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冒険記  作者: 夢野 幸
蘇生編
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~閑話~ 中途半端な覚醒


 バーナー達と別れて早三日、美代たちは野営を繰り返していた。


 これまで旅の最中でお金を出してくれていたバーナーが離脱したから、というわけではない。

 いったいいつの間に入れていたのだろう、美代の空 魔 箱マジック・ボックスの中に百ガロンの山が放り込まれていた。かつて天火が他人の空 魔 箱マジック・ボックスから物を盗れる、ということを言っていたが、その逆も出来たらしい。


 それにも関わらず野営をしているのは、単に人外同士、人里よりも気が楽だという理由と。


「さて、ブラック! 今日もお願いするよ!」

「……やっぱり気が乗らないなぁ……」

「もう、そう言って昨日も手加減したでしょ! 私も早く一人前になりたいの、だから、ね?」


 それから、もう一つ。

 魔族の魔力をあてられれば妖精族としての血が目覚めるのがわかっているので、そろそろキチンとした妖精族になりたい! と主張しまくった美代がブラックに魔力の放出を求めており、万が一の事故を起こさないようにするためだった。


「だって、美代が苦しむの解ってるのに……」

「その私が! やってって! お願いしてるんですぅ!」


 泣き出しそうになっているブラックから救援の視線が送られるのも何度目になるか、木陰で休んでいるボンドッツとシャドウが笑うのを必死にこらえており、状況が見えずともなんとなく感じ取れているのだろうダークが苦い笑みをこぼしている。

 誰も助けてはくれないと察したのだろう、彼の髪の毛がザワリと揺れ動き、美代は目付きを鋭くして呼吸を整えた。


「……ブラックぅううううう!」

「無理ぃいいいいいいい!」


 せっかく身構えたというのに、ブラックが出したのは魔 弾 盾マジア・シルトを張る必要もない程度の魔力の波だった。牙を剥かんばかりに怒る美代が駆けだすとブラックも慌てて逃げ出し、そんな二人を見てとうとう我慢が出来なくなったのだろう、三人が腹を抱えて笑いだす。

 追いかけても体力面でブラックに敵うはずがなく、息を切らせながら戻ってきた。眉をハの字に寄せてしょんぼりと肩を落としている彼も恐る恐る帰ってきて、五人そろって木陰に腰を降ろしてしまう。

 視界の端で掌が動いたのがわかり、美代は唇を尖らせたまま開かれている指を握った。


「ブラックがダメなら、ダークにお願いしようかなー?」

「ワシハ構ワンゾ? ソモソモ、ソ奴ニ魔力ノ扱イ方ヲ教エタノハワシダ。マァ、魔力ガ少々心許ナイガ……量ハ、技デ補エル」


 握られている手をそのまま美代の頭に動かし、何度か深呼吸をした。頭部に置かれている掌に魔力が集結していくのがわかって、一瞬呼吸を止める。

 目を閉じて深くうつむき、全身に立つ鳥肌をごまかすよう、自分を抱きしめるように両腕を肩へ運んだ。


 大きな波ではないけれど、体に纏わりつく魔力は少量でも十分な効力をもたらしてくれたようだ。飛び出した二対の羽と触覚にブラックとボンドッツが目を丸くし、シャドウが割れ物を触るよう優しく手を伸ばす。


「何度見ても、綺麗だねぇ」

「み、美代! 大丈夫? 具合は悪くない? 寒気はない?」

「顔色も、悪くはなさそうですね……」

「こうして魔族の魔力を浴びて妖精になるのは三回目だけど、これまでに比べたらすごく楽だったよ」

「……コレマデ、体調ヲ崩シテイタノカ……?」


 安易に魔力を流したことを若干後悔し始めたのか、暗い表情になっていくダークにブラックとボンドッツが顔を見合わせた。


「たぶん、記憶を思い出しかけてたせいでもあるんだろうけど、オレが見た時には青ざめて震えて、泣き叫んでた」

「えっ、蹲って息苦しそうではありましたけれど、そこまで酷い状況ではありませんでしたよ」

「今なんて少し鳥肌が立ったくらいだよ。症状が軽くなってきてるね」

「それに魔力の放出もありませんでしたね。……触ってみてもいいですか?」

「いいよー」


 ヒョイと頭を下げれば、遠慮がちに指が伸びてきた。触覚を握られるとなぜだか背中がくすぐったくなり、肩を震わせて笑うのを堪える。

 要望に応えるよう羽を向けてみれば、上等な絹に触れるかのように優しく、触れられた。


 摘まんでくる指はボンドッツのものか、生え際をなぞる手はブラックか。

 全身を電流が駆け巡り、腰が抜けるような感覚に思わず喉が凍り付いた。体は冷たいのに顔が熱い、シャドウが慌てて額に手を置いたのを見ると、恐らく真っ赤になっているのだろう。


「え、え」

「み、美代さん? 大丈夫ですか」

「っ……だ、いじょ……」


 緊張したのに気が付いてくれたらしい、二人は即座に手を離してくれた。なぜだか力が抜けてしまい、正面のダークにもたれかかる。

 力と同時に気も抜けてしまったせいか、触覚と羽は消えてしまった。


「ム、美代殿? 消エタカ?」

「きえちゃった……うぅん、今度こそ妖精族になれたかなぁと、思ったのに」

「本当に大丈夫ですか? ひどく辛そうですよ」

「今日はどこか村に入って、宿を取ろう。触覚と羽が消えちゃったのは残念だけど、都合がいい」


 シャドウが言い終わる前にブラックからヒョイと抱えあげられてしまい、ダークはボンドッツが手を引いて誘導していて、シャドウが心配そうに腹の上へ乗って来たけれど。


(出てない時は平気なのに、出た途端に背中があんなにも敏感になるなんて!)


 そんな悲鳴を上げられるはずもなく。

 美代は赤面した顔を隠すよう両手で覆い、大人しく運搬されていくのだった。


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