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冒険記  作者: 夢野 幸
魔族編
102/138

魔族と妖精族と、仲間たち


「これが最後の機会だ、妖精族王女。我らが手中に入れ、そうすれば仲間の命は奪わないでやろう」


 ニィッと動いた口は山にポッカリと空いた洞窟のようで、声を出すまではそれが本当に生き物なのかどうかも怪しんでいた自分に気が付いた。ほんの少し囁いただけだろうに、鼓膜が破れんばかりにそこら一体へ響き渡った言葉に、美代は口をきつく閉ざす。


 ダークネスが相手ならば、勝てないまでも二人を助け出してあわよくば逃げることが出来ると思っていた。それからブラック達と合流して、この不思議な世界から抜け出せればいいと、そんな甘い期待を持っていたことは否定できない。


 だが。一つの山が相手になるとなれば、話しは全く変わってしまうのだ。


「さぁ、来い、セイント。ただお前がうなずくだけで、奴らの命は救われる」

「残念ですがそうはいきませんよ、ダークネス。彼女がご自身を犠牲にすると言って、我々が黙っているとでもお思いで?」


 口を開く前に背後から塞がれてしまい、挑発するように吐き捨てたボンドッツの事を振り返ってしまった。襟首を引っ張るようにして背後に押しやられ、目を細めていくダークネスに息を呑む。


「ならば小僧、貴様から排除してやろう」


 筋肉や骨が擦れる音を響かせながら腕を持ち上げた彼の周りで、魔力が火花のように爆ぜているのが見えた。ほとんど聞き取れない詠唱と共に飛んできた火の球にその術が火 球フラム・バルらしい事はわかったけれど、その大きさに目を見開く。


 普通に唱えれば人の頭部ほどの大きさしかない火球なのに。

 ダークネスが使ったそれは、美代の背丈の倍以上はあったのだ。


魔 弾 盾マジア・シルト……!」

爆   舞グラナーテ・ロンド!」


 自分たちを守るために張った魔力の壁に爆発の衝撃が走り、宙に浮いているせいだろうかその反動で吹き飛ばされた。スノーを抱え、ビクリと肩を震わせたダークを安心させるよう背中をさすりながらも振り返り、バンダナを護る様に腕を首元に回すボンドッツに喉が掠れた音を出す。

 炎は彼を飲みこんだまま突き進み、見ている前で爆発を起こした。低く笑う声が聞こえてギッと睨みつければ、ダークネスが丘のような肩を揺らして笑っている。


「さぁて、次は誰を消してやろうか?」

「勝手に殺さないでいただきたいですね!」


 力強い声と共に斬 裂 血フィロ・ブルッドがダークネスに向かって飛んだ。片手であしらわれたそれに美代は息を呑むけれど、声の方へと顔を向ける。

 プスプスと白い煙を揺蕩たゆたわせ、険しい表情をし、鋭く瞳を光らせたボンドッツが盛大な舌打ちを漏らしながらそこにいた。


「えぇ、えぇ! まっさかシャダッドの連中に感謝をする日が来ようとは思いませんでしたよ! 体が鉄で出来たカラクリに変えてくださって!」


 バンダナは死守したのだろう、こげの一つもないようにしていたけれど、彼自身の服は焼けてしまってかろうじて纏わりつく程度の布しか残っていなかった。

 変 幻 偽 視メンティ・マスケを封じていた魔道具のブレスレットも壊れてしまったのだろう、鉄の肌をむき出しにした彼は心の底から憎たらしそうに吐き捨てて、手に持っている小さな石を手首に喰いこませていく。

 鉄の肌にわずかばかり穴を空け、中に入れてしまうと姿が元に戻った。どうやらブレスレット全体ではなく、その石だけが魔道具としての力を持っていたらしい。


「私を排除したければ、バーナーさん並みの火力を用意することですね。あなた程度の火の粉なんかでは火傷の一つも負いませんとも!」

「ボンドッツ!」

「それに、リンの仇を討つまでは絶対に死にません、死ねません。執念深さを舐めないでいただきたい」


 これまでに見たことがないほどの殺意を込めた瞳を鈍く光らせ、美代の隣に並んだボンドッツはダーク達の周りに魔 弾 盾マジア・シルトを重ねて唱えた。美代も自身は魔力の壁の外に出ると再び唱え、ボンドッツを振り返る。


