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冒険記  作者: 夢野 幸
記憶編
58/138

格闘の国


 バーナー、ボンドッツ、ダーク、美代の四人で城に向かい、サファイアからもらった木版を見せて中に通してもらうとまっすぐに玉座へと進んだ。


「おお、その方が、サファが言う火炎族、齢十四にして賞金稼ぎを生業としている少年か!」

「お初にお目にかかります、賞金稼ぎバーナー・ソラリアと申します。役人の皆様や盗賊どもには、紅き死神や紅蓮の悪魔と、知られております」


 コートを抱えたまま、膝をついて頭を下げたバーナーに倣うよう、美代たちもそこに膝をついて座った。そうすれば豪快な笑い声が聞こえてきて、バーナーを横目で見つつ、顔を上げる。


「そう硬くなるな、旅の者たちよ! オレは確かに、サピロスの国王としてここにいる。だがな、身分などここではあっという間に覆されるのだ。それこそ今ここで、お前たちがオレを討てば、今度の国王はお前たちよ!」

「勘弁してくださいよ国王、オレはイヤですぜー? 仕事仲間の側近をやるなんて」


 先ほどまでの格好とはがらりと変わり、高価そうな服をきっちりと着込んだサファイアが、玉座の肘掛に寄りかかりながら笑った。彼女も筋骨は発達しているけれど、国王と並べば小さく見えてしまい、立ち上がって降りてくる国王を見上げてポカンと口を開いてしまう。

 身構える時間もなく脇の下に手を運ばれ、軽々と持ち上げられてしまい、美代は目を点にしてしまった。


「こんなに小さな女の子まで、過酷な旅をしていると! いやはや、大変だろう。サファ、宿からこちらに案内してやれ、今宵は宴ぞ、支度をさせい!」

「御意のままに。しかしその前に。死神よ、お前は何用で、私の元を訪れた」


 サファイアが纏う空気が変わり、美代は抱え上げられたまま、バーナーが抱えているコートに目を向けた。彼は静かに頭を下げて、そっとそのコートを開いている。

 魔物は、体を小さく丸めて顔を隠すように眠っていた。国王の腕が緊張したのがわかり、美代は息を殺すよう、バーナーとサファイアと国王を見つめる。


「旅の者、バーナーよ。それは?」

「道中捕獲した、魔物の子でございます。これの処理を頼みたく、サファイア殿を訪ねた次第でございます」

「なんつー土産だ、そりゃあ確かに急ぎの用件だな。えっと、そちらの者たち。名は何という?」

「ダーク・アルス・エレヴ」

「ボードオン・アスカと申します。ボンドッツとお呼び下されば幸いです」


 王族への対応に慣れた風で、二人はわずかに頭を上げながら、それでも顔は伏せたまま静かに名乗った。そろそろ降ろしてほしい、と思いながらも自分を抱えていることも忘れているのか、国王はただサファイアとバーナーを見つめているだけだ。


「そうか。ならばダークとボンドッツよ、お前たちの友人をここまで案内できるか。もし城門前で兵が通さぬようであれば、私の名を出せ。それでも通さんならば私を呼べ、即座に叩き潰してやる」

「スマナイ。ワシハ、ソノ魔物ノ行方ヲ見タイ」


 サファイアの言葉に半ば被せるよう、ダークが顔を上げた。ボンドッツが横目でダークを見ているのがわかり、美代は心配そうに血の気を失っている彼へ視線を止める。


「我が旅の仲間達は、私が連れてまいりましょう。門番も、あなた様の手を煩わせることはありません。バーナーさん、あの手形を」

「頼んだぞ、ボンドッツ。……サファ、頼んだ。国王陛下、そろそろその子を下ろしてください」

「おぉ、軽すぎて忘れておった」


 思ったよりも優しく降ろしてもらい、美代は眠る魔物を覗きこんだ。なんとなく撫でてみると身を捩り、寝ぼけ眼で顔を上げている。


「む、目を覚ますか!」

「その前に、死神」

「あぁ。……美代、ダーク。見るのであれば、こちらだ」




 サファイアとバーナーに案内されて連れてこられたのは、城の地下室だった。なんとなくパクスでの出来事を思い出して目の前の服の端を掴んでしまえば、安心させてくれるよう、大きな手で撫でられる。

