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第二十二話

最終話 記憶という名の時間の渦は



「オイ、水華!オイ!!」


“罪という名の追憶の罰”


「ぐ……あっ……!」


“あふれ出す雫消え悲しみに”


「風通しがよさそうじゃの。ぴゅうぴゅうじゃ」


“月が輝き写しだす顔”


「死ぬの?四季」


“信じたい遠い日の安らぎを”


時が止まっていた。理解ができない。が、良くない。状況把握だ、状況把握しろわたし。

「推古、やはりお主は恐ろしかった」

卑弥呼が語り始める。まだ五人は戦闘中。戸惑うわたし、崩れた水華、笑う卑弥呼。そして呆然と水華を見下ろす利府。利府。水華の親友。幼馴染。チーム水華の中でも飛びぬけて仲が良かった存在。それが。

「じゃからやはりと言うか、先ほども伝えたがの、思い煩いせっせと準備させてもらった。推古の魂であるお主には注意せねばならぬのでの。お主が産声を上げた日からそれは始まった。“にんげん”を生み出し、お主に近づくよう作った。それがその巫女。利府瀬戸じゃ」

「待てよ、利府は、鬼だってのか!」

「“にんげん”じゃよ。純然な人間。“こう”なった時妾のため動くように設置したんじゃ」

「設……置……?」

そいつは利府の素質スキルだ。

「思惑通り利府に心を許した。妾の魂胆だと勘付かれぬよう設置発動までは妾に歯向かう様、そう設定したからの、疑りもせぬ」

これが卑弥呼の作戦。幹部相手に分散させ水華が辿り着いたタイミングで発動するように仕向けた。二十年以上前からの策略。防ぎようがない。疑いようがない。

「恐怖がないから近づく。だから逃げない。だからそこに踏み込む。私の“範囲”に」

利府の、卑弥呼の範囲。

『四季!?何、何が起こって』

考えろ。増援を呼ぶか。卑弥呼前が最重要だ。

「鐘ヶ江!トラブルだ、がわたしが対処する。そのままそいつ倒したら来てくれ」

『でもナギちゃん、倒れてる!リセ!リセ!』

ちゃん付けで呼ばれる。鐘ヶ江にとってわたしはもう後輩のわたしだった。

「信じてくれ!お前らもまず幹部からだ!!」

「ほほう、妾にあてがわぬのか」

「だァってろビッチ。わたしだけで十分過ぎるね」

ビンを二本開け一気に飲む。体が熱い。まだ左腕も動く。

「お主にも設置をつけておれば良かったの清明。どれ、戦う前に消しておくか」

卑弥呼が腕を突き出し拳を握ると利府が倒れた。霊力、いや“魂”を抜かれたか。

「遊んでやるかの」

「上等。伊左治凪だ、相手になってやる」

『無理すんなよ』

「無理するさ、だから早く手伝え」

「ゆくぞ」

第一撃を弾く。甲木の素質スキルに頼らない単純な霊力弾。二本飲みでようやく太刀打ちできる。

「水華ァ!目覚めて来い!!現実なんだよ!!あんたの親友は卑弥呼の策略だった!」

返事が無い。会話に余計な神経を注ぎたくはなかったが水華の復活が無ければ間違いなく全滅する。ここまで来て負けられるかよ畜生。

「だがな、裏切ったのとは違う!!卑弥呼が発動されるその時まで、利府瀬戸は確かにあんたの仲間だ!!抵抗できなかった。防ぎようがなかった。頭回せ!!利府を、あんた達の仲間である利府を“仲間”のままにできんは、守れるのは、こいつを倒した時だけだ!!!」

