表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険記  作者: 夢野 幸
記憶編
63/138

とある町で・1


 その日。


 半日も歩かないうちに町の中へ入ることが出来た一行は、取ることが出来た宿の一室に集まってテーブルの上に形成された山を見ていた。ブルーはベッドの中に潜りこんで怯えたようにそれを見ているし、バーナーは宿の料金を払うなりさっさと出て行ってしまってここにはいない。


「えっと、ブルー? 大丈夫?」

「怖い。なんでワイ、こんなにもろうたん」

「その、心当たりなどはないのか? 率直に言えば異常だぞ、これほどの物品を……好意で押し付けられるのは」

「しらん。しらん。だってワイ、あの村からほとんど出たことないんよ」


 果物や焼き菓子、魚介類を中心とした様々な食料。


 町の人々、みんながみんな。ブラックが抱えているブルーに視線を止めるなり、満面の笑みでそれらを渡して来たのだ。

 挙句の果てには宿代まで不要だと言われて薄気味悪く思っていたところ、バーナーが宿の主に小袋を押し付け、妙に表情を強張らせながらその場を去ってしまった。

 そうして通されたのは、恐らくこの宿で一番いい部屋。いくらなんでも、もてなし精神の度が過ぎている。


「あの村って、ブルーが住んでた村のこと? ここからだと結構距離があるよね」

「じゃあますます、理由がわからないね。なんなんだろう? 大丈夫、ブルー君?」

「うーん……悪意はまったく、ないみたいなんだ。ほら、スノーちゃんもこんな感じだし」

「食べていますねぇ」


 町の人々からもらった桃を、美代に皮をむいてもらって美味しそうに食べているスノーを見てシャドウは苦笑していた。心眼を持つ彼がなんの疑問も持たずに口をつけるということはそれが安全なものだということを証明しているし、シャドウとブラックもそう証言している。


 それでも、理由がわからない善意というものは恐ろしいものがあった。


「スノーちゃん、悪意がないことは解りましたけれど……あまり食べ過ぎてはいけませんよ。バーナーさんが戻ってきたら、夕食を取りましょう」

「バーナーお兄ちゃん、おでかけしちゃったよ」


 と、今度はウサギの形に切ってもらったリンゴを食べながらコトンと首をかしげたスノーに、ボンドッツは困ったようにダークを見た。ブルーも、謎の贈り物に恐怖心を覚えつつも果物は魅力的なのだろう、頭だけを出してじっと見ている。


「ブルーもおいで。元々はブルーがもらったものだし、私も少しかじったけど美味しかったよ」

「……ウサギの形がいい」

「切ってあげるよ、みんなももらっちゃおうよ。バーナーは甘いのは苦手って言ってたし、いつ帰って来るかもわからないじゃん。普段はいつまでに帰る、とか言って行くのに今回はなかったし。もしかしたら今日中には帰ってこないかもね」


 もぞもぞとベッドの中から這いだし、リンゴを要求してきた彼にフォークで刺したまま差し出せば、ぱくりと食いついた。美味しいものは美味しいのだろうふんわりと微笑んだブルーを見て思わず微笑む多数に、美代もクスクスと小さく笑う。


「……なぁなぁ、シャドウ」

「どうしたの、ブラック?」


 サクサクと果物を手際よく切り分けていく美代の事を見つめながら、ブラックが小さく呼んだ。肩に座ってみればどこか嬉しそうな笑みを浮かべていて、コトンと首をかしげてしまう。


「町の人たちの目、なんだか、バーナーやダーク、シャドウの目に似てた」

「……そうだね」


 気付けば手招きをされていて、それに従うようブラックも立ち上がると美代の隣に移動したのだった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


「よ、ダイア」


 すっかり日も沈んで月が見え始めた頃、城壁に囲まれた王都に一つだけある門を固く閉じて当番の部下に見張りを頼み、自室に戻って思わずドアを閉めた。目をしばたかせてもう一度開けてみれば、見間違えなどではなくその姿があり、呆然としたまま中に入った。


