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冒険記  作者: 夢野 幸
ニルハム編
29/138

落し物はなんですか


 翌朝。

 バーナーと雷斗が少し離れて苦笑し、美代は全力で困った表情を浮かべ、そんな彼女の腰元を力一杯抱きしめたままブルーは眠りに落ちていた。二人に助けを求めても、目が「しばらく好きにさせてやれ」と言っている。

 

 まだ目を覚まさないうちに腹部へすごい衝撃を受け、強制的に起床させられた美代は事態も把握できないまま、ブルーに声を張り上げて泣かれた。その声に驚いたらしいバーナーと雷斗が跳ね起き、わんわんと泣き叫ぶブルーに目を丸くしたのがつい先ほどの話。


「とても心配した」「無事でよかった」など、他にも言うだけ言って、再び眠ってしまったのだ。


 おかげさまでバーナーの着物が涙でぐしゃぐしゃだと、ブルーの体を引きはがすために腕を伸ばした。それに反応したのか力が入り、思わずため息をつく。


「ちょっと二人とも、助けてくれるとありがたいんだけど?」

「美代殿、許してやってもらえないか。私たちもすごく心配をしていたんだぞ、バーナーなんて探すのに集中して食事もとらないしまつ」

「あーあーあーあー」


 慌てたように、両手で雷斗の口を押えるバーナーは、耳まで赤くなっていた。ジロリと睨まれてしまえば笑うことも出来ず、しかし袖口で口元を隠しながら微笑んでしまう。


「でもまぁ、不可抗力だよねぇ?」

「……そうだな」


 だから、謝らない。という意味を込めて笑ってみると、バーナーは呆れたようにうなずいた。クツクツと喉の奥で笑い、静かな寝息を立てているブルーの頭を撫でる。


「今日はどうするの、というかここはどのあたりなの?」


 優しくゆっくりとブルーの手をはがし、その体を雷斗に預けながら首をかしげた。自然に背負い始めた雷斗にキョトンとしながらも、首をひねるバーナーのことを見上げる。


「最初の目的地とは変わるが、あと三日か四日も歩けば近くの村につくだろう。そこでお前の服と消耗品の購入、銀世界に入るための準備をする」

「りょーかい。それじゃあ、ブルーはまた寝落ちしちゃったみたいだけど、行きましょうー!」

 



 一日歩き、二日目はようやく回復したらしいブルーも自力で歩き始め、三日目には人工的な道に出てくることが出来た。そこでやっと、バーナーから他に持ってきていたという服を渡される。

 それを見て、美代は目を点にしてしまった。


「……バーナー?」

「なんだ、お前の服だろう?」

「そうなんだけど、ちょっと意外だったというか……ううん、ありがとう」


 彼から渡されたのは、白いワンピースと青い宝石がついた黒いチョッキだった。旅をするうえでは不相応だろうその服を持ってきてくれるとは思っておらず、美代は口の端を緩める。


「炎で囲ってやる、着替えて来いよ」

「なんて危険なカーテンなんでしょう」


 ケラケラと笑いながらも、美代は炎に包まれてしまった。外からは中が、中からは外が見えないほど厚い炎の壁は相変わらず熱を感じず、美代はするすると着替えてしまう。

 ヒョイと壁から出てくると、雷斗が目を見開いた。


「……いや、もう驚くまい」

「なにがー? というか、そうだよねぇ。炎なのに熱くないし燃えないしって、なにをどうしたらそうなるんだろうねぇ」

「お前には言ったことがあるだろ、オイラがそれを焼けと命じない限り、そこにあるだけだ」

「だから、それが、なにをどうしたらそうなるんだろうね。って話!」

「……炎の使い方は親父に叩き込まれたからな」


 目を伏せた彼に、美代は口を押えて目尻を下げた。それでもすぐにバーナーの手を引き、どこか疑問の表情を浮かべる雷斗を振り返る。


「出来れば今日中に、村に入れるといいね。頑張って歩こう!」


 視界の端で、ブルーのほっぺたがプクッと膨れたのがわかった。話をうやむやにされたのがわかったのだろう、なんとなくイヤそうな顔になっている。

 それでも、バーナーが話さない限りは、これ以上のことを話すつもりはサラサラない。


「ほらほら、ブルーも行こう?」

「……はぁい」


 手招きをしてみれば、不服そうな返事をしながらも大人しくついてきて。

 バーナーの背中を軽く押しながら、一行は進み始めるのだった。




 頑張って歩いてはみたものの、村にたどり着くことはできず、一度の野営を挟むことになってしまった。流石にワンピースで眠ることはできず再びバーナーの着物を借りることとなり、美代は脱いだものを頭もとに畳んで置いていた。


 そして翌日、村の入り口が見え始めた頃。


「なぁ美代……今朝はちゃんとあったのか?」

「あったもん! ちゃんとあったの、確認したもん!」

「わかった、わかったから泣くな!」


 美代が突然叫び声をあげ、来た道を戻り始めたのだ。バーナーは咄嗟に、雷斗とブルーに宿の部屋を取っておくよう指示をして、美代の後を追いかける。

 泣き出しそうな表情をしている彼女を見て、何事かと問いかけてみれば。黒いチョッキについていた宝石が無くなっていたのだ。

 