「無駄口を叩く余裕があるとはの」

「がっ!」

掌底からの回し蹴りを食らう。蹴りは左腕で防いだがこれでさらに傷を負った。

「諦めるのじゃな。心を折った。もう立ち上がれぬ」

まだか、まだ終わらねェか。遅い。遅すぎる。

「まさかテメェ、わざと!」

「死ぬことすらしもべの役目じゃ。お主にはいい席で見てもらおうと思っての。もう一人を置いてきたのは得策じゃったの」

ヨクヤとゴリをわざと倒させた。その分の力を残るイキセとメシナに乗せた可能性もある。

「万策尽きたか清明」

「その名で呼ぶなと!!!」

鋼線が届ききらない。殺しても再生される。

「言ってんだよ!!!!」

「左じゃ」

思い切り殴られる。鋼線で地面を掴み吹き飛ぶのを防ぎ遠心力のまままた卑弥呼に突っ込む。

「鼻血が出ておる。美人が台無しじゃ」

「起きろよ!!あいつを裏切り者にしてもいいのかよ!!!!こいつの体を悪者にしてもいいのかよ!!!!四季さん!!!!」

『……うらぎり』

つぶやく声。水華、四季さんの声。

「あァそうだ!!このまま卑弥呼にやられたらどうなる?百年後のガキが開く教科書にはこう書かれる。卑弥呼は甲木ひかりの体を奪い国を破壊した。利府瀬戸は巫女一派に見えたが最後に裏切り国を救うチャンスを潰した極悪人。いいのかよ!?四季さん、あんたの大切な“守りたい”じゃねェのかよ!!!!」

『……いや』

「妾も混ぜてくれぬか」

「ガールズトークだ介入してくんなババァ」

「注意しても聞かぬものじゃの清明」

「テメーもなァ!!!」

フルパワーは続く。わたしの力はまだ落ちない。が、卑弥呼の再生も終わらない。供給スピードを超えれば。

「回復してろ四季さん。ここは、わたしのターンだ!!!!」

たぶん、このままだとわたしは死ぬ。でもそれでいいよな?四季さんが、わたし達を思い出した四季さんがこいつをやっつけて、わたしのこと、覚えててくれるよな?

「イージーなんだよ!!これじゃわたしを殺せねェ!!!!」

「楽しませてくれる!」

「足元ォ!!」

「一本くれてやるわ」

「何度生えようが等分してやんぜ!!!」

命が削れていく。二千年の差。追尾のおかげで外すことなくダメージを与え続けられることが救いか。

「もらったァ!」

「痛くないの」

カウンターで霊力弾の直撃を食らう。

「がっ!!」

「清明、妾とお主の差じゃ。いや清明ならまた違っただろうがの」

「だろうよ、わたしにゃテメーの」

笑う。

「ビンを奪うことでせいいっぱいさ」

「何っ?」

卑弥呼が腰元を確認する。そこにビンはなくわたしの鋼線が絡めとり今はわたしの手のひら。ポケットにモノを入れる動作がこんなに気持ちいいとは。

「ロックオンしてたぜ。もう大きな回復はできねェ」

「やってくれおったの!!!」

痛みが本格的にやってくる。捌ききれない。

「体を張るのは苦手だろうに、ようやっておるよ」

「それはセーメーの話。わたしゃアウトドアも嫌いじゃねェのさ」

「じゃが疲れが見えておるぞ」

「気のせいだ」

四季さんが死んだら詰み。が、わたしが死んでも詰まない。ここで止まってたまるか。

「息巻いておるのか。妾に勝てると、この国を救えると」

掌底。後ろから思い切り吹き飛ばされる。起き上がろうとしたわたしの動きが卑弥呼が向けた指により止まる。

「終わりじゃの」

地面から出した鋼線も霊力波で弾かれる。終わりかよ。くそう。指が光を帯びる。

「くっ!」

大きい音がする。わたしは目なんかつぶっていた。のろのろと開く。背中。

「休憩中か?ナギよー」

「あ……」

背中は振り向く。見知った顔。左右にも見知った顔。わたしの仲間。家族。

「まったく、だらしないですわね」

「……仕方ない」

「交代の時間だ。座ってろ」

「バトンタッチでお相手いたしますわ卑弥呼さん」

「……さん、いらない……」

「妾の幹部は」

「あー、悪いな、跡形もねーんで」

ハルバートを振りかぶるチカ。卑弥呼の叫び声と共に戦闘が再開された。助かった。越えたか。卑弥呼の計画のうちか、否か。腹部を押さえる四季さんの元へ駆け寄る。リセ、さんが倒れていた。

