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冒険記  作者: 夢野 幸
記憶編
55/138

家族のような


「……ダークはオイラと手合わせをしてくれていたから、仕方がないとしてだ。ボンドッツとリンはどうしてお金を使ってないんだ?」


 昼食を終え、夕食までの自由時間のために、バーナーがそれぞれの残額を確認していた時のこと。

 手が付けられていないらしい二つの袋に、二人を見た。ボンドッツとリンは顔を見合わせると眉を寄せ、ゆるりと首を振っている。


「やはり、私たちはそれを使うことができません」

「えっと、ブルー君。バンダナをありがとう、でもいいの、他に欲しい物なんて……」


 全てを言い終える前にバーナーが袋を投擲し、ボンドッツが咄嗟にリンを庇って二つの袋を抱え込むようにして受け止めた。なにを言う前に仏頂面のバーナーから二人そろって首根っこを掴まれて、窓から宿の外に放り出されてしまう。


「なんか欲しいものを最低一つ買ってくるまでは中に入れないからな」

「は」


 反論する前に、窓の鍵を閉められてしまった。玄関に向かってみてもこの短時間で出て来たらしいバーナーが腕を組んで仁王立ちしており、睨みつけるように凝視してくる。

 他に変わったことがあると言えば、袋を手に呆然と佇むダークがいるくらいか。


「……まさか」

「……マサカ、コンナ理由デ、放リ出サレル日ガ来ヨウトハ」


 宿の方を見てみれば、ブルーが雷斗を連れてやってきた。彼らもまた小遣いをもらっているのだろう、小袋を手にしている。


「リンー! 一緒に行こう!」

「あっえっ」


 雷斗の手を放し、あれよあれよという間にリンの手を取って出店の方に行ってしまった。動揺するボンドッツの肩を掴んだのは雷斗で、ブルーとは反対方向に進み始める。


「ら、らいと、さん」

「あの頑固者がすることだ、何かを買うまでは本当に入れてもらえんぞ? 瞬間移動術レガ・ハラフを使おうものなら、また追い出されるだろうよ」


 ズンズンと進んで行く方向は、確か焼き菓子などが売ってあった場所のようで。

 はてさて自分はどうしようかと、ダークは宿の入り口を塞ぐように立っているバーナーに困ったような視線を送ってしまい。

 行けと言わんばかりに顎を突き出されて苦い表情を浮かべるのだった。




「なんなんですか。あなた方、一体なんなんですか」

「えぇい愚痴るな、そもそもバーナーの好意を無下にしたのはお前たちだろう、大人しく甘えていればいいものを」


 両袖を合わせたまま不機嫌にシワを寄せているボンドッツに対し、雷斗も微かに舌打ちを漏らしていた。それが聞こえたのだろうか、ますます目を怒らせていくボンドッツは、前を行く雷斗の襟首を掴む。

 十センチ近くあるはずの身長差は舞 空 術アラ・ボラルにより、すっかりなくなっていた。


「甘えられるものか! ほんの最近まではあなた方と敵対していたのに、私たちよりっ……弱い、くせに! どうして無防備に受け入れられる!」

「言ってくれるじゃあないか。未熟だとは思っているが、弱いつもりは更々ないぞ。私の大切な者たちを裏切ろうものならば、その時は慈悲の欠片もなく焦がしてやるさ。……最も、殺生は好かんからな、そうならんことを祈るよ」

「意味が判らないんですよ。美代さんもバーナーさんも、ブルーさんだって! もっと疑ってしかるべきだ、私たちは疑われて忌まれて当然なんだ、どうして……!」

「あぁ……お前たちは、他人から与えられる好意が不思議でならんのか」


 襟首を掴むボンドッツの手を優しく払い、舞 空 術アラ・ボラルで宙に浮く体をギリギリと下に押し付けた。肩に置かれた手が痛かったのか、思ったよりも大人しく地面に足をつける。