「これだけ大きければいい目印だ、頼りにしてるよボンドッツ!」

「えぇ、ブラック達が来るまで耐えきってみせましょう?」


 不敵に吊り上がった口に、同じような笑みを浮かべてしまい。

 不安そうに表情を歪めているダークを一度見て、ダークネスに向かい飛んだ。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 まるで痙攣でも起こしたかのように肩を跳ねたブルーに、雷斗はサッと青ざめると彼の事を正面から抱きしめた。そのままゆっくり座らせて背中をさすり、荒い呼吸を落ち着かせる。

 弱い力で服を握りしめてくる彼に、頬を走っている涙を拭ってやりながら周囲を見渡した。


「どうした、ブルー? なにかあったのか?」

「わ、わからんのよ。だけど、なんだか急に怖くなって」


 震える彼を宥めていたら、体の芯まで響き渡る地鳴りが起きて今度は二人そろって体を跳ねた。何事かと顔を見合わせていたら炎が一筋、目線の高さを駆けていく。


「イフリート!」

「美代殿たちが、見つかったのか!」


 高らかに鳴くそれは、肯定だと取って。

 未だ震えるブルーを横抱きにし、使い魔から引き離されないよう全力で走った。




 少し歩いては心眼を開いて顔色を悪くし、体を支えてもらうように歩きながら周囲を見渡して。

 美代たちの気配も感じられず、ブラックはただでも少なかった口数がすっかりなくなっていた。黒疾が話しかけてみるけれど、わずかに首を縦横に振るばかりで言葉が一つも出てこない。

 身体的疲労以上に、精神的疲労の方が大きいのだろうと苦笑していれば、わずかな熱気を感じて振り返った。


「死神……いや、使い魔?」

「ブラック、黒疾!」

「美代はん達が見つかったみたいよ!」


 イフリートが連れて来たのはブルーを抱える雷斗で、黒疾が咄嗟に腕を伸ばすと意図を察したのだろう小柄な体をヒョイと投げた。少々驚きながらも慌てる事はなく、今度はしっかりと黒疾の腕に抱え上げられたブルーは顔色も悪いブラックを心配そうにのぞき込む。


「ブラック、大丈夫?」

「オレはなんともない。イフリート、美代たちのところへ案内してくれ!」


 こちらも、心配してか飛ぶ速度を格段に落としていたイフリートだけれど。

 ブラックの瞳に強い光が灯ったのを確認してか、小さく頷いて翼を折りたたみ、先ほどよりも速く宙を翔けるのだった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 ダークネスが放つ稲 妻 刃ブリッツ・ドルヒを幾重にも重ねた魔 弾 盾マジア・シルトでやり過ごし、唱えた疾 風 斬ゲイル・ブレイドを苦も無く払われては舌打ちを漏らした。

 舌打ちの原因はそれだけではない。自身の息子だというのに、ダークネスは美代やボンドッツ以上にダークの事を狙って術を放っていたのだ。

 目が見えていない、魔力を削られている彼を護るために近くでは術を使わないようにしているけれど、そちらに向けられるのではどうしても行かざるを得なくなる。


 確かに、戦う上で者から狙うのは定石ではあるだろうけれど。これまで魔族が取ってこなかったはずの戦い方に、不慣れな舞 空 術アラ・ボラルを使っている美代は着実に魔力が抉られているのを感じていた。前髪は汗で額に張り付いているし、呼吸は荒く肩が激しく上下しているのがわかる。

 ボンドッツも顔を歪めながら途切れなく詠唱を続け、がむしゃらに攻撃を加えていた。せせら笑うように動いていくダークネスの口元に眉間のしわは深くなるばかりで、声を掠れさせながら飛び回る。


 不意に、ダークネスが放つ術が自分たちに向けられていないような気がして、美代は宙に止まった。顔を向けてみるとボンドッツも何かの異変に気が付いたのだろう、飛んでいるはずなのに体が揺れている自分の元に来てくれる。

 それなのにダークネスの視線は動かず、明後日の方向に火球が飛んで、美代はきつく眉を寄せた。


「ダークネスの様子が変だよ、どうして……あんな方向に、火 球フラム・バルを?」

「……あくまで、推測ですが。元々魔族として多大な魔力を持っているにも関わらず、シャドウ様の魔力まで奪ったと言っていましたね。そのせいで暴走をしているのでは、ないかと」

「暴走……? だって、魔力は暴走したら、衝撃波みたいになるんじゃ」

「外側に向いた場合は、ですね。内側に向いた場合にはどうなるのかもわかりません、が、どちらにせよ命を落としかねないことは確かです」


 疲労しているのだろう、肩を静かに揺らしながら深呼吸をしているボンドッツの言葉に、美代は唇を戦慄かせた。瞳に不安の色が乗ったのがわかったのだろう、安心させるように肩を抱きしめてくれたその手を弱く掴み、見当違いな場所に走って行く閃光に目をきつく閉じる。