「大丈夫か」

「ナギ……ちゃん」

「何でもいいから復活してくれ。倒せるのは四季さんだけだ」

「名前で、呼んでくれましたね」

左手がわたしの顔に伸び、触れる。血がわたしの頬に付いた。

「わたしが、止めます」

「ああ。だから無理すんな、今は。わたしの仲間が時間を稼ぐ。傷治せ」

「ありがとう。あなたがいなかったら、わたしは諦めていました」

倒れるリセさんを見る四季さん。何を考えているのだろう。

「ここが、踏ん張りどころだよ四季」

「リセちゃんとひかちゃんの為に、ね」

振り向く。桐子さん、楯さん。ふたりともぼろぼろだった。

「行ってくるね」

「ようし、最後まで戦っちゃうぞ!」

斬撃飛び交う戦場に参入する最強の槍と盾。五対一。優勢。

『ぎゃっ!』

に見えた。キョウが飛ばされる。確かにこちらは満身創痍だ。しかし五人がかり。なのに。

『がぁっ!!』

どうして。

『ぐ、くっ……!』

やられるんだよ!

「ナギちゃん」

「へ?」

「もう、出ます」

ぐぐと体を起こす四季さん。

「まあ無理だ、わたしが出る」

「あなたも傷だらけじゃないですか」

「だけど!!今行っても勝てる確率はゼロなんだ!」

ぜろ、と四季さんが復唱する。さらに復唱して、それから目を見開いた。

「ナギちゃん。助かりました」

わたしの肩に手が置かれる。

「がっ!!!はっ……」

「楯!!」

桐子さんが叫ぶ。わたし達を庇うように立つ楯さんが体を貫かれていた。倒れた楯さんに桐子さんが駆け寄る。

「素敵じゃ。その防御力。仲間もれなくを守り、庇う。しかし崩れてしまったの」

立っているのは桐子さんだけ。もう戦うしかない。わたしが。

「皆さんの介抱を。わたしが出ます」

四季さんが立ち上がる。霊力を再生に変換したらしい、血も止まっていた。もちろん全快ではなさそうだが。進んでいく四季さん。

「卑弥呼、終わりにしましょう」




--------------------




「もう起きたか水華。しかしもう終局じゃぞ?」

「ええ。これで終わりになります」

「まだまだ妾は戦えるでな」

「その霊力供給がなければ、あなたは終わりです」

「確かに、体内に残る霊力のみになるの」

「そうなれば、わたしの勝ち」

「同じ供給条件だとしてもお主には負けぬわ」

「今のままでは、勝てません」

「どうすると言うのじゃ。逆立ちしても妾には勝てぬ」

「いえ、ここで終わりなんですよ」

「何を言うておるか」

わたしは笑う。ビンを二本開け飲む。これで使えないわけがない。

「零号解除」

光の柱が飛んだ。止む。わたしの右目についた眼帯は紐が切れ落ちた。目は開かない。

「カカッ。何も変わっておらぬの。傷を癒したのみか?」

体の傷はほぼ消えていた。爽快。

「気付きませんか?」

「何がじゃ」

「霊力供給」

二秒後、卑弥呼の目が見開かれる。

「何をしたか水華!!」

「わたしの素質、空間支配は霊力による支配権の移行です。発生源すべての支配権はわたしに移りました。あなたに霊力は届きません」

わたしと卑弥呼以外に意識を保つ六人に霊力を供給するよう支配。これで自然治癒がし易くなることだろう。

「そんな、そんなことが!」

「実際出来るからやったんですよ。これで同条件ですね」

『四季、さん?』

耳から声がする。わたしを気遣う声。多少の不安味も帯びていた。

「貴様、まさか」

卑弥呼の言葉にわたしは笑みになる。

「推古か!!」

「あれー、気付いちゃったぁ?」

わたしは歯を見せていた。

「バレないと思ったんだけどな。ひっさしぶりー卑弥呼。元気ぃ?“頃合い”だったからさぁ。どしたの?くっらい顔してるよ?」

「どういうことじゃ?記憶が、共有、今までしていたと言う事か?」

「できるわけないじゃん。昔の魂が人格を成して表に出てくるなんて、それこそ卑弥呼にしか無理な話。通常ではね?」

「何じゃと?」

『四季、どういう、え?どういうこと?』

わたしに問う声。鐘ヶ江桐子、ちゃんのものだ。

「わたしの魂が推古って話は聞いてたよね?今の零号解除でわたしの人格が表に出てきたの。あっ難しく考えないで?えーと、なんて言ったっけ?二重人格?みたいなものだから」

