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冒険記  作者: 夢野 幸
ニルハム編
34/138

戸惑い


「ルビー、あなたが共に来て下さったおかげで、遠征も無事に終わりそうです。無理を言ってレイリアから呼び戻してしまい、ごめんなさい」

「女王陛下のめいとあらば、私はいつでも駆けつけましょう」


 緑色の瞳を柔らかく弧を描かせながら、ルビーと呼ばれた女性は女王を乗せた馬を引いていた。漆黒の短いマントが風になびき、薄い金色の髪が揺れる。


「しかし、今年は結界の魔力が切れるのが例年に比べ早かったように思います」

「えぇ……だけれど、フフッ。今年の花は、少しばかり質がいいみたいですよ。これならばより魔力を込められるでしょう」

「女王陛下の魔力も、昨年に比べたら磨かれております。まぁ……ノノの口から知人の名が出たのには、少々驚きましたが」

「ルビーのご友人なのでしょう? あなたの周囲には、頼もしい方が多いですね」

「あなた様のおかげです。ただのしがない一役人を、ここまで引き上げてくださったのですから」


 ルビーと女王の会話に護衛の兵はどこか温かい目を二人に向けていた。

 しかし不意に、ルビーの目が鋭くなった瞬間に、彼らは腰に下げる自分の得物へと手を伸ばしていた。それを慌てて片手で制し、羽ばたいて来るものを凝視する。


「炎の鳥、誰かの使い魔ですか」

「イフリート……?」


 宙を切る様に飛んできたその鳥の名を呼ぶと、彼は高らかに鳴き声を上げてルビーの肩口に滞空した。刹那にマントの端をついばまれ、眉を寄せる。


「ルビー、その子は?」

「先ほど名が出た者の使いです。イフリート、お前の主人はどうしたんだ? 長く顔を見せなかったじゃないか、近くにいるのか? まさかあいつに限って、なにかあったなんてことは……」


 最後の言葉に、声高く答えた。ルビーは手綱を傍にいた兵に渡し、女王に向けて頭を深く下げる。焦りが見えるその表情に、馬上の彼女も表情を引き締めた。


「申し訳ございません。どうやらこれの主人に何かがあったようで、あいつに何かあったとなればただ事ではないのでしょう」

「えぇ、お行きなさい。私たちも国へはあと半日もあればたどり着けるでしょう」

「ありがとうございます。さぁ、イフリート。お前の主人の元へ案内しておくれ」


 イフリートは紅玉のような瞳を細くしてうなずき、翼を広げて来た道を飛んだ。それを追いかけるよう、見失わないよう。ルビーも地面を力強く蹴っていくのだった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


「美代、大丈夫か。寒くはないか」

「だいじょぶ……。バーナーの膝の上温かい。大丈夫」

「雷斗はだいじょうぶ? 寒くない?」

「なんともない、平気だよ」


 美代がバーナーの膝の上で丸くなり、雷斗はブルーの肩に頭を預けるようにして目を閉じていた。薄暗い地下牢で、バーナーの炎だけが温かい。




 ブラックから瞬間移動術レガ・ハラフで飛ばされた先は、だだっ広い庭だった。理解が追いつかないままに多数の兵隊たちにより取り押さえられ、手枷を嵌められてしまった事実に美代たちは言葉をなくし、ただ茫然と流れに身を任せるほかないと思っていた。

 バーナーだけは現在地と何が起きているのかを瞬時に察したらしく、一番立派な鎧を着た兵に女王への謁見を申し出ていた。そこで初めて、ここがどこかの国の中で、あげく城の中庭に来てしまったのだと把握できる。

 重なった不運と言えば、女王が外出をしていて戻って来るまでに三日から四日かかる、と言われたことだ。バーナーの顔が引きつり、ならば法にのっとった対応を求めると言葉を続ける。