 直後、熱気を感じて目を開けば、炎の球がこちらに向かって飛んできていた。


「あ……!」

「怯むな!」


 力強い声と共に、地上から別の炎が飛んできた。ダークネスが放った術をいとも簡単に呑みこみ、かき消してしまったそれに思わず笑みが浮かんでしまい、視線を地上へ向ける。


「バーナー!」

「ブラック達もすぐに来る、耐えろ!」


 ほんの少しの時間離れていただけなのに、彼の声がなんと心強いことか。


 美代は大きく息を吐き出してボンドッツの腕を抜け、ダークの傍に向かった。腕を掴まれて驚いたのだろう体を震わせる彼を連れて地上へと飛んで、地面に足を着けた途端にバランスを崩しながらもバーナーの元へ行く。

 体を支えてくれた彼は、潰された左目を見て小さく息を飲んだ。


「ダーク……!」

「バーナー、カ……? スマナイ、スノート、シャドウ殿ヲ、頼ム。ワシノ事ハイイ、二人ヲ頼ム」


 今にも泣きだしてしまいそうなほどに、弱々しい声だった。静かに涙を流すスノーを差し出したダークの肩をきつく抱きしめ、幼子の体は受け取らずにダークをその場へ座らせる。

 動かないよう言いつければ微かに頷き、スノーをキュッと抱きしめていた。周囲の様子が音でしかわからないために恐ろしいのだろう、俯きながら震える彼を見て苦しそうに微笑み、囲うように炎を走らせる。


「バーナーは、ダーク達を」

「いいや、オイラも飛べる」


 ニィッと口角を上げ、視線を向けた先には炎の鳥がいた。両腕を広げるとますます速度を上げて飛んできた使い魔に向け、再び炎を噴きだしていく。

 イフリートがその炎を食らい、体を大きくしているとブラック達の姿が見えた。美代の姿を見るなり走るのを止めて宙を翔け、押し倒さん勢いで抱き着いてきた彼を落ち着かせるよう背を撫でる。


 唇を引き締め、泣き出しそうな顔をしているブラックに思わず小さく吹き出せば、彼は目元を濡らしながらキョトンと首を傾げた。


「来てくれたね、やっぱり来てくれた。だからもう、悲しまないで。私は平気だよ」

「美代……」

「ダークネスを止めよう。ブラック、戦いながらダーク達を護れそう? 魔 弾 盾マジア・シルトを唱えられそう?」


 ブルーが炎の中に入って悲鳴を上げ、雷斗が顔を歪めながらも出てくると雲をかき集めてボンドッツと共に宙に向かった。その後を追ったバーナーの背を見送りながら、炎の壁の内側をそっと覗きこむ。


「だ、ダーク!」

「ブラック……ソウカ、皆、合流出来タノダナ」

「目はどうしたんだ! シャドウは? 何があって!」

「落チ着キナサイ」


 緩々と伸ばされた腕を掴んで、ブラックは彼の掌を自身の頬に当てた。そのままゆっくりと引き寄せられて従うままに近寄れば、胸元に頭を引き寄せられる。


「奴ヲ、ダークネスヲ倒シテクレ」

「ダーク、ダーク」

「ワシハ大丈夫ダヨ。シャドウ殿モ、気ヲ失ッテイルダケダ。奪ワレタ魔力モ、時間ハカカルケレド必ズ戻ル。ダカラ今ハ心配シナイデ、彼女達ヲ、守ッテクレ」


 ポンポンと優しく撫でられて、ブラックは震える手でダークに抱きついた。それでも小さく頷き、ゆっくりと体を放して美代の手を握る。


「美代」

「いいよ」


 遠慮がちに当てられた額同士に、美代は静かに目を閉じた。本のわずかの時間だったのにこれまでの出来事を読み取ったのだろう、目尻に浮いた涙を指先で拭い取って宙に向かう。


「ありがとう、大体の事情はわかった。……オレは負けないよ」

「これが、最後の戦いになると嬉しいねぇ」


 苦々しく呟いてブラックの手を離せば、舞 空 術アラ・ボラルを使っている自分に驚いたのだろう目を丸くされたけれど。

 目付きも鋭くダークネスを睨みつけているブラックに並んで、美代も目を細めた。


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