『きっちり説明してくれ、全然わかんねェ』

「人格の混在なんて頭が疲れそうな行為を抑制するため普段は表に出てこないんだけど、ほら、“素質拘束”って言うじゃん?あれを全部解除した時、魂に宿った人格が出てくんの」

『じゃああんたはモノホンの推古で、四季さんは消えたってのか?』

「大丈夫生きてる生きてる。零号解除を解いたら表に出てくるよ。解除を解くってなんか馬から落馬みたいだけどちょっと違うからね。つーか、四季ちゃんはほぼわたしなんだってば。わたしの一部。皆もそうだよ?魂の人格が元になってる。でも気にしなくていいんだよ。みんなはみんななんだから」

それぞれ戸惑っている。いきなりすぎたか。

「妾を無視してくれるのじゃな」

「あーごめんねぇ。まさかここで出てくるとは思わなかったっしょ?わたしもわたしも」

「教えたのか?その零号解除とやら」

「ううん、四季ちゃんが自分で。思いついても普通できないけど。凄いよねーって自画自賛みたいだね」

「もうよい」

「みたいだね。じゃ、退場してもらおうかな」

指を鳴らし二本の刀を出す。戦うのは、っていうか表に出てくること事態千五百年ぶりくらいだ。

「行くよ?」

「妾に勝てると!!!」

両腕を切り落とす。即座に再生。それを待って切る。再生。再生再生再生。

「あなたが強いのと同じくらい、わたしも強いんだよ?」

「知っておるわ」

「このままじゃ死んじゃうねぇ。あっけないあっけない」

終わりとは、あっけないものだ。

「一対一じゃ勝てなかっただろうね」

「どういうことじゃ!」

「わかんない?久々でわかんなくなっちゃったかな。再生に使う霊力が追いついて無かったよ。ずっとね。みんなが戦ってくれてたから。削りやすかった」

「小さき攻撃など」

「小さくないんだよ。小さいと見えてても数で勝ってた。だから少し優勢」

再生の欠片をすべて手元に置いておかなかったのも余裕のあらわれか、何て言うんだっけ、プライド、の問題。それも全部こちらが奪った。いい副官だよ、彼女は。

「千五百年、あなたの動きを観察してた。その記憶と対策。ね?かわせない」

「くっ」

「ほらー、お留守お留守」

「す、推古、取引

「しなーい。わたしは四季ちゃんの描く未来がみたいの」

再生が鈍ってくる。

「霊力減ってきた?」

「何故じゃ!何故!!お主にも愛した甥がおったじゃろう!!」

「しょうがないよ。人間って死ぬものだし。受け入れないと。それに、ウマヤドちゃんはそんなの望んでない。卑弥呼、現実を受け止める時が来たんだよ」

「ぬおおおおおおおおおおおお!!!!」

卑弥呼の霊力が跳ね上がる。まだ取ってあったのか。

「くふふ、簡単には負けてやらぬ」

「簡単そうに見える?」

「その食った態度が気に入らぬのじゃ!!」

卑弥呼も剣を出してくる。残念だがほんのりわたしの方が上だ。

「結構必死なんだけど。わたしってば表情で損する節あるんだよねぇ」

「軽口まで叩くか!」

「そっちこそ」

多少の攻撃を覚悟で攻めていく。そして“その時”を迎えた。

「勝った」

卑弥呼に右腕を開き伸ばして神楽をかける。

「戻るね。さよなら卑弥呼、会えて嬉しかった、でいいのかな?零号拘束」

そしてわたしはわたしになった。

「推、いや、水華か」

ぼろぼろの卑弥呼。わたしが、推古の魂が開放されたわたしがやったもの。記憶がある。

「あなたに関するほとんどの支配権を得ました。意識、霊力活動、行動の指示、すべてわたしが支配します。今あなたが可能なのは思考すること、喋ることだけです」

「……妾は、負けたのか」

臨界点だが霊力の供給源も同時支配を維持している。さすがに供給まで回らず停止の支配に留まっているが。

「わたし達は、あなたを越えていく」

左手に銃を出す。

「ふふ、ふはははは」

「おかしいですか、負けたことが」

「いや、違うよ水華。惜しい。惜しかった」

「何がでしょう」

「推古ならもう殺していた。じゃが遅い。冥界と妾の作りし鬼の世界の落下設置が発動した。妾がお主らとの戦いに勤しみすぎて忘れてしまったときのための保険じゃ。十数日もすれば、この国に落ちるじゃろう」

『なっ』

「落下は防げぬぞ。そう細工してある。落下時の衝撃は無い。空間層が違うのでな。しかしいたるところに空間の穴は開くであろう、この国じゅうに物の怪が現れる。ぬるぬるとな。終わりじゃな」

