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冒険記  作者: 夢野 幸
ニルハム編
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~閑話~ 優しい眠りをあなたに


 突然ギュッと抱きしめられ、ブルーは寝ぼけ眼で顔を上げた。ぼやける視界をはっきりさせようとして、目を擦ろうと手を動かしたら、がっちり掴まれてしまう。

 流石に腕を押さえつけられたのには驚いて、すっかり目を覚ましてしまった。目の前にあるのは、息苦しそうに眉を寄せる雷斗の顔。


「らいと、らいと。どうしたん?」


 また夢見が悪いのかと、ブルーは困ったように辺りを見回した。バーナーの姿も美代の姿もなく、護衛として留守番を言いつけられたらしいイフリートが、体を丸めるようにして自分たちの近くで眠っている。

 雷斗の懐から抜け出そうと試みたが、再び捕まってしまった。なんとか両腕だけはゆっくりと引き抜くことに成功し、雷斗の首筋を流れていく汗を拭ってやる。


「雷斗、起きて。大丈夫よ、ここには雷斗を虐める人はおらんよ」


 声に目を覚ましたのだろうか、イフリートが頭もとにやってきた。紅玉のような瞳が心配そうに雷斗の姿を映し、主人にやるように頬を彼の頭に擦り付ける。


「なぁイフリート、バーナーと美代はんはどこに行ってしもうたん?」

『ピャアア』

「わからん……! なんて言うてるのか解らんよイフリート!」


 心外である。と言わんばかりにイフリートの表情がムッと動いた。プイとそっぽを向き、いそいそと眠りについてしまう。


 あぁ、使い魔にもちゃんと表情があるんだな。

 なんて呑気なことは言っていられない状況だ。


「どうしよう……」


 雷斗はきっと、怖いのだ。


 初めて水の中から出て来たときの自分と同じくらい、いや、一度族荒らしに捕まったことがあるのならばそれ以上に地上のことを怖がっているのだと思う。

 それでもガーディアンだからと、経緯はわからずともこうして地上に降りてきて、一緒に行動をするようになった。本当は怖いはずの地上の人間と一緒に、行動をするようになった。


 その二日目に、イヤな記憶を思い出してしまうような出来事があっているのだ。もしかして自分だったら、夜に眠れなかったかもしれない。


「怖い人ばっかじゃ、ないのに。良い人もたくさんたくさん居るのに……」


 どうしてくれただろうか。

 水の中から出てきて、地上のことが何もわからず、体が岩のように重たくてどうしようもなかった時に、助けてくれたあの人は。

 周りが怖くて、怯えて、身動きが取れなかった自分を村まで連れて行ってくれて。

 不安で泣き出しそうになってしまった時に、このバンダナをくれたあの人は、こんな時にどうしていただろうか。


「……大丈夫よ、ワイらがここに居るよ。せやから雷斗、泣かんどきぃ。怖くない、怖くない」


 雷斗の方が自分より体が大きいから、全部を包み込んであげることはできないけれど。

 精一杯腕を伸ばして頭だけでも抱きしめ、ポンポンと頭を撫でた。少しだけ雷斗の手から力が抜け、起こさないように気をつけながらも動くと彼の頭を自分の胸元に引き寄せる。


「夢の中でまで怖がらんでな。おやすみよ、雷斗」


 撫でてやっていると、体の緊張が解けたような気がした。顔を見てみると苦しそうな表情から穏やかな表情に変わっており、ホッと息をつくと同時に欠伸がもれる。


 まだバーナーと美代は帰ってこないようだし、朝まではまだまだ時間があるようだ。


 今度は雷斗も一緒に、良い夢を見られるように。先ほどとは違って優しく抱きついて来る彼にキュッと目を閉じ、お返しにと柔らかく抱きしめ返して、ブルーは眠りについたのだった。




 沐浴と風呂から帰ってきた美代とバーナーが柔らかな表情で眠る二人の姿を見て、微笑ましく笑い合ったのは、内緒の話。


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