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冒険記  作者: 夢野 幸
記憶編
64/138

とある町で・2


 ダークと離れ、一人で男たちと戦っていた雷斗は額に汗を浮かべていた。


 一族を悟られないように術を途切れなく言い続けているのだが、喉がひりひりと痛み始めて口の中は乾燥し、唱えようと口を開けば咳き込んでしまった。突き出された剣を紙一重で避けると気絶させた男の手から剣をもぎ取り、二撃目はどうにかこうにか受け止める。

 しかし、これまでに得物なんか握ったことはなかった。どこまで戦えるかはわからずに、町の入り口付近というせいなのか気絶させても倒しても、減る気配がない男たちに目付きを鋭くしていく。


 気付かれない程度にならばと、剣に雷をわずかに纏わせた瞬間。顔に厚手の布が被さった。


「殺さんといてやぁ、兄ちゃん」


 どこか耳に慣れた口調の知らない声に、慌てて布をはぎ取った。まだ十数人はいたはずの男たちは地面に伏していて、見たことがあるバンダナをつけた男が一人、ポツンと立っているだけだ。


「うっわ、ちょぉザコやん。あんボケ共、こんな連中に手間取ってへんろうな」


 背を向けている男はならず者をつま先でつつき、頭を掻いていた。雷斗の事はまるで眼中にないようなそぶりに、思わずバチリと閃光を放ってしまう。


「お前は何者だ」

「おぉい、あくまでワイは年上やぞ。口の利き方に気ぃ付けぇや雷の子ぉ」


 雷の子。

 確かにそう呼ばれて、雷斗は警戒心を強めた。振り返った男は瑠璃色をした切れ長の目をスッと細め、口元に薄い笑みを浮かべている。


「元気のいい子ぉや。ワイはここの町長をやっとる、チィッと留守にした途端これやもん。たまったもんじゃないわ」

「なぜ、私を、そう呼んだ」

「魔術や魔力をかじっとるもんなら、さっきのが詠唱じゃないことくらいわかるわい。そんならそう言うことやろ、あー別に気にせんで? 別の一族の子やけど特殊なの知ってるし」


 バンダナと口調に、別の一族にいる特殊な子。ここまで揃えば、心当たりは一人だけだ。


「ブルー・カイを知っているのか」

「なしてワイの愛子まなごの事を知ってんや? こことあれを置いてきた村……方向が全く違うやろ」


 今度は、雷斗が警戒される番だった。突き出された剣は咄嗟に払いのけたが続いた短剣がのど笛に微かに刺さり、冷や汗が眉間を伝って行くのがわかる。首筋がぬるくなったのは、流れていく血のせいか。

 凍った瞳は恐ろしくて、同時にブルーのことを大事に思っているのだということがわかり、弱々しい笑みを浮かべながら剣を捨てた。


「私は、あの子の仲間だ。ブルーは今でもバンダナを大切に持っている」

「……そか。すまんなぁ、血が出てしもうたな。仲間言うんならあの子もここにおるんやろう、どこに?」

「他の仲間たちと安全な場所にいる」


 薄く浮かべられていた笑みはいくぶん柔らかなものになっていて、雷斗は町長が押し付けてきた布きれを首元に巻き付けると長く息を吐き出した。そのあいだに気絶する男たちを手際よく後ろ手に縛り上げていて、二人を肩に担ぎ上げたかと思えば凝視されて背を正す。


「残り、雲で運んだってや」

「……は?」

「行くでー」

「ま、待て!」


 残りと言っても、十人は超えている。全員を一人で雲に乗せて一人で運べと言うのか。

 抗議をしたくても、町長はさっさと歩いて行ってしまい、こちらを気にするようでもない。


「えぇい……おのれ!」


 このまま男たちを放置するわけにもいかず、雷斗は頭を抱え込んだ。




「ボンドッツ、そっちは大丈夫?」

「こんな連中に、負けるとお思いで?」

「いんやぁ、全然」


 宿の中にもならず者たちが入り込んできて、ブラックとボンドッツが迎え撃つと同時に外へ飛び出し、侵入して来ようとする男たちの相手をしていた。剣を構えるボンドッツとは反対に、ブラックは素手で立っている。