気を緩めるな。これも作戦の可能性がある。

「それでは、楽しむと良いぞ。カカッ」

そう言って、卑弥呼は倒れた。沈黙。沈黙。

『終わった、のか……?』

『……です、わね』

『……勝……利……?』

「四季、その、大丈夫?。色々と」

「ええ」

「卑弥呼、は」

「わかりません。が」

「冥界、落ちてるの?」

空間認識を展開。たっぷり十秒観測する。

「ゆっくりですが、崩れ落ちていますね」

「そ、それじゃあ!」

「ええ。卑弥呼の言う通り、十数日後にわたし達の国に落下、鬼や怪物が蔓延ってしまいます」

「どうすれば」

「四季さん、気になったんだけどよ」

「ええ。わたしも同じことを」

「この卑弥呼が一時的に倒れていて、こいつの首を跳ねてもまた魂は輪廻を繰り返す。脅威が、来ちまうんじゃねェか?」

「このまま隔離、いえ、もしかしたら」

わたしは霊力を解放、支配権をとりにいく。

「一応、臨戦態勢を」

発動。先ほどまで戦っていた相手が起き上がった。

「なっ!?」

「はわわもう目覚めましたわ!!!」

「……久しぶり」

「お久しぶりです、ひかり」

「ひ、かり?」

「ひかちゃんはだって、卑弥呼に……」

「先ほどの推古のことで、ひょっとしたらと思ったんです。魂の人格の支配権をひっぱりあげれば、ひかりとして目覚めることが出来るのではと」

「本当に……ひかり、さん、なのか?」

「ナギちゃん達も、久しぶり。仲直りできたんだね、よかった」

「あ、いや……」

「ひかり、今までずっと見ていましたか?」

「うん。見ることしかできなかった。四季ちゃんの聞きたいこと、わかるよ。卑弥呼を止める手はないかってことだよね?」

わたしははいと答える。

「無い。ごめんね。それと、この体を殺しても、きっとまた魂が蘇っちゃう」

「じゃ、じゃあ、どうすれば……」

「私がやるよ」

ひかりは笑った。

「わたしが遠くまで移動する。霊力を使いきってね。いくら卑弥呼でも、霊力が無ければ何もできないでしょ?」

ああ、そうか、ひかりは。

「魂も、この地球上になければきっと蘇りもしない。だったら私は、宇宙に行く」

死ぬ気だ。

「でもひかり、そんなことできないんじゃ」

「できるよ。私、“光”だもん。私が解除すれば、体そのものを光線霊力変換できる。だからとても遠くにいける」

「でも、でも」

「そうするしかないんだよ。卑弥呼の恐ろしさは、卑弥呼の中にいた私がよく知ってる。放置しちゃ駄目。だから楯ちゃん、泣かないでよ」

楯は泣いていた。楯だけではない。桐子も、わたしも。

「私も、戦いたいんだ」

「だからと言って、これ以上、仲間を、あなたが死ぬのを容認するわけには」

「“守るために巫女になった”」

ひかりはまた笑った。今度は少しだけ、苦く。

「私も守りたいんだ。皆を。四季ちゃんのおかげで今は抑えられてる。だけどしばらくしたらまた卑弥呼に奪われちゃう。だからその前に」

「何も、出来ないんですか」

「もう一度会わせてくれた。私は嬉しいよ」

もうこの決意を止めることはできない。

「ひかり。すみません」

「大丈夫」

「ひかちゃん。ひかちゃあん」

「楯ちゃん、ありがとう」

「ひかり。ひか、ひかり……」

「桐ちゃん、結婚おめでとう。遅くなっちゃったね」

「あー、ひかりさん、その」

「ナギちゃん、チカちゃん、キョウちゃん、サラちゃん。ますみちゃんも、皆とまた話せてよかった」