「……えっ。死神?」


 戸惑って立ち竦んでいれば、イスに座るよう促された。とりあえず流されるままに座ってみるものの、部屋の主はこちらである。


 平然とそこに座っている青年に思わずため息を漏らして、彼が出しているコップに手を伸ばした。入っているのは案の定、彼が好む米酒だ。


「死神、お前……門を通って来たか?」

「いや、入ろうとしたら門が閉められかけていたから、越えて来た。入国税ならここで払えば問題ないだろう?」

「いやまぁ、確かに最終的には私が預かってから財務大臣に渡すのだが。部下たちだけならまだしも、私も気付かなかったとは……まだまだ修行が足らんか」

「なんかごめんな、だってこんな時間に門番に捕まったら、絶対時間がかかるじゃん。全力で隠れながら来たわ」


 申し訳なさそうに口角を上げながらポンとテーブルの上に置いた金貨は、百ガロン。一人分の入国税だ。


「お前の仲間たちは?」

「今、別の町にいるよ。サピロスとアダマースの境の辺り、ここからは人族ならば、夜通し駆けて三日ほどかかる場所」


 スゥッと細められた目に、バーナーが含んだ意味が判ったダイアモンドは、喉の奥で低く笑った。グイとコップの中身を干せばとろりと喉一面を焼きながら流れていき、吐息と共に鼻から抜けた辛さを感じる香りに口角を緩く上げていく。


「相変わらず、良いものを持っているな」

「ごまかすなよ、ダイア。なんだあの町、二年前はなかったと思うんだけど」

「昨年あたりに、出来上がったものだったか。言っておくが発案者はルビーだぞ」

「なんで一番大人しい雰囲気してるくせに、一番考えることが突拍子もないの、あの姉ちゃん」


 頭を抱え込んだバーナーに思わず吹き出し、ジロリと睨むように見られて酒の礼にと干し魚を渡した。指先に灯された炎で炙ればじんわりと油が沁みだしてきて、ヒョイと口に放り込んでやる。抵抗もなくモグモグと咀嚼する様を見てなぜだか再び笑いそうになり、コホンと咳払いをしてごまかした。


「たぶんルビーも、お前にだけは言われたくないだろうなぁ」

「あー、言わないでくれ否定できん」

「殺し屋のサファイアに、お前たちに壊滅させられた暗殺グループに所属していた私。それから、魔盗賊エメラルド。ほらみろ、よく掬い上げようだなんて思ったな、お前たち?」

「もともと、お前たちの腕を買っていたのはルビーだ。オイラはただ手伝っただけだし、そのルビーを城に引き上げたのはレア女王だろ」

「一役人だったルビーの正義感とカリスマ性を見出して、王族のツテを使いレア女王に進言したのはお前なんだろう?」

「なんでばらしてるんだ、ルビィイイイイイイイ!」


 机に突っ伏して悲鳴を上げた彼は、賞金稼ぎとしての顔ではなくて、十四歳の青年としての表情をしていた。微笑ましく見つめながらも口の中を湿らせて、サファイア色の瞳を夜空に向ける。

 遠くに見える城壁に目付きを和らげて、薄く唇を開いた。


「死神、この国がどういった国かは知っているだろう」

「……移民の国だろ、それがどうしたんだ?」

「魔術の国スラマグトス、闘技の国サピロス、平和の象徴であるパクスに、神話の国レイリア。他の国に比べるとここは、毒物も害虫も入りやすい。入国税を払い、申請次第では国民になれる、同盟五か国への受け皿だからな」


 空っぽのコップに酒を並々と注ぎ入れれば返されて、炙られた干し魚を受け取って口に含めば小腹がだんだんと膨れてきた。バーナーも恐らく、例の町に入ってから何も口にしないままにここまで走って来たのだろう。半分近くを胃袋に納めているようだ。


「毒を以て毒を制す。町に餌を巻けば勝手に虫が寄っていく、それを捕まえてもらっているのさ」

「……あー、まー、あそこのが誰かはわかってるんだけど。また、あいつがよく協力してくれたよな?」

「いつの頃だったか、私がまだ現役だったから……四、五年前の話しか。きっかけは知らないけれど、幾分か丸くなっていたようだぞ」

「ウッソだろ、天敵やくにんの話を聞く程度にぃ?」

「あのバンダナの子、あの子が理由ではないのか?」

「わからねぇ。ただ少なくとも、一因ではあるだろうなぁ」


 賞金稼ぎの彼が訝しげな表情を浮かべるのは仕方がないことか。苦笑しながら瓶を持ってみれば軽くて、短い宴は終いかと少々残念に思いながらコップの中身を見る。あと半分は入っているようで、もう少しならば楽しめそうだと口を緩めた。


