~閑話~ 雷斗とブルー、風呂場での約束
浴場を後にしたバーナーの軌跡をぼんやりと見ていれば、バシャリと水が跳ねる音が響き、雷斗はそちらに視線を移した。寝ぼけ眼のブルーが水風呂の中に座っており、目を擦って辺りを見回している。
「んぅ……らいと? なんでワイ、はだかなん?」
「ここはお風呂場だよ、バーナーがお前を水風呂に沈める前に、服を剥いでしまったんだ」
「そうなんかー。すごく、ゆっくり眠れたわぁ……」
欠伸を漏らし、背伸びをしているブルーに、雷斗はわずかに眉を寄せた。
元は海中に住む彼だ、地上で生活するのには慣れているようだが、それなりに体の負担があるのだろう。
かく言う自身も、出身地に比べたら体の動かし難さはどうしてもあった。もっと早く慣れるためにはどうすればいいのだろう、と思考の波に流されかけた直後、冷たいものに体を触れられる感覚に肩を跳ねて目を丸くする。
「わぁ、雷斗も筋肉あるなぁ!」
「ちょ、ブルー! 冷たいっ! どうしたんだ、急に!」
「バーナーは膝によう座らせてもらうから、カッチカチなのわかるけど。こうして見ると雷斗もすごいなぁって」
水風呂から出たばかりの冷たい、ブルーの小柄な手と細い指が、胸板から肩口、腕へと這っていく感触に、雷斗は背を震わせブワリと毛を逆立てた。思わず浴槽の縁に尻をペタンと床に付けて座り込んでいる彼の腰元を両手で掴み、温かい湯の中へと引きずり込む。
何の問題もないとはわかっているのだが、彼が水を飲んでしまわないように頭を胸元へひきつけてやり、冷たい体に湯をかけて温めていった。ブルーはキョトンとしながらも今度は雷斗の腹部へ手を運ぶ。
「一族の体質らしくてな、ワイにはあんまり、筋肉がつかんらしいのよ。バーナーは火炎族やし、賞金稼ぎをしてるから、わかるんけど。雷斗も筋肉ついとるなぁ」
「……ブルー、よそでは、他の者がいるときにはこういうことをしてくれるな……?」
「なんで?」
小首を傾げるブルーに、雷斗は思わず両手で顔を覆うと天井を仰いでしまった。
裸で男子二人が体を触りまわるのは、正確に言えば片方が片方の体を触りまわるのは、周囲の目には怪しい関係に見えてしまうだろう。から、よせ。
というのを、今の言葉でくみ取れなかったブルーに説明していいのかどうか、悩むところだ。そうこうしている間に膝の間へ入り込み、足の付け根から膝のあたりへ指を這わせていくのを止めてほしい。と心から願うばかりである。
「わ、私とてそこまで筋肉質ではないだろう?」
「雷斗もあるよぉ。一応ね、ワイも地上で生活してるから、一族の他の人よりついてはいるはずなんやけど……」
口を尖らせながら眉を寄せ、自分の体を触りはじめたブルーに、わずかばかりホッとしてしまった。ルビーが貸切にでもしてくれていたのだろうか、他に人が入って来ることがなくてよかったと胸をなで下ろす。
「強くなりたい……」
男子にしては長いまつげを震わせながら目を伏せ、ポツンと言ったブルーに、雷斗は視線を向けた。悲しそうな、苦しそうな表情で俯いている彼の両手をそっと取り、下から顔を覗きこむ。
「ならばブルー、一緒に強くなろう」
「雷斗は強いよぉ。だって、魔術、使えてたやん」
「いいや、私もまだまだ弱い。自分自身を、他の者を守るためにはもっと強くあらねばならない。だから、共に強くなろう」
曇っていた表情がパッと明るくなり、大きく頷いたブルーに、雷斗は微笑んだ。さりげなくブルーから離れると彼の隣に座りなおし、図らず冷えた体を温め直すよう、肩まで湯に浸かる。
「だけどな、ブルー。人にはどうしても得手不得手がある。あまり無理をしない程度に」
「頑張ろうな、雷斗!」
「冷たいっ!」
水風呂から出た時のままよく冷えた頭髪が、抱き着いてきた反動で顎と首の間に押し付けられて、思わず飛び出た悲鳴は風呂場一杯に反響していくのだった。