 それでもジロリと、雷斗の事をにらみ上げた。


「自分のために使いたくなければリンのために使ってやればいいだろう。あの子は、甘味は好きか?」

「……これまでの生活では、木の実くらいしかありませんでしたから」

「私もブルーとスノーに買ってやろうと思ってな。三十ガロンもあれば大抵のものは買えるだろうさ」


 依然として不可解そうな表情をしながらも、リンのため、という言葉が気にかかったのだろう。

 結局雷斗の後について、出店までの道を進んで行くのだった。




「サァテ、バーナーヨ。『欲シイ』物ヲ買ッテキタゾ。付キ合ッテモラオウカ」

「マジかよ」


 帰ってきたダークが空 魔 箱マジック・ボックスから取り出したのは、様々な種類の酒瓶だった。口を薄く開いて笑うダークに対し、露骨に嫌な表情を浮かべながらため息交じりに空 魔 箱マジック・ボックスを展開する。


「オイラと考えがダブるなんてよ?」

「……ククッ、小僧ガヨウモ、持ッテオル」


 テーブルの上に並べられるのは、果実酒や穀物酒、ワインの瓶らしきものも見えた。それらの飲み物と同時に出されたコップは二つ。


「夕食の後に」

「アノ子達ニハ、刺激ガ強イダロウカラナ」

「私たちは、その中には入んないの?」


 部屋いっぱいに広がる色んなアルコールの香りに、美代は眉を寄せていた。ブラックはベッドの布団で丸くなり、自分も酔っぱらってしまいそうだと隣に潜りこむ。頭だけは出して二人を見れば、苦笑していた。


「あー、同室だ、許せ」

「少しくれるなら」

「フフ、アマリ多量ニ飲ムデナイゾ?」

「はーい」


 さて、バーナーとダークがどうして酒盛りを始めようとしているのか、その意図はつかめないままだけれど。

 楽しい席になりそうならばそれでいいかと、小さく笑うのだった。




「バーナーよ、また少しボンドッツと出る」

「うん? どうした」

「夕方に買おうとした菓子がな、焼けるのにしばらく時間がかかると言われていたのだ」

「なるほどな。気を付けて行っておいで、あんまり遅くならないうちに帰るんだぞ」


 雷斗に軽く肩を打たれ、ピクリと眉を動かしながらボンドッツも着いて外に出ている。


「美代とリンは、風呂を作りに行こうか。イフリート、入浴の間、二人のことを頼んだ」

『ピャー!』

「ダークはここを頼んだ」

「承知シタ」


 ぎくしゃくしているような、互いに互いをけん制しているようにも見える雷斗とボンドッツに苦笑しながらも、バーナーは美代とリンを連れて村の外へと向かうのだった。




「おや、来たねぇ。焼けてるよ、おまけしてるから持って行きな!」


 お菓子屋のおばさんが楽しそうに笑いながら雷斗の背をバシバシと叩き、両腕でやっと抱えられるほどの袋を渡してきた。支払いは先に済ませていたので礼を言って店の外に出ると、少し離れたところまで歩いてからボンドッツが雷斗の腕を掴む。


「どうした」

「どうした、じゃありませんよ! ツッコまさせていただきますよ、なんですこの量! 注文した倍の数、ってレベルじゃないじゃないですか!」


 記憶が正しければ買ったものはクッキーで、リン、ブルー、スノーへと五枚ずついきわたる様にしたはずだ。

 なのにどうして、雷斗が両腕で抱えることになるのか。


「ボンドッツよ。次はいつ町に入れるのか、わからんのだぞ? 空 魔 箱マジック・ボックスの中に入れておけば傷みもしないだろう。それに、余計に注文していたのは確かに私だが、あの女性の好意も含まれている」

「それ、でも……あああ、もう! あなた、空 魔 箱マジック・ボックスを使わないのでしょう! 入れておきますから!」


 運べない重さではなかったけれど、ボンドッツがサッと術を唱えて腕一杯の菓子を入れてしまった。礼を言おうとしてもサッサと歩いて行ったために背中しか見えず、肩をすくめて着いて行く。