 魔力で吹き飛ばし、剣を躱して足払いをかけて倒れかける男の体を向かって来る男たちに向けて放り投げ、極力血を見せないように戦うブラックに舌打ちを漏らしながらボンドッツはエペを遠慮なく振るっていた。

 宿の中には美代たちがいる、彼らを守るためならばこんなならず者たちの命、どうなろうと関係ない。


「しかし、多い……。軍の一中隊分は、いるんじゃないですか」

「んー、ダークと雷斗は大丈夫かなぁ」

「えぇい、まどろっこしい」

「ちょいちょいちょい! 殺さんどいてやっ!」


 エペを一度鞘に納め、再び振るおうとした瞬間。水の大蛇が大地を走り抜け、男たちを丸呑みにしていった。突然のことに体は硬直し、独特な口調に目を剥いて声が聞こえた方へと勢いよく顔を向ける。


「ちょお、おどれらる気ありすぎん? 満々やん! あれ、いま毒塗ったやろ!」

「少しは待とうと思わんのか! いくら一族の力を使っていてもこの人数は重いんだぞ!」

「なんやねん、軟弱者が」


 ブルーと同じバンダナをヘアバンドのようにつけた男性が、雷斗の少し前を歩いてこちらに来ているのが見えた。瑠璃色の瞳と波打つ紺色の長髪が特徴的で、口元に浮かぶ薄い笑みのせいなのかひどく冷たい印象を受ける。


「なんや、ここにおるんか」

「……あなたは?」

「兄ちゃん……?」


 頭上からの声に見上げれば、ブルーが窓から身を乗り出していた。その姿を見た瞬間に男性の顔がパッと明るくなり、担ぐ男たちを地面に投げ捨てて両手を広げる。


「おー! ブルーか、ほんまにおったんやなぁ! せやで、おまんの兄ちゃんやでー!」

「兄ちゃん!」

「ちょっと、ブルー!」


 三階の窓から躊躇いなく飛び降りたブルーに美代が手を伸ばしたのが見えたけれど、空を切ったそれに目を丸くして慌てて舞 空 術アラ・ボラルを唱えようとすれば、男性が全く動じることなくしっかりと受け止めていた。勢いを殺すようぐるんと回転しながらブルーを降ろし、脇の下に手を入れ直して軽々と持ち上げる。


「おおきゅうなったなぁ、よぉこないなところまで来た! 元気にしとったか!」

「本当に本当に、兄ちゃんや! もう会えんかもって言うてたのに……また会えた! 兄ちゃん!」


 ヒシッと力強く抱きしめ合う二人に思わずほっこりしかけたが、いまはならず者たちから襲撃を受けている最中だと再び気を引き締めた。

 だけど、なぜだろう。呆れ顔の雷斗に首をかしげていれば、美代たちも宿から出てきて周囲を見渡している。


「町長、終わりやしたぜ!」

「そこそこな人数で来てやがります、良い仕事ですぜ」


 宿の前に、正確には町長と呼ばれた男性の周りにぞろぞろと集まって来たのは町の男たちだった。切り傷があったり打撲傷があったりと交戦の痕が見られる彼らは、慣れていると言わんばかりのいい笑顔だ。


「どアホ共が。こんな連中にボロッボロになりおって。ようもワイの可愛い子を前に血塗れになれたな、えぇ?」

「勘弁してくだせぇよ町長。多勢に無勢ですぜぇ?」

「ぬかせ。どーせあいつが居るいうて手を抜いたんやろ」


 抱えていた心地よい重量が突如消え去り、町長はギロリと奪い取った男を睨んだ。抱えられているブルーはキョトンとしていて、苦笑している美代たちの事を体を捩じりながら振り返っている。


