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冒険記  作者: 夢野 幸
ニルハム編
43/138

通じた弁明


 ようやく美代の熱が下がり、歩いて回れるようになるまでに六日を要した。


 その間に、あまり長く空けられないからとダイアモンドがアダマースに帰り、ルビーがパクスへ戻ってしまったけれど。

 サファイアとエメラルドは急いで国へ帰る必要もないからと言って、残ってくれていた。


 魔力により調合された薬草はバーナーが持っていたハチミツで甘い味付けにされ、摂取しやすいように飴玉に加工してもらっていた。コロコロと舐めているだけで風邪薬となるらしいそれを、これから発熱した場合に使おうといくつか購入しようとして、紅蓮のとの縁だからと両手いっぱいに受け取ってしまう。

 いったいこれから先、何度熱を出せば消費できるのだろう。と口角を引きつらせたが、他の人が熱を出した場合にも使えるだろうとありがたく貰ったのだ。

 

 旅館を出るとき、サファイアとエメラルドに見送られ、近くに来たときには国に寄ってくれればいくらでも宿を貸すと激励を受けた。


 攫われた件については、バーナーから先に謝罪を受けてしまい、美代は詳しい事情を説明することもなく頷いてしまった。なんとなく罪悪感を覚えながらも、説教を受けずにすむのならばそれが良い、とごまかしてしまう。


 ついでにウィングにもなれるようになっていて、美代は何気なく変身するとそのまま街を後にしていた。バーナーからは止めておけと言われたが、一週間近くベッドの住人になっていたのだ。体を動かせるだけ動かしたいと思うのは仕方がないことだろう。


 これから向かう方角を相談するために、バーナーは地図を広げて雷斗やブルーと何かを話していた。なにかを話しているかまでは、ほとんど耳に入って来ない。


(どうしてリンは、看病してくれたんだろう。ダークはどうして、苦しそうな顔をしていたんだろう。あいつらの目的が全然わからないや)

「ウィング―、オイラの話、聞いてるか?」


 バーナーに小突かれ、目をしばたかせた。ごまかすように笑うと長いため息をつかれ、頭を掻く。


「悪い、違うことを考えてた。てか、オレはこのままでいいの?」

「ダメだっつっても、そのままでいるんだろ。ここからはいくつか山が続いてるんだけど、谷を行くよりも山越えをした方が進みやすい。から、その前に保存食や水分の確保なんかの準備をするぞ。って話をしてたわけだ」

「りょーかい。ま、山登りもいいけど? その前に……お客さんの相手をしてやらないとなぁ?」


 ウィングの軽い口調にバーナーは目を鋭くし、雷斗とブルーは周囲を見渡して、ブラックは上を見た。ウィングの視線も同じところを向いており、羽根を握ると剣に変える。


「初めましてだな、ボンドッツにダーク」

「……あなたが、ウィングさんですか。お話しは伺っております」

「そりゃあ光栄なこった」


 横に並ぼうとしたブラックをドンと突き飛ばし、目を丸くする彼に口角を上げながら迷いなく竜巻を起こす。

 上空に飛んでいるボンドッツやダークも巻き込んで風の中に閉じ込めたが、二人は驚くことも戸惑うこともなく、静かにウィングのことを見ていた。彼らはすでに臨戦態勢にあるけれど、自身も今ならば存分に風を使って、戦うことができる。


「ウィング、何を考えているの!」

「風を治めろ! 一人で戦うのか、無茶だ!」

「バーナー、とりあえずそいつら連れて行ってくれよ。……オレなら大丈夫だって」


 風のせいで近づけないのだろう、遠くから聞こえてくる声は焦燥にまみれており、クスクスと笑いながら彼らの言葉を聞き流してバーナーに話しかけた。


「何を根拠にそう言うのやら」


 呆れた静かな声音は、何となくわがままを聞いてくれているようだった。言い方を変えれば、言っても無駄だと放って置いてくれているらしい。


「特にないな。まぁ、そっちは頼むぜ」

「ウィング! 止めてっ……」

「バーナー、何を考えて!」


 声だけしか聞こえないが、ブラックの声が途切れたところから考えると、バーナーが彼を気絶させたのだろう。まぁ彼ならばこの程度の風の壁、あっけなく壊せるだろうからありがたい。