 宿の玄関が見え始めた時。

 耳をつんざく泣き声に、二人は足を止めていた。


「な、なに」

「ブルー君の、ばかあああ!」

「リンの、きかんぼううう!」


 互いに顔を見合わせた、次の瞬間。


 脱兎のごとく宿に突撃し、泣き声の元まで駆け抜けていた。廊下で顔を赤くしながらワンワンと泣き叫ぶ二人に、ボンドッツはリンを、雷斗はブルーを背に庇う。

 しがみつくようにして泣き叫んでいるブルーを宥めるよう頭を撫でていれば、殺意が籠る視線を感じ、同じような視線を送り返していた。


「いったい、なにが?」

「知るものか。私だって今まで、お前と共に居ただろう!」


 ボンドッツの口の端が歪むように痙攣し、雷斗の指が微かに閃光を放った時だ。

 二人の間にあるドアがゆっくりと開き、腹を抱える美代が出て来た。深くうつむいている彼女に、体調でも悪いのかと手を伸ばしたけれど、それよりも先にボンドッツが美代の胸倉を掴んでしまう。


「ボンドッツ、きさま……」

「お部屋に居られたのならば、二人の涙の理由をご存知ですよねぇ。宿の外まで泣き声が聞こえていたのに」

「外、までっ……! ぶふっ」


 噴出した美代に、眉間のしわを深くすれば、部屋の中からも音が聞こえてきた。慌てて立ち上がったような、あるいはイスが倒れたようなそんな音。

 これはほぼ確実に、ダークかバーナーが中にいる。それなのにどうして、こうなるまで放って置いたのか。

 非難の意を込めて出て来た彼女を睨みつけていれば、目尻の涙をぬぐいながら深呼吸をしていた。


「ごめんごめん……部屋の中から、話しを聞いてただけなんだけどね――」


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 リンと一緒に丸太のお風呂に入ったあと、彼女と別れて部屋に戻れば、すでに二人が酒を嗜んでいた。ツマミの代わりだろうか、一口サイズの干し肉が置いてある。

 アルコールの香りが苦手らしいブラックはすでに頭まで布団に潜っており、美代は少し考えて、バーナーとダークの間に座った。差し出されたのはリンゴの香りがするもので、とりあえず一口飲んでみる。


「わぁ、甘い」

「果実酒ダ、アマリ飲ンデハイケナイヨ」

「果汁みたいなもんだって、グイグイいっちまうらしいからな。オイラは好かないが」

「甘いものは得意じゃないって言ってたもんねー」


 バーナーとダークの手にあるのは、恐らくウィスキーだろう。氷も入れず、ストレートでヒョイヒョイとコップを空けていく。

 そんな二人を見ながら少しずつ味わい、干し肉をかじってみた。しょっぱさとリンゴ酒の甘さが妙にミスマッチで、思わず顔をしかめれば、目の前にチーズが置かれる。


「酒だけはお勧めしないからな、干し肉が合わないならこっちを食べな」

「チーズとリンゴって合うの?」

「クリームチーズならうまいぞ」


 話をしている間にも空いた相手のコップに酒を注ぎ、注がれ、干していた。なんとなく様子がおかしいそれに、美代はチーズを口の中で遊ばせながら静かにうかがう。


「……少しは慣れたか」

「ソチラハ、ドウダ?」


 ピリッ、と走った緊張に、美代も二人を交互に見上げた。口の端は笑っているのに瞳は探るように真剣で、転がしていたチーズを、音をたてないよう噛み砕いでコクリと飲みこむ。