「それはワイのもんやぞ、手ぇ放せ死神」

「お前のもんじゃねぇし、お前の子でも弟でもねぇし。つか何が町長だ藍の」

「もう一回言うたろか。ワ、イ、の、も、ん、や。返せ」


 姿を消していたバーナーが忽然と現れ、町長を威嚇し始めたのだ。一緒に来たらしいダークは白い目で二人を見つめてため息を漏らし、雷斗は雲を消して男たちを落とすと肩をすくめる。


「ざけんな、中途半端な御守りしか渡さねぇ奴に任せられっか」

「そんバンダナを見てちょっかいをかけてくる奴らなんざ、虫やろ」

「随分な自信じゃねぇか藍の。ぶち折ってやろうか」

「おどれなんぞ素手でじゅーぶんや。やったろか」

「あああ、あかんー! なんでバーナーと兄ちゃん、ケンカしてんの! あかん!」


 ジタバタと手足をもがかせてバーナーの腕を抜け、二人の間に立ったブルーはどうにも、気付いていないようだ。彼らしいと言えば彼らしく、美代たちは火花を散らす二人の事を精一杯離しているブルーを温かく見守っている。


「いやぁ、バーナーがあれだけ口が悪くなるのって……」

「どおりで、女性もお子さんも、襲撃に対して冷静なわけですよ……」

「あぁ? なんや死神、おどれここの事を知らんで来たんか」

「町に入ってビックリだわ。そもそも、ブルーのバンダナを見て手厚く歓迎するのはてめぇん所の手下ぐらいだろうが。藍の剣、ヘリュウ・マイムさんよぉ?」


 バーナーが即座に出かけた理由も、奇襲に近い襲撃を受けたのに慌てずに迎え撃てた理由も、ケンカ腰な会話の理由も。


 全てが一言に凝縮されているようだった。


「まー、おどれもここ二、三年は姿も見らんやったしのぉ。あの宝石どもは何を考えとるんか、わからんなぁ?」

「この町には何があるんだ、一国の内部よりも魅力がある何が」

「ほんま、なぁんにも知らんねや?」


 小馬鹿にしたように言いながら放られた小袋を何気なく受け取ったかと思えば、血の気を無くして地面に叩き付けたバーナーを見て、心の底から楽しそうな声をあげて笑うヘリュウに美代は眉をひそめた。固いものがぶつかり合う音にその袋を拾い上げ、そっと口を開いて行く。


「てめぇ……!」

「勘違いすんな、使う気なんざ更々あらへん。あくまで、餌や。こんな害虫からしてみれば甘ぁい極上のミツ、一網打尽に出来て国も守れて、用が済んだら廃棄できる。一石三鳥やと」


 中の宝石を掌に乗せた瞬間に奪い取られ、それは持ち主へと全力で投擲された。

 どこかで見たことがあるような宝石は的確に町長の鳩尾へと埋まり、彼を地面へと沈めていた。それを成したバーナーは青筋を立てたまま牙を剥き、驚きのあまりパクパクと口を動かしているブルーを雷斗の方へと押しやる。


「そんなもん口で言え、火炎族のオイラに向けてそれを放るなんていい度胸だな。命を刈り取られなかっただけありがたく思えよ藍の」

「おぉう……今のは、ワイが、悪いわな……。お前ら、手ぇ出すなや、今のはワイの悪ふざけが過ぎた。得物しまえ」


 プルプルと震えながら立ち上がり、彼は素直に謝罪すると背後にいる男たちに声をかけた。ハッと顔を上げれば各々は武器に手を伸ばしていたようで、美代はそっとブラックの背後へと隠れに向かう。


「今のは、海洋石……?」

「封雷石も封魔石も入ってやがる、これもルビーのアイディアか。害虫どもが寄ってくるように」

「せや。この騎士崩れ共もこれが狙いやったんやろうな、宝石どもの管轄外では戦争があってるみたいやし。物騒やねぇ」

「お前が言うか」


 美代が取り落としたために散らかってしまった鉱石を拾い集め、近くの男性に渡すと何かを耳打ちした。彼は小さく頭を下げるとそれを持ってすぐに立ち去り、数人の男たちがそれに着いて行く。