 地面を蹴る音がいくつか聞こえ、それが遠くなるまでウィングは竜巻を消さなかった。ボンドッツとダークの二人は地面に降り立ち、揃って剣を構えている。


「……なぁ、ちょっといいか」

「なんでしょう、よかったのですか? お一人で。こちらは……ブラックとの戦いで削られた魔力は万全に回復していますよ、戦えるのです?」

「戦う分には構わないんだけどな、一つ相談があるんだが――」


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 首筋に蹴りを入れて気絶させたブラックを背負い、嫌がるブルーの手を引いて、バーナーはただ走っていた。雷斗もスノーを背負って後ろからついて来ており、どこか隠れる場所はないか目を運ぶ。

 そこに見えた洞窟に飛び入り、呼吸を整えながらブラックを横たえた。気を失うブラックを冷たく見据えているブルーに、目を閉じて深くうなだれる。


「なぁ、バーナー。ワイにはもう、わからんよ。なんでそんなに、ブラックのことを守るん? 大切に、するん? どうして……何も、教えてくれへんの!」


 大粒の涙をボロボロと零し、きつく握った拳を震わせ、嗚咽を飲みこむようにして叫んだブルーに雷斗も同意するよううなずいた。バーナーはブラックの髪にスルリと指を通し、くりくりとした目でジッと見上げてくるスノーを膝の上に抱きかかえる。


「オイラが話そう。美代は……言い訳じみた説明はしたくないからと、この話はしないと言っていたけど。それで二人が、納得が出来ないことは、良く解る」


 だけれど、シャロムでの出来事を話した結果、どう転ぶのかはわからない。

 ふと、小さな冷たい手が自身の手に重ねられ、バーナーはチラと下を見た。膝に乗せているスノーがしっかりとこちらを見上げ、ニコリと笑う。


「……ありがとうな、スノー。雷斗、ブルー、座ってくれ。オイラと美代と、ブラックのことを話そう」


 膝に抱えた子供から少しばかりの勇気を貰い、バーナーはゆっくりと口を開いた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 街を離れ、森の中でウィングはひたすらに、ボンドッツやダークが放つ術を躱していた。時折振るわれる剣はどうにか剣に変えた羽根で受け止め、風を使ってそらし、たまにはと自分から剣を突き出してみる。

 これまでほとんど剣術など教わったことがない剣筋はあっけなく読まれ、手から取り落としてしまわんばかりに勢いよく弾かれた。痺れた手に無理やり力を込めて握り込み、背後から迫ってきていた炎の珠は体を限界まで反らしてなんとか避けた。


――オレ達の問題なんだから、別の場所に移動しないか。ここで戦ったら街の人たちに迷惑をかけるし、一晩どころか七日近く世話になった人たちを困らせるのは気が引けてさ――

――なんです、そんなこと。まぁいいでしょう、どうせあなたを倒さなければ、風により道を阻むのでしょう? 戦えればどこでも構いませんよ――


 こうして二人の相手をしながらも、ウィングは街の前での会話を思い出していた。グッと眉を寄せ、突き出されたボンドッツの剣かろうじて弾く。


(本当ならこいつらは、オレの頼みを聞く必要なんてなかったんだ。ボンドッツは特に、簡単に人を殺せる程度には他人のことを嫌っている……なのにどうして)

「考エ事トハ、余裕デハナイカ!」


 ダークがいつの間にか鞘を逆手に持っており、ボンドッツが放った歪 舞 地ソル・ロンドを避けるためにジャンプし、着地した直後の脛をめがけて思い切り打ち付けた。

 肉がほとんどなく、骨と皮ばかりのそこに打ち付けられた硬い鞘にウィングは声のない悲鳴を上げ、脳天まで突き抜けた激痛に地面へ足をつけておくことが出来ずに無防備に倒れ込んでしまった。受け身を取る余裕もなく地面に顔面を強く打ち付け、両手で押さえて悶絶する。

