第十九話
対峙するはわたしを殺そうとする後輩、フォローするはわたしが知る限り最強の巫女。ピリ付く空気の中わたしは空間認識の展開を終えた。煙草をくわえ火をつける。
『おいナギ、こいつら解除したぜ?』
「軽く注意しとけ、黙ってりゃ体が先に壊れるが、そうするとこいつらは完全な人形になっちまう」
『あら、助けるんですの?』
「ガキ共にはちゃんと戦わせてやらねェとな」
「体が先に?どういうことですか?」
インカムを中断する。
「ガキ共の許容量を超えてる。霊力への負担でお陀仏なんだよ。そうする前に気絶させりゃオッケーさ」
「どうして教えてくれるんですか?」
「そこ邪魔だよ」
「あ?」
「四季さん後輩は私らの席なんだよ」
「じゃあ書いとけよ桶狭間」
「そこを!!」
柄に手をかける。
「そこを退けぇ!!!!」
わたしの糸に今川の日本刀がひっかかった。
「黙っとけ乳臭ェんだよ、話の途中だ。テメーがすべてになるほどした瞬間にわたしのレールの上なんだよ水華。わたしらの目的にゃこのガキ共を止めんのがベターなんだ」
今川がわたしの目から消え、水華への攻撃をしかけたと思ったらまたわたしの糸にかかった。
「オイ早ェな!」
「こんなもので!!」
鋼線にはある程度の霊力をかけているがそれを完全に切られたのは初めてだった。出力が上がったな。
「はっ!」
右手人差し指の鋼線を飛ばすがもう今川はそこにはいない。後ろに反応し糸を張るが瞬時に全身に切り替える。右側の鋼線が今川の攻撃を弾いた。なるほど、目じゃ追いきれない。
「いい腕だぜ今川。中々の霊力運用だ」
「ですがやはり」
「らっ!」
「おらよ!!」
突いていきた日本刀の刃を鋼線で掴む。がちりと離れない。指から出る鋼線のうち八本を使用してようやく止まるレベル。切れた一本は再生済み。
「止まってりゃ、摩擦係数も何もねェよな?」
実はそんなことはない。わたしは確認をしていた。
「今川、テメーは霊力で摩擦係数を操り鞘や地面を滑走路として剣速を上げる。自分の足にも使うことで韋駄天なスピードでファックするわけだ。解除することでさらにさらに高いレベルで戦うわけだ」
ふんと軽い笑みを作る今川。
「自分?何言ってんの?」
やはりビンゴ。わたしの鋼線からするりと日本刀が抜けた。
「これ凄いね。別にこうなる前でも少しはできたけど、別に私の体だけじゃないの。お前のその糸の摩擦係数をいじればこんなのきかないの」
だろうな、この出力とこいつの運用力なら遠隔での神楽使用くらい余裕だろう。連続突きを捌いてかわして捌いて捌いて水華に牽制して捌いてかわ
「っとォ!!」
「くっ!」
右足、いや左足もか、が動かずとっさに展開した鋼線で弾く。
「あーぶーねーェーなァ。避けられないだろうよ」
「四季さんも私を助けてよ!!こいつを倒してよ!!」
「鈴鹿ちゃん、待ってください」
「こいつは私の弟を殺しちゃうんだよ!!!」
「そうだぜ今川、わたしゃお前の弟を殺す悪い魔女だ」
「ナギ!」
「だから来いよ、イージークレジット」
わたしと水華の地面と靴、靴と足間の摩擦係数を高めわたし達が動けない状況を作り上げたようだが。
「これくらいのハンデで上等か?あァ?」
「調子に乗っていろ!!」
わたしは水華のように後ろに目が付いているわけではない。四方八方からの今川の剣さばきとクナイ投げをステップせずに対応するのは至難で、拮抗するにはわたしも変身する必要があった。首をひねる。
「ってオイ!」
耳につけたインカムがクナイによって壊された。状況的にスクラム組んで全力で合図してというわけではないので構わないが。
「損害だぜェ?ガキんちょ。仕方ねェ」
「姫、ひめみ……様、の……ぉっ!」