「格好いいよ、ひかりさん」

「眩しいですわ」

「……ありがとう」

「うんっ」

ひかり。ひかり。

「四季ちゃん、ひとつだけ、いいかな」

「何、でしょう」

「妹に、莉子に言いたいことがあるの。私のこと知らないままだけど、でもやっぱり言いたい」

「インカムを」

「それだと恥ずかしいから、録音、できるかな」

「ええ」

携帯を取り出し、ムービーを撮る。一分にわたるひかりの言葉。わたし達の泣きじゃくる声が入ってしまっていたがひかりは笑っていた。ただただ。

「じゃあ、行くね」

「はい」

返事をするわたしの声が震えた。さわやかな顔をするひかりとは大違い。

「神楽覚醒、第四号から第一号まで省略申請、素質拘束“霊力変換:光線”、解除」

ひかりの服は変わらない。巫女服のまま。

「ありがとう」

そう聞こえて、ひかりは光になった。




--------------------




「ああ、ああ。とりあえずひと段落のようやわ」

それはよかった、と電話の相手は言った。

「まだ問題は残るようやけど、ま、大丈夫やろ」

結構大事になってるよ、と電話の相手は言った。

「マジ?ま、あれだけ大々的に全国ネットすれば他の国でも話題にはなるもんやな」

いつ戻ってくるの、と電話の相手は言った。

「どうやろか、こっちも中々楽しいし、今わたしが抜けても良くないと思うしな」

君はそういうところがあるからね、と電話の相手は言った。

「かまへんやろ、人生楽しんでなんぼや」

『バレないようにしてよ、リデル』

「わかっとるよ、ジャンヌ」

「アリース!」

わたしの名を叫ぶ声。

「また電話するわ」

電話を切る。

「電話ー?」

「ご両親にかしら」

「ま、そんなとこ」




--------------------




「終わったよ。ますみ」

「ああ。そうだな」

「……まだ、残ってる」

「この国の大掃除が残ってますわ」

「わかってるさ。でもよ」

ナギちゃんはそう言って目をつぶった。

「やったよって、言ってもいいだろ?」

優しい会話が聞こえる。わたしはリセの頬を撫でた。

「四季ちゃん」

「あなたと過ごせて、幸せでした」

「リセは、私たちの仲間」

二人がリセの髪を触る。

「ナギちゃんがね、気付かせてくれたんですよ。勝つことが、あなたを守ることだと」

昨日の寝顔と同じ。朝ですよと起こしたらあくびをしそうな。

「今頃、ひかりは一人で戦っています。命を懸けて。応援しましょう」

手を握る。

「リセ。リセ」

涙が、リセに落ちた。

「寂しいよ。リセ」

返事は無い。

「愛しています。あなたは、わたしの心です」

目をつぶっているだけ。

「ありがとう。リセ」

わたしはリセの口にキスをした。

「帰りましょう。わたし達の家へ」





--------------------





わたしは親友と二人車から降りた。学校から帰ってきておばさんにしばらくしたら迎えが来るから行ってらっしゃいと言われその通りにしたらここに着いた。大きなビルの前。時間は六時前。少しだけおなかがすいていた。

「どこ?ここ」

隣の親友がつぶやく。

「わかんないけど、中、入っていいって言ってた」

「だね、行く?」

行かないと迷子になってしまう。保護者にオーケーをもらって誘拐する犯人はいないと思うから、きっとこれは誘拐じゃないんだろうけど暗い景色がわたしと親友を不安にさせていた。