 何者かもわからない集団を、たとえ子どもだろうと謁見はさせられない、今は護衛長もいないから、危険物を野放しにしておくわけにはいかない。


 そう言われ、それ以上の問答も無用だと言わんばかりに地下牢へ押し込められたのが三日前だ。


「スノーだけでも、保護してもらえてよかったよね……」

「バーナー、どうするん? いつまでここにおるん?」

「今、イフリートが出てるからな。そろそろ女王も戻る頃だし、護衛も戻る」

「いつの間にイフリートを飛ばしてたの?」

「勝手に飛んでった。いや、基本的にはオイラの意を汲んで行動してくれるんだけどな? たまにあいつ、こっちの指示を聞かないで行っちまうんだ」


 使い魔としてそれでいいのか、主人がそれを気にしていなければそれでいいのか。


 なんとなく疑問に思いながらも、美代は牢屋の外をぼんやりと見ていた。顔色を悪くしている雷斗の額にそっと手を乗せ、不安そうに眉を寄せるブルーの頭を優しく撫でる。


「――留守を頼んだとは、確かに言っただろう! だが、それはあくまで法に従っての話だ。女王でさえ自身が定めた法に縛られるこの国で、貴様らは何をしている!」

「うおー、帰ってきた瞬間から怒られてやがる。あのクソ兵士」


 女性の怒鳴り声が地下牢いっぱいに響き渡り、突然のことに美代は体を跳ねてしまった。カツカツカツッと強い足音はこちらに近づいてきており、その女性の前にイフリートが姿を見せる。


「お帰り、イフリート。お疲れさま」

「そして、お前か! イフリートがこちらに飛んできていたから、まさかとは思ったが!」

「よ、ルビー。早速だけど副護衛長のこと、ぶん殴っていい?」


 鉄柵越しに緑色をした右目を丸くしているその女性は、左目が刀傷で潰れていた。隻眼の彼女はバーナーを見るなり指を突き付けて叫び、反対にバーナーは軽く手を上げて物騒なことを言っている。


「どうしてこんなことになっているんだ、死神! そもそもお前は今までどこにいたんだ? 二年ものあいだ姿を見せないで!」

「色々あったんだよ、色々。まぁあれだ、ちょいとした事情で中庭に出ることになってな? 事情も説明させてもらえずにぶち込まれた」

「端折り過ぎだ、わけがわからん」


 即座に地下牢から解放してくれたその女性、ルビーは四人に深々と頭を下げ、慌てたように客間に通してくれた。

 何が何やらわからないうちに温かい食事が準備され、スノーとも無事に合流することが出来てようやっと息をつく。


「まことに申し訳ないことをした。だが、どうか大目に見てやってはもらえまいか、ここ数年は国の結界が弱まるのが早く、警戒が高まっているのだ」

「んーと、ここはどこなの? あなたはいったい? えと、死神って?」

「ここはパクス、こいつの名前はルビーで、役人でありパクスの護衛長でもある」


 美代の問いかけに答えたのはバーナーだった。料理の中から魚をブルーに取り分けてやり、鶏肉を雷斗に渡している。


「死神とはまぁ、役場で知り合った仕事仲間とでも言っておこうか……うん? おい、バーナーよ、お前はこの者たちに話していないのか?」

「話していない、が、まぁ隠すほどのことでもないか」

「じゃあバラしてやろう。こいつの、賞金稼ぎとしての二つ名だ。紅き死神バーナー・ソラリア、盗賊でこの名を知る者は、そこそこの実力者か。紅蓮の悪魔と言う名の方が新参盗賊には知られていたよな?」

「とりあえず、お前らがつけたその紅蓮の悪魔ってーのはあんまり気に入ってねぇんだけど。死神の方は盗賊どもから言われ始めたから仕方がないとして」


 ルビーと軽口を叩き合っているバーナーの表情はどこか楽しそうで、以前盗賊や人売りと戦った時の彼を思い出してみた。

 どちらとも、ほぼ一瞬で片付けられていた。これは単純に、バーナーが強いという理由の他にも、ああいった連中との戦いに慣れていた。ということだろうか。


「しかし死神よ、お前は本当に二年ものあいだ、いったいどこでなにをしていたんだ?」

「……それはキチンとした場で、話すことにするよ。恐らく、レア女王の結界が弱まるのが早い理由にも関わるだろうからな、女王を交えて話をしたい」

「承知した、なれば明日の昼頃に謁見の場を設けよう」


 地下牢から出されてお腹いっぱいになり人心地がついたのか、スプーンを持ちながら船をこぎ始めたブルーを膝の上に抱えてやり、その向こう隣を見てみればスノーが雷斗に抱えられていた。ルビーはそれを微笑ましく見ながら毛布を渡し、バーナーをチラと見る。


