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冒険記  作者: 夢野 幸
第三章 真実を知る物語
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時が流れて


「美代―! 早くしないと、遅刻しちゃうわよ!」

「ふぁあい!」


 食パンを咥えたまま慌てて階段を駆け上がり、部屋に駆け込むとクローゼットを開け広げた。引っ掴むようにして制服を取り出し、ボタンを外すのも面倒くさがって頭からかぶる。

 頬袋に詰め込まれたパンを無理やりに飲み下し、パジャマと共に外れてしまっていたシュシュを左手首につけようとした。


 ふと、姿見が目に移り、苦笑してしまった。額に出ている触角と半透明の二対の羽が何度見ても高校の制服とはアンバランスで、小さなターコイズが付いているシュシュをはめると魔力を流す。


 するとそこには、普通の人間である自分が写っていた。


「どうするのー! 途中まで、車で送ってあげようか?」

「ううん、大丈夫!」


 まさか期末テストの日に寝坊するなんて。

 こんなことなら、昨晩は遅くまで沙理と電話をしているんじゃなかった。

 そんなことを思いながらカバンをつかみ、しっかりと羽根がついていることを確認して階段を駆け下りたのだった。




 ガーディアンとして冒険をしてから、はや四年。美代は、高校一年生になっていた。

 この四年の間に、いろいろな出来事があった。




 バーナーが使っていたはずの、自分の向かいの部屋は物置になっていて、誰かが住んでいた形跡はすっかり消えてしまっていた。両親にたずねてみたけれど、元から物置だっただろう? と返事をもらい、胸が苦しくなったのは記憶に新しい。

 彼が床に座り込み、自分とブラックがベッドに乗って、上から剣の手入れをよく眺めていたのを覚えているのに。



 小学校の校舎は復興され、自分が通っていたころより綺麗な状態になっていた。高校に向かうまでに横切るのだが、今でも見ると微笑んでしまう。

 ――ここで初めて、ブラックと出会ったのだ。



 小学校の裏にあった山は開拓が進んでしまい、てっぺんの方にゴルフ場が作られていた。位置的に、バーナーが焦土に変えたところは手が加えられていないようで、体をひねって振り返ると目を細める。

 あの場所で初めて、ガーディアンとしての使命とニルハムの存在を知ったのだった。


 

 初めてボンドッツと遭遇した裏路地はフェンスが張られてしまい、通り抜けが出来なくなってしまった。こんな狭い場所なのに、いや、だからこそか不良たちが集まる場所と化してしまい、ごみの放棄が酷かったらしい。

 もしあの時、この裏路地を通っていなければどうなっていたのだろうと思いをはせ、首を振った。どちらにせよ、いつかはニルハムに入っていたはずだから。



 登校のチャイムが鳴り響く中、駆け込むようにして門に飛び込むと下駄箱で両手を膝に置いた。ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返し、革靴を脱いでスリッパに履き替える。

 一緒の高校に行きたいね、と話し合っていた沙理は中学校の卒業間際、父親の転勤が決まってしまい、距離や通学路の関係で隣町の高校を受けざるを得なくなってしまった。

 こうして、自分が遅刻しそうだった時。面倒くさくてわざと遅く来た時。

 いつも下駄箱で迎えてくれていた彼女がいないのは、少し寂しかった。




 家から学校にたどり着くまでに、何度、無くなった時間を思い起こしただろう。遠くに行ってしまった親友を思うのだろう。


 それを一体、あと何回繰り返すのだろう。


 四年も経っているのに、寂しくてたまらない自分が居ることに荒々しく息を吐き出して、美代は教室に向かい急いだのだった。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 旅の終わりに、美代だけが神様の元に居ることを許されず、地上へ降ろされた。ガーディアンとして旅をし、苦楽を共にしてきたのに、彼女が妖精族であるというそれだけの理由で、だれの訴えも聞き入れられることなく引き離された。


 それに納得することが出来なくて、理解をしたくなくて。


 ブラックは神様を罵倒し、自分も美代と一緒に居るのだと、地上に戻せと暴れ、要求が呑まれなければ眠ることも何かを口にすることも止めて生きることを放棄しようとした。ダークが諭す言葉も、シャドウの優しい言葉も受け入れられずに、魔力で壁を作って閉じこもったのに。

 ありったけの魔力と炎を駆使して壁をこじ開けたバーナーに頬を思いきりぶん殴られ、こんこんと説教をされた。今でも思い出せるほどに痛かったそれに苦笑して、天の切れ目からシャロムを眺める。


 自分が閉じこもろうとした間に、バーナーだけじゃない。雷斗もブルーも、みんなが神様に頼み込んでくれて。

 こうして、地上のことを見られるようにしてくれたのだ。


「美代。元気そうでよかった」

「ブラック、手伝えよ! 死者の魂の世話が間に合わないんだ、お前の魔力は神様ははうえに次ぐんだから!」


 バーナーに呼ばれて顔を上げ、名残惜しそうに地上を見た。こんな時には自分の目が便利で、建物の中にいる美代のこともよくわかる。

 自分では理解できない数字が飛び交っていた。どうやら、テストが始まっているらしい。

 ふるりと首を振り、立ち上がって、もう一度だけ切れ目を見るとバーナーの元へ急ぐのだった。

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