 特異能力一族のみんなを思っての行動だろう、悪い盗賊ではないらしい。


「てぇことで、ブルーを連れてこの辺を行くなや。五箇条が効くのは同盟国内だけや言うのはわかるやろ」

「悪いが却下だ、進む道は大体決めている」

「んならせめて七日くらい泊まってけ」

「いやいや、ブルーをてめぇの癒しにはさせねぇよ?」

「それは! ワイの! 愛子まなご!」


 声を張り上げて堂々と言い切られた言葉に赤面し、雷斗の懐に隠れながら顔を隠したブルーの頭を撫でてやり、バーナーと町長のやり取りを眺めた。そうこうしている間にたちが周囲を片付けてしまったようで、元のとおり静かな夜が訪れる。


「こんのガンコ者が! 明後日の朝に出発するようにしぃ!」

「チッ、そんくらいなら妥協してやんよ! 感謝しろよ藍の!」

「あー。なんか予定が決まっちゃったねぇ」

「いいんじゃないか? なんだか色々と忙しかったし、ゆっくりさせてもらおうぜ」


 恐らく普段と違うのは、賞金稼ぎと盗賊の頭、もとい町長が滞在期間という不思議な交渉をしているくらいか。

 まさか入った町が、盗賊たちの町だなんて思いもせずに。

 美代たちは苦笑を漏らすことしか出来なかった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 襲撃者たちがある国の兵であることがわかり、遣いをパクスに向けて出すと部屋で一人、酒でも飲んで興奮を収めようとしていたところに客が来た。

 ヘリュウは盛大に舌打ちを漏らすと盃をもう一つ、机の上に乱暴に置くと来客を招き入れる。


「なんや死神」

「夜分遅くにどぉも。上質な土産があるんだ、許せよ」


 と、バーナーが机の上に置いたのはワインの瓶だった。ヘリュウは無遠慮にコルクを空けて大きく息を吸い、鼻で笑う。


「レイリア産のベリー酒か、確かに上物やなぁ。王族の愛飲やったろ」

「あぁ。お前の口には、馴染みやすいだろう?」

「せやな。あの辺はワイのシマやった」


 トクトクとコップに注ぎ入れ、バーナーに突き出した。まさかこの男と向き合って酒を飲む日が来ようとは思いもせずに、美味い酒もマズくなると眉を寄せる。


「……藍の、オイラ達はやっぱり明日には出たい」

「ハッ。おどれにとっちゃあイヤやろうなぁ? 盗賊の町におるなんざ」

「そうじゃない。オイラ達の仲間の一人が……理由はわからないが、魔族に狙われているんだ。長くここにいれば、お前たちに迷惑をかける」

「あぁあ? 魔族? なんでや、そいつなにしたんや?」

「本当にわからないんだ。……先日の交戦では、ブルーが大怪我を負った」


 含んだワインを盛大に吹き出し、間髪入れずにバーナーの胸倉を掴み上げた。首が締まるほどの力に咳き込み、ヘリュウを突き飛ばしてジロリと睨む。


「心配しねぇでも傷跡すら残ってねぇよ! 完 全 治 癒テリオ・リペイを使える奴が二人もいるんだ!」

「問題はそこじゃないわ。なんでそんなことになったのか、や」

「なんでそんなにブルーに構う。どんな気まぐれだ、役人のやつらどころか盗賊どもからも冷酷無慈悲、感情がないんじゃないかとまで謳われたお前が、どうしてあの子をそんなに気に掛ける」


 息を吐き出してイスに深々と座り直し、テーブルの上で紙煙草を巻くと図々しくも火を要求した。苦い顔をされたが大人しく灯してくれたのは心底意外で、紫煙を吐き出しながらわずかに目を閉じる。