「見てのとおり。雷斗がまだ警戒している、というよりもオイラや美代も含めて、地上の者に対しての警戒心が元々強かった。早々は、解けないかもしれない」

「ボンドッツ、アヤツハ人ノ事ヲ、正面カラ見ルノガ、ドウニモ不得意ダ。……何トモ言エンナ」

「どうする。もしあいつらが、喧嘩を始めたら?」

「……状況次第、ダロウヨ。オ前ハ?」

「とりあえず、あいだに入ってやるしかないだろう」


 素面で話が出来れば一番いいんだろうに、二人にはそれが出来なかったようだ。ダイアモンドが以前言っていた言葉を思い出し、目を伏せる。


「飲ませねばならん時もある……かぁ」


 なぜだろう、甘いはずのリンゴ酒が、苦く感じた。


「リン―、ありがとねー」

「バンダナを買ってもらったお返しだよー」


 ドアのすぐ外から聞こえた会話に、三人は視線を交わして耳を澄ませた。ピタリとやんだ足音に、そこで立ち止まったらしいことがわかる。


「お手入れの道具……ボンドッツ、喜んでくれるかなぁ?」

「喜んでくれるよぉ! せやぁ、これもあげるよ!」

「えっ、だってブルー君、それはバーナー君にって買ったお手入れの」

「よぉ考えたら、いるんやったらバーナーが自分で買ってるもん。それよりもダークが使った方がええよ!」


 美代とバーナーの視線が集中し、ダークはベッドに立て掛けている自身の愛刀を見た。ウィスキーをグイと飲み干して、頬杖をつく。


「素直に喜べよ」

「……慣レテオランノダ」

「バーナー君って、すごく優しいね。始めは、すごく怖かったの」

「うん。ワイもね、ちょっと怖かった」


 笑いそうになったのを、チーズを食べてごまかした。ダークが無言でバーナーを小突けば、渋い表情で口の端を弛めており、チビリと米酒を舐めている。


「みんな優しいの。だってあたし達、たくさんひどい事をしてきたのに。雷斗君だって、転びそうになった時にすぐに気付いて、手を伸ばしてくれたの」

「ボンドッツもよ、岩があって危なかった時、支えてくれたんよ」


 バーナーやダークの心配をよそに、リンとブルーの会話は平和だった。部屋に招き入れてやろうか、それとも部屋に戻るように促すか、考えている間にもふわふわとした声は続いて行く。


「ダークも、夜に起きてしもうて眠れん時に、ずーっと頭撫でてくれたんよ」

「バーナー君も、美代ちゃんがすごく心配で怖い夢を見て起きちゃったとき、温かいミルクをくれたんだよー! 粉ミルクって、すごく高いはずなのに……。すごく美味しくて、嬉しかったよ!」

「オ前、ソンナコトヲ……」

「まぁ、賞金稼ぎなんてやってりゃあ、余るほどに金が手に入るからな。お前の方こそ」


 お互いのコップが空っぽなことも気付いていないように、外の会話に集中していた。そっと美代がウィスキーを注いでみても、ちらりとも見ない。


「それに! バーナー君、すごく大きな獣を狩ってきてくれたじゃない!」

「ダークはワイがお肉を苦手なん、気付いてくれて、小川なんかで魚を獲ってきてくれるんよ!」

「雷斗君が、ボンドッツが寝ずの番をしてる時に起きてくれてるの、知ってるんだよ!」

「ワイとか雷斗とかが歩き疲れたりしたとき、ボンドッツが気付いて歩く速さを遅くしてくれるんよ!」

「お二人さん、あれ止めなくていいの?」


 なぜだか口調が荒くなりつつあるリンとブルーに、美代はドアを睨み続けている二人の腕を突いた。そこで初めて、グラスに酒が注がれていることに気が付いたのだろう、揺れた液体に驚きながらも零さないよう、口をつけている。


「いや、ケンカ……じゃないからなぁ」

「シカシ、ドウニモ、ムズ痒イ……」


 そうこうしているうちに、リンがスノーのことを褒め始め、ブルーがシャドウの話題をだし、かと思えば再び雷斗とボンドッツの話が始まる。

 仲間同士、褒め合いをしているはずなのに、口論のように聞こえてくるのはどういうわけなのだろう。


「そろそろ、止めるか……」

「ブラックも! 強くてカッコよくて背が高くて、お兄ちゃんみたいやん!」

「だってあたしたちのお兄ちゃんだもん! 美代ちゃんはっ」


 初めて、二人の声が止まった。ダークとバーナーに見られ、美代が息を殺すようにして耳を澄ませる。


「……お姉ちゃん?」

「お姉ちゃん! すっごく強くて、ワイらを守ってくれる、でもワイらが守らんといかんお姉ちゃんやぁ」

「オ姉チャン……」

「ちょーっと、二人の方が私より年上じゃなかったっけ? そんで止めに行くんじゃなかったの! なに笑ってんのさ!」


 立ち上がりかけていたバーナーがテーブルに突っ伏し、ダークが顔を手で覆い隠して、揃って肩を震わせた。外に聞こえないよう小さくテーブルを叩いてみても、二人は声を押し殺して笑うばかりだ。