 涙をこぼしそうになりながら必死に地面に這いつくばる美代のことを、バーナーは村から離れていくことを気にしながらも止められなかった。今朝方のことを訊ねてみると重力に逆らえなかった雫が流れていき、慌てて宥める。


「そんなに小さい宝石じゃなかったよなぁ……。卵の半分くらいだったか?」

「なんでぇ……なんで気づかなかったのぉ。どこで落ちちゃったの……」

「……新しいやつ、買ってやろうか……?」

「あれじゃないとダメなの! あれじゃないと、意味が、ないの! なのにっ落としたのにっ気づかなかったの!」

「悪かったって、ごめんて! 泣くなってば!」


 村の入り口が霞む程度にまで戻ってしまい、バーナーは少々の焦りをみせていた。

 イフリートを二人の元に置いておけばよかったか、それとも美代を村に戻して自分一人で探しに来ればよかったか。そうすれば最悪の場合、見つからなくても新しいものを買い与えてやれば彼女もここまで取り乱さなかったのではないか……。

 なんとか無表情を作りながらグルグルと考えていると、雷斗とブルーが駆けてくるのが見えた。無事に宿の部屋を二つ取れたため、手伝いに来てくれたらしい。

 



 そうして、四人で探しながら村から離れること約二時間。


「……美代殿、大丈夫か……?」

「もう少し戻って探せば、きっと見つかるよ! だから美代はん、落ち込まんといて」

「これはボク達のじゃない!」

「だから、ちゃんと持ち主に返してあげるんだ! おじちゃんたちには、あげられないんだから!」


 俯いてフルフルと震えていた美代を励ましていると、少年たちの声が聞こえた。どこか焦っているような、困っているような声に最初に反応したのはバーナーで、サッとそちらに向かってしまう。

 追いかけて行ってみれば、バーナーが少年たち、兄弟らしい二人を背に隠すようにして立っていた。その前には二人組の男性がおり、にらみ合いをしている。

 ニルハムに来てから一体何度、ならず者やそれらしい者と遭遇するのだろうと思わずため息を漏らし、美代は何気なく兄弟が隠すようにして持っている物に目を向けた。


「……うわあぁあああああ! わ、私の! ここの!」

「ぅええ? え! えっと、お姉ちゃんだれ!」


 絶叫に近い声に驚いたらしい弟の方が素っ頓狂な声をあげ、バーナーの背中から覗くように見上げてきた。二人組もこちらをチラリと見て来るが、互いに耳打ちし合うとその場から早々に去ってしまう。

 説明を求めるようバーナーを見上げると、彼は小さく肩をすくめただけだった。


「別にオイラは何もしてねぇぞ。あいつらが勝手にガン付けてきて勝手に逃げただけだ」

「えっと、この青いのはお姉ちゃんの? はい!」


 兄の方から渡された宝石に、美代はふにゃりと表情を緩めてそれを柔らかく握りしめた。視線を合わせるように少しだけ腰を曲げて、二人の頭をポンポンと撫でる。


「ありがとう、今ね、これをすごく探してたところなの」

「お姉ちゃん、これね、向こうの茂みの中にあったよ!」

「歩いてる時に落ちて、そのまま蹴っちゃった感じだったよ! ボク達も果物が転がってなかったら、気づいてなかったかも」


 兄弟が同時に指を刺したのは、路の脇にある、森との境になっている茂みだった。その傍には竹籠が置いてあり、中には野菜や果物が山盛りに積まれている。


 どこからどう見ても重量があるそれを、この二人が運んできたというのだろうか。


「……へぇ、お前たちはどこの村の子なんだ? 器用なことを出来る魔術師がいるんだな」

「え? お兄ちゃん、わかるの?」


 目をまん丸にしてバーナーを見上げたのは、兄の方だった。反応を見る限りバーナーが言ったことは正解らしく、少年は一人で竹籠をヒョイと背負ってしまう。


「たぶん、舞 空 術アラ・ボラルに近いオリジナルの、風系統の精霊魔術が掛かってるな。オイラが知ってる術とはまた、別物みたいだ」

「お母さんがやってくれたんだよ! ボク達だけでも、隣町までおつかいに行けるようにって。ボク達はこの先の村の子だよ!」

「村の奥で宿屋をやってるの。食堂の食材が少なくなってて、買い物を頼まれたの!」


 この先の村、と言って顔を向けている方角は、宝石を探して戻ってきた道だった。雷斗とブルーは互いに顔を見合わせてしばらく考え、少年二人に向き直る。


「その、ついでだ。運ぶのを手伝おうか?」

「村の一番奥の宿よね? たぶんそこ、ワイらが取ったところよ」

「あっそうなの? お客さん!」

「えっと、ボクはジンで、こっちは弟のハツキ! お兄ちゃんたちは?」


 小柄なブルーでも軽々と持ち上げる事が出来た竹籠に、彼が目をキラキラと輝かせているのがよく見えた。見た目がどう考えても重いものを持ち上げられた時の何とも言えない嬉しさは、なんとなくわかる気がするので微笑ましく見守ってしまう。

 バーナーもそうだったのだろう、ブルーを見ていた優しい視線を、少年二人に向けた。


「オイラの名はバーナー・ソラリア。そっちのバンダナがブルー・カイで、こっちの金髪が雷斗。そしてこっちが」

「上野美代。お久しぶりですねぇ、美代さん」



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