 だけど、その手は慣れたものではなくて、美代は慌てて伸ばしていた手を放した。


「あっ、ごめんなさい!」

「構わん、構わん。慣れん者にとって、地下とは不気味なものよ」


 カラカラと笑う国王は、ヒョイと美代を抱えあげて大股で歩き始めた。薄暗い廊下を歩いて行くと仰々しい扉が見え、サファイアが躊躇いなく押し開く。

 地面には白線で何かの紋様が描かれており、燭台がそれを囲うよう、均等に置かれていた。チラリと視線を向けられたバーナーは無言のままに、その紋様の中央へ魔物の子を座らせる。


 寝ぼけ眼だった魔物はハッと顔を上げ、目を見開くと逃げようとして立ち上がった。


 そんな魔物の進行を妨げたのは、不可視の壁だ。


『天に居られる我らが母よ 大気に住まいし精霊たちよ 我ここに願わん 汝らが力合わせりて 迷いし御子に慈悲を与えんことを』


 サファイアの詠唱に合わせて紋様が閃光を放ち、魔物が怯えるように周囲を見渡した。ガタガタと震えながら壁を叩く様はあまりにも痛ましく、美代は国王に抱えられたまま、グッとバーナーの服を引く。

 その時、真っ白な閃光を切り裂くように、真っ黒な光が目の前を走った。ダークの純白の服、それを透かすように何かが輝いている。


「ヌウ……!」

「ダーク、それは」

「おい死神、成功したのはいいが魔方陣がぶっ壊れたぞ」


 真っ白な光が消えた時、魔物は姿を消してしまい、地面にひびが入っていた。紋様、サファイアが魔方陣と呼んだそれは無論崩れており、燭台も数台が半ばから折れるように倒れていた。


「サファよ、これはいったい? これまで、このようなことはなかっただろう」

「えーっと……私では原因をすぐに解明することは難しいでしょう。作成者に訊ねなければ。それに、今の黒い光は」


 視線が集中したダークは胸元をきつく握りしめ、奥歯を食いしばり、深くうつむいていた。向けられる目から彼を隠すようバーナーが動き、だらだらと汗を流している彼に布きれを渡す。


「ボンドッツが戻ってきたら、もうひとつ、話がある。……ダーク、先ほどの光の話も、その時に聞かせてもらっても?」

「………」


 ゆるりと動いた首は、拒絶を含んでいるようだった。困ったようにサファイアを見れば彼女はヒョイと肩をすくめ、イヤな笑みを浮かべる。


「死神とその仲間よ。この魔方陣の破壊にはお前たちに原因があると、そう言うことだな。ならば残念だが、罰を与えなければならん」

「ナッ! コヤツハ、コノ子達ハ関係ガナイ! 罰ナラバ、ワシダケニ……!」

「魔物を転移させる儀式は終わった、お前たちの仲間ももうこちらに着いているだろう。とりあえずは全てを忘れ、食事を楽しみ十分に休んでくれ」


 ダークの言葉を一切無視し、サファイアはニヤニヤと笑ったまま国王と共にその場を後にした。渋い顔をするバーナーが長いため息を漏らし、唇を戦慄かせるダークを安心させるよう、背を撫でる。


「ワシノ、ワシノセイダ……! バーナー、捨テテクレ! ワシヲ切リ捨テレバ、オ前達ニハ迷惑ヲ!」

「心配するなよ。ひとまず上にあがろうぜ、ほら、お前がそんな顔をしていればみんなが不安に思うだろう? 大丈夫だからさ」


 血の気を失うダークを押すよう歩きだしたバーナーの後ろを、壊れた魔方陣を振り返りながら、美代も歩き出すのだった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 宴の席は、実に賑やかなものだった。


 酒瓶を片手にバーナーの隣へ陣取ったサファイアの顔を鷲掴みにしてカップに注がれかけたのを阻止し、そうされた彼女が力任せにバーナーの手を引きはがして取っ組み合いを始め、食事の席で一体何を、と国王を見てみれば楽しそうに笑っており。

 十人以上が座ってもまだまだ席が余るテーブルに、机が見えなくなるほどの料理が運ばれてきて舌鼓をうちながら。


 美代は、食事が始まってすぐに姿を消したダークを静かに探していた。


 今食事をしているところは、普段はパーティー会場として使う場らしく、バルコニーにつながっていた。取っ組み合いに勝利したらしいバーナーがサファイアを床に組み敷き、国王からの拍手を受けて手を放す。

