~閑話~ 似た者同士
全身に鈍い痛みを感じて目を覚ました。布団に潜ったまま猫がするように背伸びをすれば腰や背中の骨が威勢のいい音をたてて鳴り、変な悲鳴を上げてしまう。
窓の外を見てみれば三日月が空のてっぺんにあり、目を擦って体を起こそうとした。
けれど、動くことも出来ず引き戻されて、体を捻るよう振り返った。
「あらあら……」
どうやらブラックと一緒のベッドに入れてもらっていたらしい。少々申し訳なく思いながらも腕を抜け出せば、案の定寝心地が悪そうに眉をひそめ、手が自分を捜すように揺れ動く。
毛布を丸めて差し込めば落ち着いたのだろう、そのまま再び寝入っていった。何気なくドアを開いて廊下に出れば人影が視界の端に見え、声もなく肩を跳ねあげる。
その人影も驚いたらしい、ツンツン頭を揺らして、背中を震わせていた。
「バーナー!」
「美代! やっと目を覚ましたのか」
「今度はどれくらい寝てたの? 私」
「三日くらいだな。とはいえ、オイラも起き上がれたのは昨日だ。少し体を動かしてみたが、やっぱり違和感が拭えないな」
手招きをされて寄ってみれば、軽々と体を抱えあげられて宿の廊下に着いている窓から外へ、そのまま屋根の上へと身軽に移動していった。それでもなんとなく、普段とは足の運びが違ったような気がして、これが違和感かと納得してしまう。
「いやーもう、昨日は黒疾からの小言が本当に凄まじくて……。まさか賞金稼ぎのオイラが盗賊団頭から延々と言われるとは、思いもしなかった」
「小言って……バーナー! あんた、あんな無茶をして!」
「勘弁してくれ! 黒疾から言われた後もみんなから怒られ泣かれ! イフリートの奴なんて昨日は丸々、召喚に応じもしねぇし! これ以上は聞きたくねぇからな!」
胡坐した膝の上に座らせてくれながら、バーナーは両耳を塞いでしまった。
いつもならば説教する側の彼が説教される側になっていただけでも、ちょっと愉快なことになっているなと思ったのに、他の面々からまで怒られた上に使い魔からも怒られているとはなんて面白い場面だ。
とは口が裂けても言えるわけがなく、何とか笑いをこらえると胸板に頭を預けるようにして寄りかかった。何気なく額に手を運んでみるけれど触覚はなく、背後に視線を向けても羽は見えない。
「せっかく血が覚醒したと思ったのに、また消えちゃった」
「もうしばらくはそれでもいいんじゃないか? そうじゃないと、変 幻 偽 視を常時使わないといけなくなるぞ」
「それもそうか」
くしゃりと髪の毛を崩すように撫でてくれる掌が、日常に戻って来られたことを実感させてくれて、美代はキュッと服の裾を握った。体に力が入ったのがわかったのだろう、心配するように覗きこんでくるので、自分は両手でグシャグシャとバーナーの頭を撫でまわしてみる。
「どうした?」
「まったく、兄妹そろって、何をやってるんだかね?」
歯を見せて笑えば、彼の目が見る間に丸くなっていった。そんな表情を浮かべたのもつかに間に優しい目付きになって、お返しと言わんばかりに美代の頭をグシャグシャにしていく。
「まったくだな、可愛い妹ちゃんよ?」
「明日には出発できるといいねぇ、兄ちゃん?」
「バカ言え。お前が目を覚ましたのはついさっきだぞ、最低でもあと一日は滞在するわ」
「ちぇ」
最後の純血の火炎族と、最後の純血妖精。
これから先どれだけケンカをしようとも、きっと離れる事はないだろう相手に、冗談を言えば軽口が返ってきて。
それが嬉しくて、美代はバーナーの膝の上で周囲に迷惑をかけないよう、静かな笑い声を上げたのだった。