「して、法を破り、子どもだとお前を侮ったあの者たちへの罰はどうしてやろうか?」

「あー、第何条第何項だったか……いかなる罪人であれ裁判前は公平な態度を保ち、その裁きが成されるまでは他の民と同じ目線で見よ。と、いかなる罪人であれその人権を尊重し、それを侵害することは何者も許されるものはないと心得よ。この二つを何も見ないで言えるまでしっかり叩き込め」

「あいわかった。私の監視の元、そこの条文全てを一文一句違えぬまでしっかりと叩き込んでやろう」


 ニヤリと口角を上げて笑いあう二人は、事情を知らない者たちが見てみれば悪戯っ子たちが何かを企んでいるようにしか見えないのに、事情を知ってしまえばどこか背中が涼しくなるようなものだった。


 とりあえず心の中で兵士たちに合掌し、風呂に入るよう促されて、美代はルビーに連れられて行った。バーナーはどうやら城内はわかるらしく、ブルーを抱えたまま雷斗のことを案内している。

 

 ルビーの後ろを歩きながら、捕まった時にはあまり見ることが出来なかった城の中を眺めてみた。レッドカーペットを敷き詰められた廊下は、ほんのりと青みを浴びた大理石で作られており、汚れ一つなくピカピカに磨かれている。

 首を直角に上げなければ見えない天井からは、どういった原理なのか仄かに発行している黄色い宝石が釣り下がっていた。


「……フローライト……?」

「ほう、よく一目でわかったな」


 独り言のつもりが返事をもらい、既視感を覚えながら驚いてしまった。ルビーが優しい笑みを浮かべ、肩越しに振り返っている。


「なかなか、わかる者はいないぞ」

「あ、ありがとうございます……?」

「そう硬くならずともいい、明日は死神が女王陛下と謁見の予定だから城内に部屋を準備させよう。緊張をしていると、休めんぞ」


 するりと髪の毛を滑らせるように頭を撫でられ、美代はわずかに視線をそらした。ルビーと言う名とは違う、まるでエメラルドのような瞳に映る自分を見るのはひどくこそばゆい。


「さて、浴場まではもう少しだ。お主が出たころに迎えにあがろう、ゆっくりと体を温めてくれ」


 そう言って微笑んでいるルビーは絵画のように綺麗で、すでに体が温かいのを感じて。

 気が付けば前を歩き始めていた彼女の背中を慌てて追いかけるのだった。




「バーナー、バーナーあれはいいのか。ものすごく不安なのだが、あれでいいのか」

「大丈夫だっつーの、お前もブルーの出身は知ってるだろ? 一般の宿ならやらせねぇけど、あれくらい迷惑料の一部にもならんさ」


 浴場につくなりブルーの服を引っぺがし、眠ったままの彼を水風呂に沈めたバーナーは、サッサと体と髪を洗い、炎で髪の毛を乾かすと浴槽に浸かっていた。雷斗はブルーとバーナーを交互に見ながら激しく動揺し、浴槽の前でオロオロと彷徨っている。


「さすがに服は剥がせてもらったけどな。雷斗も入れよ、放電に気を付けろ。スノーはあっちのお水のお風呂に行っておいで」

「バーナー……?」

「銀世界の住人は熱さに弱いんだ、住人によっては他一族の肌の温度で火傷を負う奴らもいる。たぶん水風呂で、調度良いくらいだ」


 水風呂の中で気持ちよさそうに目を細めていたスノーがヒョイと顔を上げ、バーナーのことをジッと見つめた。なにかと思って気付かないふりをしながら視線を向けていると、スノーはトコトコとこちらに近寄ってくる。