「鈴鹿ちゃん」
「ギリギリだな。オイお前ら!楽におとしてやれ!!」
返事は無いが個々の出力上昇を感じた。ほとんど全員が解除したのだろう。非常に気持ちがいい。
「水華」
「わかっています」
顔を抑えた今川の両足に鋼線を引っ掛け水華の銃撃に合わせ転ばせる。ポケットから再生の欠片を。飲む。
「「神楽覚醒、第四号から第一号まで省略申請、素質拘束」」
声が被る。
「“追尾”」「“空間支配”」
今、思い出した。
「「解除」」
包まれた光の柱が消失、巫女服におめかししたわたしと水華が足を動かした。
「残念だがな、これでテメーのターンは終わりだ、今川。って聞いちゃいねェか」
「貴様……ラぁ」
「もう、止めてあげましょ、ん?」
その違和感にわたしも気付いた。体が“ほぼ”動かない。
「これでぇえええええええ!!!!終わり!!全部終わり!!動けない!あんた達は、動けない!!あはははははははははは!!!!!」
鼻血をたらし今川は大きく笑った。ここにきて自我が戻ったか。
「楽しそうだな」
「何したと思う?ねぇ、何したと思う?あんた達の関節全部の摩擦係数負荷を上げたの!!無理に動かそうとしても無理だよ!!骨が先に折れちゃう、あんた達ならそれくらいわかるんだもんね!あははははは!!!ほとんど使ったから今の私は普通の人間レベルだけど、動かない相手を切るくらい簡単だよね!!簡単だよね!!!」
ぶんぶんと日本刀を楽しそうに振る今川。
「止めな今川。灰がこぼれちまう」
「黙れ!首から上は難しいからできないけど!!でもこれで死ぬ!!死ねっ!!」
つかつかこちらに向かってくる今川を張り倒した。
「え?なんで?なんでなんで?」
「フー」
鋼線で煙草を掴み口から離す。灰を落としてまたくわえた。
「別にわたしゃ指の力で鋼線動かしてるわけじゃねェんだ。霊力そのものに摩擦係数は発生しねェだろ?」
「だっだからって!」
「わたしの素質スキルは“追尾”。テメーはもうロックオンしてんだ。ほぼ生身のテメーなんざ、“指一本動かさなくても”余裕のシャクシャクなんだよ」
「だ、だだだったら!だったらお前だぁ四季!!」
日本刀を振りかざしよれよれと水華に向かっていく。だあと振り下ろした今川の攻撃を“水華が避けた”。
「え?なんで?なんでなんで?」
「鈴鹿ちゃん、わたしの素質スキルを覚えていますか?」
「そんなことどうでもいい!!避けられるわけがないじゃんか!!!」
何度振ろうが水華は簡単に避けていく。
「わたしのスキルは“空間支配”。その事象よりも大きな霊力を使用する場合に限り支配権がわたしに移ります。“他人の体内に向け遠隔使用したあなたの霊力”と“自らの体内でのわたしの霊力”ではわたしの方が上なんです。あなたの摩擦係数神楽は、わたしのものとなりました」
わたしの神経は震え歯がかちかちと鳴った。完全なる純然たる強さ。わたしは恐怖に支配されていた。
「しはい、え?」
「奪ったというわけではありません。わたしの体内に今ある摩擦係数を正常に戻しただけで、故に普通に動けるわけです」
今川の摩擦係数が発生している状態そのものを消失させるわけではなく発生したままその神楽そのものを乗っ取り自分の好きなように扱う。以前わたしの鋼線を地面に突き刺したがあれもそれだろう。
「支配権を維持するために霊力を裂いているのでわたしも通常通りというわけではありませんが」
振りぬいたままよたれる今川に銃を向け、撃つ水華。
「がっ!!!」
そのまま倒れこんだ今川を抱きかかえ大丈夫ですかと髪を撫でている。わたしも動けるようになっていた。
「ごめんなさいね、ごめんなさい」
きっちり気絶させたようだ。
「名前負け撤回ってか?」
