていて、追いかけられている町長の方はにんまりと頬を緩めたまま気付かないふりをしつつ歩き回っていた。

 宿の窓から頬杖してそれを眺めていればヘリュウの手下、もとい宿の主人から声をかけられて、バーナーは深いため息を漏らす。


「あんなに嬉しそうなお頭、なかなかお目にかかれねぇからよ」

「お前たち自身は、ブルーのことを知ってたのか?」

「一度だけ見たなぁ。基本的にあのお頭、手駒の数はあんまり増やさねぇから、たぶんここの連中はほとんど知ってんじゃないか。あぁ、町になって結婚してから増えた女子供は別としてな」

「へぇ……」

「いや、男の子だとは思ってなかったからバンダナを見ないとわかんなかったけどよ」


 知らん顔を続けられてふて腐れたのか、ブルーがヘリュウの服を力一杯引っ張り、無理やりに振り向かせているのが見えた。それはもう、実の子を見ているようなほどに優しい瞳で勢いよく抱きつけばブルーも嬉しそうに笑っていて、テーブルの上に置いてある干しパンを咀嚼しながら首を振る。


「出身も?」

「てぇかあの子、一族衣装を着たまんま頭に連れてこられたからな」

「……海中族の衣装、て言ったら、あのひらひらふわふわしたやつだったか? あぁ、あの見た目でその服じゃあ、ますます男児には見えねぇだろうなぁ」

「あんときは大騒動だったんだぜ。冷血人間が子供を抱えて帰って来たかと思えば、安全そうな村まで連れて行くからまたしばらく出かける、なんて言い始めるから」


 弾かれた様に顔を上げたブルーがどこかに向かって突進していき、視線で追いかけていれば買い物中のダークとボンドッツがいた。完全な不意打ちだったのだろう、抱きつかれたボンドッツが咳き込み、ダークが苦笑している。


「藍のは……ヘリュウは、ブルーと再会する気はあったのかな」

「なかっただろうよ。オレたちゃ盗賊だ」

「なのに、バンダナを?」

「だからこそだ。いつ殺されるかわからねぇ、いつ捕まるかわからねぇ。狩る側のお前に解るか? 盗賊家業をやる奴が確実に記憶として残せるのは物品だけなんだ」


 ダークとボンドッツにおそろいのバンダナを見せながら一生懸命に話している内容は聞こえないけれど、破顔しているヘリュウを見れば彼の話しだろうということは想像に容易い。

 手放せないほどに、ボロボロにならないよう気を付けながら使っている程度に。ブルーにとっては、大切な記憶なのだろう。


「そんなら盗賊家業なんか足を洗えばいいのに、なんてことは言わねぇけどさ。一つしかない命、大事にはしろよ」

「賞金稼ぎのお前からそんなことを言われるなんて思いもしなかったわ、気持ちわりぃ」

「……零れ落ちてからそれの大きさに気付いたって、遅すぎるんだ」


 遠くを見つめるバーナーに、宿の主人は半ば目を閉じて頭を掻いた。ドカリと向かいに座り込めばチラリとこちらを見てきて、パチンと指を鳴らすと同時に咥えたばかりの煙草に火をつけた青年にため息を漏らす。


「ませガキ」

「火炎族なら、オイラの年齢では一人前と認められなきゃ、やっていけねぇんだよ。もう、誰に認められていいのか、わからないけどよ」

「何を言ってやがる、どの賞金稼ぎよりも宝石たちから認められておいて。お前、狩った賞金のほとんどを、奴らに渡してるだろ。ここはその金で作られた町だ、その他にも孤児院や修道院に寄付として回っていて、力がなくて泣くやつらも格段に減ってる。その功績を前にして、他に誰に認められようってんだ」

「……わからない。もう、純血の火炎族はオイラしかいないから」


 こつん、と窓の縁に小石が飛んできて顔を出してみれば、水の珠が顔面に飛んで来た。突然水浸しにされたバーナーは目をしばたかせながら垂れてきた髪の毛を掻き分け、宿の下で慌てているブルー達と、腹を抱えて大笑いしているヘリュウに視線を止める。


 誰が犯人かなんて、一目瞭然だ。


「……藍のおおおおおおおおお!」

「うっわ! おま、おまえ! 宿燃やすなよ! 弁償さすぞ!」

「ばっきゃろう、オイラの炎は目的のもの以外は燃やさねぇよ! とりあえずの標的はてめぇだクソが!」

「うわっは! ジョーダンの通じんやつやの!」


 宿の窓から飛び降りてギラギラと瞳を光らせながら睨みつけてきたバーナーに、冷や汗を浮かべながら全力で逃げれば、全力で追いかけてくる気配がある。

 これは捕まったら焼き殺されないまでも、死神や悪魔と名高い賞金稼ぎと全身全霊のケンカになりそうだ。


「ブルうぅぅぅ、またあとでのぉぉぉ!」

「兄ちゃん、なんでバーナーにイタズラしてもうたのぉ!」

「まぁ、本人たちが楽しそうなので、構いませんけれど……」

「不思議ナ感覚ダナ、シッカリ者ノアヤツガ、アンナ風ニナルノモ……」


 アッと言う間に姿を消した二人に、呆れと笑みとを同時に浮かべ、宿の窓を見上げてみた。宿の主人がとばっちりを受けてずぶ濡れになっていて、咥えた煙草から水滴が垂れているのがわかる。


「えっと、ご愁傷様です」

「頭ぁ……。死神の野郎、調子が戻ったようで、それはまぁいいんだけどもよ……」


 誰がぐしゃぐしゃになった宿の掃除をすると思っているのだと、ガックリと肩を落とす彼を見ながら苦笑してしまい。

 町の奥の方で上がった火柱に、ため息を漏らすのだった。



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