 

 何の躊躇いもなく抱きつかれ、バーナーは目を見開いて咄嗟にスノーの体を雷斗に向けて突き飛ばした。反射的な出来事でも力加減はしっかりなされていたため転ぶようなこともなく、雷斗がスノーの体を支えるが、少しばかり批判の色を乗せてバーナーのことを睨む。

 湯船の奥の方へ行って自分たちから遠く離れ、すっかり血の気を失っている彼に、抗議の言葉もどこかへと飛んで行ってしまった。


「す、スノー! お前、何を……!」

「ゆ……バーナーお兄ちゃん」


 パッと自分の体を見せたスノーを見て、バーナーは長く息を吐き出した。クシャリと髪を掴み、苦笑する。


「そうか……そうだったな、お前も、ガーディアンだったよな」

「お兄ちゃん、だっこ!」

「大丈夫なんだな? オイラがお前に触っても、大丈夫なんだな?」

「……バーナー」

「雷斗、こう考えてみろ。火炎族と銀世界の住人は、雷雲族と海中族の関係性だ。……異常性を持っていなければ、今頃スノーは大火傷を負っているんだ」


 パチャパチャとお湯を跳ねながらバーナーの元まで進むスノーに、彼はようやく緊張を解いたように見えた。雷斗もやっと湯船の中に入り、バーナーの膝に抱えられているスノーのことを見つめる。


「お前が他一族や世界について色々と詳しいのも、神話を教えた者に由来しているのか」

「それもあるし、自分で歩き回った」

「なぜ?」

「筋力だけじゃない、知識も大切な力だ。力がなければ……力が足りなければ、何も守れない」


 一瞬、表情が曇ったように感じた。頭を撫でられるスノーは嬉しそうで、雷斗は迷いながらも再び口を開く。


「それは美代殿か」

「もちろん、美代もさ。だけどオイラは、仲間を」

「ブラックも含まれているのか」


 ピクリと眉が動き、雷斗のことを静かに見据えた。それから逃げず、正面から視線を交わす。


「私にはどうしても、わからないんだ。ブルーはひどいことをされたという、それこそブラックの姿に冷静さを欠いてしまうほど、嫌っている。なのに……美代殿は彼に対して、とても友好的だ。

 お前もそれを拒絶しない、いったいブラックとお前たちの間になにがあった? それを、教えてはもらえないのか」

「………」

「美代殿にとっては……私たちよりも、ブラックの方が近しいのか。私やブルーとの間に、壁がある様に見えるぞ。親しく、話しはしているのだが、確かに壁がある。それを通り抜けられているのはバーナーとあいつだけじゃないか、美代殿は」

「少し、あいつと話をしてみるよ」


 スノーを雷斗に預け、バーナーは立ち上がった。なんとなく疲れた表情をしている彼に、それでも間違ったことは言っていないはずだと口をきつく閉じる。


「雷斗、放電には気を付けてな。ブルーが起きたら泳がないように伝えていてくれ」

「美代殿と私たちとの間に、余計に壁が建てられないか?」

「建たせないさ。大切なことだ、ちゃんと話してみるよ」


 ひらりと手を振って風呂場を後にしたバーナーの後に着いて行くよう、スノーも出て行ってしまった。まだ水風呂の中で眠っているブルーに苦笑し、長い長いため息を漏らす。


「私が言えたことでもないのだがな……。あぁ、本当にイヤな性格をしている」


 緩々と首を振り、頭まで湯船の中に潜ってしまうのだった。




 道中でルビーを捕まえ、美代の居場所を尋ねるついでにスノーを預けると彼女からの問いかけにも答えずに中庭へ出た。そこに目的の人物の姿は見えず、辺りを見回して地面を軽く蹴り上げる。

 城壁のわずかな段差に足先を掛けながら屋根へ向かってみると、そこに美代がいた。なんてことはない、今の彼女はウィングになれる。ならばここまで上がってくるのもそう苦にならなかっただろう。


