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冒険記  作者: 夢野 幸
蘇生編
108/138

一時、解散!


 これまではバーナーが先頭に立ち、地図を見ながらの進行だったけれど。

 黒疾が先頭を行き、極力平坦な道を、どうしても無理な場合にはバーナーかブラックがダークを背負って旅を進めていった。


 目的地が風の一族の聖地で、黒疾が最後の風の一族の純血だということもあってだろう。地図を見る事もなく安全地帯を進み、たまには盗賊という名の強盗団に襲われ、返り討ちにしてみたり。

 大きな町に入るわけにはいかないので、小さな集落や村に入って交渉し、宿や屋根の下を借りて休ませてもらったり。

 夜に、過度の警戒をする必要がなくなったため、時には野営をしてたき火を囲み、談話をしてみたり。


 これまででは考えられないほど、平和に進んでいるはずなのに。どうしてだろう、日を追うごとに笑顔が固くなっているような気がしていた。


「………」

「美代、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、最近のみんなを見てごらんよ。ブルーも雷斗も、バーナーでさえも。なぁんか、顔は笑ってるけど笑ってないんだよねぇ」


 宿のベッドに座っていた美代は、隣に座るブラックに愚痴った。思うところがあったのだろう何度か頷き、ふと目を閉じて髪の毛をふわりと揺り動かす。

 音もなく目の前に現れたのはシャドウだ。


「どうしたの? 美代ちゃん、ブラック?」

「シャドウ、なんかみんな暗い」


 どうやらブラックから呼ばれたらしい、突然の言葉にキョトンとしたけれど、わずかに俯いて考えた。二人そろって視線を合わせ、小さく頷くと目を閉じる。 


「……あぁ、うん。どうしよう?」

「シャドウ、シャドウ。オレ達だけでも進めるよね?」

「そう、だねぇ……スノーちゃんはどうしよう……」

「なになに、何事さ?」


 納得顔の二人の間に突っ込むよう、ブラックの膝に身を乗り出せば事情を簡単に話してくれて、その内容に思わず眉を寄せてしまい。

 三人は頭をくっつけるよう、会議を始めるのだった。




 そうして次の日、宿を出て二時間もしない頃に。

 美代が勢いよく手を上げて、何事かと視線を浴びた。


「もう少しで、その、目的地にたどり着いちゃうんだよね? それぞれ未練は残ってなぁい?」


 ボンドッツやダークは首をかしげていたけれど、雷斗やブルー、バーナーの表情がわずかに変わったのを見逃さなかった。黒疾を見上げれば彼はただ肩をすくめただけで、判断はこちらに任せてくれるらしくそっぽを向いてしまう。