「じゃあバーナー君はお父さん! 強くてカッコよくて、ちょっと怖いけどすごく優しいの!」


 口に入れた酒を、危なく噴き出すところだった。ダークが足で小突けばバーナーがチラリと睨み、コップを一息で空けてしまう。


「それなら、優しいしキレイで、笑った時がすーっごく柔らかいし! ダークはお母さんや!」

「ぶっふ……!」

「お、おかあ……!」

「いいじゃない! お母さんはいるけど、お父さんはいないんだよ!」

「ええやん! とと様はおっても、かか様はおらんのよ!」

「否定シテクレ、リン!」


 悲鳴のようなダークの訴えに、美代もとうとう撃沈した。ダークが耳まで真っ赤に染めて、顔を隠したまま天井を仰ぐのを見て、バーナーも拳を固めて必死に声をあげないよう、唇を引き締める。


「よう……お母さん、くっ……」

「産メンワ!」

「止めて、止めてダーク……! 笑い、死んじゃう……!」


 部屋にいる三人のことなどつゆ知らず、ブルーとリンはお父さんだのお母さんだの言い続けていた。ある種の苦行だと思い始めた頃、再び状況が動いたのを感じる。


「ばな……バーナーどうしよ、あれ……泣いて、ない?」

「お前……息、吸えてねぇっ……」

「泣キ始メタゾ、アノ二人! モウ頼ム、誰カ止メテクレ!」

「ブルー君の、ばかあああ!」

「リンの、きかんぼううう!」

「うっそだろ! 仲間の褒め合いでガチ泣きし始めた!」

「あっははははは!」


 ついに、ベッドに顔を押し付けて笑ってしまい、バーナーも声を漏らし始めた。直後殺気を感じて鋭くドアの外を見れば、ボンドッツと雷斗の声が聞こえてくる。


「おいおいおいおい、やばいぞ!」

「ナニモ知ランアノ二人ガ、コノ状況ダケヲ見タラ、喧嘩ジャスマン!」

「美代、行け! お前が一番ダメージが少ねぇ!」

「ヤダよ! 絶対笑うじゃん!」

「ワシラガ行ッタラ、父母呼ビハ確定ダロウガ! 行ッテクレ!」


 と。二人から背を押され、ドアの外に放り出されたのだ。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


「……ていうのがまぁ、私が聞いてた話で……」

「お姉ちゃあん!」

「姉ちゃんー!」


 涙が少し落ち着いたのか、顔を上げた二人が懐に突進してきた。受け止めてやればふわりと桃の香りがし、一緒にアルコール特有の匂いも鼻を突く。


「あらあら。果汁と間違えて、お酒を飲んじゃったの?」

「リンがね、バンダナのお礼やーって、飲み物をくれたんよ!」

「あー、お酒と普通の飲み物が一緒に置いてあったからねぇ、ここのお店」


 ポンポンと背中を撫でてあやしながら顔を上げれば、しょっぱい顔をしたボンドッツと雷斗がいた。互いに視線を合わせて頭を掻き、とりあえず美代を抱きしめている二人の体を剥がしにかかる。


「ケンカだったら、止めないわけがないでしょ?」

「まぁ、そうですけれど……」

「だいぶ、掻い摘んで話したけど、もーっと色々言ってるからね? ぜぇんぶ言ってあげようか、全部」

「いや、結構です!」

「私たちのこのむず痒さと笑いたいのに笑っちゃいけない苦しみ、共有していかない?」

「ぜひ遠慮させてもらう!」


 そう言って逃げるようにブルーを部屋に連れて行った雷斗の首筋は、赤くなっていた。どさくさに紛れるように、リンを連れて行くボンドッツも振り返らなかったことを見れば、きっと同じような表情をしていたのだろう。


「……さてさて。しっかりしすぎている人たちの心配は、どこへやら。ってところかねぇ?」




「……バーナーヨ」

「どうした」

「ワシラノ心配ハ、無用ラシイナ」

「……そうらしい」


 廊下での会話に、頬やら耳やらを赤くしつつ。

 二人はそれを酒のせいにしてしまい、コップに残っているウィスキーをあおるのだった。


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