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獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。  作者: 真麻一花


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4 離れたら生きていけない(物理)


 自分が、ガウスに釣り合わないと知ったのは、数年前だ。

 きっかけは、見知らぬ獣人のお姉さんだった。


「自分がお荷物だって、わかってないの?」


 突然向けられた言葉に、私は意味がわからなかった。


「貴女がいつまでもガウスの元にいるから、未だに彼、番がいないじゃないの。ガウスみたいに獣性が強くても、表に獣性が出てないような男は、私みたいなほんの少し獣性の強い雌が良いのよ。もしかして、あなた、ガウスの番になれると思って、ガウスにしがみついてるんじゃないの? 迷惑な女ね」


 こんな事を言われたのは、初めてだった。

 だから、すごくびっくりしたし、怖かった。基本的に大人の獣人は私より大きい。相手が女性でも詰め寄られると、威圧感がものすごくあるのだ。

 知り合いはみんな優しくしてくれたから、怖いと思わずにすんでいたのだと、この時知った。


 獣性の強い人は怖いと思い込んでいた私に、根気よく声をかけ続けてくれた熊のお兄さんも、虎に怯えていた私にいつも「虎族の男がごめんね」と声をかけてくれた虎族のおばさんも、他にもいっぱい、優しく声をかけてくれた獣達がいた。

 見るからに獣性がすごく強かったけど、とても優しくしてくれた。そしてガウスにいっぱい甘えたら良いと言ってくれた。ガウスがいれば安全だから、離れるんじゃないよと、そう声をかけてくれていた。ガウスを通じて知り合った誰もが、私に優しかった。


 だから正反対の言葉を向けられて、私は驚いたのだ。

 そして向けられた悪意は、苦しくて、息が詰まりそうで、怖かった。

 彼女は、少し獣性が強めの理想的なバランスの獣人だった。自信満々に私を非難する彼女の様子からは、今まで私が感じていたこの世界の常識とは、また違う常識が垣間見えた。

 この時初めて、「雌の常識」を知り、この世界での私の立ち位置がどういう物なのか、知ることになった。

 私は、弱すぎるのだ。純粋なヒトは、番でない限りお荷物なのだ。

 獣であるみんなは、私にガウスから離れるなと心配してくれたから、彼らから見て純粋なヒトである私は、他のヒトに比べてもか弱く見えていたのだろう。

 でも、それは、私が子供だったからではないかと気付いた。庇護の対象と思っていたせいだろうと、ようやく。

 当時私は十五才前後。獣人達の間ではとっくに成人して独り立ちしている年齢だった。

 でも、私は獣人より小さい。獣人達から見た私は、たぶん十代半ばと言うよりは、十代前半に見えていたはずだ。つまり、まだ独り立ちする前の年齢ぐらいだ。だからみんなは私に甘かった。

 でも獣人の成人はだいたい十三歳だ。十三歳といっても、私のその年頃より、獣人はずっと大人びた雰囲気だけど。

 つまり私は、年齢上は成人していた。なのに、ガウスの元から離れない私にじれて、その女性は声をかけてきたのだろう。

 もっとも、その内容は彼女に都合の良いように少しねじ曲げられていたけれど。ほんの少しどころか、彼女よりもっと獣性が高くないと、ガウスとは釣り合わないのだから。


 それから何度かそういうことが彼女以外からもあって、獣人から見ると私はガウスに釣り合わないのだと、その度に思い知らされた。

 獣たちはヒトである私に今でも甘い。ヒトは、基本的に獣の対応に準ずる。

 でも獣人は、ヒトとも獣とももちろん獣人同士とでも番えるから、私に優しくする必要がないのだろう。

 あまり関わりのなかった()()に苦手意識を持ったのもこの頃だ。獣人には自分たちが一番この世界に適しているという驕りがあるように思う。つまり、力もなく家族も番もいない私を見下しているのだ。だから、私は獣人は苦手だ。

 エルファを見て思う。こんなのがガウスの番になるだなんて、絶対に嫌だ。

 ネコ耳だとか犬耳だとか、かわいいからって、いい気になって。

 ちょっとかわいくてうらやましいとか、思ってないし。



 以前は、ガウスは私のものだと、子供らしい傲慢さで思っていた。

 子供だから許されていたそんな傲慢さは、獣人の女性に嫌みを言われた頃から、だんだんと変わっていった。

 何より、ガウスが私より番の方を大切にしてる姿を想像して、泣きそうなぐらい苦しくなった。

 一緒にいるために、どうしたら良いのか必死で考えた。だって、ガウスが誰かと結婚しちゃったら私は追い出されてしまう。居候はさせてもらえるだろうけど、一番は私じゃなくなってしまう。番が最優先なのは獣人の常識だ。

 渡したくない、女の人と一緒にいるのを見たくない。


 ガウスが好き。私だけのガウスでいて。


 気がついてしまうと、心は簡単に恋心へと流れていった。

 私は、ガウスから離れるのが怖いだけでなくて、ガウスのことが好きだから離れたくない自分に気付いた。そのときはまだ、恋、と言うには、家族愛が強かったけれど。

 でも、その頃から確かに意識をし始めて、いつのまにか私は、ガウスの番になることを望むようになっていた。

 抱きしめられて男の人だって意識をした。舐められて羞恥を覚えた。もっと触れていたいと、マーキングだけでは物足りなくなった。

 庇護する子供として私を見ないで、大人になったって認めて。あなたの伴侶になれる雌だって意識して。

 彼は見た目は人間でも、本能で番を選ぶ獣人だ。ヒトとヒトという壁が、重くのしかかる。






「ミーナ、そろそろ焼けてないか?」


 物理的にのしかかってきているガウスが、肩越しに声をかけてくる。私の肩に顎を乗せるようにして、ぐりぐりと頭を押しつけてくる。

 今日はやけにマーキングが激しいなと思いつつ、こちらからも頭をかしげグリグリと頭突きを返す。だって邪魔だし。


「いててて」


 痛くもないくせにガウスが叫んで「ひでぇな」と体を起こすと、今度は手でグリグリと頭を撫でてきた。


「手伝ってくれるの?」

「おう」


 そうじゃないなら離れてと言おうとした言葉は、ガウスの返事で行き場をなくす。

 私に言われるまま、ガウスはかまどの中の肉を道具を使って引っ張り出すと、大きなかたまり肉の載った皿を、軽々と持ち上げた。


「あちちち、これ、どこ持ってくんだ?」

「台所の調理台で良いよ」


 布越しでも引っ張り出しているうちに手元は熱くなる。重いから動作は遅くなるし、尚更熱い。だから私がやると、ある程度冷めるまで運べない。場合によっては面倒だからその場で切ったりするんだけど、ガウスは簡単にやってのける。

 それでなくても、家にある道具は全て獣人仕様だ。人間である私には、使い勝手の悪いものが多い。主に、重さや大きさという意味で。

 私は、一人で暮らすのは無理だ。こんな些細なこと一つとっても、たぶんすぐに行き詰まってしまうだろう。ガウスが生命線と言ってもいい。

 物理的に、私はガウスがいないと生きていけない。


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