「何、でしょう?」
「いや、何でもねェ」
まわりを見ると立っているのは水華のチームとウチの四人だけだった。当然姫巫女もいない。その妖精もいない。ワン公は、付き添いか。
「約束通り、良い茶出せよ」
「はい」
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わたしの家の中は今随分大所帯になっていた。ナギ達四人と鈴鹿ちゃん達四人、わたし達のチーム四人で12人。冥界での戦闘を終わらせナギが作ったゲートで地上に戻りわたしの家に至る。気絶から回復した鈴鹿ちゃん達だが自分の許容量を超えた霊力を体に保ち使い続けた結果今は痛みと苦しみに襲われ地下室で耐えている。楯とリセ、それから手伝うと控えめに手を上げたサラにご一緒しますわとキョウが付き添い一緒にいる。
「さて、じゃ、改めて答え合わせといこうかねェ」
リビングにいるのは緑茶をすすり眼帯をなぞるナギ。
「何だー?話しちまうのな、全部」
クッキーをかじりながら部屋を見渡すチカ。
「やっぱり、本当なんだ。私達の後輩で、記憶を消されたのって」
警戒を怠らないまま焦りを表情に出す桐子。
「わたしらにとっては、先輩ってことになるんやろうか」
ソファーで横になりタオルを頭にかけたアリスちゃん。
「それでは、はじめましょうか」
わたしで五人。アリスちゃんは早めに回復し他の三人に比べつらさはないとのことで話し合いに参加している。
「まず一発目。鈴が言う通りわたしらは元、巫女。今から五年前から半年ほどか、テメーらにイロハを教わりながら巫女として戦ってきた。この家にも何度も来たぜ」
「えっと、そういえばというか、私、結婚して、今苗字変わってる、んだけど……」
それも彼女達に辿り着くヒントになっていた。
「マジか!すげーな。何てーの?今」
「鐘ヶ江、ってなんか、変な感じだね、四季」
「仕方が無いことですよ。記憶にないことですし、自分自身がそれを否定しています。ですが事実なんですよ」
「おめでとうって言っといた方がいいか。おめでとう鐘ヶ江」
「あー、どうも」
「わたし達は、あなた達を何て呼んでいたんでしょうか」
「あ?」
呼び捨てにしてなどいないはずだ。
「そういうのは気にしなくていいんだよ巫女。今まで通りで行こうや」
「確かになー。今更ちゃん付けなんてこっ恥ずかしいもんな」
桐子の表情が少し揺るみ、ナギ、ちゃんがため息をついた。
「チカちゃんよォ、言うことたねェだろ……」
「やっぱりちゃん付けでしたか。当時は、いえ今はナギちゃん達はおいくつなんですか」
「やめてくれよ水華。かゆいぜ。生きていたら、いくつだ?20か?ま、死んでるから関係ねェよ」
「死んでいる?」
「姫巫女が何を言ったか知らねェが、というか信じる信じないはいいがよ、わたしらの言う答えについてだ。五年前、巫女になり幹部をすべて倒し残りは敵の総大将ということになった。当時のテメーらのように姫巫女に出力を上げさせ、総大将の元へ乗り込む。が、速攻で殺された。何が原因かは、まァ言わなくてもいいさ」
「殺された、って、しかしあなた達は」
「敵の総大将にとどめは刺されなかった。そこで気付いた。ナナがいないことに。そこで総大将、オオトウが話をしてきた。それが奴らの手口だと。そもそもわたしら巫女、わたしらと、テメーらと、ガキ共、だけじゃねェぞ。さらにパイセン方、百年前千年前から巫女を操ってきた姫巫女の常套手段だ」
お茶くれよ、と続けるナギちゃん。私が行くよと桐子が立ち上がった。
「なんだか、壮大な話になってん」
「オーサカにはちィと難しい話か?続けるぜ。オオトウの話によるとだがな、姫巫女はずっとそうやって巫女で遊んできた。食ってきたってわけさ」