 そうして美代と同じようにバルコニーへ目を向けたバーナーが、殴られて赤くなった頬を擦りながら歩いて行った。

 懐に忍ばせている羽根に目を向ければ仄かな光があって、美代はサファイアからもらったベリー酒に口をつけながらダークとバーナーを見つめた。


「ダーク、気を落とすなって」

「……バーナーヨ、オ前ニダケナラバ、話セル。先程ノ光ハ、コレガ原因ダロウ」

「ネックレス? そんなものをつけていたのか、服の下に隠して」

「……コレハ、恐ラク、ボンドッツ達モ知ラン。魔力石ダ」

「持ち主の魔力を増幅させる鉱石、だったか? オイラはこの旅で、どれだけの噂を実証できるんだろうな」

「ワシハ、コレヲ奪ワレタラ、オ前達ト共ニ居ラレナイダロウ。例エ皆ガ許シテクレタトシテモ、周囲ガ許サナイ。ソレハ嫌ダ、絶対ニ。ダガ、ソノセイデ……」

「なに、罰の予想もついている。だから心配するな、中に入ろう」


 手すりに力なく寄りかかったままのダークは、ゆるりと首を振り、深く顔を伏せた。

 視界の端に何かが動き、二人に集中していた美代は顔を上げた。サファイアがバーナーの隣に立ち、バシバシと背中を叩いて、再びバーナーと取っ組み合いを始めている。

 だけれど二人の口がボソリと動き、すぐに止めて、ダークを引っ張る様にして宴の席に戻ってきた。なにが起きているのか不安なのだろう、言葉数が少なくなっているブルー達へと簡単に事情を説明する。


「楽しい席の最中に、すまない。国王陛下、今度はサファイアと、役人としての話をしても構わないでしょうか」

「む? 構わんぞ。オレはこんなにも可愛い子供たちと食事が出来ているだけでも十分に楽しい、騒ぎが入れば最高の肴だ。さぁ死神よ、話してみるがいい!」

「感謝いたします。ダーク、あの袋を出してくれ」


 声を掛けられたダークは首をかしげたが、すぐに空 魔 箱マジック・ボックスを開くと鉱石が入った袋をバーナーへ渡す。

 それにあまり触れないようにしながらサファイアに放り投げれば、苦も無く受け取り、すぐに中身を確かめる。


「お前が泳がせていた盗賊たち。事情を知らずに退治して鉱石を回収していたのは、オイラの仲間だった」


 ピクリとサファイアの眉が動き、バーナーを見る目が鋭くなった。それに動じることもなく彼女を見つめ返し、細く息を吐き出す。


「……この鉱石、オレが把握できていた数よりも随分少ないようだ。理由は?」

「……オイラが砕いた」


 ボンドッツが身を乗り出し、バーナーが手を伸ばして止めた。ビリビリと肌を刺さんばかりに空気が緊迫し始め、美代はニヤニヤと笑っている国王をわずかに見上げる。


「死神。回収された後この鉱石はパクスに集められ、レア女王とルビーの管理下に置かれ、浄化の後に砕かれる。それを知ったお前が、自らの判断で破壊したと。そういうことか」

「あぁ。そういうことだ」

「バーナーさん、一体なにを!」

「ならば魔方陣の件も含め、相応の罰を与えねばなるまい」


 顔を歪めて立ち上がろうとするボンドッツを抑えるも、彼からあふれ出す殺気までは抑える事が出来なかった。冷や汗を浮かべながらサファイアとバーナーを見てみても、二人はどこか涼しい顔をしていて、心眼を持つブラックやスノー、シャドウもあまり心配そうにしていない。


「国王陛下、私の独断でも?」

「任せた、オレには向かん」

「どちらの案件も、バーナーさんは無関係でしょう! 言葉の真偽を確かめその後に罰則するのが役人の仕事ではないのですか、なぜ彼を! するならば、私たちを」

「事情を知らずにやった行為と、事情を知ったうえでやった行為。その罪を知らずにやった行為と、知ってやった行為。それを対等に扱えると思ってんならお門違いだ、当然罰の重さも変わってくる。

