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貴! アイス買ってきなさい!


 鶴が作ってくれた夕飯はボルシチとペリメニでさすがロシア国籍と思わせるメニューであったし味もさすが本場と思わせるおいしさであったため完食してしまったがそれはどうでもいい、本当にどうでもいいことだ。鶴が翼を起用に使い中性洗剤をスポンジに馴染ませ洗い物をしてくれたことには感謝感謝であるけれどそれもどうでもいい、本当のどうでもいいことだ。(キッチンで貴が鶴の横に立ち、鶴が洗った食器を拭いていた時は「お前そんなことできるなら私が洗いものしている時もやれよな」憤りを感じた、これはどうでもよくない、いつか場所を改めて本格的に抗議したいと思う)


 食事前に鶴に、

「ロシア国籍ですいません」

 と、言われたとき、

「いや国籍とか今どうでもいいから」

 と、それより鶴であることへの説明を求めようとしたら、この「どうでもいいから」が「国際結婚ことか全然気にてないわよ、そんなことどうでもいいこと、一番大切なのは二人の気持ち、幸せにおなり」と改変されてきこえたらしく、鶴と貴は大喜び、もうこれで結婚への障害はなくなったといそいそ立ち上がりキッチンで二人して皮にあんを包みペリメニを作り出し、ビーツの缶詰を開け、サワークリーム味見し合ったりしながらボルシチを作り上げ、三人で実食、おいしく完食、今に至る。

 

 鶴の鶴問題については、全く追及できていない私である。


 食後のお茶をいただきながら、じっくりと目の前の鶴を見る。うん、実際鶴である。

 ガッツリ鶴である。鳥である。鶴を優しくなでる貴、こっちは見慣れた息子で人間である。ガッツリ人間である。

 しかし仲は睦まじい。

 イチャイチャしくさっている。

 でもいやらしさは全くない鶴と人間なので。

 いや、いやらしさを感じないのはいかがなものか? 夫婦となるならいやらしいことをしてもらわないと子孫は残らないのである。いわゆる生殖行為を鶴と貴は行えるのだろうか? 

 しかしこれはきけない、息子に「いやらしいこととか、しちゃってる?」とか、恥ずかしいし、情けないし。

 

 でも知りたい。


 ここは女同し、鶴にきいてみることとしよう。

 

「貴、コンビニでアイスを買ってきてちょうだい」

「母さんがそう言うと思って、もう買ってきてあるよハーゲンダッツ」

「今日はカップの気分ではないのであずきバーを買ってきなさい、ハリ! ハリ! ムーブムーブムーブ!」

 

 貴を家から追い出し鶴と対峙する。

 鶴なんかびくびくしているけど私だってお姑さんと初めて二人きりになった時は発電できるんじゃないかってくらい恐怖で震えたのでまぁ適正な反応だろう。

「鶴さん」

「は、はい、お義母様」

 自分でも信じられないほど冷たい声が口から飛び出て驚く。その声に鶴はビビりまくっているのだろうびくびくが強くなった。

 

 いいぞ私、確実に主導権は握った。

 

 しかしどうだろう? いきなりいやらしい質問は、いやらしすぎるのではないだろうか。ここは軽いジャブから入ろう。

「鶴さん、お仕事は何をされているの?」

 自分で言ってみてなんだが、鶴に職業をきくって。

 鶴なんだから仕事なんてしているはずないだろう、私のおバカさんめ、どれだけ動揺すれば気が済むのか、まったく。

「は、はい、今は貴さんと同じ会社でモバイルゲームのプログラマーをしています」

 え? 仕事してるの!? それもよく分からないが、巷で今若者にオシャレだと絶大な人気があるという横文字系職業!?

 

 いやそこじゃない! ききずてならない言葉あった! 今!


「え? 貴と同じ会社って? あの子無職じゃないの?」

「無職? いや、そんなことはないと思いますよ? 今うちの会社でヒットしてるモバイルゲームのシナリオ、ほとんど貴さんが書いてますし、その前にも一本ヒット出してますよ」

「そ、そんなはずないわ、ほとんど家にいるし」

「在宅でお仕事されているんじゃないですか? 私も専門外なのでよくは分かりませんが、場所を選ばない仕事だと思いますシナリオライターって」

「嘘でしょ、貴が、働いていたなんて……」

「名前が出る仕事です。ご立派に働かれていますよ、貴さん」

「そんな……」

 貴が働いていただなんて……。挨拶がわりに軽くジャブはなったら、カウンターでチンに右フック喰らったような気分だ。もうTKO寸前である。

 

 いかん、貴が働いているとか、けっこう重要な話だが、今はどうでもいい話である。それよりいやらしい話だ。もうジャブはいらない、どんなカウンターが待っているか分からないし、これ以上ダメージ喰らうと、スタンディングダウンからのレフリーストップになりかねない。

 

 ここはいきなり核心に迫ろう。


 生まれたばかりの子羊のあんよのように震える心を立て直し、ピーカーブスタイルでガードをあげ、渾身のチョッピングライト(的な言葉)を振り抜く。

「つ、鶴さん」

「は、はいお義母さん!」

「鶴さんて、鶴よね」

「あ、はい、鶴です、ツル科ツル目タンチョウ鶴です」

「そうよね、ああよかった、もしかしたら私の目にだけ鶴さんが鶴に映っていて本当は人間とか、あるのかと思って、それなら私本当に病院行かなきゃならないじゃない? 本当に鶴さんは鶴なのよね? あの空飛ぶ、鳥の鶴よね」

「はい、私は空飛ぶ鳥の鶴です」

「そうよね」

「はい」

「そこでね?」

「はい」

「ほら貴って、私と義彦さん、ああ義彦さんは私の死んだ旦那様なんだけど、まあそれはいいのだけど、貴は、私と義彦さんの間にできた子じゃない? つまりはほら、人間じゃない?」

「はい、私の目から見ても、貴さんは人間に見えますが」

「そうよね! 貴は人間よね! そこでね、」

「はい」

「あなた鶴じゃない?」

「はい」

「貴、人間じゃない?」

「はい」

「いや私、二人の仲を反対しているわけじゃないのよ! これだけは覚えておいて! それに鶴に対して差別的意識があるとかそんなのでもないのよ! でもどうしても確認だけしておきたいの! これはどうしてもなの!」

「は、はい」


「鶴と人間てそもそも結婚できるの?」


「法的には難しいかもしれませんが、お義母様、まだ貴さんにも言ってないのですが……お腹に……貴さんの子どもがいます」


 


いやちょっと待て、

そういう後出しジャンケンみたいなフィニッシュブロー、

止めてもらっていいですか。




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