「わたし達が皆さんを忘れた理由も、姫巫女によるものですか?」
「他に誰がいんだよ水華」
その理由は何だ。忘れた理由ではなく、ナギちゃん達に関する記憶保護を行った理由。わたし達を組ませないためか、果たして。
「その、いわゆるわたし達の敵、鬼、オオトウの目的は」
「はい、おまたせ」
「ありがとよす、いや、鐘ヶ江?」
「うん、鐘ヶ江」
桐子は少し警戒を解いているようだ。アリスちゃんに大丈夫と声をかけてからソファーに座る。
「オオトウやそれに類する奴らはひとつの団体とは違ってな。なんつーか、似たような小さいのがいくつかあって、代わる代わる姫巫女に勝負を挑む。目的は雑魚がやっていた人間のエネルギーの吸収だ。テメーらからしたら、どっちが味方かわかったもんじゃねェな」
確かにほんのりと今までの敵側に付いた鬼が姫巫女の横暴を止めることができると思ったがあくまで鬼はわたし達人間にとって敵。と言っても、今更姫巫女はわたし達を手ごまとしないだろう。
「わたしらの目的は、姫巫女を殺すこと。ナメたマネしてくれたんだ、オカエシしてやんなくちゃなァ」
「殺すって……」
「その後は、どうするんですか?」
「どうする?って何だ」
ポケットから煙草の箱を取り出し、アリスちゃんを一瞥してから戻した。
「姫巫女を倒しても、残る鬼はこの国を破壊することが目的なんですよね?それが成就されてしまいます」
「別にいいじゃねェか」
ナギちゃんはお茶をすすり目線を流した。髪の毛をかいてから梳く。
「もうわたしらを覚えている人間はひとりもいねェんだ。この国への復讐も兼ねてんだよ。破壊?されちまえされちまえ」
「それは、困るなあ」
「外国にでも飛べよオーサカ。オオトウもテメーらがいない方がイージーだと思うぜ」
「それを、わたし達は黙って見てはいませんよ、ナギちゃん」
今ここでケンカはしたくなかったのでなるべくやわらかい表現で伝えたが大丈夫だろうか。
「元々テメーらを殺そうとしたのはそういう理由さ。どうあっても立ちはだかってくる。かわすことはできねェ」
「事実を、お話してくだされば」
「こんな浮世話信じるか?ミナサンには記憶がありませんが元々仲間です。ミナサンのボスはミナサンで遊んでいるだけです。ワタシラのボスはミナサンの敵、鬼です。信じてください助けてください。無理がある」
「警戒するね、四季なら特に」
「そう、ですかね」
「あーそうだな。水華なら確かに、仲間の安全を最優先させるだろーな」
桐子はいいとしてチカちゃんも納得していた。
「四季さんはそう言うやろうなぁ。皆そう考えると思うで」
「な?」
「……確かに、疑ってかかると思います」
「誰もわたしらを知らねェんだ。わたしらを知っている人間全員に記憶保護をカマした」
「そんなことが、姫巫女といえど完璧に行うまでは時間がかかるんですよね?」
「巫女はな。対抗できるだけの霊力がある。が、パンピは別さ。5秒もあれば改竄が可能だろうよ。故に知らねェんだ。誰も」
誰も自分達を知らない。記憶保護の対象は今までもいただろうがその対象自身が死んでいなかったら。つらいの言葉では表せないはずだ。
「だったら倒すしかあるめェよ。ところがどっこい、途中で気付くかもとなった。テメーが記憶保護を気付いたと知ってな。が、まだ半々だった。だから殺し合わせた。水華と鐘ヶ江をな」
「……本当に、私達を知ってるんだね」
「信じてくれてうれしいぜ」
全面的に信じていいはずだ。これ以上細工のしようがない。
「そっから先はわたしのレールの上さ。巫女とのケンカをやめると、ウチのパーティーには言うのはナンセンスだったから言わなかったがな」
