表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/19

3 ヒトとヒトは番えない

 私が、この世界でガウスと釣り合わないことは、嫌というほど思い知らされている。

 それは町を見ていると、当たり前のようにわかる。獣はヒトと結ばれ、獣同士はほとんどなくて、ヒト同士に至っては、まずあり得ない。

 バランスの良い獣人は、最も好まれる獣性だ。弱すぎもせず頭も単純すぎず、子供を産んでもひどい偏りのある獣性の子は生まれにくい。だから、そのバランスの良さを鼻にかける雌は、少なくない。

 一方、ヒトは弱いから保護はされても、使えない子、愛玩、場合によっては穀潰し的な目で見られる。ヒトは獣人より頭が良いことが断然多いんだけど、獣と獣人は割と脳筋だからそこを重要視してないっぽい。

 とはいっても、獣はそんなヒトをこよなく愛する傾向にあるし、ヒトはそれを上手く使って獣を手玉に取るのが常識だから、マーキングされているヒトは尚更、迂闊に手を出されることはない。

 でも間違いなく、嫁候補としてもカースト最底辺だ。弱い子(ヒト)が生まれたら大変、と言って敬遠されるのが、この世界の常識だから。


 私とガウスは、ヒトとヒトだ。この世界で一番ダメな組み合わせだ。

 私に至ってはヒトどころか完全な人間だ。獣性なんて欠片もない。……猿の獣人……という可能性を、ちょっと考えたりもしたけれど、それなら、みんなヒト属性は一緒だから、結局はないということだろう。ちなみに、この世界で猿系の獣人を見たことない。この町は猛獣系、肉食系の獣人が多くて偏ってるだけかもだけど。

 つまり、絶対に私とガウスは釣り合わないということだ。ガウスが私を恋愛の対象にすることはないっていうことだ。

 とはいえ、ガウスは自分のことを「獣」って言ってるんだけどね。

 そんなこと言われても、獣みたいに脳筋じゃないし。獣を名乗るには無理がありすぎるよ、ガウス。

 ヒトに「バカな子ほどかわいい」的に、手のひらの上で転がされて喜んでいる獣とは、全然違う。


 ガウスがホントに獣だったら、お嫁さんにしてって、お願いするのに。


 でも、ガウスの言う「獣」は、強さのことなのだろう。獣性が強すぎる獣並みの強さを持ってるヒトって事だ。だから私に心配すんなって、守る力はあるって言ってくれてるんだと思う。あと、ヒトって馬鹿にされないように、大きく出てるのかもしれない。

 ……それは決して私と番えるって事じゃない。獣性のバランスの悪さは、覆せない。


 そんなの、エルファになんかに言われなくてもわかってる。ここで暮らし始めて、ガウスを狙う雌たちに散々釘を刺されてきたことだ。

 おかげで雌の獣性事情にやたらと詳しくなってしまったのは、助かった部分もあるのだけど。


 ガウスや親しい獣人達にも詳しく聞き直し、彼女たちの言葉がこの世界の常識で間違ってないことを確認してる。

 だから、ホントにわかってるんだけど。

 でも、ガウスとこれからも一緒にいたい。

 他に行くところなんてないし。大体ガウスがいないと私は物理的に生きていけないし。獣と番うとか、それはそれで怖すぎるし。

 そうやって心の中で、ガウスと一緒にいる理由をいくつもいくつも積みあげていく。

 でもホントはそうじゃなくって、理由なんてどうでもよくって、ずっと一緒にいるならガウスがいいってだけなんだけど。



 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ガウスは隙あれば私にマーキングをする。

 ぎゅってするのは安心するし、顔が近づいてくるのも慣れたものだ。

 でも、それでも私に触れる大きな手だとか、近づいてくる男らしい目元や笑う口元に、私はドキドキする。この人は私の大好きな人で、この手に当たり前に触れて良いんだっていうことに、たまらないぐらい胸がきゅうっと痛くなる。

 私ばっかり好きになるだけで、子供扱いが切ない。


「ガウスのバカ」


 無性に腹が立って、マーキングするガウスを引き剥がして、ほっぺをぎゅーっと引き延ばしてやった。

 私の唐突な行動にもガウスは慣れたもので、好き勝手やる私を放置して、頭を撫でて私の様子を見ている。


「……なにしてんだ、お前」


 反応のなさにつまらなくなって手を放せば、呆れた様子でグリグリと頭を撫でられた。

 あ、これ、知ってる。この前見かけた猫獣人のお母さんの反応だ。


「べつにー」


 完全に子供扱いなのがむかつく。でもなにしても許される立場なのは嬉しい。私はガウスに大切にされてる。ガウスは私を見捨てない。

 えいっと頭突きをしてみる。ゴツンと音がして、頭がクラクラする。


「いてぇ」


 と笑うガウスは全然痛そうじゃない。私はクラクラしてるのに。ガウスのバカ。

 嬉しくて、切ない。恋心は、複雑だ。




 私はいつまでガウスの側にいられるかわからない。

 ガウスが私を見放すことはないって当たり前のように信じてる。

 でも、理性ではわかってる。ガウスが、いつ番を見つけてもおかしくないこと。そしてそれは私じゃないこと。そうなったら、いつまでも養い子でいちゃダメなこと。


 ……私は、獣の番を見つけなきゃいけないのかな。


 想像して、ぞっとした。

 無理だ。絶対に無理。

 キスだとか、ハグだとかはいい。でも、それ以上は無理。


 ……私はたぶん、獣人とは番えない。獣性が強い獣相手なら尚更。どうしても恋愛の対象には見えなかった。

 私はガウスのお嫁さんになれないと知ったとき、頑張って獣人の世界に馴染もうとした。怖かったけど、怖がってばかりじゃここじゃ生きていけないから。

 ガウスが紹介してくれる町のみんなと話しもするようになったし、交流できるようになった。でも、それだけだった。

 同年代の異性と話してもドキドキすることはなかったし、友達以上の興味を持てなかった。ヒトの異性だとやっぱり異性って感じがするけど、獣相手だと、どうしても「話ができる動物」に近い感情がある。


 それに、ガウスを通じて知り合った獣たちは総じて私に優しいけど、基本的に私とは距離を取る。聞くところによると、ガウスのお守りが強烈だかららしい。そんなんで恋愛になんか発展するわけもないわけで。


「かわいがられてるね」

 と、苦笑したのは、エルファのお兄さんだったか。

「俺みたいなのからすると、君はすごく魅力的なんだけど、恐ろしくて近寄れないよ」

 そう言って「これ以上は近寄らないでね、君に俺の匂いが付くとひどい目に遭いそうだから」と両手を挙げられた。


 その時は、ガウスの過保護っぷりにちょっと呆れて、それから獣から狙われないことにほっとして、それで、すごく大切にされていることを感じて嬉しかった。

 いつまでガウスの側にいられるのかな。そしてガウスはいつか……獣の女の子と番になるのかな。

 私以外を選ぶガウスを想像しただけで怖くなる。

 でも、ガウスのお嫁さんは、私以外だ。いつお嫁さんをもらうのかな、私は一緒に住むのかな。だとしたら、もっと先だといい。ううん、どうせなら、このまま一人でいて。私が側にいられるようにして。

 ずっと、身勝手なことを考え続けている。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