 それを貴様が受けるというのか。身の程を知れ、小僧が!」


 サファイアの咆哮に唇を歪めて痙攣させるよう薄く開いたボンドッツに、美代は慌てて彼の口を塞いだ。苦笑するバーナーに目を伏せたダークを見て、サファイアは鼻を鳴らすように笑う。


「紅き死神、バーナー・ソラリア。転移の魔法陣の破壊と業務の妨害、鉱石の無許可の破壊。それらへの罰としてスラマグドスへ向かい魔方陣の作成者と接触し、私の元まで護衛任務を行え。文句は受け付けんぞ」

「……想定外」

「文句は、受け付けんぞ」

「想定外! お前のことだから見世物をやれって言うと思ってたのに!」

「普段ならそうしとるわ! クッソ忙しい時に来やがって、闘技場はしばらく予約でいっぱいだよ!」

「あいつの! 護衛は! イヤだああああああああ!」

「わかってるからこその罰だろうが、ボケ!」


 頭を抱えて悲鳴を上げたバーナーに、張り詰めすぎて息苦しくなっていた空気がプッツリと切れてしまった。どうやらその作成者のことを知っているらしく、テーブルに突っ伏して深いため息を漏らしている。


「なんでそんなに立て込んでんだよ……!」

「オレにも業務がまともにこなせん期間があるわ。明けに来たのはそっちだろーが」

「なんてこった」


 罰、という割にはサファイアもバーナーも声に真剣さがなく、ただ仕事の話をしているようにしか聞こえなかった。それを感じ取ったのだろう強張っていたダークの表情がようやく和らぎ、ボンドッツも殺気を収める。


「あぁ、スラマグドスまでは男たちだけで行けよ」

「な、なぜです」

「美代お嬢とバンダナの嬢ちゃんたち、それに坊やとチビ介はここで留守番な。金髪青年とボンドッツとダーク、そっちのでっかいのは死神と一緒に行ってやれ。一人で行かせたら死ぬぞ、そいつ」


 なんて危険な場所に行かせるのかと立ち上がり、何かに引っかかってブルーを見た。彼もフォークを咥えたまま首をかしげ、隣の雷斗とサファイアを交互に見ている。


「サファイアさん」

「どうした、美代お嬢」

「バンダナの?」

「嬢ちゃんたち。……じゃねぇの?」

「ワイは! おとこー!」


 ブルーが主張するように勢いよく立ち上がり、手を上げた。驚いた風にサファイアと国王が凝視し、雷斗が意味ありようにうなずき、ボンドッツが苦笑する。


「ずーっと、娘さんだと思ってた!」

「なんと、男児だったか!」

「ブルー、悪気はないのだが……まぁ、そんなものだ」

「まぁ、その、すみません。私も行動を共にし始めるまでは、そうだと……」

「さて、ブルーと言ったか。もっと食べて大きくならねば強くなれんぞ! さぁ、料理をあの子の前へ!」

「あかんー、いらんー! もうお腹いっぱいやぁ!」


 鼓膜を殴りつけんばかりの拍手と共に料理が目の前に運ばれて、ブルーは雷斗の背中に隠れるよう椅子から飛び降りた。その様子を見て国王もサファイアも楽しげに笑い、未だに突っ伏したままでいるバーナーの背を遠慮なく叩く。


「ったぁあ! ちったぁ加減しやがれ!」

「お前が相手だからしないんだろ! ほらほら、出発は明朝、日の出を終えたときだ。なぁに、何の苦労もない任務さ。お前たちはただ死神が困った時に、少しだけ手を貸してやればいい。

 否と言ってもいいんだぞ? これはあくまで、オレが死神に与える罰だからな」


 乾いた笑みを浮かべて力なくイスにもたれかかっているバーナーを見て、否と言う者はいなかった。表情を引き締める面々を見て口角を吊り上げるように笑い、拳を握って指を鳴らしたサファイアは、心の底から楽しんでいるように見える。


「それじゃあ。つまらん話を国王陛下に聞かせてしまった詫びだ、もう一回戦やろうか、死神!」

「ちょ、おい、サファッ……結局かあああああい!」


 襟首を掴まれて引っ張られ、国王の前に連れていかれるバーナーの悲鳴もなぜだろう、楽しそうに聞こえて。

 再び、腕比べが始まるんだろうなぁと温かい目を浮かべながら、美代はベリー酒を飲み干した。


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