「隠してたもんなナギは。水華の受け売りかー?」
「ちげェ」
きっとナギちゃんもわたしと同じ事を考えている。今はあくまで答え合わせの時間。それではと足並みを揃える理由が無い。しかしそれは、今までと何も変わらない。
「覚えていないは、違います。皆さんのことを」
「違う?何がだ?わたしらを産んだ親だって、すれ違っても何も言わねェし家にいたら不審者として通報するんだぜ?」
「わたし達は、あなた達を知った。昔知っていることも、今も、知ったんです。これからもっと知り合いましょう?わたし達と」
「テメーらに、何がわかるってんだ。裏切られて、死に掛けて。訳わかんねェ化け物と同じところにいながら体の治療をして。いざ地上に戻ってみても誰も覚えていない。いなかったことにされている。目が覚めたら怪物が口をあけていたことがあるか?両親に悲鳴を上げられ警察を呼ばれたことがあるか?世界から見放されたことが、お前らにはあんのかよ!!」
机を叩き立ち上がるナギちゃん。
「わからねェだろう?だからよ、関係ねェんだ。もう死んでいるんだ。心休まる道なのかも知れねェが、そっちには戻れねェ。戻れねェんだ、水華」
「それでも」
「話はここまでだ。テメーらは、これからどうするんだ?」
これからのこと。それも答えが出ていなかった。何が正解なのだろう。
「ゲートの開き方はもう覚えただろう?何度も見てんだ。テメーなら一発でできるはずだ。戦う相手が鬼でも姫巫女でも、どこかに逃げるでも、好きにしろよ。次会うときは、戦場だ」
帰るからあいつら呼んでこいとチカちゃんにつぶやくナギちゃん。程なくして三人が上がってきた。
「お邪魔いたしましたわ。懐かしい場所でしたわね」
「……お大事に」
「楽しかったぜー先輩よー」
「じゃあな、茶、そこそこだったぜ」
玄関までついていきドアが閉まるのを確認する。わたしと桐子はアリスちゃんを連れ地下室へと向かった。
「お邪魔しまーす」
「おかえりなさい。皆さん上がってください」
「すみませんちょっと遅くなって。買い物行ってたんだよねー」
「大丈夫だよ。お茶入れるねー」
鈴鹿ちゃん達を通したリビングからキッチンに向かうリセ。
「皆さんは大丈夫ですか?体まだ痛いですか?」
二日前の出来事からまだ完全に回復していない鈴鹿ちゃん達。彼女達にも霊力が遮断されているのである程度の治療を済ませたあと再生の欠片を少量にして摂取してもらった。自然回復にも作用するのであんなことがあった翌日に学校を休むだけで今日から一般的な女子高生の生活を再開できている。
「体育の時間がちょいしんどかったかな?でも大丈夫、ありがとう」
「アリスは私達と比べて元気だから助かるわ」
「ねー!アリスちゃんは元気元気!」
「ウチの元気娘に言われたないわ。いや、あの時のわたしの相手楯さんやったから、がっちり攻撃って感じやなかったんよ」
「アリスちゃんは元気元気!」
「今川さんどうしたん?」
「えっ私だけ?」
「アリスちゃん、ゲートの開閉についてはどうですか?」
怪我の少ないアリスちゃんと一緒に半日ほどの練習である程度できるようになった。
「上手いこと集中してなら可能になってきました」
「さすがアリス」
「余裕ってほどやないけどな」
器用なアリスちゃんなのですぐ完璧になることだろう。おまたせとリセがジュースを持ってくる。
「いただきまーす」
「そうやもう五時やけど大丈夫なん?あそこ行かんで」
「大丈夫ですよ。今日は楯と桐子が待機しています。と、姫巫女の件が動きを見せるまで、多分襲来はありません」
「どうして来ないのかしら」