「うん。行こう」

わたしは親友は手を繋ぎ歩き出す。ドアの横には警備員さん。なんとなく頭を下げて中に入る。よかった。

「どこ、行けばいいのかな?」

「あそこの人に聞いてみよ」

案内所っぽい所にいる人に近づく。

「あ、あの」

「はい?」

「えっと、ここに来てって言われたんですけど」

「はい。お名前をお伺いしてよろしいですか?」

「はい。わたし

「めっぐるー!!!」

わたしは抱きかかえられぶんぶんくるくる回っていた。

「お母さん」

犯人はわたしのお母さん。

「おかえり巡!久しぶりだねっ、元気?ユズちゃんもおかえり!」

「うん、ただいま、おばちゃん」

わたしの親友、ユズがにこりと笑う。ユズのいう通りお母さんは年齢的にはおばちゃんでいいはずだけど、顔とか性格が子供っぽいのでおばちゃんにはあまり見られない。

「ユズちゃんのママもいるからねっ。さてさて行こうぞ子供達ー!。あっ、あたしの子とそのお友達なので大丈夫だよー」

受付の人に声をかけわたしとユズの手をひっぱってお母さんは歩き出した。エレベーターに乗る。

「ご飯食べた?」

「おばさんが出かけた時に食べるからって言ってたから、まだだよ」

「そっかそっかーじゃあ後で一緒に食べようね!」

「うん」

ほら子供っぽい。

「おばさんの言うことは聞いてるかなー?」

「うん、今朝はフレンチトーストだったのー」

「そっかーよかったねーユズちゃん」

おばさんはわたしとユズと一緒に暮らしているおばさんで、仕事が忙しいお母さんとユズのお母さんに代わってわたし達の母親代わりをしてくれている。

「とうちゃーく」

ドアが開きまた引っ張られる。高級そうな廊下を歩き部屋に入るわたし達。

「ユズ、おかえり」

「ママッ、うんっ」

てとてとお母さんに近づくユズ。わたし達は母親に会うのが、えっと、多分半年ぶり。

「お母さん、今日は、どうしたの?」

「今日はねーお母さん達とおしゃべり大会です!」

へへんと胸を出すお母さん。自慢げだ。

「おばさん、こんばんわ」

「巡ちゃん久しぶり。いつもありがとうね」

「いえ、そんな」

「あれあれお母さん置いてけぼりー?」

「違うよお母さん」

「ようし、じゃ、まずはこっちにおいでー」

お母さんについていく。もうひとつ扉を開ける。一度入ったことがある、校長室のようなところで、でもそれよりももっと広くて高級っぽい。校長先生の、校長先生じゃないけど、椅子には女の人が座っていた。

「こんばんは」

「ほら、二人とも挨拶してねー」

「あ、こんばんは」

「こんばんわー」

優しく笑う女の人。お母さんもおばさんも美人だけどこの人も凄く綺麗。目にはこの前の映画で見た海賊がしている、名前は忘れたけど目に黒いのをつけていた。

「自己紹介もしなさい」

「うん。えっと、鐘ヶ江楪、です」

「浦木巡です」

「はいこんばんは。水華四季子です。よろしくね、楪ちゃん、巡ちゃん」

「え、水華?」

ユズが驚いた顔をわたしに向ける。わたしもびっくりした。歴史の授業で習った名前だ。わたし達が生まれるすぐ前、この国を救った人。その人が、この人?

「えっと、お母さん?」

「わかったのー?そうだよっ、教科書に載ってるあの水華四季子さん。お母さん達のお友達なの!」

「え?え?」

「とりあえず、座ってください。どうぞ」

言われた通りソファーに座る。

「本当の、人、なの?」

「そうだよー。小学校で習ったよね?巡とユズちゃんが生まれるちょっと前にこの国で起こった事件と、そこで戦った巫女。お母さん達もね、一緒に戦ったんだよ」

「え!?え!?」

「ママ?」

「本当のこと」

「そのリーダーが四季ちゃん。卑弥呼を倒して、この国を平和にしたの」

「えっと、確か」

教科書に書いてあったことを思い出す。あれ、駄目だ。急にお母さんが戦ったなんて言われてわかんなくなっちゃった。

「こんなこともあろうかと教科書ー」

わたし達が使っている教科書と同じものをお母さんが持っていた。受け取りユズと一緒に見る。

「えっと、“突如として現れた卑弥呼は霊力と呼ばれる未知のエネルギーを使い電波ジャックを行いわが国を滅ぼそうと企む。そこで水華四季子率いる巫女が卑弥呼を倒しその後の危機を救った。四季子はその後わが国を襲う鬼や怪物と戦うため環境省鬼怪対策局を設立。霊力が溢れたわが国において今日まで平和を守っている。”だって」