 顔も痛ければ足も痛い、どちらを抑えればいいのか判らずに体を小さく丸めて、不明瞭な声をあげながら小刻みに震えてしまった。


 ようやく動きを止めたウィングに、ボンドッツは肩で息をしながら全身に被った土を払い、フルフルと頭を振った。髪の間にも土埃が入り込んでいるようで、ひどく心地が悪くてギリギリと眉間にシワを寄せていく。


「いくら街を離れたからと言って、メチャクチャにしすぎでしょう……!」

「ワシラガ言ウ事デモナイガ、加減ヲ知レ、加減ヲ!」


 一切の遠慮なく放たれた竜巻や突風、カマイタチにより、地面は抉られ木々は折れ、まるでここら一体だけ戦争が起きたかのようになっていた。ダークも呆れながら顔と脛を抑えて苦しむウィングを無理やりに立たせ、無事な木の幹に体を押さえつける。


 腕を押さえつけて手首をひとまとめにし、枝の高いところに結わいつければ、ウィングはその場から動くことが出来なくなっていた。頬と額を赤くしながらも不敵に笑う彼に、ボンドッツが剣をしまいながら舌打ちをする。


「なんだよ、オレを捕まえてどうすんの?」

「先ほど、美代さんがいらっしゃらなかった代わりに、あなたが居ましたね。彼女はどこにいるのです?」

「あー、尋問される感じ? さぁなぁ、風は一か所に留まらないから」


 何気なく言ってみれば、ボンドッツはキョトンとしていた。ウィングも思わず同じようにキョトンとした表情になってしまうが、ニヤリと口角を上げて目を細める。


「おやぁ? オレの言葉がわからないご様子で。比喩だよ比喩、わかる? もしかして、比喩がわからない?」


 からかうような口調に、ボンドッツの眉がピクリと動いた。ダークがその背後で苦笑しながらジリジリと後ろに下がっていき、剣を収めてそれに寄りかかるよう、立っている。


「ハハッ、あいつは自由な風だ。そんな自由人が一か所にいつまで滞在しているわけがないだろって言ったんだよ。なんだボンドッツ、頭が固いんだな?」

「……なんですって」


 声のトーンが低くなり、アクアマリンの瞳が冷たく光った。


 だけどなぜだろう、その後ろにいるダークが困ったように、見方を変えれば楽しげに笑っているせいか、全く怖さを感じない。


「怒るなよ―、短気だなぁ。短気は損気って言うだろう? あ、意味わかる?」

「わかりますよっ! なんですあなたは、ご自身の立場がお解りになっていないようですね! 我々に敗北し、捕えられて尋問を、答えないようであれば拷問を受けようとしているのですよ!」

「だーかーらー、怒るなってば。さっき比喩がわかんなかったじゃん? 親切心だって」


 軽い口調で返答すると、ウィングに詰め寄ってきた。胸倉を掴まれたところで美代の時とは違い、今は自分の方がボンドッツよりも背が高い。腕を頭上で固定されているために体を引っ張られることもなく、舌をチロリと出して声をあげて笑った。


「人を馬鹿にして、何が楽しいのです!」

「馬鹿にしてるつもりはないけど、からかうのは楽しいよ?」

「それを馬鹿にしているというんですよ!」

「本当に、馬鹿にはしてないつもりなんだけどなぁ。あ、じゃあ答えてごらんなさいよ、五千三百六十五かけることの、三千三百十九は?」

「……はぁ?」


 ウィングが羅列した数字に訝しげな視線を向けたボンドッツに、そう言えばこちらの世界での学問レベルはどうなっているのだろうと今更ながら首をかしげた。しかしダークが剣の切っ先で地面に何かを書いているのが見え、掛け算はわかるのだろうと判断する。


「一千七百八十万と、六千四百三十五だ」

「……は?」

「正解ダナ」

「……嘘だ! 書かずに計算できるものか!」


 信じられないと言わんばかりに叫んだボンドッツを見て、ウィングはケラケラと楽しげな笑い声をあげた。そんな彼の事をギロリと睨み、口の端を震わせて胸元に指を突き付ける。