「彼女達が、ナギちゃん達が帰り際に“次会うときは戦場だ”と言っていました。我々が霊力を供給されていないという状況を知りえている彼女達が昨日、延いては一昨日襲来として一般兵を送り出さなかったことから、進展がない限り襲来はありません」
昨日一応待ってみたがその動きは見られなかった。
「あの人たちが、ねぇ……」
「例えば消耗戦にしようと考えるとか、そういうのはないのかしら?」
「それなら早速昨日の時点で行うはずです。彼女達の目的はあくまで姫巫女。戦闘を楽しむ節はありますが、その第一目標を達成するために動くでしょう」
「でも、その後は、この国を壊そうとしてくるんだよね」
目線を落とし鈴鹿ちゃんはそうつぶやいた。先日のような怒りは消えているようで、それでもいくつかの感情に渦巻かれて複雑な顔をしていた。
「その時は、全力で止めましょう。次の目的がそれである以上、わたし達はそれを守る立場にあります」
「かつての後輩なんやろ?」
「後輩が悪いことをしていたら正すのも先輩の仕事ですから」
「私達は、これからどうすればいいのかな?」
「外国に逃げる?でも家族は信じるかしら」
「何言ってんのって言われちゃいそうだよね!」
「姫巫女の動きが気になります。彼女の、何より“目的”が気になりますが」
「確かに、何がしたいんだろ」
「アリスちゃんは聞いてたけど、ナギちゃん達が言うにはずっとそうやって遊んでた、だって」
「的確にはわからへんみたいですね」
「信じて、大丈夫なんですかね?」
「皆さんが回復するまではフォローできるようにしておきます。例えナギちゃん達が襲われても、助けに行くまでに持ちこたえられるくらいの強さは持っていますから」
「んー、ま、大丈夫なのか」
ぶちんと音がして、それからわたし達全員がテレビの方向を向いた。
「……何?」
『あーあー、伝わっておるかの。見えておるかの』
急にテレビに映る。わたしは携帯を出しムービーの録画を始めた。忘れもしないこの顔は。
『お初にお目にかかるのう人間。妾は姫巫女という』
姫巫女。
「こ、これって……」
「何?なのかな四季」
「わかりませんが……」
いい状況ではない。それは確かだ。リモコンをまわす。どの局に合わせても映っているのはどしんと座った姫巫女のみ。
『文明の進化は著しいもので、妾が観測をはじめた頃はこの国も確立されていなかったのにのう』
褒めてつかわす、と手をぱんぱん叩く。
『聞いてくれるか人間。電波なるものを受け取って妾をうつす鏡のようなもので妾を見ているのじゃろう?』
楯と桐子に連絡、リセにお願いした。
『この国の人間もれなくが見られるよう施した。でんぱじゃっくと言うのじゃろう?』
電波ジャック、霊力を電波に変換し発信しているのだろうか。何にせよわたし達のみに当てているわけではなさそうだ。
『妾はこの国をずっと観測してきた。天外な怪物から身を守る算段をつけてやったことも何度もあったが、大半の人間は知らなんだ。ま、認識できぬのだから知る必要がないがの』
「車のテレビがついて今見てるって、二人も」
「わかりました」
『妾には、弟がおった。可愛い可愛い弟じゃ。弟は妾と違い、またお主らと同じ変哲のない人間であった。故に何事も無く老衰し死んだ。じゃからの、妾は弟が生まれるのを待った。“いれもの”が違っても、その魂は妾に愛されるためのものじゃからのう』
これが目的。間違いない。しかしなぜ今。
『妾は待った。が、今日まで弟の魂はあらわれなんだ。妾は観測した。観測した観測した観測した。弟のいない、どうでも良いこの国を。が、もうわかってしまったのじゃ。妾の弟は、その魂は死んだ。新しいいれものに入ることはないのじゃよ』