「死神、もう夜も遅い。いくらお前でも、そろそろ戻らなくては月が沈む前にはたどり着かないだろう?」

「オイラがいたら、あの町の連中は居心地が悪いんじゃないか? だから今日はここに泊めてもらおうかと思って来たんだけど」

「ふふ、私を頼ってきてくれたのは嬉しいが、心配はいらんさ。お前は今ここで事情を知ったし、あの町長が、お前が来たくらいでぶれると思うか?」


 苦く眉を寄せたバーナーに笑い、腕を伸ばして頭をクシャリと撫でつけた。払われることもなく口を尖らせただけの彼に柔らかく微笑みかけるが、再度夜空を見上げて長く息を漏らしていく。

 先ほどまでは輝く星々が美しく見えていたのに、なぜだろうか。ざわりと胸元が騒いでいた。


「それに……あまりよくない気配がするぞ、死神」


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 月はとうの昔に西へ傾きかけていて、ダークはゆるりと首を振ると小さく欠伸を噛み殺した。不安がっていたブルーは雷斗が安心させるように胸元へ抱きかかえて眠り、別室にいるブラック達も、起きている気配はない。


 仲間を任された身として、何かあってはならないと警戒していたが、心配することはなかったようだ。


 バーナーが帰ってくる様子もないし、眠ろうかとベッドに体を向けた直後に、ドアの向こう側で人の気配を感じた。音をたてないよう近くに歩み寄り、息を殺してドアノブに手を伸ばす。

 静かに、勢いよく開くと外にいた人間がバランスを崩したらしく中に倒れ込み、声をあげさせないよう口元を手できつく塞ぐと短剣を喉元に突き出した。雷斗とブルーが目を覚ましていないことを確認し、男の上に跨ったまま、そっと手を放していく。


「何用ダ、騒グナヨ、アノ子達ガ目ヲ覚マス」

「……オレは宿のもんでさ、お客人。起きていらしたなら話は早い、馬車を用意いたしやすのでここを離れてくだせぇ」


 よくよく目を凝らして見てみれば、確かに宿の受付でバーナーから小袋を押し付けられていた男性だった。短剣の切っ先が喉元に触れるほどに突き付けているにも関わらず、動揺の一つない様子に眉を寄せながらも、剣をしまって体を起こすのに手を貸してやる。


「何カアッタノカ」

「ならず者連中が、近くに来ているとの情報が。そのバンダナの子に何かあったらオレ達ぁ町長からぶっ殺されちまう」

「仲間ガ一人出掛ケタママダ、離レラレン」

「あの男なら何の苦もなくあんたらのことなんて見つけらぁ!」


 決して親しいわけでもなく、バーナーのことをよく知っているような口調だ。なんとなく寝心地が悪くなったのだろう、雷斗が体を起こし、目元を擦っているのがわかる。


「雷斗、マダ眠ッテイナサイ」

「なんだ……なにか、あったのか」


 隣の部屋から響いてきた爆発音に、宿の主人やダークはもちろん、寝ぼけ眼だった雷斗も大きく体を跳ねあげた。ブルーも驚いたのだろう目を覚まし、反射的に雷斗の胴体にしがみついている。


「ダークシャドウボンドッツ起きろ! なんか来る! 盗賊!」


 廊下一杯に反響したのは、ブラックの声だった。ダークは即座に起き上がると剣を手にし、雷斗は混乱しているのか硬直しているブルーの体を抱えあげる。


「盗賊なんかと一緒にすんな、強盗団か騎士崩れだろ!」

「ブラック、ボンドッツ! 美代殿達ヲ守レ、リントシャドウ殿ハ町ノ者ヲ、雷斗ハワシト迎エ撃ツゾ!」

「承知した!」

「迎え撃たねぇで逃げてくんねぇかな、お客人!」


 悲鳴を上げる宿の主人をヒョイと飛び越え、横抱きにしていたブルーの体をブラックに向けて緩く投げた。優しく受け止められた彼は呆然としたまま、長身の彼に背負われているスノーと目を合わせ、ハッと頭に手を伸ばす。


