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冒険記  作者: 夢野 幸
ただいま地上編
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進む力


 地上に降ろされたボンドッツとリンは、最初から行く場所を決めていた。どちらともなく瞬間移動術レガ・ハラフを発動させると、すぐに目的の人物へ会いに行く。

 会うのは数年ぶりだというのに、すぐにこちらのことを分かってくれたのだろう彼は、丸くした目をすぐに冷たく細めた。


「お前ら、旧セデールの子やなぁ」

「お久しぶりです、ヘリュウさん。覚えていてくださいましたか」

「そうそう忘れられるかい。まだ覚えとるで、百人単位で真夜中に押し掛けてきたん」


 戦争により再建が難しくなった祖国の人々を救うためとはいえ、彼には多大な迷惑をかけていた。当時のことを謝罪する意味も込めて頭を下げれば容赦ないデコピンを食らい、額を抑えて顔を上げる。


 相変わらずの冷たい笑みだが、彼の暖かさは知っていた。


「おどれらぁ、揃いも揃って盗賊なんざに頭を下げんないうのに!」

「いやですねぇ、私が頭を下げているのは盗賊ではなく、お世話になった町長ですよ。二つの立場があるのです、甘んじて受けてください」

「そうですよ! あの時、あの戦争の後。ヘリュウさんが受け入れてくれなかったら、セデールの人たちは路頭に迷うところだったんですから」


 口をへの字に曲げて頭を掻くヘリュウに声を抑えて笑い、本題に入るために姿勢を正した。雰囲気が変わったのを感じてくれたのだろう、彼もふと表情を消す。


「あれから父上たちは、どうなったのですか」

「あぁ、一旦はアダマースに入ったがすぐに出て、元の場所で村を作ったで。最初はまぁ悲惨なもんやったが、あと十年もせんうちに小国やったら再建できるんちゃう?」


 予想以上に詳しい情報が返ってきて、二人は顔を見合わせてしまった。揃ってヘリュウに視線を向ければ肩を揺らして笑い、近くを通った男性に耳打ちすると手招きされる。

 従うようついていけば自室に連れられ、紅茶を出された。


「まだ交流があるからな、明日もレフォード……旧セデールの村の名前やな、に行く予定や、着いてくるか?」

「えっ、え?」

「い、いいんですか? いえ、こちらとしてはありがたいばかりなのですが」


 確かに、ドゥクスに会いたくて、所在を知るためにヘリュウの元に来た。

 いざ会ってみれば所在がわかるどころか未だに交流があると言われ、さすがに驚きを隠せなかった。


「えぇよ、ついでやし。ダイアからも言われとるんや、ある程度立て直すまでは協力してやれーって。まぁアダマースの傘下に入るわけやし、同盟五か国の仲間となりゃあ立場上ワイも手を貸さんわけにはいかんしなぁ」

「……何から何まで、本当にありがとうございます」

「おどれらは頭を下げんと生きていけんのか?」


 二人そろって腰を折ったのを見たヘリュウは、白い目でため息を漏らしたのだった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