これが姫巫女のすべて。巫女を使い遊んできた、というのもそういこと。弟の魂が生まれ変わるまでの暇つぶし。が、魂。魂とは。
『そんな世界に、弟がおらぬとわかったその世界に、意味などあるまい。妾が求めているものは何も無い。じゃからやり直すことにした。ころあい、じゃ。もう一度、今度はめじるしをつけてやらねばの。が、そんな妾に完成されたこの国は目障りじゃ。一度まっさらにして、それから妾の望むようにつくってやろうぞ』
わたし達の血の気はずいずいと引いていた。これはまずい、想定にない。
『もう何日もしないうち、妾はこの国を壊しにかかる。楽しみにするが良いぞ』
「四季さん、これって」
「この国が、パニックになります」
それを見越しているのかいないのか、きっとこの放送が終わる頃この国は少し壊れてしまう。
『妾を止めようにも、人間にそれは不可能じゃ。この文明がいくら栄えようと、妾には届かぬ。が、それは人間の話。巫女ならば、妾に届くじゃろう』
声が漏れた。
『妾を止めるか水華。それも一興じゃ。妾を倒し、見事国を救ってみせるが良いぞ。お主ら巫女と枕を交わすも悪くない』
わたしは名指しをされていた。恐らく全国ネットで。
『明日の正午、ここへの扉を開けておこう。来るも来ないも自由じゃ。んん、それではの人間。慄くと良いぞ』
それからぶちんとテレビが消えた。
「……やられましたね」
「どう、しよう。四季」
「全国規模、しかも局を選ばずの電波ジャックです。イタズラでは済まされないでしょう」
「って、なると」
「今すぐになら国外に逃げることも可能でしょう。飛行機のチケット手配も、今日、いますぐなら」
「本当に、潰すつもりなのかしら」
「そこそこの霊力を使うはずですから、そうまでした理由は」
「本当……だから……」
電話が鳴った。ほぼ同時に、二つ。鈴鹿ちゃんとアリスちゃんが立ち上がり電話に出て廊下とキッチンに歩いていく。
「とりあえず、今日は家に帰ってあげてください。ご家族が心配されていると思いますから」
「送るよ、皆」
「これからのことは、これから考えます」
「え、ええ。ごめんなさいね、よろしくお願いします」
「先輩、ありがとう!」
「リセ、楯と桐子にはわたしが連絡しておきます。ひと段落したら来て欲しいと」
「すみません、私、すぐ帰らないと」
「鈴鹿ちゃん、送ってくよ」
少し取り乱している鈴鹿ちゃん。弟さんのことだろう。
「ああ。ああ、わかっとる。心配せんといて。ああ、ありがとうな。じゃあ、また」
アリスちゃんも戻ってきた。
「アリスちゃんも今日は帰ってあげてください」
「会議とか、ええんですか?」
「今日はご家族を安心させてあげてください」
「じゃ、皆、行こっか」
リセと共に全員がリビングを出て行く。一人になった部屋でわたしはオレンジジュースを飲み干してから作戦を始めた。
「しかしこれは」
ピンチだった。それも特大の。
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「あンのクソ姫ェ!!」
「……“やらかしやがった”、ってな、こっちのことだったな」
「中々のご挨拶……ですわね」
「……確信犯?」
すべてが確信犯なのかどうかは知らねェ。謀っている部分があるのは確かだが。
「宣戦布告のつもりか。が、水華は気付かねェことがらだ」
「気付くのは私達だけですもの」
あいつを覚えているのはわたし達だけ。だからこうやって心を乱している。体が震える。恐怖する。
「あのクソ姫、ヤツの、甲木ひかりの、その体を“のっとりやがった”!!」
第十九話 When you're afraid, remember me. おわり
to be continued……