「その、聖地にたどり着いた後。私たちってどうなるんだろうね」

「……それは」

「えーっと、なんだっけ。レイリアで読んだ神話、新しい方の文献に書いてあったこと」




 ――時は流れ、生命は争いを始めた。地上は削れ、生命は散り、真紅は柱をも巻き込んだ。


 それを見た大きな白い柱は「愚かである」と生命を嘲った。

 それを見た大きな黒い柱は「哀れである」と生命から離れていった。


 白い柱は嘲るたびに、自身が黒くなっていくことに気づかなかった。

 黒い柱は離れていくたびに、自身が大きくなっていくことに気づかなかった。


 「このままではいけない、天と地が支えられない」


 それでも神は、天から見ていることしか出来なかった。

 神の力では、地上に与える力が大きすぎる。直に力を加えれば、生命はそれに耐えることは出来ないだろう。


「そうだ、私の力を地上の生命に分け与えよう」

「そうして、世界を支える柱を守れるようにしよう」


 そう言って、神は自身の力の欠片を六つ、生みだした。一つ一つの欠片に触れていくと、欠片は色を変えていき、違う輝きを発していった。


「子供たちよ、世界の光よ。地上を回りなさい、回り回って今以上に力をつけて、ここに戻ってくるのです。白い柱を支えられるよう、新たな柱となれるよう」


 言の葉に乗り、欠片は魂になると地上へ向かって行った。


「あなた達に世界を委ねる、頼みました。世界の守り子、ガーディアン・チルドレン」


 神の言葉を届ける風はもはやない。ただ、彼らの御魂に刻まれるのみである――




「……よく、覚えていたな」

「この内容だとさ。もう地上に戻って来られない可能性だってあるよね」


 あの時に、活字を前にして眠ってしまっていたはずのブルーでさえ。

 美代の言葉に、ビクリと肩を跳ねていた。それは神話のとおり、神託が魂に刻まれているということなのだろう。

 本能でそれがわかっているから、終着点が近づくにつれて表情が曇っていったのだろうというのが、昨晩三人で出した結論だ。


「ってことで。バーナー達は、ここから先は着いて来ないで」

「な、美代、なにを」

「そんな暗い顔で旅を続けるくらいなら、ちゃんとやりたいこととかやり残したこととか、全部終わらせて来て」

「オレとシャドウがそこの場所をちゃんと判れば、いつでもみんなを迎えに行けるし。美代も特に、地上でやりたいことってないみたいだし」

「この世界で、会えなくて辛い人、なんて特別いないしね。あえて言うならここに居るみんなかな」


 いたずらっ子のように笑った彼女に、三人は顔を見合わせてしまった。そんな美代の肩にポンと手を置いたのはボンドッツで、その隣にはダークもはにかみながら立っている。


「さて、負の遺産を使用してしまっただけではなく、体を弄られている私が入れる場所かどうかはわかりませんが。他に為さねばならないことなどありません、ご一緒させてくださいな」

「ワシトテ、他ニ行ク所ナドナイ身ダ。不自由ナワシダガ、夜ニ魔 弾 盾マジア・シルトヲ唱エル事クライナラバ、出来ルゾ?」

「そりゃあ心強い! スノーはちょっと待ってねー、黒疾お兄ちゃんの案内が終わったら、どこか遊びに連れて行ってもらおうか?」

「はーい!」


 黒疾の肩によじ登りながら元気な返事をするスノーに、小さく笑った。何を思ったのかブラックがシャドウと視線を合わせ、背伸びをすると黒疾の額に自身の額を軽くぶつけた。何をされようとしているのか解ったのだろう、眉を寄せたけれど大人しく目を閉じた彼に、ブラックも静かに目を閉じる。

 それからシャドウの頭にも額を当て、肩に座る幼子を見上げた。


「よかったんだよな? 黒疾」

「どうしようもねぇだろ? お前ら心眼能力者を相手に、隠し事なんざ出来るかよ」

「嘘だぁ、スノーちゃんで慣れてるでしょ? そうじゃなかったら、ボクがきみの生まれを知ることが出来なかった理由が説明できないもの」


 口元を隠して笑うシャドウに表情を歪め、スノーを肩に乗せたまま歩き始めてしまった。バーナーがそれを止めようと手を伸ばしかけるが、緩く拳を握って雷斗とブルーのことを見る。


「……どうする」

「美代殿、その」

「……いい、の? じいちゃんや、一族の人……兄ちゃんに、会って来ても、いいの?」

「うん。行っておいで、充分に話して、スッキリさせておいで。雷斗も、バーナーも。こっちの心配はしなくていいからさ!」


 不安そうに尋ねてくるブルーの背を押すように言ってやれば、彼は雷斗の服の裾をキュッと握った。なんとなく言いたいことがわかったのだろう、その場に雲を集めて一緒に乗るけれど、彼はまだ躊躇っているように見える。


「私は、ブルーを送ったら戻って……」

「あなたのように迷いがある状態で旅を続けても、いらない怪我を負うだけですよ。バーナーさん、あなたにも言える事ですが」


 最後まで言わせてもらえずにバッサリと斬り捨てられて、雷斗は苦笑すると頭を掻いた。もう一度だけ美代とブラックを見ると大人しく頭を下げ、そのままブルーを支えて飛んでいってしまう。

 見送っていると頭の上に手が置かれ、視線を上げた。


「……好意に甘えさせてもらうよ。ルビーやサファ、ダイア、エメには……本当に昔から、世話になっていたからな。諸々が解決したことも、旅がそろそろ終わることも報告に行かないと……とは、思っていたんだ」

「それだけじゃないでしょ? ちゃんと、お別れも言って来るんだよ」


 ひらり、と小さく手を振って、バーナーも歩き出した。その背中がすっかり見えなくなった頃にようやくボンドッツ達を振り返り、今は光のない羽根を出す。


「ボンドッツやダークも、本当によかったの?」

「もちろんです。そもそも私はすでに故郷を失っておりますし、未練なんてありません。今さら振り返ってしまえば、リンから叱られてしまいます」

「ワシガ一族ニ戻レルト、ソウ思ウカ?」


 確認をしてみれば、二人共が笑いながらそう言った。ブラックとシャドウを見上げて頷き合い、一度深呼吸をする。


「それじゃあ、改めて出発しましょうか!」

「ダークはオレが背負っていくよ、いいよね?」

「ソノ方ガ、滞リナク進メルダロウナ。頼ンダ」


 遠慮なくブラックの背中に乗ったダークの事を確認して、今度はシャドウを先頭に。

 半分の人数になったけれど、美代たちは再び前へと足を踏み出していった。


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