「――よぉ、ドゥクス。元気しとるか?」

「ヘリュウ殿! おかげさまで、どうにか村を維持、できて……」


 翌朝、魔方陣があるあたりに出るとドゥクスが迎えに来てくれており、ヘリュウはニヤニヤと口角を上げながら背中に隠していた二人の姿を見せた。


 石造のようになった父親に、ボンドッツは隠すことなく小さな笑い声をあげる。


「ご無沙汰しております、元気そうでなによりです」

「ボードオン……エレクサンドラ様?」

「お久しぶりです、ドゥクスさん! わぁすごい、本当に村が出来てる!」


 瓦礫の山はなかったかのように撤去され、木造の一軒家が旧メインストリートに沿って並んでいた。城の跡地には畑が広がり、奥の方には鶏が放し飼いにされている。


 戦争により、再起できないのではないかと思っていた土地が。

 たった三年の間に息を吹き返していた。


「この子らぁ、昨日訪ねてきてなぁ、会いたい言うから連れてきたんや」


 忙しく周囲に視線を走らせている二人の背を押し、ドゥクスの前に出した。自身はふらりとその場を離れ、軽く手を振る。


「適当に視察するで、今日は他に誰が来るん?」

「エメラルド殿が、シャダッド跡地へ用があると」

「んなら脳筋も来るか。来たら教えてや」


 さっさと歩いていくヘリュウを見送れば、静けさに包まれた。気を使ってくれたらしい彼を見送り、苦笑していると柔らかく抱きしめられる。

 ドゥクスが、肩を震わせながら立っていた。


「……息災か、二人とも」

「えぇ、色々とありましたがこの通り」

「国のみんなも元気ですか? 会いに行きたい!」

「案内いたしましょう、ほんの小さな宿ですが休む場所もあります」

「もう王女じゃないから、敬語はなしだよ!」


 頬を膨らませれば困ったような笑みを浮かべるが、頭を優しく撫でてくれ。

 二人は顔を見合わせて肩を揺らし笑うのだった。




「――お前たち、あの時は魔族と対峙していたのか!」

「そうです、人族を相手取るのなんて訳もない状況でしたねぇ」

「あのときは少し、感覚がおかしくなってたよね……。戦争は怖かったけど、美代ちゃんたちを守るのに必死で戦えた」


 レフォードの人々はリンとボンドッツを見るなり、諸手を挙げて歓迎してくれた。同時に美代たちのことも尋ねられ、別行動中であることと元気でやっていることを伝え歩く。


 三年も経ち、リンは背が伸びているのに姿が変わらないボンドッツについては誰も何も言わなかった。

 体のことを知られているのか、ドゥクスが死角で一睨みでもしていたのかはわからないが、説明が省けてありがたいと思っておく。


 今はドゥクスの家でのんびりと茶を飲み、菓子をつまんでいるところだ。


「い、今はどうなんだ」

「とりあえずは解決しました。えぇ、色々と納得はしていませんがね!」

「まぁまぁ。美代ちゃんは今、ブラックと一緒に居るはずだよ。今回の旅の後もきっと、黒疾くんが助けてくれるよ」


 ギリギリと眉間に寄っていくしわに指を乗せ、口にクッキーを押し付けた。突然の事にも驚いたりせずに大人しく受け入れ、咀嚼しているボンドッツに、笑いそうになるのを堪えると頬杖をつく。


「今回は、自分が思ってる強さを得るための旅なの」

「発つ前に、皆さんの様子を知りたかったのです。元気そうで何よりで」

「トロイさんとマティさんも、元気ですか?」

「あぁ、エメラルド殿が来られたら二人にも会えるだろう。体を弄り回された後遺症がないか、定期的に診てくださっているんだ」

「それは好意なのか好奇心なのか、怪しいところがありますねぇ」


 苦笑している彼のことを諫めるよう軽く小突き、紅茶をグッと飲み干した。


 その瞬間、何かが地面に叩きつけられる鈍い音で窓が揺れ、ドゥクスは肩を跳ねて勢いよく立ち上がった。


「今のは!」

「あ、ちょ、父上」


 ドアを突き破らんばかりに飛び出していくドゥクスを追い、ボンドッツとリンも立ち上がった。


 外をのぞけば唖然としている父親と、地面に倒れて悔しそうに顔を歪め、足をばたつかせ土埃を上げるサファイア。

 それから、肩で息をしながらも握り拳を高々と掲げて座り込んでいるヘリュウと、キャッキャと楽し気に笑うエメラルドがいた。


「エメラルド殿、サファイア殿? その、これは」

「お久しぶりですね、エメラルドさんにサファイアさん。相変わらずお元気なようで」

「んぇ? あれ! ボンドッツくんにリンちゃん!」

「は? お前らなんでここに?」

「ざまぁないでサファ、子どもらぁの前で盗賊頭に倒されやがって! ハッハ、今日だけはぜぇったい負けられへんかったんや!」


 汗で額に張り付いた髪の毛をかき上げて、口の端を吊り上げるように笑っているヘリュウはどこか子どものようだった。目を点にしていたサファイアもボンドッツから手を伸ばされてようやく立ち上がり、引きつった笑みを浮かべるドゥクスに肩を揺らす。


「オレとこいつがここで鉢合わせるのは初めてだからなぁ? こいつや死神と顔を合わせると、大体こうなる」

「おどれがが売ってくる喧嘩や」

「恒例行事だよ。二人はどうしてここに? 死神と、その、一緒に行ったんじゃなかったの?」

「まぁ色々あってですね、これからの旅路のために一度、父上に会いたかったのです」

「まぁ、その……ご足労いただき感謝いたします。まずはこちらへ」


 信じられないものを見たと如実に語る表情に、サファイアとエメラルドは笑いながらもドゥクスの後についていった。トロイとマティの元に案内するのだと算段をつけ、歩き出そうとするのを止められる。


 ヘリュウの目は、ブルーを見ているときのように凪いでいた。


「なんも心配はいらんよ、流石、お前らの父ちゃん達や。……お前らが生きている間に、きっと、セデールは甦る」

「……そうですねぇ。我々も安心して、これからを歩みだせそうです」

「藍の、ボンドッツにリン! お前らの話も聞きたいんだから早く来いよ、オレはこの後レイリアに向かわないといけないんだぞ!」

「魔方陣があるやろ」

「演練やるんだよ! 兵を引き連れて使えるか!」

「おどれらの都合なんざ知らんわ!」


 悪態をつきながら面倒くさそうに歩き出したヘリュウの後ろで、二人は顔を見合わせて笑いあってしまい。


 これからの旧セデールを、レフォードの村の発展を祈るよう、きつく手を握り合うのだった。


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