~閑話~ 動かせるようになりました
目的地を目指しながらもダークやブラックに魔力をぶつけてもらい、触覚や羽を生やしては消して、というのを繰り返して。
今では鳥肌の一つ立てる事もなく、魔力をぶつけられただけで妖精族としての姿になることが出来るようになった美代だが、頬を膨らませてふて腐れるようブラックの背中に張り付いていた。
「もうそろそろ安定してくれてもよくない? 半日も保てないなんて、なんかもう本当に純血の妖精なのか不安になってきたんですけど」
「ソレハ間違イナイ、ソコハ自信ヲ持ッテクレナイカ」
いじけているとダークが苦い顔になってしまい、とりあえずブラックの背中から剥がれた。呼吸を整えて羽に神経を集中し、ゆっくりと目と閉じる。
わずかに動いたそれに、ボンドッツがキラキラと目を光らせた。
「羽を動かせるようになったんですね!」
「少しだけ。すっごく集中しないと無理だけど」
「ところで妖精族って、舞 空 術を使わないで飛べるの?」
そう言って首をかしげるブラックに、美代も同じように首をかしげてしまった。雰囲気で美代が返答に困っていることがわかったのだろう、ダークは硬直しているし、ボンドッツとシャドウはそう言えば、と顔を見合わせる。
「飛ベルゾ……ドノヨウニ、飛ビ方ヲ教エルノカハ、ワカランガ……」
「そう言えばダークネスが、今度は羽で飛んでほしいー、みたいなことを言ってたね」
「モウ少シ自然ニ羽ヲ動カセルヨウニナッタラ、練習ヲシテミヨウカ。……見ラレナイノハ、残念ダガ」
眉を寄せたダークに背を向けて、パタパタと羽を動かしてみた。掠る様に当てたせいでくすぐったいのだろう、肩を揺らすよう小さく笑っている。
「アリガトウ、チャント判ッタヨ」
「触覚も触っていいよー」
手を誘導してやれば遠慮がちに指を這わせ、掌を額に柔らかく押し付けてきた。髪の毛をクシャクシャと撫でてくるのがなんとなくバーナーや黒疾に似ていて、目をキュッと閉じてしまう。
不意に、頭の上の手に力が入り、視線を上げた。
「美代殿、セイルーン様ノ……王妃様ノ、形見ノ宝石ハドウシタ」
美代の頭部に視線が集中し、ブラックが思わずと言わんばかりに美代の頭を掴んで宝石があった辺りを凝視した。あまりの勢いに目が回りかけたけれど、腕を抜け出して力なく笑う。
「壊れちゃった」
「い、いつ!」
「擬似世界での戦いで。魔 弾 盾を封じた魔道具にしてたんだけど、最後の衝撃には耐えられなかったみたい」
父親が絡んだせいだろうか、ダークの顔色が見て判るほどに悪くなっていき、ブラック達も悲しそうに顔を歪めている。
そんな四人に頬を掻くと、美代は頭飾りをつけていた辺りをそっと撫でた。
「なんて顔をしてるのさ。悲しくもなんともないよ、母様が遺してくれた宝石のおかげで、あの戦いのなか無事でいられたんだ。残念だとは思うけど、悲しくない」
「……でも、オレがもう少しでも、美代の事を……守れていたら」
「でも、もしも、は禁止! 過去の事は変えられない、そうでしょ? 私が後悔しているならまだしも、してないんだからそれでいい」
泣いてしまいそうなブラックとダークの頭を撫でまわし、目尻を下げているボンドッツに笑いかけた。目を閉じていたシャドウは、それが本心だと覗いてくれたのだろう。弱い笑みを浮かべて肩に座ってくる。
小さな手で頬を擦られればくすぐったくて、体を揺らして笑ってしまった。
「湿っぽいのはおしまい! 今日はとりあえず、羽が消えるまで道から外れて進んでもいいかな? たぶんまた消えちゃうし、その前に動かす練習をしておきたいんだ」
「私たちは問題ありませんよ、夜はどうしましょう?」
「羽次第かなぁ。ごめんね、ダーク。ブラックに背負われっぱなしだけど、大丈夫?」
「ワシハ構ワンヨ、美代殿ガ妖精族トシテ成長スルノヲ近クデ感ジラレルノハ、嬉シイ事ダ」
無理やりにでも笑おうとしてくれたのか、随分と弱々しい笑みを浮かべてしまっているダークに緩く抱きついていけば、ブラックが頬をわずかに膨らませてそれを見たボンドッツが口元を隠して笑い。
美代はシャドウを肩に座らせたまま立ち上がって、もう一度羽を動かしてみるのだった。