「手籠めにしようとして絆された、そんだけや」

「……水瓶にでもしようと思ったのか」

「せやな。おまんも知っとるやろ、ワイが得意な魔術が水系統っちゅーことは。周りに水があれば少しの魔力で威力を上げられるからなぁ。そんならあの一族で地上に出てこられる奴はそりゃあ欲しいわ、しかも五つ、六つくらいのガキで親もおらんときた。そら攫うやろ」


 気まぐれに煙草を勧めてみれば、彼はますます渋い顔をしながらも、紙と煙草の葉に手を伸ばした。慣れていないのだろう葉をこぼしながらもなんとか巻いてしまい、自分の炎で先端に火をつけている。

 静かに煙を吸って盛大に咽たバーナーにゲラゲラと声をあげて笑い、自分の分をサッサと吸い終えて彼からそれを没収した。


「大人ぶるなや、ガキ」

「うるせぇな……。で、どんな気の変わりようだよ、あの子にトレードマークのバンダナを渡したあげく絆された、なんて」

「お前……ブルーの事見て、わからんの?」

「てめぇの思考回路なんざわかるか」

「いやもう、信じられんわぁ。感性がどうにかしとるわ」

「盗賊団の頭を張ってるお前には言われたくないわ!」


 軽蔑するような視線に青筋を立てれば、自分がわずかに吸った煙草の残りを美味そうにのんでいるヘリュウが小さく笑った。片手で目元を覆い隠し、天井を仰ぐ。


「あかんて。あんな可愛い生き物には手ぇ出したらあかんのやて。もー、拾って一日も経たんうちに口調がうつるわ、兄ちゃん呼びされるわ、警戒心が皆無なせいでびーっくりするほど懐かれるわ。そんなん一瞬でも油断したら心持って行かれるに決まってんやん……」

「……庇護欲が刺激された、とか言わねぇでくれよ……?」

「仰る通りです」

「お前の口からは聞きたくなかった単語だよ……」


 思わず机に突っ伏せば、ヘリュウも両肘をテーブルに着いて組んだ手の甲に額を押し付けていた。ちびりとワインで口を湿らせ、流し目でバーナーを見やる。


「そんで、異端者連中はどこを目指しとるんや?」

「……なんにもない場所」

「……おいおいおい、正気ぃ? あんなんおとぎ話やん。お前もやきが回ったんか?」

「うっせ。それを言ったらブルーも雷斗も……ありえねぇ存在だろうが」

「地図上にないどころか子供向けの絵本ですら、ほとんど情報がないところやろ。本気で言うてんの」

「まだあいつらは知らない。オイラが向かおうとしている場所は、何も知らない。……もう一度神話を学ぶ必要があるけど、その前に魔族の問題をどうにかしないと」

「そんな疲れた面を晒して、考えもまとまるかい」


 額に拳をぶつけられ、怨めしそうに見上げれば顔に毛布を投げつけられた。文句の一つでも言ってやろうと体を起こせばグシャグシャに頭を撫でつけられて、何をされているのか理解が追いつかず、目をしばたかせる。


「魔族なんざ脅威でもなんでもないわ。癪やが、どうにもブルーはお前の旅に着いて行かないかんらしい。しっかり休んでいけ、死神」

「あ、藍の?」

「近場で戦争があってんのは間違いない。あと一年、長くて二年すれば落ち着きそうやからそれまでは引き留めたいけど、そうもいかんのやろ。んなら血生臭いのに慣れたお前が気ぃ張らんとな? そんためにも休んでけ」


 そう言って離れたヘリュウはあくびを漏らし、それ以上話すことはないと言わんばかりにベッドに倒れ込むとそのまま寝息を立て始めた。ポカンとしたまま放られた毛布を握り、頬を掻くと目を伏せる。


「……そう、だな。言葉に甘えるぜ、藍の」


 ダイアモンドの元で米酒を飲んだ直後の全力疾走、それから軽い運動をしてから飲んだベリー酒。程よく酔いも回ってきていて、疲労が重なり睡魔が襲う。

 くありと欠伸を小さく漏らして、イスに深く寄りかかり、毛布を被るようにして目を閉じるのだった。



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