「そんなに笑うのならば! 十かけることの五足すことの八割る四、更にかけて五十五!」

「百六十」

「……う……?」


 即答され、ボンドッツは言葉に詰まった。チラと助けを求めるようにダークを見てみれば小さく頷いており、声なき悲鳴を上げているのが良く解る。


「ほらほらー、五かけることの三十かけることの、九十一。更にかけて五千かける零かける二は?」

「わかるわけがないでしょう! あなた、そんなバカげた数字、答えを出せるんですか!」

「零にしかならんよ。一回復唱してみ? 零には何をかけても零にしかならないから」


 投げやりに答えたボンドッツに向けて意地の悪い笑みを浮かべてみれば、彼はビシリと固まって、ウィングが言った数字を口の中で繰り返した。言葉を無くして硬直している彼に堪えられず吹き出だせば、ボンドッツが肩を震わせて拳を握る。


「腹が立つ……!」

「お前の年齢は知らんけど、十二のオレに負けてんぞ」

「しかもあなた、私より三つも年下なんですか! ウソでしょ!」

「お前年上だったの。ほれほれ、それじゃあまだまだ遊べるな?」

「ますます腹が立つ人ですね!」


 激化する口論じみたものを、ダークは腕を組んで遠くから見守っていた。


 何やらウィングに難しいことを問われ、必死にそれを考えて答えると今度は自身が問いかけて、即答される。落ち込む間もなく問答を持ちかけられて、負けまいとして目を白黒させながらどうにか答える。

 ただそれを繰り返しているだけなのに、楽しんでいるように見えていた。先ほどの計算式を即答できるウィングならばもっと難しいことを問いかけられるはずなのに、それをせず、笑いながらボンドッツが答えるのをジッと待っているのだ。


 止めもせず、本来の目的から遥か遠ざかっていることも告げずに、ダークはあくびを漏らして眺めるのだった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 シャロムでの出来事を一通り話し終えた時には、雷斗は目を伏せてブルーはしゃくり上げるようにして泣いていた。そんな彼を励ますよう頭に手を置いて、優しく、力強く撫でてやる。


「ワイも、そんなにバカやないよ。話してくれれば……ちゃんと、わかるつもりよ! だって、ブラックのせいだけじゃないやん! 酷いことしてきたの、ブラックのせいだけじゃ……!」

「そう言ってくれて、ありがとう。ごめんな、もっと早く話すべきだったんだ。少なくともこいつが仲間に入った時に話すべきだった。……美代に遠慮して、話せなかった」


 布きれでブルーの目元をポンポンと触れる程度に拭ってやり、バーナーはスノーを降ろすと立ち上がった。どうしたのかと視線を上げれば、彼は背伸びをしながら顔を洞窟の外に向けている。


「さて、帰りが遅いな。迎えに行ってやるか」


 その言葉に二人は息を飲んで立ち上がろうとし、頭を抑えられて拒まれた。頭をクシャクシャに撫でてくる大きな手は暖かくて、二人はそっと、彼の手を握ってしまう。


「オイラ達が戻って来るまでに、落ち着いておけよ。ちゃんと……泣き止んでおいてくれ」


 掌に邪魔をされてバーナーの表情はわからなかったけれど、そう言う彼の声音も苦しそうだった。頭から手が離れて顔を上げてみればすでにバーナーの姿はそこになく、ブルーは眉をハの字に寄せたままブラックを振り返る。


「……ブラックはちゃんと、美代はんとの約束を、覚えてたんやね」

「捕らえられ、記憶を奪われようと。……それだけは、忘れたくなかったのだな」


 辛そうに表情を歪めながら眠っているブラックの髪にそっと触れ、額に浮かんでいる汗を拭ってやり。

 ブルーは再びポロリと涙をこぼして、彼の傍にうずくまった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 肩を上下に動かして呼吸をし、互いに眉間のしわを深くしながら睨み合っているボンドッツとウィングは、どうやら小休憩に入ったようだった。そこでようやく傍に寄ってきたダークに、ボンドッツは体を捻って振り返る。