「ブラック待って、バンダナ!」

「ああああもう! 旦那、少年! くれぐれも殺さんでくれよ!」


 窓から飛び出していったダークと、すでに宿の外へと飛び出していた雷斗に向けてなんとも物騒な言葉を投げかけた主人は、棚の上に畳まれていたバンダナをブルーに押し付けるようにしながら駆け抜けた。

 あっという間に喧騒に包まれた大通りへと躍り出た主人の手には、ついさっきまでは持っていなかった斧が握られていて、それを部屋の窓から身を乗り出すように見ていた美代は目を点にする。


「……ブラック、ボンドッツ。へたに外に出るよりも、ここの方が安全かもよ?」

「その、ようですね。ブラックはここで彼女たちを、私たちは女性と子供たちをここまで連れてきます」

「うん、お願い」

「ボンドッツ、その……気を付けて?」


 小首を傾げながら言ったブラックに緩く手を上げて応え、部屋を後にするボンドッツを見送るとすぐに大通りへと目を向けた。夜にも関わらず明るいのは男たちが松明を掲げているせいで、どうにもならず者ではなくて町の人々がそうしているようで。

 小骨が引っかかるような違和感を覚えながらも、美代はただ外を眺めていた。

 



 宿を飛び出したダークと雷斗は二手に分かれ、町の入口の方へと駆け抜ける雷斗の背を守る様、鞘に納めたままの小太刀を握った。道を来ている男たちだけでも数十人はいるようで、思わず舌打ちを漏らしてしまう。


「コンナ時ニ、バーナーハドコヘ……」

「うっわ、派手にやってんなぁ」


 屋根の上から振ってきた声に視線を上げ、振り上げられた大剣を掻い潜って男の鳩尾に拳を埋めた。そのまま更に身を沈めて腕力だけで体を跳ねあげ、その反動で振り上げた剣を背後から向かってきていた槍の男の股座に一撃、正面にいた男の兜に一撃食らわせる。


「エェイ、眺メテオランデ、町ノ者ヲ守ランカ!」

「いやぁ、悪いなダーク……オイラにゃぁ敵と味方の区別がつかねぇんだ……」

「ハ、ア?」


 とりあえず、向かって来る男たちの事は屋根から蹴落とし、周囲を照らすように炎の蛇を走らせ、視線を右に左にと忙しなく動かしているのはわかった。困ったように眉尻を下げて頬を掻き、緩々と首を振る。


「ムリムリ。とりあえず、美代たちが守れればそれでいいかなーって」

「てめぇは見物でもしてやがれ、死神!」


 会話に気を取られ、せまる斧に気付かなかった。痛みを覚悟して剣を握りなおせば男が蹴り飛ばされており、ダークは目を丸くする。

 棍棒を握りながら自分を助けてくれた彼は確か、八百屋のおやじさんではなかったか。


「生意気言ってんじゃねぇぞ、ザコが!」

「てめぇの手を借りただなんてバレたら、町長からぶん殴られらぁ! 黙って見てろ!」

「言ったなこの野郎、オイラの仲間たちにかすり傷ひとつつけてみろ、揃って燃やすぞ!」

「おめぇの事も知らねぇ論外連中に臆すると思ってんのか、こんのガキんちょハンター!」


 まるでゴロツキ共のような言葉の投げつけあいに、ダークは呆けてしまった。なんとなく自分の存在が場違いなような気がして苦くバーナーを見上げ、いつの間にか道に作り上げられている気絶した男たちの山に、自分たちの周りの男を追加する。

 その間にも、おやじさんが口汚くバーナーに縄を要求し、罵りながらも屋根の上から道具を投げつけている彼らの関係性がいまいち掴めない。


「おぉ、そうだ。良い事を教えてやるよ。お出かけだった町長が帰ってきてるみたいだぜぇ」

「そんなことは早く言いやがれこんちくしょう!」

「せーぜー頑張れよ、おかしらにぶっ殺されないようにさ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