「が、この人?」

「そう。リーダー」

写真が映っている。間違いなくこの人。とっても美人。

「実は、お二人にも会ってるんですよ。小さい頃ね」

「そうなの!?」

「お二人はまだ三歳でしたので覚えていないでしょうけど」

「うん。わかんないなー」

お母さん達が巫女で、この人は凄く偉い人で、わたしはどうしたらいいのだろう。

「ただいまー」

「帰ったぜ四季さん」

ドアが開き二人の女の人が入ってくる。

「ナギちゃん鈴鹿ちゃんおかえりっ。この子達あたしと桐ちゃんの子だよー!」

「あらあら可愛いー、こんばんわー」

わたしとユズはもう一度自己紹介をする。一人は明るい感じの人、もう一人は水華四季子さんと同じ目に黒いのをつけた人。そっちの人は煙草を口にしながら入ってきたけどすぐにポケットに入れた。綺麗な人ばっかり。

「この人たちもお母さん達の仲間なんだよっ。これで全員じゃないけどね」

「そう、そうなんだ。ねえお母さん。今日はどうして」

「あっその話をしてなかったねっ。ごめんごめんー」

お母さんは舌を出して謝った。

「お二人は今、小学六年生ですよね?」

「うん。そうだよー」

「この国では巫女になるための中学があります。入るのには試験が必要ですが」

知っている。クラスの友達が受けると聞いたことがある。

「あなた達二人には、その資格があります」

「わたし達が、巫女……?」

テレビで見る巫女。悪い怪物をやっつける格好良くて強い巫女。

「先日学校で全員調査を受けましたよね?その結果、二人の素質を確認しました」

「この国には沢山巫女がいるよね?」

後から入ってきたお姉さん、でいいんだろうか、が話をしてきた。

「二種類に分けられててね、この国に霊力がいっぱいあるからこそ巫女になれる人と、そうじゃなくてもなれる人、そのどっちかなんだ」

「お嬢ちゃん達はそうじゃなくてもなれる、強い巫女になれる“適合者”だって話なのさ」

わたし達が、強い巫女に。

「巫女になったら、戦う必要があります。つらいかったり痛かったりします。ですが、お二人は十分に強くなれるんです」

「お母さん?」

「これは絶対じゃないんだよ。怖かったり、なりたいものがあったらそっちに行けばいい。だけど、お母さん達はそうやって普通に暮らす人が普通に暮らせるように戦ったの。もし巡達が戦って、大切な人を守りたいなら、巫女になって欲しい」

お母さんは笑わずに言った。

「決めるのは二人。もちろん、すぐにじゃないけどね」

隣に座るユズがわたしを見た。わたしもユズを見る。手を握った。

「あの」

部屋の皆がわたし達を見る。

「まだ、わかんないです。でも、話、聞いてみて、いいですか?お母さん達が、どうやってきたのか」

「いいよっ!」

「その話がしたくて呼んだからね」

「そうなの?ママ」

「そうよ、ユズ」

「教科書や本にはお二人のお母さんやわたし達がどう戦ったか、色々と書いています。しかしそれはあくまで出来事。どう戦い、どう感じ、どう考えたか。それを、お二人には聞いて欲しいんです」

「聞かせてください。お母さん達の話」

「うん!」

わたしとユズはわくわくしていた。格好いいお母さん達。みんなに自慢できるお母さん達。巫女になれると言ってくれたお母さん達。

「他の仲間も呼んでいます。とても長い話になります。ゆっくりでいいので、聞いて、感じて、記憶してください。わたし達巫女の、記憶を」




先天性巫女の記憶 おわり

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