「ソレデ、美代殿ハ?」

「……あ」


 すっかり忘れていたらしい彼は恨めしそうにウィングを見つめ、再び声をあげて笑い始めたウィングにため息をつくと地面に尻をつけた。深呼吸をして足を投げ出し、ダークに向かって苦笑する。


「忘れていました。なんだかもう、疲れてしまいましたよ」

「あーあ、お迎えが来たみたいだなぁ」


 残念そうに言ったウィングに二人が視線を向けてみれば、スッパリと縄を切って自由の身になっている彼がいた。ニヤリと口角を上げたかと思えば体に風を纏い、一足で遠くに行ってしまう。

 どうやらバーナーがこちらに向かってきていたようで、ウィングはヒラヒラと手を振ると彼の手を握って走り去ってしまった。まるで突風のような出来事に、身動き一つ出来ずに呆然と見つめてしまう。


「……オ前達、先ホドハ、楽シソウダッタナ?」

「どこがですか!」


 思い出すように呟いたダークに、ボンドッツは噛みついたのだった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 バーナーの体もまとめて風で覆いこんでいたウィングは、二人の姿が見えなくなってからようやく立ち止まった。すごく楽しそうな表情をしている彼に、バーナーは怪訝に眉を寄せてしまう。


「あんな拘束、すぐに外せただろ。何をしてたんだ」

「ボンドッツと遊んでた」


 縛られた跡が微かに残る手首をプラプラと動かしているウィングは、満面の笑みを浮かべていた。そんな彼に水を刺すような事を言うのはなんとなく気が引けるけれど、バーナーはため息交じりに小さく話す。


「あいつらにシャロムでの事を話した。オイラとお前とブラックのこと」


 スッと笑顔が消え失せて、表情を無くした彼の胸板に、バーナーは拳を軽くぶつけた。


「二人ともわかってくれたぞ。納得してくれた、話してみないことには信じてもらえるかどうか、わからないだろう? 少なくともブルーはこれで、ブラックのことを敵として見ることはない」

「結果論だろ。ま、いいけどな。……今はどこに?」

「こっちだ」

 



 山のふもとの岩陰に、その洞窟はあった。さほど大きすぎず、それでも野営する場合には六人がゆっくり休めるだけの広さがあるらしい場所は、きっとバーナーが見極めたのだろう。


「バーナー、ウィング!」

「無事やったんやね! 心配したんよ!」


 勢いよく抱き着いてきた二人の体をしっかりと受け止め、ウィングは歯を見せるように笑った。一度抱きしめると離れて美代に戻り、大きな背伸びをする。


「大丈夫! ちょっと顔を擦りむいて、両足の脛に痣が出来たくらい? ……あ、思い出したらめっちゃ痛い」

「だ、大丈夫なんか! 治療……痣の治療ってどうしたらええのん! ブラック、ブラックゥ!」

「平気だってば! ほら、またブラックは気絶してるでしょ、起こさないの! めっ!」


 混乱しかけているブルーの体を押さえつけ、美代はバーナーを見上げた。ヒョイと肩をすくめて美代の頭をクシャリと撫で、背中を押すように洞窟の中へと入って行く。


「今日はもう、ここで休もう。ブルー、肉が続くけど大丈夫か。雷斗は鶏肉なら大丈夫だな?」

「え? あ……うん。大丈夫よ! ワイ、ちゃんと魚以外のものも食べれるもん」

「私も問題ない。というかバーナーよ、やはり我らが食べられるものをわかっていたな?」


 何の話だろうと首をかしげるが、一族により主食となるものに違いがあるのだろうと思い立った。

 それもそうか、海中で牛肉を食べているわけもない。


「まぁな。今日はこれから、陽が暮れるまでは自由時間。あまり遠くに行きすぎない程度にな」


 相変わらず保護者のようなことを言うと苦笑し、美代は脛をさすりながら、自身の我が儘のせいで気絶させられてしまったブラックの傍に座るのだった。


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