「美代、ちゃんと体を温めたか?」

「……ん」


 振り返りもせずに星空を見上げている彼女の隣に腰をおろすと、僅かに場所を譲ってくれた。遠くを見つめるその瞳は寂しそうで、バーナーは頭を掻くとそこに寝そべる。


「なぁ美代、ブラックのこと、ブルーたちに話さなくていいのか」

「なにを?」

「美代とオイラとブラックのこと。……シャロムでの話」

「なんで?」


 訊ね返してきた美代は、本当に不思議そうな表情をしていた。思わず眉を寄せ、体を起こして彼女の言葉を待つ。


「だってもう、ブラックはブルーに酷いことをしてしまってて、ブルーはブラックのことが大嫌いで。今さら事情を話したところで、どうにもならないんじゃない?」

「いや、お前、何を言って……」

「被害者に向かって、加害者は、実はこういった事情を持っていた。って加害者をフォローするようなことを言って、納得するとでも思ってる? 逆なでするだけだよね」

「だけど」

「じゃあ雷斗だけに話す? それじゃますます、ブルーはイヤな思いしかしないよねぇ。だってのけ者を嫌う彼だ、快くは思わないさ。なら雷斗にも話さない」


 それを当然のように話す美代に、少しばかり頭痛がしてきていた。そんな思いを知ってか知らずか、美代は興味を無くしたかのように視線を再び星空へと向ける。


「美代は二人と、ちゃんと会話をしてるのか」

「……お風呂場で言われたんだぁ。雷斗から? 時々、不信感を持ってこっちを見てたもんねー」

「違う! オイラから見てそう思ったんだ。色々な思いを隠してるだろう、オイラ達は今、仲間だ。同じ目的を持つ者同士だ、もう少し腹の内を見せても」

「説教はごめんだよ」


 立ち上がると迷いなくそこから飛び降りた美代に、バーナーは肝を冷やした。咄嗟に伸ばした腕は彼女に届かなくて、身を乗り出すように地上を見てみれば何事もなかったかのように歩き始めている美代に、ホッと息をつく。

 それもつかの間にして、自身も彼女の後を追うよう屋根から飛び降りた。このくらいの高さならばイフリートの力を頼る必要もない、よほどバランスを崩さない限りは問題なく往復できる。


「美代!」

「もう少し二人と『会話』をしろってことでしょ! わかったってば、善処いたしますー」

「お前、する気がない返事だろうそれは! 待てって!」


 サッサと城内に入って行く美代の後を追いかけるも、今度は途中で自分がルビーに捕まってしまい、引き離されてしまった。女王が無事に帰ってきたこと、謁見の予定が決まったこと、夕食の支度が出来たことを伝えられると返事もそこそこにして駆け出そうとする。


「死神、どうしたのだ」

「あぁああああ……美代に貸してる部屋はどこだ!」

「この廊下の先、奥から三つ目だ」

「どうも、夕食はそれぞれを連れてから行く!」

「わかった」


 なんとなく、何かあったことだけは察してくれたらしい彼女はそれ以上何も問わず、頷くなり去っていった。バーナーも軽く手を上げて感謝の意を示し、美代の部屋へと急ぐ。

 ノックをするのも忘れてドアを開いてみると、美代は布団を頭からかぶり、寝息を立てていた。肩を落としてベッドの脇に腰を落とすと、髪を一撫でして頬に口を寄せる。


「なぁ、美代。もう少し、二人のことも信頼してやってくれよ。……オイラ達は仲間なんだ。なんでブラックのことは信じられて、オイラ達には隠すんだ」


 触れるだけの口づけを落とし、頬を赤くして暑そうにしている美代の布団を肩口まで降ろした。目を伏せ、立ち上がる。


「雷斗たちを迎えに行ってやるか……」


 美代の分の食事は給仕に頼んで、ここに運んできてもらおう。

 ため息を一つ漏らし、バーナーは部屋を後にするのだった。


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